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Jan. 17, 2025

【編集部コラム】アートゴールデン街でLiLiCoさん、現代アーティスト束芋さん、TikTok再生5600万回の神谷佳美(渦を10年描いてる人)さんがART×SHORT FILMをテーマにトーク

国際短編映画祭ショートショート フィルムフェスティバル & アジア(SSFF & ASIA)と連動し、国内外のショートフィルムを年間を通じて紹介、配信しているオンライン映画館Brillia Short Shorts Theater Online(ブリリアショートショートシアターオンライン:BSSTO)は2025年2月に7周年を目前に、解体予定のマンションを舞台に展開されるアートプロジェクト「アートゴールデン街」とのコラボレーションとあわせて、「ART×SHORT FILM」をテーマにトークイベントを開催しました。

映画コメンテーターで、SSFF & ASIAのアンバサダーとしてショートフィルムの世界を知りつくすLiLiCoさんと、今回、アートゴールデン街に繰り広げる「ART× SHORT FILMギャラリー」のラインナップ、ドキュメンタリーフィルム「Veni-imo」に登場する束芋(たばいも)さん、展示エリアの空間に「渦を沈む」をテーマに渦のアートを展開いただく神谷佳美(かみたによしみ)(渦を10年描いてる人)さんにも登場いただき、映画の世界とアートの世界における、制作背景や表現方法、メッセージの伝え方、人々からのとらえられ方などを「映像」をキーワードに掘り下げてお話しいただきました。

登壇者の自己紹介からスタートしたトーク。SSFF & ASIAのアンバサダーを務めるLiLiCoさんは、自信が育ったスウェーデンで子どもの頃に参加したサマーキャンプで

ショートフィルムを作ったのがきっかけでショートフィルムの世界に魅了されるようになったと話します。束芋さんはアーティストの活動をスライド映像と共に紹介。映像と共に空間を作るビデオインスタレーションの作品は、鑑賞者も入りこんでその世界を体験してもらうもの。そんな作品を1999年から発表しているとし、アートアニメーションや実験映像といったショートフィルムは学生の頃より見ていたので、影響は受けていると話します。

 

映像作品でありながら、空間の中で大きさなどを感じてもらうことが作品の一部になるという束芋さんのアート。「ショートフィルムの世界から、こういったスクリーンを飛び越えた作品を作る人が今後出てくるのでは」。2年前にアートフィルムフェスティバルで審査員を務めて以来、束芋さんはショートフィルムの世界のこれからの展開を楽しみに感じていると目を輝かせました。

「渦を10年描いている人」というアーティスト名でTikTokやインスタグラムのショート動画からそのアート活動を発信している神谷佳美さんは、本イベントの会場アートゴールデン街の「ART×SHORT FILM」ギャラリーに「渦に沈む」をテーマに渦のアートを展開したことを紹介。

「頭の中で、心の中で、皮膚の下で、誰もがぐるぐると、巡る渦の中を今日も生きている」そんなメッセージと共に作品の制作風景が映像で紹介されました。

 

映画とアート、それぞれのかかわり方

「映画は総合芸術と言われますが、お二人は映画は普段見ますか?」映画コメンテーターとしてはドキドキすると言いながらのLiLiCoさんの質問に、束芋さんは、「配信サービスができて映画へアクセスしやすくなり、今では一番楽しいエンタテイメント」と答えます。影響を受けてきた映画としてあげたのは、寺山修司監督『田園に死す』、大林信彦監督『House』、三池崇史監督『オーディション』など、

ちょっとドロッとした中にコミカルさや束芋さんが思う美しさがある作品が好きとのこと。洋画では、アレハンドロ・ホドロフスキー監督の『ホーリー・マウンテン』を見たときには衝撃だったことを話しました。

その上で、「高校の時くらいから映画を観はじめて、衝撃を受けてきている。映画は一番初めに影響を与えられたもの(アート)かもしれません。」と、束芋さんにとってのアートと映画の距離感について教えてくれました。

神谷さんは好きな映画として、『哀れなるものたち』や 『ミッドサマー』、最近『ロッキー』も観たと話しました。

「映画を観て、自分がどうとらえたかを渦で表現する動画を発信しているので、色々な映画を観ることは普段の制作プロセスに組みこまれている」とする神谷さん。

「映画とアートは家族のようなすごく近い存在。」とLiLiCoさんがコメントすると、「映画とアートの境界線というより、もっとこんな風にできたら良いなと思うことはありませんか?」と束芋さんに投げかけました。

束芋んさんからは、「映画の鑑賞者に響くものと、アートのフィールドを楽しみにしている方の方に響くものとあるのではないかと思っている」と語り、アニメーション映画祭の審査員を務めたことが

きっかけで、3人のアニメーション作家と出会い、コラボレーションを発表したこと、ショートフィルムのアニメーションとしても評価されているクリエイターではあったが、スクリーンではなく空間に映像を立ち上がらせるということの面白さが、彼らの映像作品にはよりあっていると感じたことを話しました。

アートを映像で発信する理由

「私のアートの方法はいわゆるバズるエンタメより」とする神谷さん。

一般の人からコメントが何百も来るので、フィードバックを得やすく、視聴者と近い。皆に楽しんでもらいながら、自分のアートを発信していると説明します。

アート、エンタメ、映像の境界線が自分の中でもこれからどうなっていくかなと感じていると言います。

そして、TikTokやYouTubeなどショート動画を発信するようになったきっかけとして、「2年前にショート動画をアップし始めたころは誰も私のことを知らなかった。

9年描いていようが、何年描いていようが、ただの渦をただ見せるだけでは、誰も私の話を聞いてくれない。誰かに見つかる必要がある。」とョート動画をアップするようになった理由を教えてくれました。

神谷さんから束芋さんへも質問が投げかけられました。 「国際的なアート展で活躍するアーティストからは(神谷さんのような活動は)どう見えますか?」

束芋さんは、自身ではSNSは苦手意識もありやっていない、としながら、「展示に足を運んでくれる人しか見られない、海外も含めてそういう風に広がったほうが私にとっては活動しやすい」「エネルギー量は変わらないが、(神谷さんと)違う形での受け取り方があるのかな」と答えました。

イベントではSSFF & ASIA 2022年の映画祭で特別上映をしたミュージカル『Sleep Singing』、同じく2023年の映画祭で上映、抽象画のプロジェクト・マッピングと、クィアのパフォーマーを

AIを使ってまとめたアニメーション『ヒステリシス』、2024年の映画祭アニメーション部門にノミネートしたexperimentalアニメーション『サイクルパス』の3本のショートフィルムが上映されました。

「ストーリー的にも技術的にも気になる3本でしたね」とLiLiCoさんがコメントを始めると、2本目の作品(「ヒステリシス」)が感覚的にすごく気になったという束芋さんは「映像の中をさまよう感じ。

自分が一体何を見ているのかを自分自身が模索し始める。自分が知っているような世界を思い浮かべ始めたり。感触が迫ってくる感じで、観ている自分が戸惑っている、すごく知りたいと、直接的に自分の感触が引き出される作品で、映像作品ではあまりしたことのない体験だった」と熱く感想を述べました。

神谷さんは、「見ている後ろ側に山手線が走り、映像とマッチしていて面白かった。3作品目(『サイクルパス』)は最後に建物が崩れていく映像が出てきて、取り壊し予定のマンションを舞台に実施されているアートゴールデン街の場にあっているなと思った。いつかここを通ったときに、皆この時の時間を思い出すのかあなと思った。」と語りました。

「渦を80年描いたおばあちゃんになる」 それぞれのアート制作プロセスとこれから

トークはそれぞれのアーティストがどのように作品を作っていくのかの話に。

束芋さんは「大きなものを作るので、スペースからインスピレーションを得て作る。場所を下見し、何をすべきか考えます。たとえば、先ほどの話に合った、この会場の窓から山手線が走っているのが見えるなど、その環境が持っている力を、どれだけ引き出せるかを考えます。その空間が持っている力は作品がどれだけのもになるかつながります。」と話し、その場に行くとかなり見えてくるものが多い」と話しました。

LiLiCoさんは更に、「そうしたイメージってすぐ出てくるものですか?」と自信のファッションコーディネートのことを例に質問。

束芋さんは、「想像通りにはなかなかいかなくて、何をすべきか、やるべきことをつみあげていくことでものづくりが進んでいくタイプ」と説明し、

「映画監督は絵コンテを描いて最終的な形態をかなりかっちり決めて撮影するけど、私の場合は自分が一歩進んだことから選択肢を見ながら積み上げていく。頭の中にあることを形にするだけでは全く面白くないのはわかっているので、手を動かしてモノづくりを進めていく」と教えてくれました。

神谷さんは「渦を80年描いたおばあちゃんになる、というのを一つ決めている」とし、「私に描けるものは私の人生の月日しかない。続けたときの人間性や意思、狂気がアートになりえるのではないかと、今自分の人生を通じて模索している」と笑顔で答え、LiLiCoさんは「何歳かわからないけどお祝いしますよ」と会場の笑いを誘いました。

現在のスタイルに至るまでについて話が及ぶと、大学でデザイン科で勉強をしていたという束芋さんは色々なことをしている中で発想力を鍛えられたと振り返り、「様々な技術を体験する中で、

最後は特別得意なことは見つけられなかった。でも自分ができることを全部集めたら、私なりの個性がでてくるのではと考えた。」と、映像インスタレーションの形になるまでのことを話しました。

神谷さんは、「私は最初に渦を描いた時に、続けたほうが良い、ショート動画をあげたほうが良い、と色々な方が色々な思惑の元に提案してもらったものに対応してきた結果」と説明。

「今後も、自分は渦を描き続け、誰かそれを必要としてくれる人によって変化していくのかもしれない」と語りました。

束芋さんは2006年よりダンスとのコラボレーションも展開してきました。イスラエルの振付家オハッド・ナハリンとの出会いが舞台作品に目をむかせるきっかけとなったと話します。

「映画はもちろん、若い頃より影響を受けたものでもありますが、舞台や生の場所にはすごく興味がある」と、現存する旅館でほしよりこさんの小説をもとに作られたインスタレーションの展示について紹介。昨年は寺田倉庫でアニメーションショートフィルムの作家3人とコラボレーションしたとスライドを見せてくれながら、「600平米もの敷地にスクリーンを建て、鑑賞者の方に映像と音、光がシンクロする中に入り込んでもらうインスタレーションで、25年アニメーションを作ってきた中でも最大規模のもの」と説明しながら、「25年やってきた中でも今まで気づかなかったことを、他の作家から気付かされた。今はその気づきをどう今後の作品に活かしていけるかを考えている」と話し、会場は今後の活動についても期待を膨らませました。

神谷さんは影響を受けたアーティストとして、ガタロというおじいさんの名前をあげました。30年以上トイレや団地の掃除を行う彼は、毎日掃除で使用した雑巾を自分で絞ってそれを1枚の紙にスケッチします。それが一面壁に貼られたアートに、「老いと一人の人生をかけたものに感動し、自分の背中をおしてもらった」と語りました。

イベントの最後は2FのART×SHORT FILMギャラリーに移動し、神谷さんがライブペインティングを披露しました。

トークイベントの興奮冷めやらぬ中、一心に渦を描く神谷さんの姿に来場者も見とれるばかりのひと時でした。

アートゴールデン街での「ART×SHORT FILMギャラリー」は2025年1月28日(火)までの期間限定で展開中。ショートフィルムはギャラリーでの上映のほか、ブリリアショートショートシアターオンラインでも2月より配信予定。

ライブペインティングの様子

会場には人気連載コラム ダイスケおじさんの『映画とお菓子の方程式』から「渦」をテーマにしたクッキーも

人気コラム ダイスケおじさんの『映画とお菓子の方程式』 より、ダイスケおじさん手作りの特別クッキーも登場!神谷さんの渦のアートからインスパイアのクッキーに、皆大喜びでした。

Writer:BSSTO編集部

「ブリリア ショートショートシアター オンライン」
国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」が厳選したショートフィルムを毎週水曜日に配信しているオンラインシアター。 2008年2月~2017年12月まで横浜みなとみらいで運営したショートフィルム専門映画館「ブリリア ショートショート シアター」のブランドを引き継ぎ、2018年2月にスタートしました。 簡単な会員登録をいただければ、常時12作品ほどを無料で視聴いただけます。 短い時間ではありますが、人間の優しさや強さ、豊かな人生のヒントを教えてくれる、素晴らしい映画を皆さんの日常にお届けするオンラインシアターをめざし、映画を暮らしに取り込むヒントになる記事も掲載しています。https://sst-online.jp/

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