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COLUMN
Jul. 09, 2019

【from 福岡】第1回 : 東京を出てもサバイブできる!福岡拠点の映画作りとは?

アジアへ開かれた街として、屋台文化に代表されるグルメの街として、令和の元になった歴史ある地域として、いま注目を集める都市・福岡。ショートショート フィルムフェスティバル & アジア in FUKUOKA が開催されるなど、ショートフィルムや映画とも縁が深い地域だと言えるでしょう。
Brillia SHORTSHORTS THEATER ONLINE(BSSTO)では、福岡を拠点に活動する映画監督・神保慶政さんの連載コラムをスタートします。東京にいては気づかない、「別視点」で、日本映画の今とこれからを考察します。

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神保慶政さん(写真中央)

福岡に拠点を移して「映画監督」としての役割が多様になった

福岡・東京を拠点に映画監督をしている神保 慶政(じんぼ よしまさ)と申します。今回、ご縁ありBSSTOにいくつか記事を掲載させていただきます。
「福岡・九州発のトピックを定期的に」というリクエストをいただきまして、福岡に住んでまだ約3年ばかりではありますが、読者の方がなるほどと思える情報を提供できればと思います。
まず、私自身の紹介をいくらかさせていただければと思います。

私は2012年に東京の映画学校・ニューシネマワークショップに通うまで、映画作りに携わったことはありませんでした。大学で文系の学部を修了後、西遊旅行という秘境専門の旅行会社で働いていました(同社には、「旅と映画」というワールド映画コラムを連載させてもらっています)。
ニューシネマワークショップに通った後、運よくシネアスト・オーガニゼーション大阪(CO2)に企画が通り、比較的早いタイミングで長編映画監督の機会を得て、『僕はもうすぐ十一歳になる。』を監督しました。その後3本の短編を監督し、今は昨年監督したイラン・シンガポールとの合作長編『On the Zero Line』を編集している最中です。作り方が少し変わっているのと、作業が主にイランで進行していてやりとりに色々と時間がかかるので、今年中に完成するイメージで編集を進めています。

私が福岡に拠点を移したのは2016年3月です。ちょうど、名古屋の映画館・シネマスコーレにプロデュースしていただいた短編『せんそうはしらない』の、同劇場での上映が一段落した頃でした。娘が生まれるのをきっかけに、妻の実家にアクセスが良い福岡市に引っ越すことにしました。
福岡にはプライベートでも映画祭でも何度か来ていていつか住むような気がしていたため、福岡インディペンデント映画祭のパーティーで福岡の方とコミュニケーションしたり、情報を調べたりしていました。福岡は行政としても「アジアに近い」ことを売りにしているので、もしかしたら福岡を拠点にすれば自分の映画作りもより他のアジア諸国に近づくかなと思っていました(単純すぎる発想ではありましたが、実際にそうなりました)。

天神アピチャッポンプロジェクト (c)福岡アジア文化賞委員会

福岡にいたからこそ得た、映画監督としての機会はたくさんあります。

2016年は…
・天神アピチャッポンプロジェクト(福岡市アジア文化賞事業、3日間の映画製作ワークショップ)
・アジアフォーカス福岡国際映画祭でプログラム選定(韓国プチョン映画祭のFantastic Film Schoolで出会った香港・ベトナムの監督作品を招待)
・アジアフォーカス福岡国際映画祭で知り合ったベトナムのファン・ダン・ジー監督が毎年ダナン・ホイアンで開催しているAutumn Meetingに招待され、トラン・アン・ユン監督マスタークラスに約2週間参加

2017年は…
・釜山独立映画協会から招待を受け、Unesco Busan Inter-city Film Festivalのために短編映画『憧れ』を監督(福岡インディペンデント映画祭からの推薦)
・アジアフォーカス福岡国際映画祭で国際共同制作ワークショップの運営
・福岡県直方市で開催される直方映画祭2017のために、短編映画『えんえんと、えんえんと』を監督(助監督・録音スタッフは釜山で出会ったスタッフを採用)

このように、特に福岡と韓国の映画祭の存在には、大きく私の監督キャリアを手助けしてもらいました。この頃には、名刺や空港での入国書類にも「映画監督」と堂々と書けるようになっていました。

Autumn Meeting(写真中央上がトラン・アン・ユン監督)

2018年は…
・アジアフォーカス福岡国際映画祭期間中の商談会 Neo Cinemap Fukuokaで出会ったプロデューサーの協力を得て、イラン・シンガポール合作『On the Zero Line』を監督(一部福岡ロケ)
・ショートショートフィルムフェスティバル in 福岡 で子ども映画ワークショップの講師を担当

昨年は他にも書ききれないほど色々なことがありましたが、私はいわゆる映像製作(CM・PV等の企画・ディレクション・編集)もしていますし、書評・映画評の執筆やトークイベントの登壇など、「よーい、スタート!」と現場で言う以外の仕事もしています。しかし、それらは全て「映画監督として」しています。
「映画監督とは」という問いに対する解答は様々ですが、映画監督として依頼をいただき、オーダーも「映画のように」「映画監督としての意見を」といったことを前提にして接してもらえるので、映画を撮っているとき以外でも映画監督でいられるようになりました。

福岡には、「映像作家」はいくらかいても、「映画監督」と名乗って活動している作家はほとんどいません。いないとは言いませんが、多くても1桁、私が知る限りでは5本指以内の人数です。そのため、福岡で映画監督という存在は希少価値があります。このように、映画監督として生計を立てられるようになったのは、福岡のおかげによるところが大きいと感じています。

短編映画『えんえんと、えんえんと』 キャスト・スタッフと

問題は映画がシニア産業になっていること

さて、私の情報ばかりでも仕方がないので、ここで(「やっとか…」と思った方、すみません)福岡の映画シーンについてご紹介したいと思います。今回私が紹介するのは福岡県の福岡市(博多・天神・中洲などがある)についてです。フィルムコミッションや有名な二番館(小倉昭和館)がある北九州や他の地域ついてはまた別の機会にできればと思います。

福岡市にはTジョイ、TOHOシネマズ、ユナイテッド・シネマ、イオンシネマなどシネコンはもちろん色々あります。問題は、いわゆるミニシアター系(この言葉はもう古くなったのであまり使いたくないのですが、便宜上使います)・アートハウス・インディーズ映画を上映する劇場が非常に限られていることです。
現状ではKBCシネマと中洲大洋映画劇場があり、オープン日は未定ですが、立川とみなとみらいに今年オープンしたキノシネマが福岡にも来るといわれています。現状としては、首都圏内でシネコンではない劇場で上映されているような作品は、主にKBCシネマの2スクリーンと中洲大洋映画劇場の4スクリーンに集中しています。

KBCシネマ

中洲大洋映画劇場

結果的に、

・ひとつの劇場で、ものすごい本数の映画が一日にかかる
・上映期間が短くて、情報を見逃す
・観たいけど、どうしても予定が合わない
・観たい映画が福岡に来ない(結果的に数ヶ月遅れで来る、もしくは来ない)

というような歯がゆい状況が起こります。これは、劇場や配給会社が悪いと責めているわけではなく、醤油皿のような平たい皿に巨大なポリタンクから液体を注いでいるようなもので、どうしても皿に残る映画本数は限られてくるし、うまく映画が劇場に着地しないことが起こるし、こぼれ落ちる作品も多くなるのです(ちなみに全く映画には関係ないですが、福岡では刺身醤油というドロッとした甘口の醤油が好まれます)。

では「誰かが映画館を作ればいいのでは?」と思うかもしれません。おそらく福岡の映画ファンの全てがそれを望んでいるでしょう(キノシネマには皆期待を寄せています)。しかし、なかなかそれは実現されません。色々と原因はあると思いますが、私が一番問題だと感じているのは映画がシニア産業寄りになってしまっている、言い換えるならば、若い客層が圧倒的少ないということです。「若い」というのは10-20代、加えて30代ぐらいまで含めたイメージで言っています。

たとえば、福岡市にも福岡タワーというシンボルタワーがあるのですが、そのすぐ近くにある福岡市総合図書館の中に、シネラという素晴らしい上映スペースがあります。

福岡市総合図書館「映像ホール・シネラ」

福岡市総合図書館フィルム・アーカイブも併設したこの劇場は、新旧問わず様々な国の映画が見られて、料金は毎回違うのですが基本的に3桁で、私が経験した最安価格は200円。アジアフォーカス福岡国際映画祭で上映された作品など、図書館のアーカイブの中から貴重な作品が上映されます。しかし、私(33歳)が劇場に入ると「たぶん自分が最年少だ」と思うことが時々あります。

アジアフォーカス福岡国際映画祭も3年(今年で4年目)関わらせていただきましたが、やはり若い客層が少ないです。私は東京で育ちましたが、よくよく考えてみるとこれは福岡だけでなく、東京でも同じかもしれないと思いました。ただ地方だと、よりそれが顕著なのです。

2016年に初めて韓国・釜山国際映画祭に行き、なおさら日本の映画館で客層が偏っていることは痛感しました。釜山国際映画祭の客席やQ&Aは若い観客によって盛り上げられます。これは10年以上かけた国策の差なので、簡単に日本の現状は変わりません。

短編映画『憧れ』 釜山・映画の殿堂での撮影風景

では、誰がそれを変えなければいけないのか。私が至った結論は、映画監督こそ動かなければいけないということです。ご縁でインド映画『バジュランギおじさんと、小さな迷子』の宣伝に、映画監督として関わらせてもらったことは大きなヒントになりました。

『バジュランギおじさんと、小さな迷子』試写会の様子

元々インドには前職でゆかりがあったのと、非常にクオリティが高く子ども映画としても最適な本作は、福岡の映画シーンのサイクルを良くしてくれると思い参加を決めました。
この時、「私が好きな作品に人が入らなければ、私の作品が上映された時に人が入るはずがない」ということに気付きました。つまり、映画監督が自分の映画をより上映しやすくするためには、「自分が良いと思う映画」に人を動員させることが近道だということです。
他の監督の作品を、自分のために助けるという気付きは、よりダイレクトに映画シーンにコミットできる福岡にいなければ気づけなかったかもしれないと思いました。

若い映画人口を増やすためにできることは?

こうした「サイクルを良くすること」を、ショートショートフィルムフェスティバル、そしてアジアフォーカス福岡国際映画祭・福岡フィルムコミッションはとても強く意識していると思います。昨年の例で言えば、「ショートショートフィルムフェスティバル in 福岡」で子ども映画ワークショップが開催されたことや、福岡フィルムコミッションが全面サポートして、韓国の名匠チャン・リュル監督監督作『福岡』が完成し、ベルリン映画祭に選出されたことはとても意義深いでしょう。

子ども映画ワークショップの模様

序盤に話が戻りますが、多様な映画体験をできる拠点となる場所が、もうすこし福岡には必要でしょう。
BSSTOでインタビューが掲載されている福岡映画部や、拙作『僕はもうすぐ十一歳になる。』を上映してもらった不定期上映会・博多南シネマなど、「拠点」を作ろうと活動に励んでくれている人も既に多くいます。彼らがゆくゆくアップリンク吉祥寺のような「ミニシアターコンプレックス」を作る日も遠くはないと思います。

福岡映画部の模様

博多南シネマの模様

また、私と同じシェアオフィスに入居されている映画配給会社ユナイテッドピープルは良質のドキュメンタリーをコンスタントに配給されてきましたが、今年製作事業に乗り出し、フードロスをテーマにした『もったいないキッチン』を日本各地で撮影しました(ちなみに私が今まさに編集をしてします)。福岡発のプロジェクトとして、ぜひご注目いただきたいです。

海が目の前!開放的なシェアオフィス・SALT

最後に、前述した要素を総動員したイベントの紹介をもって、この記事を終えられればと思います。

9/13〜19に行われるアジアフォーカス福岡国際映画祭のプレイベントとして、報道・ネット・SNSがもたらす加虐性をテーマにした緒方隆臣監督作『飢えたライオン』の上映会を8/30に開催します。前述したとおり、10-30代ぐらいの若い観客により映画を観てもらう機会をと思い映画祭事務局に提案し、実現することとなりました。
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日時:8月30日(金)
18:00~開場
18:30~『飢えたライオン』上映開始(上映後トークセッション)
場所:あじびホール(福岡アジア美術館8階)
住所:福岡県福岡市博多区下川端町3−1 リバレインセンタービル7・8F
料金:無料
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①日本では「衝撃作」と形容とされる作品が、オランダのロッテルダム映画祭では、映画祭からのリクエストで中学生向けティーチインが行われたこと
②アジアフォーカス福岡国際映画祭も、毎年オランダに作品選定に行っていること
③釜山映画祭など、海外の有力な映画祭では映画祭開催期間ではない時の、外部への情報発信が充実していること

この3点から、上映の提案を思いつきました。アジアフォーカス福岡国際映画祭は市役所に事務局がありますが、作品選定をどこでなぜどうやって行っているかという市役所の事業を対外的にアピールできる同時に、オランダと日本の教育の違いにまで話をふくらませることができます。プレイベントとして本作を上映することは、製作者だけでなく映画祭側にもメリットがあると考えたのです。

福岡出身の緒方隆臣監督と、ゲストスピーカーにGMOペパボさんをお迎えする予定です。東京だと数多くあるイベントの一つで終わってしまうところですが、福岡ぐらいの都市サイズだと、町に浸透する可能性があると信じています。もちろん一回では浸透しませんが、こうした「良いサイクル」の蓄積が、映画の未来を良い形に整えていくのだと私は考えています。

次回以降は、
・地域の映画祭について「直方映画祭」の取り組みから考えること
・福岡の映画の課題と、課題解決の形としての「ショートショートフィルムフェスティバル in 福岡 子ども映画ワークショップ」

というテーマで記事をお届けする予定です。

(了)

Writer:神保 慶政(じんぼ・よしまさ)

東京出身、福岡在住。秘境専門旅行会社に勤めた後、昆虫少年の成長を描いた長編「僕はもうすぐ十一歳になる。」を監督。国内外で好評を博し、日本映画監督協会新人賞にノミネート。第一子の誕生を機に福岡に拠点を移し、アジア各国とのネットワークを広げる。現在、イラン・シンガポールとの合作長編『On the Zero Line』を編集中。

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