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COLUMN
Feb. 22, 2019

【ヨーロッパのシネマライフ】今ベルリンで大注目のアート展をレポート
〜ノーベンバーグループの魅力とは?~

芸術が生活のなかに自然と溶け込むヨーロッパのライフスタイル。映画も人々の創造性や心のゆとりに不可欠な存在として受け入れられ、アメリカ映画とは異なるアートフィルムが発展してきました。ヨーロッパに暮らす人々は日々どのように映画に接しているのでしょうか? ベルリン在住の映画キュレーター・岡村友梨子さんが現地の映画事情をレポートします。
3回目の今回は、ベルリンで注目されている「アート映画」について。

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Hannah Höch, Der Zaun, 1928, © VG Bild-Kunst, Bonn 2018, Repro: Kai-Annett Becker

 

1918年から1935年の間、ベルリンにはNovembergruppe(ノーベンバーグループ)と呼ばれるアーティストグループが存在していました。ノーベンバーグループは、メンバーのアーティストの作品を中心に、アート作品の展示イベントを40回ほど行いました。展示作品は絵画にとどまらず、映画や音楽、さらには建築設計まで多岐に及んでいました。

ノーベンバーグループの展示イベントで展示された作品の一部をキュレーションした特別展が、現在ベルリンのBerlinische Galerie(ベルリニッシェ・ギャラリー)で行われています。絵画だけでなく映画作品の展示もあったので、今回は展示されていたアート映画作品にフォーカスしてご紹介します!

激動の時代にアート作品を創り出したノーベンバーグループ

Willy Römer, Ohne Titel (Rückkehr der Truppen. Die schaulustigen Berliner auf den Bäumen Unter den Linden vor dem Hotel Adlon), 10. Dezember 1918 © bpk, Markus Hawlik

ノーベンバーグループに所属していたアーティストは、当時のアヴァンギャルド(avant-garde / 前衛)アーティストたちでした。ノーベンバーグループができた191811月は、第一次世界大戦がちょうど終わるころでした。大戦の終戦直前と、それからできたワイマール共和国時代に、ノーベンバーグループは展示イベントなどの活動を行なっていました。ノーベンバーグループが活動を行なっていたのは、第一次世界大戦の終結直前から第二次世界大戦が始まるまでの間の、政治的に混乱していた時代でした。

そんな時代の中で活動していたアヴァンギャルド・アーティストの中でも、当時比較的新しいメディアであった映画に興味を持ち、作品を製作するアーティストたちがいました。

ドイツで初めてのアート映画上映イベントでの上映作品 Fernand Léger(フェルナンド・レジェ)監督 Ballet Mécanique(バレエ・メカニック)

©Courtesy of Light Cone

フランス人で画家であるフェルナンド・レジェは、映画という新しいメディアに惹かれ、1924年に『バレエ・メカニック』という作品を製作しました。この作品はかなり有名になり、その時代の代表的な作品として、欧米の映画の歴史の授業などで今でもよく取り上げられています。

16分のショートフィルムで、特にあらすじはなく、女性の顔のパーツのクロースアップや、万華鏡のように動く図形などが速いテンポで次々と映し出されている作品です。普通の映画と違って、物語やあらすじがないということが、この時代に製作されたアート映画の特徴です。

この作品は192553日にノーベンバーグループがUniversal Film AG(UFA/ドイツの映画プロダクション会社)の協力を得てベルリンで行なったAbsolute Film(アブソリュート・フィルム)という上映イベントの中で上映されました。上映作品は、『バレエ・メカニック』を含め、フランスとドイツのアヴァンギャルド・アーティストたちによって製作された6作品でした。西ベルリン・Kurfürstendamm(クーダム)にあったUFA900席の映画館のチケットが完売するほどの人気だったそうです。

レジェはノーベンバーグループのメンバーではありませんでしたが、当時アートの世界ではベルリンの先を走っていたパリのアーティストの1人として、ノーベンバーグループやドイツのアーティストたちとも関係があり、作品も評価されていたようです。

 

レジェの影響も受けたドイツ人アーティスト Hans Richter(ハンス・リヒター)のRhythmus 23(リズムス 23)

©Courtesy of Light Cone

ドイツ人のアーティスト、ハンス・リヒターはノーベンバーグループのメンバーでした。レジェと同じく、リヒターも画家としてキャリアをスタートさせ、それから映画も製作するようになりました。

 

リヒター監督作品『リズムス 23』は、1921年にリヒターが製作した最初の抽象アート映画作品Rhythmus 21(リズムス 21)をブラッシュアップした作品です。『バレエ・メカニック』同様、あらすじはなく、四角や丸などの図形が音楽に合わせてリズミカルに動くという映像作品です。

『リズムス 23』は、『バレエ・メカニック』が上映された192553日の上映では上映されませんでしたが、1925510日のリピート上映で上映されました。

リヒターにとって映画は「視覚的なリズム(optical rhythm)」でした。『リズムス 21』や『リズムス 23』を観てみると、リヒターの映画の捉え方がすごく表れているということが伝わります!

László Moholy-Nagy, am 7(26), 1926 © Urheberrechte am Werk erloschen Foto: bpk/Sprengel Museum Hannover/Michael Herling/Benedikt Werner/Aline Gwose

なかなか触れる機会のない昔のアート映画ですが、歴史やアートと絡めてみるとすごく奥が深く、さまざまなことが学べます。私も1920年代に製作されたアート映画に関しては映画とその歴史の観点からしかみたことがなかったので、今回は展示に足を運んで、ドイツやベルリンの歴史とアートの観点からみるきっかけとなったので非常に面白い経験でした!ギャラリーのホームページだけでもかなり情報が得られるので、興味のある方はぜひご覧になってください!

 

参考文献:Thomas Köhler, Ralf Burmeister, & Janina Nentwig Eds (2018). Freedom: The Art of the Novembergruppe 1918-1935. Munich, London & New York: Prestel.

Berlinische Galerie(展示情報)

Alte Jakobstrasse 124-128
10969, Berlin, Germany

 Freedom: The Art of the Novembergruppe 1918-1935
2018年119日〜2019311

https://www.berlinischegalerie.de/en/exhibitions/current-exhibitions/novembergruppe/

Writer:岡村 友梨子(おかむら・ゆりこ)

広島県出身。イギリスのロンドン大学キングス・カレッジで映画学の修士号を取得後、拠点をドイツ・ベルリンへ移す。映画プロダクションやショートフィルム上映イベントのキューレーションを経験し、現在はヨーロッパの図書館向けの映画オンデマンド配信プラットフォームでキューレーターを務める。

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