新型コロナウィルスの流行に伴い、映画館や映画上映を企画する飲食店、上映イベントなどが営業自粛に追い込まれています。BSSTOでは「暮らしにシネマチックなひと時を」をテーマに、映画上映に携わるプレーヤーの皆さんやイベントを紹介してきましたが、これまで取材やイベントでつながった方の多くが、大きな影響を受けています。
本コラムでは、「コロナ禍に考える映画上映のいまとこれから」と題し、映画のある場の現状と、始まっているクラウドファンディングやオンラインイベント、ドライブイン・シアターの動きについてまとめます。そして、今回の非常事態が落ち着いたそのあとの世界が、どのように変わるのか、映画上映という視点で考えます。
今日ある世界が明日も続くとは限らない。そのためにも、冷静に知り、考え、動く必要がある。私たちも、決して大きな力を持っているわけではありませんが、まずは現状を知るところからはじめてみようと思います。
本記事は4月7日現在の情報をもとに執筆しています。また、情報のソースは各社のオフィシャルWEBサイトやSNSアカウントとしておりますが、ご紹介するお一人お一人に対して個別に確認をした訳ではございません。最新の情報は読者の皆様の責任でご確認ください。また、考察や未来予想については、あくまで編集部の見解でありますこと予めご了解ください。
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小池百合子東京都知事が「感染爆発重大局面」という表現を用いて、都民に不要不急の外出自粛を求めたのが3/25(水)のこと。大手シネコンのTOHOシネマズは28日~29日の土日、首都圏を中心に17劇場の営業を自粛。翌週4/4(土)・5(日)も休業した。日経新聞の報道によると、東宝グループの映画館の「1~3月の興行収入は131億円で前年同期比で約3割減」だという。松竹やイオンエンターテイメントなどシネコン大手も同様に週末の営業自粛を行っている。また、4~5月に公開を予定していた大型商業映画の多くが公開延期を決め、シネコンの大スクリーンで過去作を流している状況だ。
ミニシアターでは、アップリンク渋谷・アップリンク吉祥寺が4/8(水)から再開日未定の休業入り。BSSTOでもインタビュー取材したユーロスペースは、4/10(金)までは通常営業だが、4/11(土)以降は未定。横浜のシネマ ジャック & ベティはチケット販売枚数を半分にするなどの対策をとって営業中だ。もっと小さなスペースでは、逗子・シネマアミーゴが4/1(水)~4/24(金)まで休業。鵠沼海岸・シネコヤも同じく4/24(金)までの休業措置をとっている。今後は緊急事態宣言を受けて、現在営業中の劇場も休業し、休業中の劇場は期間を延長する可能性がある。
野外上映などの上映会も軒並み中止を余儀なくされている。3/30(月)、毎年G.Wに開催されている「逗子海岸映画祭」は今年の開催中止を発表。飲食店などで小規模上映を実施するcafé de cinemaも4月に予定されていた全上映会を中止とした。ここ数年、全国のショッピングセンター等で開催されている野外上映もキャンセルが相次いでいると伝え聞く。流行の収束時期が見通せない状況では、影響は2020年シーズン全体にまたがるだろう。
なお、BSSTOが定期開催している「池尻ショートフィルム」(池尻大橋/BPM)と「ショートフィルムを2度みる会」(渋谷/the Hive Jinnan)も会場での開催は中止となり、オンライン開催の検討を進めている。感染拡大防止という命題の前では、映画に限らず人が集まるイベントが中止となるのは当然のことだといえるだろう。
出町座のクラウドファンディングページ
休業がやむを得ないことだとして、休業補償のない現状では、劇場運営やイベントに携わる方々は経営的な危機に直面している。そんな中で、映画と文化の灯を絶やさないために有志での取り組みが始まっている。
たとえば、京都市上京区の映画・本・カフェの複合施設「出町座」は、運転資金を賄うために2021年末まで使える【末来券】を発行。6/8(月)までクラウドファンディングサイトで購入できる。目標額は200万円だったが、4/7(火)時点で約500万円の支援を集めている。さらに、出町座を含む京阪神エリアのミニシアター13館が連名で「Save our local cinemasプロジェクト」を立ち上げ、チャリティTシャツをネットショップで販売している。
また、映画監督の深田晃司さん(『淵に立つ』など)と濱口竜介さん(『寝ても覚めても』など)が連名で発起人となり、ミニシアター向けのクラウドファンディング「Mini-Theater AID」の実施を発表した(4/7(火)時点では未スタート)。
現時点では、業界の自助努力や、ミニシアターファンらの支援によって持ちこたえている状況だが、諸外国政府による文化活動への支援を引き合いに政府の対応を求める動きもある。俳優の井浦新さんや映画監督の是枝裕和さんら映画人が呼びかけ人を務める#SaveTheCinema 「ミニシアターを救え!」プロジェクトは、日本政府と国会議員を宛先にした要望書を作成し、インターネット上で署名を募っている。
以上は、喫緊の運転資金を確保し、自粛期間中の映画館等上映の場を支える取り組みだ。
人が集まる場所に出かけられない今、オンラインで映画を配信する取り組みも新たに生まれている。
上述したアップリンクが運営する「UPLINK Cloud」は同社の配給作品を中心にvimeoを使ったストリーミングで作品を配信する有料サービスだ。コロナ禍が本格化した3/26(木)から「アップリンク作品 60本見放題」を2,980円で販売している。
福岡に拠点を置く配給会社ユナイテッドピープルが運営する、市民上映会を対象にした配給サービス「cinemo」は、4/3(金)「Zoomでオンライン映画上映会」をリリース。リアルタイムで多人数が同じ映画を観て、鑑賞後のコミュニケーションがとれるという仕様だ。同社が配給する24作品がオンライン上映に対応。今後作品数を増やしていくという。
大手配信サービスNetflix関連では、サードパーティー製のChrome拡張機能「ネットフリックスパーティー」を使えば、離れたところにいる友人と同時に作品を視聴できるという機能がある(純正のサービスではないので利用は自己責任で)。映画を観るだけでなく語ること、共通体験を作ることに需要があるようだ。
ビジネスでのオンラインミーティングはもちろん、オンライン飲み会やオンラインバー、オンラインスナック、オンライン料理教室など、ビデオチャットを活用した形に対面サービスが移行している。映画を観て交流するという体験に価値を置いてきたある上映イベントは、近くオンライン開催に舵を切る。オンライン化は映画イベントの向かう未来像の一つのようだ。
なお、BSSTOでもいくつかのオンラインイベントを計画中だ。コロナが収束した後も、オンライン開催の価値が証明されれば継続して実施をしたい。危機が技術や企画を進歩させる。前向きに今の状況を活かしていきたい。
最後に、こうした状況下だからこそ、リアルイベントをあきらめない人々もいる。その代表的な事例が「ドライブイン・シアター」だ。自宅から自家用車に乗って出かけ、会場でも車の中でカーステレオを使って映画を楽しむ。このスタイルであれば、「密閉・密集・密接」を防げるという訳だ。
3月の3連休には、埼玉県川越市のオフロードレース施設で開催、4/5(日)には山梨県甲斐市のショッピングセンターで開催された。5月にはこれまでにも数回ドライブイン・シアターをプロデュースしてきた団体「Do it Theater」が、大磯ロングビーチで「Do it Theater presents Drive in Theater 2020」を開催するとのことだ。映画好きのみならず、フェス好きの若者や、ファミリーにとっても朗報といえるだろう。
以上、4/7(火)時点での、「映画体験」の動向をまとめてみました。
非常時において文化活動の優先順位は下がります。命より重要なものはありません。ですが、憲法に保障された、健康的で文化的な最低限度の生活を営むこと、そのためには映画を含めた文化の活動を軽視してはいけないと私たちは考えています。
読者の皆さんも、ご自分のできることで、他の誰でもない自分たちの為にご支援をいただければ幸いです。
※本コラムは週に1回程度のペースで掲載をして参ります。
(BSSTO編集長 大竹悠介)
Writer:BSSTO編集部
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