芸術が生活のなかに自然と溶け込むヨーロッパのライフスタイル。映画も人々の創造性や心のゆとりに不可欠な存在として受け入れられ、アメリカ映画とは異なるアートフィルムが発展してきました。ヨーロッパに暮らす人々は日々どのように映画に接しているのでしょうか? ベルリン在住の映画キュレーター・岡村友梨子さんが現地の映画事情をレポートします。
5回目の今回は、「難民を描く映画」について。
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近年、ドイツをはじめとするヨーロッパの国々に世界中から難民が押し寄せてきたことがニュースなどで取り上げられました。最近ではニュースで大々的に取り上げられることはあまりなくなったかと思いますが、ヨーロッパ各国にやってきた難民たちはその後どのような生活をしているのでしょうか。
今回は、中国人アーティストのアイ・ウェイウェイ(Ai Weiwei)監督作品『ヒューマン・フロー 大地漂流(Human Flow)』とブラジル出身の映画監督カリーム・アイノーズ(Karim Aïnouz)監督作品『Central Airport THF』を通して、ベルリンの難民たちが面している住宅問題に焦点を当ててご紹介していきたいと思います。
アイ・ウェイウェイが手がけたドキュメンタリー映画『ヒューマン・フロー 大地漂流』。世界23か国をアイ・ウェイウェイ自身が訪れて、難民たちの暮らしをカメラにおさめました。国内で問題が起きて、難民として人々が国外に出ていく国々と、ドイツやフランスなどの難民を受け入れている国々の双方を訪れ、ドキュメントしています。
アイ・ウェイウェイが暮らすドイツでは、ベルリン市内南部にあるテンペルホーフ空港跡地の難民キャンプで生活している難民のインタビューが作品の中におさめられています。インタビューに応じた難民は、テンペルホーフ空港跡の難民キャンプではプライベートな空間が持てず、また十分なスペースもないのでそれがストレスになっていると語っています。
写真はテンペルホーフ空港跡地難民キャンプの、難民たちが実際に寝泊まりしている場所の様子を撮影したものです。屋根がなく壁で仕切られているだけなので、確かにプライバシーを保つことは難しそうです。ドイツに無事到着して身の安全は確保できたものの、難民たちの生活には問題が残されていることが伺えます。
『ヒューマン・フロー 大地漂流』で取り上げられたテンペルホーフ空港跡地の難民キャンプにフォーカスしたドキュメンタリー映画が、『Central Airport THF』です。シリアから難民としてやってきた18歳の少年イブラハムがナレーターとして、自身の体験を作品の中で語っています。イブラハムは、シリアに家族を残して1人でベルリンまでやってきて、2016年1月4日から約1年2か月もテンペルホーフ空港跡地の難民キャンプで生活していました。
テンペルホーフ空港跡地の難民キャンプは、一時的に難民を受け入れるために作られた仮設キャンプなのですが、難民としてドイツに来た人がものすごく多く、ベルリンではきちんとした住宅を全ての人に提供できませんでした。そのためイブラハムのように、仮設キャンプで長期間生活することを余儀なくされた難民がたくさんいました。
食事も提供してもらえて、一応の生活はできるものの、やはり薄い壁で仕切られただけの空間で、しかも他の人と相部屋で長期間生活するというのは、なかなか難しいのではないかと思います。火災が発生した場合に備えて、各部屋にドアを設置できないという決まりになっているので、出入り口にはカーテンしか設置されていません。作品の中では、そんな状況で長期間生活することを強いられている難民たちの声がおさめられています。
イブラハムをはじめ、難民たちは正式に長期滞在ができるビザの取得を目指しますが、彼らの今後の生活はどうなるのでしょうか。
エンターテイメントとしてのイメージが強い映画ですが、映画を通じて日本や世界各国で起こっている社会や政治に関する問題について考えるヒントを得ることもできると思います。
まずは、世界各国での難民問題を描き出した『ヒューマン・フロー 大地漂流』で世界全体での難民問題についておさらいして、その上で『Central Airport THF』を観てベルリンの難民問題について学んでみてはいかがでしょうか。
『ヒューマン・フロー 大地漂流』は、2019年1月12日(土)より劇場公開されたので、まだどこかの映画館で上映されているかもしれません。『Central Airport THF』は、日本ではまだ公開されていない作品ですが、ベルリン国際映画祭をはじめ、ヨーロッパ各国の映画祭で上映された人気作品なので、今後日本でも公開されることがあるかもしれません。海外では既にDVDが発売されている国があるので、日本で輸入盤のDVDの購入もできるようです。
日本にはヨーロッパほど大量に難民が避難してきているわけではありませんが、日本にも難民がいないわけではありません。将来、社会や政治の状況が変わって、日本の周りの国々から難民が大量に押し寄せてくることがないとも言い切れません。そういった事態に備えて、映画を通して難民問題について学んで、考えてみてはいかがでしょうか。映画を見て興味を持った部分をさらにリサーチして、知識を深めてみるのもいいかもしれません。
『ヒューマン・フロー 大地漂流』
2017年/140分/ドイツ/ドキュメンタリー
監督: Ai Weiwei
オフィシャルサイト: http://www.humanflow-movie.jp
『Central Airport THF』
2018年/100分/ドイツ/ドキュメンタリー
監督: Karim Aïnouz