土地や気候、育て、醸造する人の気持ち。
その味わいの中に感じられる個性的な表情は、ショートフィルムの世界と似ています。
作り手はどんなことを考えていたのか、その年はどんな年だったのか—。
このコラムでは、そんなことを思い浮かべながら、ワインとショートフィルムのペアリングを、ワイン専門店エノテカの広報、佐野昭子さんに紹介いただきます。
ショートフィルムのストーリーと、ワインの香りや味わいが織りなすひと時をお楽しみください。
ブリリア ショートショートシアター オンラインでは、6月にジョージア特集を開催中です。ジョージア、と聞いてワインを思い浮かべた方、ワイン通ですね・・・! カスピ海と黒海に挟まれた南コーカサスの地、ジョージアはなんと約8000年前(紀元前6000年頃)からワイン造りが始まったと言われており、“ワイン発祥の地”とされる世界最古のワイン産地です。それだけの歴史があるからでしょうか、ジョージアでは長編映画『葡萄畑へ帰ろう』(2017年)やドキュメンタリー映画『ジョージア、ワインが生まれたところ』(2018年)をはじめ、歴史あるブドウ畑やワイン文化はもちろん、周囲の国々に翻弄されながらも守り続けてきた民族文化や土地、家族の絆に根差した映画が多いように思います。もしかしたら、今回のジョージア特集でもワインが出てくる作品があるかも・・・と思って観ていたら・・・ありました! ワインやスプラ(ジョージアの宴会文化)が出てくる作品、『ワルツ』です。
出産を控えて幸せがいっぱいの1組のカップル。その一方で、夫は母親を亡くした悲しみを抱え続けています。物語に挿入される、テンポの良い映像と少し悲しみを帯びた楽曲が印象的ですが、この作品、実はジョージアのみならず旧ソ連圏で絶大な人気を誇るバンド、Mgzavrebi (ムグザヴレビ)のミュージックビデオとして製作された作品だそうで、それもなるほど、と腑に落ちること間違いなしの作品となっています。
ワイン名:ヴァルダルノ・ディ・ソプラ ペトルーナ
生産者名:イル・ボッロ
この作品の中で登場するスプラ(宴会)のシーン。過去と現在が入り混じる中、どちらも長テーブルにたくさんの料理とワインを並べ、席に着く人々の姿が描かれます。スプラは、ジョージアでは単なる宴会を超えた、深い伝統に根差した重要な位置づけにあるとのこと。加えて、独特の儀式やしきたり(司会進行役がいる/何度も乾杯をする/たくさんんの料理やお酒でおもてなしをする/宴会は非常に長時間にわたる、など)があるそうです。
そこで供されるのはもちろんジョージア産ワイン。この地で造られるワインは、固有品種のブドウが中心のほか、家庭でもワインを造っていて自家消費が認められていたり、また、伝統的に“クヴェヴリ”と呼ばれる素焼きの壷(アンフォラ)を地中に埋め、そのなかにブドウを入れて自然に発酵させる独自の製法を持つ、などの特徴があります。
左:イタリアのワイナリーで使用されているアンフォラ 右:“クヴェヴリ”と呼ばれる素焼きの壷を使用したジョージアのワイナリー
現在、イタリア、フランスをはじめ、世界各地でアンフォラを使用した醸造が行われていますが、もとはと言えば、ジョージアのワイン造りに影響を受けたイタリアの生産者によってアンフォラの使用が試みられ、2000年代以降に徐々に広まったのだそうです。素焼きの粘土でできたアンフォラは微量の酸素を通すこと、また樽などのように容器由来の風味が付かないのが特徴で、ブドウ本来のピュアな味わいを表現することができます。
そんなアンフォラに着目して今回ご紹介したいワインが、サルヴァトーレ フェラガモ ファミリーが手がけるワイナリー「イル・ボッロ」が造る『ペトルーナ』です。サンジョヴェーゼ100%で造られるワインですが、その魅力を最大限に引き出すべく熟成にアンフォラを使用した、珍しい1本です。
イタリアの名門フェラガモ ファミリーがトスカーナに所有する高級リゾート地イル・ボッロ
イタリアの老舗ブランド「サルヴァトーレ フェラガモ」をご存知の方は多いかと思いますが、実はサルヴァトーレ フェラガモ ファミリーはトスカーナの地でワイン造りも手がけているのをご存知でしょうか。彼らのモノづくりのセンスと美意識、哲学が惜しみなく注ぎ込まれているのが、「イル・ボッロ」。ハイクオリティなワインを多く手がけていますが、そのひとつである『ペトルーナ』は、アンフォラ(ペトルーナ)で熟成させた赤ワイン。「イル・ボッロ」がこだわる、“サンジョヴェーゼの魅力を表現する”というコンセプトのもとに手がけられています。「イル・ボッロ」の長い歴史を誇るヴァルダルノ・ディ・ソプラにある畑から収穫したブドウを使用して生み出す、赤系果実の繊細なアロマとエレガントな味わいはまるでピノ・ノワールのよう…! サンジョヴェーゼの新しい魅力が発見できる『ペトルーナ』で、ぜひ“アンフォラ体験”をしてみませんか?