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Jul. 25, 2019

【Cinematic Topics】江ノ電の各駅をショートフィルムで描く
~短編オムニバス映画『江ノ島シネマ』上映会に行ってみた~

緑色とクリーム色の4両編成。湘南の海岸沿いをコトコト走る江ノ島電鉄(通称:江ノ電)は、日本で最も人気のあるローカル鉄道かもしれません。「江ノ電」と聞くと、潮のにおいを感じる海辺の解放感と、歴史を感じる古都・鎌倉のイメージ、そしてどことなくノスタルジックな感傷が、胸の内から浮かび上がってくる気がします。
そんな江ノ電の各駅を舞台にしたオムニバス映画『江ノ島シネマ』が神奈川県内や東京都内で2019年6月から公開されています。茅ヶ崎市に住む一人の映画作家の発案で始まったプロジェクトは、首都圏で活動する映画作家や地元有志、江ノ島電鉄の協力を得て、7本のショートフィルムとして形になりました。
「江ノ電」という共通言語と映画という手法が掛け合わさり、コミュニケーションの促進という面でも興味深いプロジェクト。江ノ電沿線を描いた地域映画としてだけでなく、ショートフィルムの新しい可能性について考えるヒントをくれるかもしれません。
BSSTOでは、7月21日(日)に茅ヶ崎市のコワーキングスペースで開催された上映会のレポートをお届けします。

作り手と観客の距離が縮まる上映会

『江ノ島シネマ』は6月下旬にイオンシネマ茅ヶ崎にて開催された「茅ヶ崎映画祭」を封切りに、江ノ島の古民家コミュニティスペース「えのいち」、茅ヶ崎市のコワーキングスペース「チガラボ」、東京都世田谷区のレストラン「エムズカンティーナ」で7月下旬まで自主上映会の形で上映が行われています。
この日、BSSTO編集部が訪れたのは、JR茅ヶ崎駅北口から徒歩5分ほどの場所にあるコワーキングスペース「チガラボ」。周辺のフリーランサーやスタートアップ企業が集まる場所です。『江ノ島シネマ』の企画・運営を行うスタジオMaluaも「チガラボ」を拠点に立ち上がったプロジェクトとのことです。

発車サイン音がサザンのJR茅ヶ崎駅

北口の市街地にある「チガラボ」

オフィススペースに暗幕とスクリーンを貼り特設の上映会場が用意されていました。来場者は15名ほど。地元茅ケ崎や、鎌倉などの江ノ電沿線からいらっしゃった方が多いようでした。

上映に先立ち、スタジオMaluaの安田ちひろ代表(写真左)と、『江ノ島シネマ』内の一作「稲村ケ崎お散歩ツアー」のプロデューサー・田中たかひろさん(写真右)がご挨拶。

オムニバスとして上映されたのは下記7本。1本あたり約15分で、上映時間は1時間45分ほどでした。ショートフィルム1本1本が江ノ電の駅やその周辺を舞台としています。始発の藤沢側から終点の鎌倉へと段々と進んでいくような順番です。

写真上から
鵠沼駅「3年後に生まれる」(高橋巖監督)
湘南海岸公園駅「海辺の迷子たち」(西中拓史監督)
江ノ島駅「新月のトンボロ」(山本美穂監督)
稲村ヶ崎駅「稲村ガ崎お散歩ツアー」(須山拓真監督)
極楽寺駅「たからもの」(いながわ亜美監督)
由比ヶ浜駅「沈めるこころ」(高山直美監督)
鎌倉駅「東京に眠る」(安田ちひろ監督)

観光地として人気の江ノ電沿線ですので、散歩した経験をお持ちの方なら、「あ、この場所行ったことある」という風景がしばしば登場するでしょう。知っている場所が登場するとワクワクしますし、映画で描かれた物語に自分の物語を重ねて語りたくなってきます。

上映後には、「新月のトンボロ」の山本美穂監督を交え、会場との質疑応答が行われました。

映画製作に作家性を-湘南で叶えるオルタナティブな映画コミュニティとは?

上映会終了後、代表の安田ちひろさんにお話を伺いました。

安田ちひろさん

***

この映画を作った目的をお聞かせくださいますか?

安田:
湘南を拠点に作品を作る仲間を集めることです。スタジオMaluaとして、全国から湘南に映画制作者たちが集まって滞在型で映画を撮る制作スタイルを作ろうと構想していて、そのための第一歩として『江ノ島シネマ』を作りました。

地域プロモーションの文脈で立ち上げたプロジェクトではない?

安田:
はい。ただし、湘南は都内と比べてクリエイティブな活動に適した土地なので、この地域性をコミュニティの核にしていきたいという意識はあります。土地から出てくる豊かさとでもいいましょうか、東京のようなビジネス一辺倒の制作ではなく、作家性を中心に置いた映画制作ができる風土があると思います。

撮影の様子

安田さんは地元の出身なのでしょうか?

安田:
東京都府中市の出身で、2年前に引っ越してくる前は湘南には縁がありませんでした。それまでは東京で映像制作の仕事をしていたのですが、海外では国が文化として作家を守っているのに対して、日本はエンタメビジネスとして位置づけられていることに問題意識を持つようになりました。エンタメビジネスそのものが悪いわけではないのですが、それしかないことが問題で、作家性が尊重される制作スタイルを作れないかと。
とはいえ、映画映像業界で作家性はひとりでは守れません。だからこそ、自分の言いたいことを言える安全な場所を、作家同士が繋がって作っていくことが必要だと考えたんです。『江ノ島シネマ』では、監督ひとりひとりが、自分のイイタイコトを表現することに重きを置いて作りました。

極楽寺駅「たからもの」

『江ノ島シネマ』の運営体制は?また、参加監督はどういった経路で集まってきたのでしょうか?

安田:
田中さんや山本さんなど、参加監督も運営に入ってもらっています。私がコーディネーターというよりは、皆で作る映画といった形です。
参加監督は、映画制作者向けのイベントなどで出会ってお誘いした方が中心ですが、インターネットで募集もしました。基本的には皆さん制作経験をお持ちですし、アドバイザーとして脚本家の小林弘利さんなどベテランの方々にも加わっていただいているので、クオリティの高い作品が制作できたと思います。

7作品の中で、特におすすめの作品はありますか?

安田:
全部好きなんですけど(笑)
極楽寺駅「たからもの」が特に好きですね。小林弘利さんのファンタジックな脚本を見事に映像化した、いながわ監督の力量に感服しています。世界観を無駄のないカット構成で描き切っています。
それから、手前味噌ですが私の監督した鎌倉駅「東京に眠る」も。スランプに陥った小説家が、鎌倉・材木座のゲストハウスに滞在して創作活動に取り組むという話なのですが、私自身の経験に基づいて作ったお話です。

鎌倉駅「東京に眠る」

***

映画作家たちの生きる場所として「湘南」地域に拠点を作ろうという今回の趣旨。「今の映画製作にないことをしたい作家さんたちに、ぜひ加わってもらいたい」と語る安田さんの言葉が印象的でした。
これまでも、お仕事やプロボノとして地域と関わる映画制作者はいましたが、今回は映画制作者の側が地域を活動の場として求める新しい試みといえるでしょう。映画と地域の新しい関係が、『江ノ島シネマ』から生まれようとしています。

『江ノ島シネマ』は7/25(木)~7/28(日)まで東京・神奈川の複数会場で上映を実施、その後も江ノ電沿線の施設や映画館で上映を企画しています。詳細は後日オフィシャルサイト他で発表されるとのことなので、ぜひご注目ください。

湘南に行ったら、やっぱり「しらす丼」

『江ノ島シネマ』

人と人をつなぐ江ノ電のように“つながり”を描いた7駅の物語-
湘南地域にて発足した映像コミュニティ「スタジオMalua」に賛同して集った、個性豊かな映画作家たちが贈る、江ノ電ひと駅ごとの短編映画集。
原案:小林弘利
協力:江ノ島電鉄株式会社
企画・運営:スタジオMalua
オフィシャルサイト:https://maluaproject.com/

Writer:BSSTO編集室

「暮らしにシネマチックなひと時を」
シネマな時間は、あなたがあなたに戻る時間。
「ブリリア ショートショートシアター オンライン」は、毎日を忙しく生きる社会人の皆さんに、映画のあるライフスタイルをお届けします。

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