スイスと日本の国交樹立160周年記念、ショートショートフィルムフェスティバル & アジア2024 オンラインサテライト会場 スイス・ショートフィルム特集にあわせて、スイスで日本映画の映画祭「GINMAKU日本映画祭」や東京でも「ヘルヴェティカ・スイス映画祭※」を開催している松原美津紀さんに、気になるスイスの映画・映画祭事情をお聞きしました。
※スイスと日本は共通の価値観を原動力に、両国の友情は経済、文化など様々な分野で広がり続けています。現在、在日スイス大使館は2025年大阪・関西万博に向けたVitality.Swissというコミュニケーションプログラムを進めています。ヘルシーライフ、持続可能な地球、人間中心のイノベーションの3つのテーマに焦点を当てながら、両国の豊かな未来とバイタリティのための解決策を探求するものです。
第2回ヘルヴェティカ・スイス映画祭は、Vitality.Swissおよび160周年記念事業の一プログラムとして開催されます。
ーー来場者は現地の方が多いのでしょうか?
日本の方が多いのでしょうか?
開催場所であるチューリッヒに暮らす方々のみならず、様々な国籍を持つ人々がスイス全国から来てくださいます。チューリッヒはドイツ語圏ですが、イタリア語圏やフランス語圏、ロマンシュ語圏からいらしてくださる方も多いため、字幕はほぼ全作品英語で上映しています。
ーー来場者の反応はいかがですか?
はじめの数年はお客様からの反応があまりなく、上映後にスーッと帰られてしまう方がほとんどでした。映画祭5年目の年のオープニング上映で、感極まって登壇中に涙してしまったことがあったのですが、会場にいらしていた地元の方から「ようやくチューリッヒに感情を露にするあなたのような人が現れてとても嬉しい」とお声をかけていただきました。それまでの私は、映画祭の代表としてピッとしなくては!感情的になってはダメだ!と、不安や緊張で壊れそうな自分を隠しながら映画祭に臨んでいましたが、この方からいただいたひとことがきっかけで、もっと正直な自分を出してもいいのかもしれないと思うようになりました。自分を隠さずに映画祭に足を運んでくださった方々と接していると、嬉しい変化がありました。観客の方々も、ご覧になった作品の感想を直接伝えてくださるようになったのです。感動し涙されている方は、以前なら恥ずかしそうに涙顔を隠しながらそそくさと映画館を後にしていましたが、今年は違いました。作品がいかに素晴らしかったか語ってくださったり、作品を観た方同士で涙したりして、静かな熱狂がそこにありました。
ーーこれまでやられてきて、スタートから何か変化はありますか?
2024年で10周年を迎えました。今年は学生さんや親子連れの方が例年よりも多くいらっしゃいました。どのようにGINMAKUを知ってくださったのか尋ねると、圧倒的にお友だちからの紹介や、チラシを見たといったお声が多く、SNSの時代にあってとても嬉しい反響をいただき驚きました。チラシやプログラムは毎年自転車でチューリッヒの街中を走りながら配っています。開催当初は断られることのほうが多かったですが、最近では快くチラシを置かせてくださる店舗が増えました。日本を観光で訪れる人がコロナを経て爆発的に増え、日本滞在中に現地の宿泊施設や飲食店などで日本人に親切にしてもらった、早くまた日本に行きたい!と言ってくださいます。私たちの映画祭が以前よりも好意的に受け入れらるようになったのは、スイスからの観光客の皆さまに親切にしてくださった日本の方々のおかげです。日本からスイスにお越しくださるゲスト方々にも同じように感じていただけるよう心がけながら、GINMAKU開催に臨んでいます。
ーー思い出深い、印象に残っている映画祭でのエピソードがあればお教えください。
フレディ・M・ムーラー監督がGINMAKU日本映画祭に来てくださったことです。2019年に東京で開催した「ヘルヴェティカ・スイス映画祭」でムーラー監督の作品を上映させていただいてから、メールや電話でのやりとりはあったものの、コロナでの厳しいロックダウンの影響でお会いできない日々が続いていました。ひょんなことからチューリッヒでお会いする機会をいただき、その後GINMAKUにも足を運んでくださいました。上映前の舞台挨拶の際、あのムーラー監督が、憧れの人がわたしたちの小さな、手作りの映画祭に来てくださったんだと思うと急に涙が込み上げてきて、言葉を発せられずにいると、監督がすっと立ち上がり、大きく腕を広げ、優しい笑顔で「Don’t cry, be happy」と言ってくださいました。観客の方々から拍手が沸き上がりました。忘れられない、大切な思い出です。
2024年のGINMAKU FESTIVALで上映されたラインナップ
ーースイスの映画館と日本の映画館、違うところはありますか?
⁻上映ラインナップ
スイスは公用語が4つ存在するため、言語圏によって映画の封切のタイミングが異なります。
ポスターや作品のあらすじ、解説などをすべての言語で準備する必要があり、映画祭の準備でも字幕の言語をどうするのか、印刷物や記事などの言語についても注意が必要です。様々な言語圏ご出身の方々に日本映画を楽しんでもらうために、GINMAKU日本映画祭では字幕を英語で上映することがほとんどです。
⁻日本やアメリカではシネコン=ポップコーン&ソーダ といった定番メニューがありますが、スイスの映画館での定番メニューはありますか?(または鑑賞時はあまり食べる人が少ないなど?)
ワインやビールなどを持ち込める劇場があるスイスでは、ホットドッグやチョコレート、ポテトチップスや飴などが販売されていることが多いです。動物性のものを口にしないヴィーガンの方向けに、ヴィーガンホットドックが味わえる劇場などもあり、様々な配慮がされていると感じます。鑑賞時に食事をしている人はあまり見かけたことはないですが、映画の始まりと共に笑顔で乾杯をする人を見かけたときは、こちらまで嬉しい気持ちになりました。鑑賞時に食べる人が少ないのは、周りの人への配慮からかと思いきや、上映中になかなかの声のボリュームで感想を語り合ったりする方も多いです。絶対に静かに鑑賞しなくちゃ!という緊張感ではなく、どんな作品なのかな、楽しみだね、上映後に美味しいものでも食べようね、と楽しそうに映画館での体験を楽しんでいる方が多いように感じます。スイスの映画館では、長時間に及ぶ作品は5分程度の休憩が入りますが、GINMAKUでは最後まで通して上映させてもらうようにお願いをしています。鑑賞中に突然映画がストップし、劇場内が明るくなるスイス式休憩時間は未だに慣れません。
ーー日本では映画館ビジネスが大変苦戦していますが、スイスの映画館事情はいかがでしょうか。
コロナの影響で現在も苦戦を強いられている映画館が多いです。コロナ前の1/3も客足が戻っていないという劇場もあり、様々なアイディアで再び映画館に足を運んでもらおうと工夫を凝らしています。例えば「わたしの好きな映画」と題して観客の方々から投票を募って上位の作品を数回だけ上映したり、22歳以下の若者にはチケット料金1枚分で2人が映画を一緒に楽しめるというキャンペーンを打ち出したりしています。チューリッヒでは、コロナを経て2つの映画館が惜しまれながらその歴史に幕を閉じました。スイス全国には様々な国の映画祭が存在しますが、毎年開催することで、少しでも映画館に活気を取り戻せたらと、皆同じ気持ちで映画祭を運営し続けています。
松原美津紀 (まつばら みづき)
スイスと日本の国交樹立150周年となる 2014年よりスイス・チューリッヒにて「GINMAKU日本映画祭」主催。
2019年に第1回「ヘルヴェティカ・スイス映画祭」を東京都写真美術館にて開催。
その後コロナによる中止を経て、同映画祭は2024年に再開予定。
NHKマイあさラジオ「海外マイあさだより」スイス担当としてレギュラー出演中。
Writer:BSSTO編集部
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