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Aug. 10, 2018

【FRONT RUNNER】日常に映画のある風景を作る
café de cinémaの挑戦

東京・恵比寿駅西口から歩いてすぐ。繁華街の一角に40年以上の歴史を持つ老舗フランス料理店「ビストロ・ダルブル」がある。女子会やデートを楽しむ男女で賑わうこのお店が、2週間に1度映画館に変わる。
「旅する映画館 café de cinéma」と題された上映会で、主宰のちゃっぴーさんがセレクトした映画を料理やアルコールと一緒に楽しむことができる趣向だ。屋外にスクリーンを建てこむ大型の上映イベントは珍しくなくなったものの、飲食店の一角を借りて頻繁に上映会を催すスタイルは珍しい。活動の成り立ちや目指すビジョンを聞いた。

小さな上映会だからこそできる、日常の中の映画体験

ちゃっぴー
もともとは「映画×場所×○○で新しい体験をつくる」というコンセプトで始めました。
回を重ねた現在では「映画を気軽に楽しめる場所」ということと「観た後も含めて楽しめる場所」がコンセプトになっています。

ここ、恵比寿のビストロ・ダルブルは会場のひとつですが、他にはどんな会場があるのでしょうか?

ちゃっぴー
基本は飲食店がほとんどです。カフェであったり、バーであったり。珍しいところだとお花屋さんなどがあります。それ以外では、毎年夏に東京都檜原村のゲストハウスやキャンプ場で上映しています。過去にはアーティスト・イン・レジデンスに参加していたアーティストさんと奈良の古民家で一緒にやったこともあります。

café de cinéma 主宰・ちゃっぴーさん

そもそも、café de cinémaはどういった経緯ではじめられたのでしょうか?

ちゃっぴー
2013年の7月に始めたので丸5年経つのですが、その前からだんだん観たい映画が観にくくなってきていたんです。上映機会が少ない、やっていても普段いかないような場所でしかやってない、行こうと思ったらもう時間が変わってしまっていた。自分がいいと思って友達に教えても、その時には終わってしまっていることも少なくありませんでした。「じゃあ、自分で観させられないかな」って考え始めたのがこの活動を始めたきっかけです。

いろいろな場所でたくさん上映していますが、開催頻度は?

ちゃっぴー
最初は知り合いのカフェにお願いして3か月に1回のペースでやっていたのですが、半年後から月1回くらいになって、3年目から月に何回もやるようになりました。いまは月に6回から8回くらい開催しています。ダルブルだと2週間に1回、水曜日の夜に開催しています。他は月に1回や年に1回などです。昨年(2017年)は約80回、今年もこのペースだと80回を超えそうです。

回数や場所が増えたのは、開催場所になるお店などから、どんどんお声がかかってくるようになったということですか?

ちゃっぴー
それが一番大きいですね。僕が上映するのは、ほかの上映会と違って大体5名から10名の場所がほとんどなのですが、飲食店の規模にちょうどいいんですよね。ですから、「ここでもできるんじゃないの?」と声をかけてくださったり、お客さんが「行きつけのあのお店できるんじゃないの?」とご紹介いただくことが多くて、その流れで会場が増えてきました。

ビストロ・ダルブル恵比寿店

上映作品はどんな映画を選んでいるのでしょうか?

大作も好きですが、「自分が人を集めてやるからには、なにか意味がないといけないな」と思って洋画のインディーズを中心にセレクトしています。第一印象はつまらなくても、なにか影響を受けることってあると思うんですよね。そういった作品をもっと知ってもらって、観た後に集まった人たちといろいろ話をして、分からないなりに分かる時間を作ることに意味があると思っています。
それと、飲食店でやるにはドンパチアクションやホラーは向いていない。「なにか幸せな気分になれる」とか、「なにか考えるなあ」とか、そういう方がお酒やご飯を楽しみながら観るのに向いている気がしています。

BSSTOでも取り上げている屋外上映イベントなどと、café de cinémaの違いは?

ちゃっぴー
自分たちの身近な場所がベースとなっていることです。例えば、café de cinémaを始めるときに参考にした「キノ・イグルー」さんや、「夜空の交差する森の映画祭」さんも、大規模なイベントとしてやっています。飲食店でやるにしても、貸し切りにするような。ぼくの場合は通常営業の合間や、いつもの場所がふらっと入ったら映画をやっている形にしています。それはちょっと不思議なスタイルだと思うんですが、そのスタイルがこの5年間のほとんどですね。

確かに、私が以前に参加させていただいたときにも参加者は5名くらいでした。

ちゃっぴー
狭いことのメリットは距離感が近いことです。僕もイベント型の上映によく行きますが、結局一観覧者として行って一観覧者で終わる。だけどcafé de cinémaは、サロン的に集って一人一人が主体的に関わることができる。そのサロンも頭でっかちなことをいうわけではなく気楽に、映画をきっかけに話す。もしかしたら映画と関係ないことを話しているかもしれません。ラフな感じでゆるく集える場所っていうのが少人数だからこそできることですよね。

一流シェフが映画から料理を作ると・・・?

次に今回取材させていただいた「BISTRO CINEMA」については、どういった経緯ではじまったのでしょうか?

ちゃっぴー
もともとダルブルのマネージャーとは友達で、「この店でも上映はできない?」っていう相談を受けたんです。今まで「映画×〇〇」というコンセプトを掲げていても〇〇が空白になってしまっていたんですよね。ビストロなので「映画×ごはん×場所」をちゃんとやろうかということで考えたのが、「映画を観て映画に合わせたメニューを出す」ということでした。年に3回か4回くらいやれる感じでやりましょうって始めて、今回で12回目になりました。

2週間に一度の上映のヱビスキネマよりも、BISTRO CINEMAという形が先にあったということですか?

ちゃっぴー
このお店に関しては先にありました。初めは参加しやすいように「3500円ワンプレート・ドリンク付き」という決まった形でやっていたのですが、2年目に「ご飯をちゃんと楽しむ、そして映画を観る」というコンセプトを改めて意識して、より本格的なコース料理にシフトしました。値段に縛られずにこの映画はこのメニューだからこの料金にしよう、と都度変える方針にしたんですね。そして2年目の春に上映したのが『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』です。フレンチの店なのにキューバサンドを出して、あの映画自体もいい映画だったので大盛況。それからは、映画によって料金が変わり、メニューも変わるようになりました。7皿10品ほぼフルコース並みに料理を出したこともあります。

手の入り様がすごいですね。

ちゃっぴー
自由に作っていいようにしたらシェフが気合い入れてくれちゃって。そのぶん満足度の高いイベントになりました。お客さんが少ない時もあったのですが、現在では毎回コンスタントに席も埋まる様になり何とか定着してきました。やっぱりそれには映画に合わせてお店の方のモチベーションがついてきてくれたのが大きいと思うんですよね。

今回『ソウル・キッチン』を選んだ理由は?

ちゃっぴー
この作品は完全に僕が好きな映画です。ご飯映画であると同時に、音楽映画としても楽しめます。『ソウル・キッチン』には基本的に悪い奴が全くいない。ノイマンって若干悪いのもいますけど、基本的に登場人物はその辺にいるようないい人たちばかりで。家族とか人生を見つめなおし、そのあと新しく切り開いていくみたいな。結構ベタにいいことしか言ってない映画だと思っていて、だからこそやっぱり好きなんです。

『ソウル・キッチン』

料理についてはシェフはなんとおっしゃっていましたか?

ちゃっぴー
前菜の盛り合わせは、劇中のレストランに新しいシェフがやってきて料理が変わっていく様をテーマしてるらしく、ソースや仕込の味付け(塩麹を使ったりスパイスを調合したり)で見た目よりも味に起伏が出るようなプレートしているそうです。
それと、全体的に合わせるとジャンクっぽい感じにも見える。メインに関してはすっかりレストランメニューとしての、火も入れた、ソースも付け合せも計算して一皿として完成させるというところで作った。そして、映画自体もハイな映画なのでデザートでハイになってもらったら完璧ですっていう解説をもらっています。
映画を観たシェフがインスピレーションで作った料理。だからシェフがどう観るかっていうのも面白いところだと思います。

舞台がドイツなのでドイツっぽい特徴があるのかなあと思ったらそうでもない。

ちゃっぴー
ドイツの中でもハンブルクって移民が多い土地柄なんですね。主人公はギリシア系ですし、アフリカ系もアラブ系も出てくる。むしろいろんな人たちが集まってその中でどう人がつながっていくのか、集える場所があるのかっていうところがテーマで、料理もそれを表しているといえます。

特別感ではなく、「日常」感を大事にしたい

今後はどんなライフワークを描いているのでしょうか?

ちゃっぴー
いろいろなところで映画を観てもらう機会を作っていきたいと思っています。「旅する映画館」として地方で上映活動をしていく場合もあるし、フードトラックと上映機材を積んだトラックを連ねて、各地の広場で上映するビジョンも描いています。
一番重要なのは、観に来てくれる人をどれだけ作れるかということです。映画って毎日観るものでもないし、毎日観たいと思わない人だっていると思うんですよ。だけど、観たいと思った時に気軽に行ける、気軽にある場所があってほしい。それは別に僕の場所じゃなくていいですし、映画館でも他の人の上映会でもいいのですが、映画が日常の近い場所にあるような社会を作っていきたいですね。

特に映画を観てもらいたいのはどんな人たちでしょうか?

ちゃっぴー
今の若い子たちは映画を昔ほど観なくなっていると思うんですよね。でも彼らにこそ、もっともっと映画を使ってもらいたいと思うし、もっといろんな映画を観てもらいたい。映画を観てなにか一つでも感じてもらえる場所や機会を、自分はもっとちゃんと作っていきたいです。

ちゃっぴーさん自身が長い映画人生の中で気付きだったり発見だったり、これがあるから映画っていいなって思った作品はありますか?

ちゃっぴー
一つは僕が違う自分になれる感じでしょうか。例えば『スターウォーズ』を観てルークやハン・ソロに自分を投影してちょっと違う自分を感じることができる。そうすると観終わった後に少し風景が変わるときがありますよね。それから、日常的な映画で自分すらも気づいていなかったことを映画から気づかされることも思います。たとえば人との接し方とか。
僕はストーリーとか細かく覚えないし、監督がどうとか役者がどうとか、あの映画のモチーフがどうとかって正直わからない方なんですが、映画には自分なりに気づけるものや気づかせてもらえるものがあって、それが積み重なって今の自分があると思うんです。そういうのが映画に助けられるところですね。

最後の質問となりますが、非劇場型の上映会がいろんなところで広がっていますが、その背景やこれからの展望についてどのような考えをお持ちですか?

ちゃっぴー
背景には、「映画館で映画を観る」ことが難しくなってきていることがあるかもしれません。映画館としてビジネスのことを考えるとお客さんが入る作品に集中してしまうし、作る側もどんどん売れるものに寄せていって似たような作品が多くなってしまう、そんな現状も否定できないと思うんですよ。

映画産業の構造的な問題ですね。

ちゃっぴー
その中で違いを出すために、「体験」に意識が向かっていて、映画館ですら3Dから4D、体験型のイベント、絶叫上映や応援上映と銘打った興行をしています。「ただ観るのではなく、体験する」という文脈で、上映会というスタイルも位置付けられるのではないでしょうか。
それから、大型のイベント上映に関しては「インスタ映え」的なところ。やっぱり「特別な場所に行ってきた」っていうスペシャルな感じ出せるところが多いと思うので、それが支持されているのだと思います。だから今後もスクリーンで映画を観る観方は増えると思うんですよね。

「インスタ映え」が流行りだとしたら、流行が終わった時に映画上映会もブームで終わってしまう、そんな想像はありますか?

ちゃっぴー
ブームとして特別な場所での上映に来てくれているとすれば、それはなくなる可能性もあると思います。だからこそ僕は、特別感よりも「日常感」の中に映画を観ることを落とし込みたい。café de cinémaのスタイルは続けていきたいなと思っています。
お客さんが来なくなったから辞めるのは簡単だと思うんですよ。ですが、続けていくことの大切さってあると思っています。僕のところに来てくれる人の中でも、あるときパタッと来なくなったりする人もいます。でも半年後一年後また来てくれる。その時に場所として続いている、会として続いていることが大切だと感じています。

確かに、思い立った時に行ける近さが価値ですよね。

ちゃっぴー
それにSNSなどが発達した現代では、イベントをやることでイベントに来ない人にも映画を知ってもらうきっかけを届けられると思います。「自分だったら絶対選ばなかった映画を知ることができた」って結構言われるんですよ。回数をたくさんやって露出することで、つながりのある人たちに「こういう系統の映画があるんだ」って知ってもらえている。
上映会をやることには来てもらうこと以上の価値があります。さらには映画業界の方にももっと使ってもらえる仕組みになれば、それが最終的には映画のためになるし、観に来たお客さんたちが観てよかったって思ってもらえることにつながります。そのために僕らにはもっとやれることがあると思うし、やり続けていくことが必要なんじゃないかなと思いますね。

取材:大竹 悠介
撮影:杉田 拡彰

ちゃっぴー(祖山 裕史)

旅する映画館 café de cinéma主宰

映画業界に憧れ、文化施設のコンサルタントからデジタルビジネスを経て、幾つかの企業で映画を中心としたVODサービスの立ち上げや企業の立ち上げに参画。現在はsimplpelplus合同会社を設立、主に映画のデジタル関連のライセンスやビジネスに携わる。café de cinémaはライフワークとして、もっと映画を楽しみ語らうサロン的な雰囲気と場所を目指し、映画だけではなく上映場所や“何か”を合わせた、気軽な上映会を日々開催している。

ビストロ・ダルブル 恵比寿店

創業40年を超える老舗の一軒家ビストロ。
営業時間:
〈月~木・土〉18:00~22:30(L.O.) 23:30(C.O.)
〈日・祝〉 18:00~21:00(L.O.) 22:00(C.O.)
〈金〉18:00~23:00(L.O.) 24:00(C.O.)
定休日:火曜日
アクセス:東京都渋谷区恵比寿南1-4-8 JR恵比寿駅より徒歩2分

Writer:大竹 悠介

「ブリリア ショートショートシアター オンライン」編集長。大学院でジャーナリズムを専攻した後、広告代理店勤務を経て現職。「映画体験の現代的な価値」をテーマに全国の取り組みを継続取材中。ショートショートではWEBマネージャーやクリエイターコミュニティの運営を兼務。

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