ログイン
MAGAZINE
INTERVIEW
Feb. 14, 2018

【FRONT RUNNER】日本はフランス型かアメリカ型か?
クラウドファンディングの旗手が語る映画の未来。

映画やアート、書籍などクリエイティブなプロジェクトにフォーカスしたクラウドファンディングプラットフォーム「MOTIONGALLERY(モーションギャラリー)」。映画に詳しい読者の皆さんの中にはご覧になられたことのある方も多いだろう。2011年の設立から6年間で実現したプロジェクトの調達資金累計が20億円を超え(2017年12月現在)、映画製作の新たなファンディング方法としてその地位を固めつつある。
創設者にして代表を務めるのが、1983年生まれの若きフロントランナー、大高健志さんだ。2017年4月からは全国各地にマイクロシアターを産む「Popcorn(ポップコーン)」という新プロジェクトも始動させた。大高さんが2つのプロジェクトを通して実現したいことはなにか。東京・青山のオフィスで話を聞いた。

脱サラ大学院生が始めた日本初のクラウドファンド

MOTIONGALLERYを始めた時は東京藝術大学の大学院生、その前は外資系コンサルティング会社で働いていたそうですね?どういった経緯でMOTIONGALLERYを始められたのか。そのあたりの経緯からお伺いできますか?

大高健志さん

大高映画には中学生の頃から関心があって、当時から色々な映画を見ていました。大学は早稲田大学政治経済学部に進学したのですが、映画や現代芸術からの影響もあり、政治哲学に興味をもつ様になり公共哲学を専攻していました。
大学3年生で就職活動の時期を迎えるわけですが、将来は現代美術や映画に関わる仕事をしようと考えていまして、まずはしっかりと基礎を学ばなくてはと美大への進学を考える様になりました。ただ、それにはまずは短期間で学費を稼がなければということで、外資系コンサルに就職したんです。

お金を稼ぐために外資系コンサルに就職。割り切っているというか、戦略的というか。

大高外資系はアップ・オア・アウトも激しいと聞いていたので、きっと自分が心変わりして会社に残りたくなっても、会社からすると「君は要らないよ」となって残れなかったりするだろうなと(笑)。そういう環境は、むしろ美大に行きたい自分には調度いいかなと(笑)。その為、最初から会社勤めは最大3年だろうなあという意識をもって働いていた気がします。
実際に入社してみると、上司も同期も色々なバックボーンを持ち様々な目標をもって働いていたので、とても刺激を受けました。

藝大の映像研究科に進学したのはどういった理由でしょうか?

大高最初は自分が好きな監督を多く輩出しているNYU(ニューヨーク大学)に行きたかったのですが、恥ずかしながら英語が全然成長しなかった為、黒沢清や北野武など、国内だけでなく世界を知っている映画人が教壇に立たれていて、日本で映画を学ぶならとても良い環境だと思い東京藝大に進学しました。自分が所属していたプロデューサー領域では、フランス国立映画大学院 Fémis との交換留学プログラムも始まり同世代のフランスの映画人とも交流が出来ました。フランスでの気づきはとても大きかったです。

といいますと?

大高フランスは、文化を守り育てていこうという切迫感や使命感が日本よりももっと強いと感じました。国家の助成が凄いです。世界に目を向けると、一方ではハリウッドのように市場経済の力で”大きな”映画を量産できる国があり、一方では国家戦略として歴史の評価に耐えうるアートフィルムを作るフランスのような国がある。そんな中で、英語圏の市場規模でもなく、フランス程の文化助成も難しい日本ではどの様な形が有り得るのか。民間の力で芸術をサポートする、そんな第三の道ができたら素敵だな。そう思って始めたのがMOTIONGALLERYなんです。

活用が広がり進化し続けるクラウドファンディング

クラウドファンディングは、プロジェクトの主催者がインターネット上で一口3千円~10万円ほどの支援を募り、金額に応じて出資者にリターンを返す仕組みですよね。MOTIONGALLERYではどういったプロジェクトを掲載してきたのでしょうか?

大高代表的なものでは『ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの』というドキュメンタリー映画の配給宣伝費を募るプロジェクトがありました。N.Yに住む美術コレクターの老夫婦を取材したドキュメンタリーですが、MOTIONGALLERYで約1500万円の資金調達に成功し、日本での公開が実現しました。まだ当時日本では1000万円代を超えたプロジェクトが無かった為、大きな話題になりました。また、今年公開した映画『バンコクナイツ』もMOTIONGALLERYで制作資金を調達した作品です。こちらは1000万円を超える資金が集まりました。

『ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの』のページ

クラウドファンディングならではの魅力というと?

大高プロジェクトの過程で、起案者と応援者とのコミュニティが生まれることがクラウドファンディングの魅力です。単にお金を出す/出してもらうという関係ではなくて、新しい作品を作る為の同じ舟に乗る同志があつまる、そんなイメージが合っていると思います。その特別な関係が出来るから、みんな楽しんで応援してくれるのだと思います。

MOTIONGALLERYの最近のトピックは?

大高MotionGalleryStudio(モーションギャラリー・スタジオ)」という仕組みを始めました。従来のクラウドファンディングでは、プレゼンター(プロジェクトの主催者)はクリエイターや映像制作能力がある方であることが前提でしたが、MOTIONGALLERY自ら制作機能が有るスタジオを持ち、資金調達だけでなく映像にまつわるプロデュースから実制作までを一気通貫でサポートする体制を作りました。これで制作能力のあるなしに関わらず、「映像を作りたい!」「活動を映像に残したい」という想い1つで映像を作ることが可能になりました。

あなたの街でも実現できる!まちづくり×映画=マイクロシアター

大高さんは2017年4月にカフェやコワーキングスペースなどを会場に映画を上映するマイクロシアターのプラットフォーム「Popcorn」を立ち上げられました。Popcorn設立にはどういったねらいがあるのでしょうか?

大高3つねらいがあります。
1つ目は、MOTIONGALLERYでクラウドファンディングした作品をもっともっと多くの人に見て頂く機会を作って行きたいという思い。クラウドファンディングが浸透するにつれて、映画も製作出来る可能性が高くなって来たと仰って頂く方も多くなって来ました。しかし一方で、映画でリクープするのはなかなか難しいという声も聞こえて来ました。上映の機会を増やせれば作品と人との出会いももっともっと増えるし、リクープに近づく事にもなるかも知れない。そう思い当たったのがマイクロシアターという形態でした。
2つ目は、リノベーションなどを筆頭に、今地方で活気を帯びているまちづくりの文脈です。MOTIONGALLERYでは、ここ数年、地方で場作り・まちづくり系のプロジェクトが多く掲載され、そして大きな応援が集まっています。今映画や演劇など興行の世界では地方でお客さんが来ないという事に課題を感じているという話しを聞いていますが、もしこのまちづくりの文脈と映画を幸福な形で結びつけられれば新しい潮流が生まれるのではないかと考えました。

リノベーションまちづくりは、遊休不動産の活用で中心市街地の活性化を図る取り組みですね。熱海や和歌山、北九州などの古い商店街にカフェやゲストハウスが開業して人が集まるなどしていますが、そういう場所で映画上映があったらコミュニティとしてますます活気づきそうです。

大高最後の1つは、映画という体験でコミュニティを作ることです。ネット配信サービスがあれば自宅でも映画が観られますが、映画館にあつまって観るからこそ、読後感の共有ができると思うんですよね。そこから、映画の観方が深まったり、初めて会う人と交流が生まれたりしたらいいなと思っています。

既存の自主上映との違いは?これまでも配給会社が自主上映会にフィルムを貸し出すなどしていましたが。

大高既存の自主上映との違いは少人数でも開催できることです。これまでの自主上映会は大人数の来場者がある前提の上映会であった事もあり、上映するためには10万円ほどの上映料が必要でしたが、Popcornでは主催者が負担する費用は入場者数によるので、地方の十数人規模の小さな会場でも赤字にならず気軽に上映できます。
上映後の感想の共有は少人数のフランクな場所だからこそ成り立ちますし、メジャー作品ではない作品の上映機会を広げることにも貢献できます。

Popcornでの上映イメージ © popcorn.theater, inc.

開始から9ヶ月ほど経ちますが、成果は?

大高配信映画は120本ほど登録されています。場所も130箇所ほどになりました(2017年11月時点)。ゲストハウスや本屋、カフェなどでの上映は想定していたのですが、オフィスで一般向けの上映会を行う企業や、自宅を上映会場として開放する「住みびらき」など想定外の面白い広がりをみせています。
今後は映画についてより興味をもっている人を対象に、Popcornスクールの立ち上げを構想しています。評論家や配給、劇場の方が講師になって、よりクリエイティブな自主上映をみんなで考えて行く取り組みです。

社会の見方を広く深く。映画を見ることの価値とは?

改めて、映画を見ることの価値とはなんでしょうか?

大高映画は表現だからこそ、それを観る人も自分がどう社会と対峙するのか突きつけられると思うんです。映画を見て自分の価値観が揺れ動く体験をすると、社会の見方が広く深くなりますよね。だからこそ、例えば一般的につまらないとされている作品も含めていろんな映画を観ることをお勧めします。その中に自分だけに突き刺さる作品などもきっとあると思います!

最後に、ブリリア ショートショートシアター オンラインが配信しているショートフィルムについて感想をお聞かせいただけますか?

大高『アンディ』を拝見しましたが、こどもの時の世界に引き戻されるようなショートフィルムでした。あの時は自分にもこういう事があったなとか、そう思っていたよなとか考えながら見ていました。自分を取り巻く環境には色々なルールがあって、そんな中で自分はどう社会に向き合っていくのか、それは今も変わらないテーマかもしれませんね。

『アンディ』 (The Six Dollar Fifty Man)
監督:Mark Albiston & Louis Sutherland/ニュージーランド/ヒューマン/2009/15:00 
※2018年5月まで無料配信中!

大高Popcornでショートフィルムの全国上映をする機会が作れたら面白いだろうな、と思います。

(撮影:大槻 真巳/構成:大竹 悠介)

大高 健志 / Motion Gallery代表 / popcorn共同代表

早稲田大学政治経済学部卒業後、外資系コンサルティングファームに入社。 戦略コンサルタントとして、主に通信・メディア業界において、事業戦略立案、新規事業立ち上げ支援等のプロジェクトに携わる。その後、東京藝術大学大学院に進学し映画製作を学ぶ中で、 クリエーティブと資金とのより良い関係性の構築の必要性を感じ、2011年にクラウドファンディングプラットフォーム『 MotionGallery』を立ち上げ、2015年にグッドデザイン・ベスト100受賞。2017年にマイクロシアタープラットフォーム「popcorn」を立ち上げた。

Writer:大竹 悠介

ブリリア ショートショートシアター オンライン編集長/ショートショート フィルムフェスティバル & アジアwebマネージャー

Share

この記事をシェアする

Related

0 0
記事一覧へ