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COLUMN
Apr. 18, 2019

【ヨーロッパのシネマライフ】ベルリンを舞台にしたお引越し映画『3 Zimmer/ Küche/ Bad』
現在のベルリンの若者の住宅事情・ライフスタイルをご紹介!

芸術が生活のなかに自然と溶け込むヨーロッパのライフスタイル。映画も人々の創造性や心のゆとりに不可欠な存在として受け入れられ、アメリカ映画とは異なるアートフィルムが発展してきました。ヨーロッパに暮らす人々は日々どのように映画に接しているのでしょうか? ベルリン在住の映画キュレーター・岡村友梨子さんが現地の映画事情をレポートします。
4回目の今回は、「お引越し映画」について。

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新年度が始まりましたね!
お引越しをして新生活を始められた方も多いのではないかと思います。今回は、そんな季節にぴったりなドイツのお引越し映画『3 Zimmer/ Küche/ Bad』を通じて、現在のベルリンの若者の住宅事情やライフスタイルをご紹介します!

カップルでラブラブな生活を始めるつもりが…! ベルリンの過酷な住宅マーケット

ベルリンで写真の勉強をしながら、プロの写真家になることを目指す主人公のフィリップ。フィリップは友人のトーマスと2人で2Kのアパートをシェアして生活しています。トーマスが恋人のジェシカと同棲するため転居することになり、現在住んでいる部屋にはドイツ南西部の街・フライブルクからフィリップの恋人・マリアが引っ越してくることになりました。

他の世代に比べて収入の低い20代。トーマスとジェシカは物件選びに苦戦しますが、やがて2人の予算と条件に合う物件が見つかります。そこで、フィリップは車で数時間かけ、マリアを迎えに行きます。ところが、2人で住む予定のベルリンの部屋に戻ってくると、トーマスから「新居に引っ越すのをやめた」とを聞かされ、しばらくはフィリップ・マリア・トーマスの3人で2Kのアパートに住まなければいけなくなります。

日本でも近年、シェアハウスは人気が出てきましたが、ベルリンをはじめヨーロッパの大都市ではシェアハウスに住む若者が非常に多いです。そもそもベルリンでは単身用の物件が少ないということもありますが、若者にとって1人暮らしをするのは金銭面で非常にハードルが高いということがその理由の1つです。大家さんや不動産会社も、できるだけ収入が高い人や安定継続収入のある人に物件を貸したいので、学生や収入が低い人は断られることが多いようです。

日本では、不動産屋さんに行くと物件をいくつか紹介してもらえるので、こだわりすぎなければ住むところが見つからない、1人暮らしができない…ということにはなかなかならないのではないでしょうか。

ベルリンでのお部屋探しは若者にとってはすごく大変で時間のかかることで、居候させてくれる友達がいる場合はいいですが、そうでない場合はリッチにホテル暮らしをする訳にもいかないので、ホステルのドミトリー部屋に数か月住むことになったり、短期のみで借りれるお部屋を転々とすることになったりします。

Sharing is caringーベルリンの人々の助け合い精神

日本のシェアハウスは、会社が管理運営をしてくれているところが多いと思いますが、ベルリンではそういったシェアハウスはあまりなく、友達同士でお金を出し合って物件を借りるか、物件を見つけた上でインターネット上で一緒に住んでくれる人を探すか、という場合が多いです。全て自分たちで管理しなければならないので大変ではありますが、その一方で色々と自分たちの好きなようにできますし、なかなかいい経験にもなります。

普通の2K〜のアパートを自分たちで借りてシェアハウスにしているだけなので、家具も何もついていない場合がほとんどで、自分たちで用意しなければなりません。ベルリン内での引っ越しだと、家具も含めて車で運ぶことも簡単にできますが、初めての1人暮らしだったり、国外から引っ越してくる場合だと、家具も持ってくるのはなかなか難しくなります。

映画の中で、フィリップと友人たちは、誰かが引っ越すとなると小型のトラックをレンタルして、みんなで協力して家具や荷物を運んでいました。もちろん引っ越し業者のサービスを利用するという方法もあるのですが、お金のない若者たちは、フィリップと友人たちのように自分たちで頑張って引っ越しコストを抑えています。

家具がない場合でも、Facebookなどでいらない家具を譲り合う掲示板があり、大体のものが中古で無料で揃えられます。いらないものを捨てるのではなく、掲示板に投稿して引き取ってくれる人を探すのもなかなかの手間ですが、それでも必要としている人に使ってもらいたい、という思いの人が多いようです。服や小物なども、アパートの入り口に無料で譲ります、と置いてあることがあり、好みのものや必要としているものがあれば無料でもらえることになります。こういったベルリンの人々の助け合いの精神、素晴らしいですね!

個性がキラリと輝く!DIYなベルリンのシェアハウス

一から自分たちで用意しなければならないベルリンのシェアハウスですが、DIYが好きな人や、こだわりがある人には最適です!

日本の物件だと、勝手に壁に穴を開けたり、壁の色を塗り替えたりしてはいけない場合が多いですが、ベルリンではそういう決まりがない物件が多く、基本的に自由にできます。これはシェアハウスだけでなく普通の物件にも当てはまるのですが、賃貸物件である程度自由にできるのは嬉しいですよね!

映画の中でフィリップも、彼女のマリアが引っ越してくるということで、友達のディーナに手伝ってもらいながら壁の塗り替えをしました。ペンキもホームセンターでお手頃価格で簡単に買えるので、若者たちは専門の業者さんに頼むのではなく、自分たちでやってしまう人が多いです。大変な作業ではありますが、コストが抑えられる上に達成感がありそうですし、愛着もわきそうですね!

笑いあり涙あり! 出会いと別れの場でもあるベルリンのシェアハウス

映画の中では、友達同士、恋人同士でシェアハウスに住んでいますが、それを通じて、フィリップを中心とした登場人物の新たな出会いや別れが描かれています。

例えば、フィリップの姉ヴィプケはフィリップの友達ディーナと一緒に住んでいて、ディーナはヴィプケが片想いをしていたマイケルと付き合うことになります。ディーナはヴィプケが片想いをしていたことを知っていますが、それでもディーナはマイケルを自分のシェアハウスに連れてくることをやめませんでした。もちろんヴィプケはショックを受け、ディーナとのシェアハウスを出て行き、1人暮らしをすることにします。

友達同士でシェアハウスに住むと、毎日会えて仲が深まるというメリットもありますが、その反面、距離が近すぎてケンカになったり、友情が壊れる原因になったりということも残念ながらあるようです。

また一緒に住める友達がいない場合は、インターネットの掲示板でシェアハウスの空きを探すことになりますが、そういった掲示板を利用してシェアハウスに引っ越すことによって、新たに友達ができることもあります。新しい街に引っ越してきたばかりで友達がいない場合、シェアハウスに住むことで一緒にご飯を食べたり、遊びに行ったりする友達ができるのはいいですよね!

その一方で、パーソナルスペースを大切にしたい人たちは、あくまでコストを抑えるためだけにシェアハウスに住んでいるのであって、お互いに干渉はしない、という決まりを作ったりもしています。ちょっと冷たく聞こえるかも知れませんが、そういったことを最初にハッキリとさせておくことによって、後から問題になることもなく、それぞれが快適にシェアハウスに住むことができるのではないでしょうか。

『3 Zimmer/ Küche/ Bad』は、残念ながら日本版は製作・公開されていないようですが、輸入盤のDVDは日本でも購入可能な場所があるようです。機会があればぜひご覧になってください!

『3 Zimmer/ Küche/ Bad』

監督: Dietrich Brüggemann
出演: Jacob Matschenz, Robert Gwisdek, Anna Brüggemann, Aylin Tezelほか

Writer:岡村 友梨子(おかむら・ゆりこ)

広島県出身。イギリスのロンドン大学キングス・カレッジで映画学の修士号を取得後、拠点をドイツ・ベルリンへ移す。映画プロダクションやショートフィルム上映イベントのキューレーションを経験し、現在はヨーロッパの図書館向けの映画オンデマンド配信プラットフォームでキューレーターを務める。

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