芸術が生活のなかに自然と溶け込むヨーロッパのライフスタイル。映画も人々の創造性や心のゆとりに不可欠な存在として受け入れられ、アメリカ映画とは異なるアートフィルムが発展してきました。ヨーロッパに暮らす人々は日々どのように映画に接しているのでしょうか? ベルリン在住の映画キュレーター・岡村友梨子さんが現地の映画事情をレポートします。
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アーティストたちに人気で、最近日本からも移住する人が多いドイツの首都、ベルリン。
そんなベルリンの映画館では、どれぐらいのお値段で映画鑑賞ができるのでしょうか。
今回は、ベルリンの映画館をいくつか取り上げて、ご紹介していきます!
Yorck Kinoは、ベルリン内で15の映画館を運営している映画館グループです。元々は単館映画館だったのですが、ベルリン内の独立系映画館を吸収合併していくことにより、現在では大きな映画館グループへと成長しました。
Yorck Kinoグループの映画館は、それぞれ外観も内装も全く異なっています。Yorck Kinoグループのサインが映画館の外にないので、ポスターなどを見るまで大手の映画館グループの映画館だということは全く分かりません。昔からある映画館にできるだけ手を加えないで、それぞれの映画館らしさを残して存続させていくという方針、ステキだと思います!
上映作品も、大手シネコンで上映されるようなメジャーな作品もありますが、独立系・アート系作品も上映されています。上映作品の幅が広いので、多くの人が足を運んでいる映画館です。
Yorck Kinoグループの映画館の中でも、チケットの値段は映画館により異なるのですが、オシャレな高級エリアCharlottenburg(シャルロッテンブルク)にあるDelphi LUXでの映画鑑賞料は、
月曜日 7ユーロ/約907円
火曜日・水曜日 8.5ユーロ/約1102円
木曜日~日曜日 10ユーロ/約1296円
です。月曜日に映画を観に行くのがかなりお得ですね!
また、同じYorck Kinoグループの中でも、かつて西ベルリンの下町だったNeukölln(ノイコルン)にある映画館Passage Kino(パサージュ・キノ)では、木曜日~日曜日の鑑賞料が8~9ユーロ/約1037~1167円と、高級エリアにあるDelphi LUXよりは価格が多少安く設定されています。
ベルリン国際映画祭のメイン会場のあるPotsdamer Platz(ポツダマー・プラッツ)にある映画館、Arsenal Kino。こちらの映画館は古い映画作品を主に上映しており、現在も35mmフィルムでの上映も毎日のように行なっている、他の映画館とは少し違ったコンセプトの映画館です。
黒澤明や小津安二郎など、日本の映画作品も上映されています。
Arsenal Kinoでの映画鑑賞料は、一律8ユーロ/約1037円に設定されています。他の映画館と違う点は、リピーター向けのユニークな回数券システムがあるということです。
回数券システムの利用方法は、以下の通りです。
まず6か月間有効の12ユーロ/約1556円の会員カードを購入し、その会員カードを提示することで6回分24ユーロ/約3111円の回数券が購入できます。購入料金は合わせて36ユーロ/約4667円なので、この時点で1回当たり6ユーロ/約778円まで安くなります。6回分24ユーロの回数券は、会員カードが有効な6か月以内だと何度でも購入可能なので、たくさん映画を観れば観るほど、1回当たりの単価が安くなるというシステムです。
このような回数券システムは他の映画館でもありますが、一度に払う金額が高額になってしまうことが多くなかなか手を出しづらいという点がありますが、Arsenal Kinoのサービスだと、回数券を購入してもそこまで高額にならないので、お財布に優しいですね!
私は映画の歴史を大学院で勉強していたということもあり、昔の映画が好きなので、Arsenal Kinoにはよく足を運んでいます。
Neukölln地区は、旧西ベルリンの下町でした。近年は、地価が安かったことからオシャレなカフェ・ショップ・レストランなどが数多くできて、若者に大人気のエリアとなりました。人気が出てからは地価は高くなってしまいましたが、まだまだ新しいお店がたくさんオープンしている活気のある地区です。
そんなNeukölln地区に昨年オープンしたのがWolf Kino。オシャレなカフェ&バー併設で、映画の前後に食事を楽しんだり、コーヒーを片手に一息付いたりできる映画館です。
Wolf Kinoでの映画鑑賞料は、以下の通りです。
月曜日~水曜日 (午後6時まで) 7ユーロ/約907円
月曜日~水曜日 (午後6時以降) 8ユーロ/約1037円
木曜日~日曜日 (午後6時まで) 7.5ユーロ/約972円
木曜日~日曜日 (午後6時以降) 8.5ユーロ/約1102円
Wolf Kinoでは、曜日だけではなく時間によっても鑑賞料が異なっています。夕方以降や週末は、スタッフの方々のお給料も上げなければなりませんし、理にかなっている料金設定方法なのではないでしょうか。
新しい映画館というだけあってすごくキレイで、設備も整っていました!
Tilsiter Lichtspieleは、旧東ベルリンのFriedrichshain(フリードリヒシャイン)地区にある映画館です。なんと1908年から営業している映画館で、100年以上の歴史を持つ映画館です。第二次世界大戦後、旧ソ連の支配下にあったため、一時期は閉鎖していたようですが、ベルリンの壁崩壊後再び映画館として営業を再開できたようです。
そんなTilsiter Lichtspieleでの映画鑑賞料は、
スクリーン1 (大スクリーン) 5.5ユーロ/約713円
スクリーン2 (小スクリーン) 5ユーロ/約648円
です。他の映画館と比べてかなり安いですね!
確かに歴史のある映画館で、設備は最新の映画館と比べて劣るかもしれませんが、親しみやすくアットホームな映画館です。
この記事では鑑賞料にフォーカスしてベルリンの一部の映画館をご紹介しましたが、ベルリンの映画館では鑑賞料が映画館によって異なります。映画館によって、鑑賞料の設定方法もバラバラです。この点が日本の映画館とは違いますね!また、鑑賞料が全く異なる映画館で、同じ作品を上映しているということも多くあります。
鑑賞料が映画館によって異なる明確な理由は分かりませんが、設備投資にどれぐらいお金をかけているか、地価がどれぐらいであるか…ということがその理由の一部であるのではないでしょうか。維持管理費用の高い映画館だと、鑑賞料を上げないと経営が大変になってしまいますよね…ドイツ人は合理的であると言われていますが、それが映画館の鑑賞料の設定においてもあらわれているのかもしれません。
(了)