2月14日に1周年を迎えたBSSTO。多種多様なショートフィルム(短編映画)をお届けしてきましたが、よりストレートにショートフィルムの魅力をシェアしたいと考え、座談会コーナーを設けることにしました!
ショートフィルムをもっともっと楽しんでほしい。誰かと感想を共有してほしい。そんな思いを持ったショートショートのメンバーが自由に語ります。
第1回のメンバーは左から、あき(プログラミングスーパーバイザー)、ゆうすけ(BSSTO編集長)、けいと(アシスタント)です。
あき
ショートフィルムには長編映画にはない魅力があります。特に『Life’s a Bitch』(人生はサイアクだ)は長編だったらつまらないと思うんですよ。ただ男の人が恋に破れて自暴自棄になって、一瞬新しい恋人できるけど、またいなくなっちゃうみたいな。けれど、6分の間に季節の変化とか髪の長さが変わることとか時間の経過が分かることをちりばめているから楽しめる。短いフォーマットじゃなければ作品としては成り立たない、ショートフィルムでしかできないことだと思います。
ゆうすけ
6分間の中で2年間くらい経ってますよね。
あき
走ってるだけでたぶん1年経ってるからね(笑)。
けいと
起承転結があるわけじゃないっていうところも、なんだか不思議だなあって思うんですけれど。
あき
人って起承転結というか何かしらオチがあったり、盛り上がって落とされて最後もう一回盛り上がってっていうのを、長編映画とかTVドラマとかで求めちゃうんだけれど、それが無くても5分間くらいであれば楽しめちゃうのかなって気がします。
けいと
そもそもの選定理由としてはそこに注目しているんですか?
あき
いかに削られているかっていうところを見ます。それは前に作家の湊かなえさんがSSFF & ASIAの審査員をしてくださった時に「ショートフィルムって削りの美学」だって言っていたことにもよく表れてますね。
長編映画では、ストーリーを描く上では必要のないシーンも間として生かすけれど、それを削って削ってできたものがショートフィルム。5分であろうと25分であろうと無駄なところが一切ないんです。『Life’s a Bitch』ではそれが顕著に表れているのではないでしょうか。
ゆうすけ
この作品は本質がふざけているのに音楽は真面目で、そのギャップが楽しい。ひとつひとつのシーンはくらだらないお笑いみたいなんだけれど。
あき
確かに。でもあれってちゃんと考えているんでしょうね。だってシーン数だったらすごい量でしょ。出てくる人もそれぞれ違うのに映るのって一瞬だけ。とてもよく構成を練って作っていると思います。
けいと
いろんなシーンがあるから街並みもたくさん見れますよね。
あき
家具も結構こじゃれてるよね。あの丸い釣り椅子も、超あやしいシーンだったけれど(笑)。
けいと
Untied(『桜と靴ひもと彼女の告白』)はいかがでしたか。どんな理由で選んだんでしたっけ。
あき
春っぽいから(笑)。
ゆうすけ
ラインナップ的には男と女的な話が多いですけれど、そこには理由はあるんですか?
あき
ロマンスはユニバーサルなので何かしらの共感が得られるのではないかなと思っていて。あと日本人が桜を見て春だなあって思うのは分かるんだけれど、外国の人も同じように思うんだなあって感じたところがありますね。
ゆうすけ
移民っていうところがおもしろいですよね。役者はギリシャ系で監督はスペイン人、舞台はニューヨークっていう。ギリシャ系は家族を大切にするっていう文化の特徴が描かれている。
けいと
これは男性と女性どちらのほうが楽しめるんでしょうね。男性としてどうですか?
ゆうすけ
うーん、純粋にかわいそうな男だなあって思うよね。フラれても明るくいられるっていうところが面白いけれど。
あき
これも長編だったらこの2人がどうやって付き合ったかとかどういう恋人生活だったかを描くと思うんですよね。だけどワンシチュエーションドラマだからこそ、スクリーンの中で描かれていることよりもっと想像が膨らむ。スクリーンの外側にあるストーリーを想像させるのが短編かなって思います。『Life’s a Bitch』に戻ると、画角が4:3だったけれど、あれも画面の外側を想像させる仕掛けだと思います。
けいと
ああ、確かに。
あき
16:9だったらそれはそれで面白かったかもしれないけれどね。
ゆうすけ
『Jie Jie』(『おねえちゃん』)は中国系の母子がアメリカに移住してきてっていう話ですけれど、初めての環境にとび込むのって緊張しますよね。
あき
日本人はあまり宗教色が強くないから教会コミュニティーってピンとこない人も多いだろうけれど、入るのも大変だろうし、そこに受け入れられなかったら生きていけないみたいな地元の強い絆があるんでしょうね。だから、おねえちゃんが子どもたちのあそびのなかで妹のカチューシャを投げちゃったことは仕方がないのかなと思います。
けいと
子どもの方がそういう空気感って感じやすいんですかね。
あき
子どもって考える前にすぐに判断して動いちゃう気がします。
けいと
だからこそ馴染んでいくのも子どもの方が早いですよね。
あき
子どもの頃ってささいなことがすごく大きなことに思えるよね。全然大人になったら大したことじゃないのに。カチューシャ取られたくらいで「アメリカ嫌い」ってすごい。それから、お父さんと一緒に暮らしていないからお母さんもストレスが溜まっていってる。お母さんの側からもドラマが楽しめると思います。
ゆうすけ
家族の話って自分を投影して話せますよね。
あき
お姉さんや妹がいる人は自分が子どもだった頃を思い出すだろうし、転校した経験がある人はその時を思い出すと思います。だから小さな要素がグッとくる。ショートフィルムってバジェットが少ない分、監督のプライベートな話とか経験がすごく多いので、リアリティのある作品が多くて共感しやすいのかな。
ゆうすけ
『Jie Jie』の監督もやはり中国系の女性で、本当にリアルですよね。これは過去のSSFF & ASIA受賞作品として選びましたけれど、オーディエンスアワードでした。
あき
オーディエンスアワードは映画祭に来たお客さんが人気投票して選ばれる賞ですね。やはり、多くの人にとって共感するポイントがあったのだと思います。
けいと
『Life’s a Bitch』は余白があるって話でしたけれど、これはがっつりフォーカスして。
あき
ストレートに。それが15分っていう尺にも表れている気がします。
けいと
ショートフィルムで15分っていうのはどういう立ち位置なんですか?
あき
カンヌが15分なのでヨーロッパ作品はそこに照準を合わせている作品が多いです。アカデミーは40分だからアメリカはどちらかというと長め。
けいと
40分っていうとショート?っていう感じがあるんですけれど。
あき
ただ短ければいいっていう話でもなくて、その作品ごとにふさわしい長さがあると思います。
ゆうすけ
『Jie Jie』を誰かに薦めるならどうやって薦めたらいいですか?
あき
つらいシーンも多いけれど最後にあったかくなれるじゃない。そのあったかさが沁みるあたたかさになると思うので、だから疲れちゃった人とか?疲れちゃった人にはつらいか(笑)。いろんな人に観てもらったらそれだけいろんな感情が生まれる気がします。姉妹がいる人にはぜひ観てもらいたい。
けいと
他の作品でこういう人に観てもらいたいというのはありますか?
あき
『Life’s a Bitch』は本当にスカッとすると思う。
けいと
スカッとしますか!?
ゆうすけ
男でも女でもスカッとする。
けいと
スカッとしますか?!
あき
ジェネレーションギャップかなぁ。私は「この人より確実に自分の方が幸せだわ」と思った(笑)。何も考えずに観れるかな、気分転換に。
けいと
感覚としては『Life’s a Bitch』と『Jie Jie』が同じくらいの長さを観ているような気分になるんですよね。
ゆうすけ
うん、なるなる。
あき
それってさあ余白のこと考えてるってことだよね。これとこれの間にこういうのがあったって考えてるのかなあ。
けいと
メインっていう場面こそないですけれど、ここ見落としたらダメっていうところもないですよね。
あき
リピートしてみたいかどうかっていうこともあるね。
ゆうすけ
確かに。オチが分かっている漫才を観るような感覚かな。
けいと
『Life’s a Bitch』を初めて観た時に、この人にハッピーエンドが訪れるって思いながら観てたのかなあ。1回目からこの人絶対幸せにならないって思いながら観てたような気がする(笑)。
あき
もう何度も観てるから忘れちゃったけれど、1回目で観てすべてわかったのかなあ(笑)。今でこそ観たらどの場面も笑えるけれど、初めての人はバンバン見せられて最終的にあの人なんだったんだろうって思うのかもしれない。あ、それはそれでいいんじゃないかな?
一同
「BSSTOでは何回も観ることができます。」って(笑)。
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初回のショートショート座談会、いかがでしたか?同じ作品を観たとしても人によって感想は様々だと思います。ぜひご家族と、お友達と感じたことを共有していただきたいです。次回もお楽しみに。