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Feb. 17, 2018

【Frontier Column】1000年続く表現の根本を求めて
〜音と布と光を紡ぐ現代サーカス「仕立て屋のサーカス」を映画化する〜

天井に吊るされた、たくさんの白い布。幻想的な会場に目を奪われながら開演を待っていると、奥から奇妙な男がアコーディオンを弾きながら入ってくる。男がステージ近くに座っていた少年に何やら話しかけ、会場が優しい笑いに包まれる。気がつけばステージには、楽器を持った2人の男と、裁ちバサミを持った1人の男。やがて演奏が始まり、観客の目の前で奏者のための洋服が仕立てられていくー。

2014'東京公演(photo by Ryo Mitamura)

「仕立て屋のサーカス」は、そんな風にして始まる、ちょっと珍しい即興パフォーマンスだ。2014年に音楽家の曽我大穂とガンジー、裁縫師のSuzuki Takayuki、照明作家の渡辺敬之ら4人で立ち上げ、これまでに全国各地で公演を行ってきた。結成から3年、彼らは初の海外スペイン/マドリード公演を終え、新たな局面を迎えた。一体なぜ、彼らの表現は国境を越えて、こんなにも私たちの心を打つのだろうか。「仕立て屋のサーカス」は、1月の公演が反響を呼び、急遽3月上旬に再演が決定したばかり。もう一度足を運ぶ前に、1月の公演を振り返ってみたい。

パフォーマンスは二部構成になっており、どちらも曽我大穂とガンジーの演奏に合わせて行われる。前半では、Suzuki Takayukiが2人の洋服を仕立てていく姿を、後半では、天井に吊るされた布を一つにまとめていく姿を見せる。パフォーマンスの仕組み上、どの回も同じ舞台になることはありえない。完成する洋服は毎回異なるし、観客の反応が大きく作用するので、偶然によって雰囲気も変わる。会場には音楽の間を縫うように、裁ちバサミの音が響く。みるみるうちに光と影を孕んだ洋服が出来上がるが、それは彼らを自由にさせる羽根のようにも、動きを奪う拘束衣のようにも見える。緊張感あふれるステージだから、観ている方もいつのまにか息を潜めて、一瞬を真剣に見つめる。そうするとまるで、会場全体が大きな生き物になったかのようにすら感じる。

2017'東京公演(photo by Ryo Mitamura)

興奮冷めやらぬ前半から休憩を挟んで後半、ステージと客席はより一層近づく。再び音楽が響き始めると、Suzuki Takayukiが会場を駆け巡り、天井から伸びている何十本もの布の端を繋いでいく。一本一本の布は軽いが、集まっていくにつれその重みは増すから、汗が流れる。やがて会場の中心に引き上げられた大きなガーラントフラッグと合わさった布たちは、大きな一本の樹木のように立ち上がるー。

誤解を恐れずに言えば、即興で洋服を仕立てるというのは、ある意味とても“わかりやすい”パフォーマンスだ。高度な技術とセンスが浮き彫りになる表現だからこそ、素直に驚きと感動が湧き上がってくる。対して後半の布を一つに結んでいく行為は、非常に抽象的だ。あの數十分に自分が果たして何を見たのか、明確に答えることが難しいし、人によってもその答えは異なるだろう。だが「仕立て屋のサーカス」の核は、実はこの謎めいた部分にこそあるように思う。

(photo by Ryo Mitamura)

その秘密は、映像作家・石田悠介によって記録されているスペイン公演に映っているかもしれない。初めは単なる小さな記録だったそれは、現地での様々な出会いを通して、映画としての完成を目指すことになった。現在彼らは、制作資金を募るクラウドファンディングを行なっているが、その中でスペイン公演の模様を覗くことができる。本作は、彼らの今、そして未来の表現を読み解いていく、重要な作品になるはずだ。

絶対の一回性に対する眼差しと息遣い、あるいは確信。踊るように会場を動き回っているのにその姿は静かで気高く、まるで祈りのようだった。ものを作るクリエイターの姿を、こんなに間近で見られる機会が他にあるだろうか。会場にいた私たちは、息を潜めて、何か一つの希望を見ていた気がする。全てのパフォーマンスが終わった後、世界を祝福するかのように羽を撒いていた曽我大穂の姿、会場に敷き詰められていた布でコサージュを作り、子供たちに手渡していたSuzuki Takayukiの姿が目に焼き付いている。4人の大人たちの祈りは、こうして私たちに手渡し委ねられ、この先も続いていくのだ。

MotionGallery

MotionGalleryは、共感の輪をつなぎクリエイティブな活動の資金調達を実現すると共にアイディアを形にし、そして届けるまでを一貫してサポートする国内最大級にして唯一のクラウドファンディングプラットフォームです。クラウドファンディング黎明期であった2011年に誕生し、これまで映画、音楽、舞台をはじめとするアートから、まちづくりや場所づくりなど地域に向けた活動まで、様々なプロジェクトを応援してきました。
ひとりの思いや活動が社会をより良い場所へ変えていくことを、MotionGallery は信じています。
みんなの思いや活動を形にし、創造的な社会を作り上げる活動全てがアートであるという芸術家ヨーゼフ・ボイスのビジョン「人間は誰でも芸術家である。」を具体化する場所。それが MotionGallery です。

Writer:大高 健志

Motion Gallery代表 / popcorn共同代表
早稲田大学政治経済学部卒業後、外資系コンサルティングファームに入社。戦略コンサルタントとして、主に通信・メディア業界において、事業戦略立案、新規事業立ち上げ支援等のプロジェクトに携わる。その後、東京藝術大学大学院に進学し映画製作を学ぶ中で、クリエーティブと資金とのより良い関係性の構築の必要性を感じ、2011年にクラウドファンディングプラットフォーム『MotionGallery』を立ち上げ、2015年にグッドデザイン・ベスト100受賞。2017年にマイクロシアタープラットフォーム「popcorn」を立ち上げる。

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