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Mar. 10, 2018

【Cinematic Topics】『かぞくへ』に見出した、グローバライゼーションの片隅にある
”血縁”と”地縁”の新たな地平。

東京で再会する2人の物語

渋谷のユーロスペースで公開された映画『かぞくへ』は、その前評判の通り大きな反響を呼び、その賞賛の輪は広がり続けている。

松浦慎一郎演じる旭と、梅田誠弘演じる洋人。親友である2人はひとりは地元から離れた東京、もうひとりは地元で、それぞれの生活を築き幸せを追い求める中で、東京で再会する。
家族の温かさを知らず生きてきた旭は、同棲中の佳織と結婚を目前にしながら、よかれと思って紹介した仕事で親友の洋人を詐欺の被害に合わせてしまう。養護施設で家族同然に育ってきた唯一無二の親友と、認知症が進む祖母のために結婚式を急ぐ婚約者の間で、次第に旭は追いつめられていく。

希薄な関係性で済ます事が出来る「都会」だからこそ起こる”事件”と、濃い関係性の上に築こうとしている「家庭」。この2つの現実に直面し、傷付き、それでも懸命に生きて行く姿は、その不器用な生き方も相まって、観る者の胸に容赦なく迫ってくる。

家族を構成する要素とは何か。

「地縁」や「血縁」は、コミュニティや家族を構成する大きな要素である。
それが温かい絆となる事もあれば足枷の様な重荷になる事もあり、それがさまざまなドラマを生んできた。
一方で、デジタル化がもたらしたグローバライゼーションが進む現代では「地」や「血」の重力が弱まって来ているところもあると思う。
それが社会の多様性や個性を認め合う社会の礎となる事もあれば、時には希薄な人間関係がもたらす孤独感を増大させる事もあるかもしれない。
そんな正解のない現代社会の片隅に息づく登場人物達の生き様を描く『かぞくへ』は、まさに新しい家族像を提示している様に思える。「血」や「地」だけでは結べない縁がある。社会の変化とともに家族の形が変わっていくかもしれない今、養護施設で育った旭と洋人が見つけた「家族」が投げかける問いは大きい。

映画のリアリティを育む、新しい縁。

映画『かぞくへ』に心を動かす力があるのには、映画に宿る切迫感や説得力が織りなすリアリティによる所が大きいが、そのリアリティはどこから来るのだろうか。1つは、やはり主演の松浦慎一郎の実話がベースにあるという事、そしてもう1つはこの映画の制作過程から来るのではと感じている。

自分の身近にも潜んでいそうな話でありつつも無軌道に進んでいく物語に予定調和は無く、どこに着地するのか見通せずにハラハラする。そして、丁寧に実話を掬い取った脚本がもたらす登場人物の生活感・実体感、彼らが生きているからこそ物語が進んでいくという感覚を与えてくれる本作は、ただただリアルであり、観るものの目を映画に釘付けにする。

しかし、実話がベースの物語だからリアリティがあるというのでは足りない何かがある。映画の中に宿っている「ここに人が生きている」感覚は、その物語をスクリーンに実体化させる上で取り組んだ制作過程にあると思う。
世界的な評価を生んだ、濱口竜介監督『ハッピーアワー』は、その制作過程において、出演者との深く長い対話を繰り返し、演じ手の違和感に傾聴し現場でも脚本をなんども推敲するという、途方もないチャレンジを行ってその圧倒的なまでの映画的リアリティを獲得した。商業映画では許されないかもしれない、制作にじっくりと時間を掛けて監督が作品と向き合う事で得られる強度。それが本作にも同じく息づいていると感じる。

「自主製作でお金がないからこそ、一番手間と時間をかけられる脚本に、すべてを注いだ結果だと思っています。」

春本監督がこの映画が持つ魅力の源泉についてそう語っているが、『かぞくへ』は、「足りている」状況で作られる商業映画に唯一不足しがちな「制作時間」を確保し、映画の豊かさを獲得した。

個人的には、映画『かぞくへ』は、『ケンとカズ』や『ハッピーアワー』に続く事件のような作品であり、多くの人に劇場で目撃して頂きたい映画だと思っている。
そして、俳優部・監督・制作スタッフと多くの人の縁に支えられて完成したこの映画は今、クラウドファンディングという形で更に多くの人との縁を結び、劇場公開規模を広げて行こうとしている。見る側・見せる側の垣根を取り払うこの取り組みが、映画制作の新たな希望に繋がる事を願っている。

劇場公開情報

<公開中>
*渋谷ユーロスペース
2018年3月16日(金)まで延長決定!
連日21:00※より上映
※10日以降は20:55〜

*横浜シネマリン
3/10(土)〜3/16(金)11:50〜
3/17(土)〜3/23(金)19:00〜

<順次>
名古屋シネマテーク
大阪 シネ・ヌーヴォ
京都 出町座
神戸 元町映画館
宇都宮ヒカリ座
シネマテークたかさき

MotionGallery

MotionGalleryは、共感の輪をつなぎクリエイティブな活動の資金調達を実現すると共にアイディアを形にし、そして届けるまでを一貫してサポートする国内最大級にして唯一のクラウドファンディングプラットフォームです。クラウドファンディング黎明期であった2011年に誕生し、これまで映画、音楽、舞台をはじめとするアートから、まちづくりや場所づくりなど地域に向けた活動まで、様々なプロジェクトを応援してきました。
ひとりの思いや活動が社会をより良い場所へ変えていくことを、MotionGallery は信じています。
みんなの思いや活動を形にし、創造的な社会を作り上げる活動全てがアートであるという芸術家ヨーゼフ・ボイスのビジョン「人間は誰でも芸術家である。」を具体化する場所。それが MotionGallery です。

Writer:大高 健志

Motion Gallery代表 / popcorn共同代表
早稲田大学政治経済学部卒業後、外資系コンサルティングファームに入社。戦略コンサルタントとして、主に通信・メディア業界において、事業戦略立案、新規事業立ち上げ支援等のプロジェクトに携わる。その後、東京藝術大学大学院に進学し映画製作を学ぶ中で、クリエーティブと資金とのより良い関係性の構築の必要性を感じ、2011年にクラウドファンディングプラットフォーム『MotionGallery』を立ち上げ、2015年にグッドデザイン・ベスト100受賞。2017年にマイクロシアタープラットフォーム「popcorn」を立ち上げる。

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