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COLUMN
Feb. 16, 2020

【上映会のつくりかた】第4回:コラボ上映会の魅力と課題

映画上映会を企画しているけれど、ユニークな体験として楽しめるイベントにできないか。その為に上映するだけではない何かが欲しい・・・。そんな課題に頭を悩ませている企画者の方も多いのではないでしょうか?映画だけでなく様々な企画を取り込んだ上映会は、企画次第では無限に幅が広がります。「旅する映画館 café de cinéma」主催ちゃっぴーさんが書き下ろす全5回のコラム。4回目の今回は、普段よりちょっと一歩踏み出した上映会のお話です。

こんにちは。「旅する映画館 café de cinéma」のちゃっぴーです。
特に50名以下の上映会の場合「映画を上映して意見感想を話し合う」というのが一つのスタイルですが、そこにさらに彩りを加え、より満足度の高い上映会をつくろうと考えたことはありませんか?
今回は、これまで3回とはちょっと視点を変えて、ただ映画を流すのではなく、コラボを加えた一味違った上映会を、具体例とともにお話しします。

ちゃっぴーさん

食事付き上映会を成功させるコツ

まず、これまでお話ししてきた小規模上映会は、主に飲食店での開催を事例としています。その場合に一番最初に考えるのは、「飲食」をセットした上映会ではないでしょうか?と言っても過去にお話ししたケースは全て飲食店で、しかも「1ドリンク」がセットされていたりします。また、食事も任意で頼むこともできます。
そうではなく、より“コラボ”感を高めた映画上映はどうでしょうか?

例えば、1回目にお話ししたヱビスキネマを開催するビストロダルブル恵比寿店。もともとお店としては小規模店舗ではないため、ヱビスキネマとして少人数の上映会が定着する以前の1年間は「映画×食事×ビストロダルブル」をテーマに、BISTRO CINEMAとして、開催しました(現在も継続中)。
この時はゴハン&1ドリンク付き¥3,500。軽めのフードを2皿、ないし3皿ご用意して、映画上映中に食事を楽しんでいただくスタイルでした。ゴハンも映画にちなんでシェフにオリジナルで用意してもらい、さらに当日は追加で通常メニューなども頼んでいただけます。2週に1度のヱビスキネマでは10名キャパですが、BISTRO CINEMAではワンフロアを使って、30名キャパで開催します。

内容を具体的に紹介しましょう。最初の1年間は4回開催しました。作品は順に『アメリ』『ソウル・キッチン』『スタンリーのお弁当箱』『テッド』・・・ん?最後の一つはゴハン関係ないですね(笑)。
『アメリ』はわかりやすく女性が好きなフランス映画。提供した料理は「前菜の盛り合わせ」「自家製パン」「クリームブリュレ」。『アメリ』で食べ物といったら、砂糖をカリカリに焦し、スプーンで壊すのが好きなアメリにちなんでやっぱりクレームブリュレ!もちろん、表面をカリカリにしたクレームブリュレを楽しんでいただきました。

クリームブリュレ

『ソウル・キッチン』はドイツ・ハンブルグが舞台ですが、フレンチシェフが出てきて魅惑の料理を作ります。ただし、セットの料理はニンジンのムース 赤パプリカソースと、キノコ焼マリネ ナスのソテー、塩豚バラのプロシェット(串焼き)の前菜1プレート+自家製パン。代わりに当日のスペシャルメニュー(追加オーダー)として、ソウルキッチンからシェフがイメージして作った3品を提供しました。
・骨付きラムのハーブソテー ソウルガスパチョ
・ビーフとモッツァレラのパイ包み焼き
・ホワイトチョコとスパイスのエキゾチックパルフェ

骨付きラムのハーブソテー ソウルガスパチョ

『スタンリーのお弁当箱』はインド映画。映画に出てくる料理は、もちろんカレーです。提供した料理は「一口サイズのタンドリーチキン風」「ラムとひよこ豆のカレー」「スモークサーモンとクリームチーズのトルティーヤ」「自家製パン」。インド映画、カレーが主題でもあるので、もちろんカレーやタンドリーチキン、トルティーヤといった、インド感を意識しました。

『テッド』は、、、ちょうど『テッド2』公開に合わせて、あえてゴハンコラボらしからぬ選択をしてみました。提供した料理は「前菜 2種のエクレア」「失恋のパスタ」「葉っぱのグラニテ」。映画が映画なので、それぞれのシーンからイメージしてシェフがアレンジ!結構むちゃぶりでした。

結果としては、お客様には喜んでいただけたのですが、作品選びとメニュー作りが徐々に難しく感じる状況になってしまいました。なぜなら、限りある金額で映画ごとにメニューを考えても、十分に演出できないものが出てきてしまうからです。そのため、4回開催後一旦仕切り直しをし、金額を固定せずにその回ごとに設定することにしました。料金も上がってしまいますが、その分満足のいく食事も楽しんでいただけるように。

そうして、再開後第5回の『シェフ 三ツ星フードトラックはじめました』ではフレンチビストロながらキューバサンドイッチを出して映画との一体観を味っていただき、第8回の『ワールズ・エンド 酔っ払いが世界を救う!?』ではビールサーバーを追加設置して生ビール(クラフトビール)飲み放題に。第9回の『ジュリー&ジュリア』では劇中の料理7皿10品)を映画にシンクロさせて提供し、第13回の『バベットの晩餐会』では最後のフルコースをシェフアレンジのもとこれでもか!と提供しました。
作品選びだけでなくメニュー決め、料金設定、見せ方など毎回手間はかかるようになりましたが、その分ご来場のみなさんの満足度は格段に上がっていると思います。おかげさまで年3回、今年は6年目に突入。第17回を3月15日(日)に開催予定です。

また、BSSTOでは過去2回ほどBISTRO CINEMAのレポートを掲載していただいていますので、そちらもよかったらご覧ください。第2回で開催した『ソウル・キッチン』も内容がバージョンアップされています!
https://sst-online.jp/magazine/1985/

その他、高円寺のクラフトビールバーBEER ENGINEで年2回開催する上映会のコンセプトは「お酒(ビール)が美味しく楽しく飲める」映画上映。毎年1回は『ワールズエンド 酔っ払いが世界を救う!?」上映し、もう1回はビール飲みながら楽しめる作品を上映しています。もう、映画がビールのおつまみ!
原宿の中華料理店・南国酒家と一緒に開催する「映画とお酒と南国酒家」では、タイトルの通り映画とお酒と料理を組み合わせて提供しています。3回目となった前回は薔薇専門の生花店ともコラボして、花を楽しめる映画を上映。さらに、バラを使った店内アレンジ、中華料理にエディブルフラワー、バラを使った中国酒を提供。さらには中国の食べる薔薇についてのトークまで含めた盛り沢山な企画を開催しました。

食事付き上映(特に映画の世界観と近づけていく場合)は、まず作り手(ここではシェフやお店)の関わり具合も重要になってくると思います。確かに美味しい料理だけを出す、それもいいと思います。でも、その時ならではの“体験”としてそれがゴハンにも反映されていると、結果としてお客様の満足度にもつながるのではないかと思います。あと金額も、もちろん重要ですが、むしろ思い切った料金にした分、より楽しめる内容にしていくことが重要です。ただ、その分開催における労力は増すので、頻繁に開催することは難しくなりますが・・・。

ただ食事といっても、多様なアプローチがあり、今後もさらにいろんな企画にトライしようと思います。

映画の世界を刺繍で表現!刺繍ワークショップとのコラボレーション

全く異なるコラボ上映も紹介しましょう。こちらはBISTRO CINEMAよりさらに前、2014年秋から春夏2回開催している「カフェ ド 糸(シ)ネマ」です。
数々の著作物があり、ワークショップも多数開催する刺繍家・クロヤギシロヤギと、天然酵母で作るパンをメインに料理教室やポップアップなどを開催するパポタージュ、この2者とcafe de cinema が組んで開催する「映画×刺繍×天然酵母パン」の上映会です。
この上映会の開催きっかけは、単純にボクが『マルタのやさしい刺繍』という映画が大好きであり、この映画の上映に刺繍を合わせて開催したい、というイメージがあったから。もちろん両者の協力の上で成り立っています。そのためこのイベントは3者共同主宰として、企画・上映がcafé de cinéma、刺繍がクロヤギシロヤギ、ゴハンがパポタージュ、という割り振りでそれぞれが一つの作品の世界観を作り込んで当日に向き合うスタイルとなっています。

またこの企画は他に比べて稼働時間が長いです。映画で1時間30分〜2時間、そのあと刺繍に1時間〜1時間30分。間の時間なども入れるとオープンからクローズまで約5時間のイベントです。

来場者にはまず当日の刺繍キットとゴハンとドリンクを受け取っていただきます。そして映画を上映。まず映画の世界を楽しみ、そして世界観を感じていただきます。上映終了後は、今度は刺繍タイム。糸(イト)ネマ(とボク達は略しています)では、刺繍糸を400色ほど用意し、お客様に好きな色3色選んでいただきます。映画の世界を刺繍で表現するので、糸を選ぶのは上映後。それぞれ図案と、今観た映画の世界をイメージして、それぞれが色を決めていきます。映画と同じ色合いを選ぶ方、全く違う配色にする方など、人によって彩が変わる、同じ図案でも完成した姿が変わる。それがこの企画の楽しいところです。

そして、刺繍ワークショップ中に、ゴハンからデザートへ転換。ゴハンもですがデザートも映画に合わせてオリジナルで用意し、刺繍の合間の一休みに、みなさまに食べていただいています。映画、刺繍、そしてゴハン。3つの楽しいを体験していただく企画です。

糸ネマの一番の課題は作品選定。刺繍の図案化やゴハンをどう作るかも考えて、どういう作品なら面白いか、驚きがあるか、お客さまが楽しめるか、毎回頭を悩ませています。
ボクが一番気に入っているのは第2回の『ブランカニエベス』の上映。モノクロ映画ですが、観た人のイメージで刺繍図案において色付けしてもらう、という趣旨で行いました。通常の映画だと、色がイメージされますが、モノクロ映画は人によってイメージする色が異なるので、どんな色の世界が展開するのか楽しみでした。このパターンはその後『フランシス・ハ』でも実施しています。

また、派生パターンでは、別の刺繍作家さんと、親子で楽しめる刺繍ワークショップ付き上映も過去に開催。小学生以上のお子さまでも参加できる企画として、もう少し短い作品と、刺繍もクロスステッチ(ドット絵の様な表現になる)刺繍で開催しました。

その他、古民家で映画と刺繍を楽しむイベントなども開催しています。

映画って、いろいろな要素が詰め込まれた作品だと思います。そして、それが個人個人の表現の原点になる。糸ネマでは、“刺繍”という視点で観ると、もしくは観終わったあと”刺繍”という視点を加えると、これまでと違った観え方になってくる。観えていなかった部分が観えてきたりします。初めは、ただ好きな映画の一つに刺繍が題材になっていたので、一緒にやれたら、という単純な発想でしたが、継続してくる中で、この映画を刺繍で表現したらどうなるだろう?といろいろ考えながら、作品を選ぶのもなかなか楽しい物です。

ダンスや音楽とのコラボレーション

その他にも、コラボイベントの経験がありますので、手短に紹介します。

ベリーダンスと映画
ちょうど1年ほど前に開催した、ベリーダンスと映画の同時上映。映画の上映中に特定のシーンでベリーダンサーに登場していただき、数分のダンスを挟みます。その間映画は上映し続け、お客さまはどちらを観るか!?迷ってしまいますが、それもアリかと思い開催。実際両方なんとなく視野に入るレイアウトで開催しましたが、実際はダンスをみなさん注視していました!上映中全9ヵ所ダンスを挿入しました。ちなみに上映作品は『ホドロフスキーの虹泥棒』。

ジャズライブと映画
上述のベリーダンスよりかなり前、2015年8月には、ジャズライブと映画上映を同時に開催しました。こちらは、上映開始後15分ほどして一切の音声を落とし、スクリーンの前にミュージシャンが3人、そのまま約70分ほどライブを行っていただきました。
音楽は映画からインスパイアされつつ、当日の即興も含めたセッション。スクリーンの両端にスタンディングして演奏いただきましたが、もちろん映画を観るには邪魔になります。そのため、映画を観たい方用にサイドの壁面にもう一面スクリーンを設置し映画を上映しました。
字幕映画のため、音声が映画のそれではなくてもストーリーは追える形であったのと、作品がクラシカル作品であり、観たことがある、ストーリーがわかるという想定で実践しました。また、ジャズライブに映画が演出として写されているという逆の見方もできますし、ミュージシャンの衣装は映像が写ってそれが模様のように見えるシンプルなモノクロの衣装で登場いただきました。こちらの上映作品は1954年のイタリア映画『道』でした。

お菓子
ゴハンほどガッツリしていないけど、ちょっとつまめるお菓子でコラボ。現在休止中の生花店での上映会において、毎回おやつとして焼き菓子を提供していました。映画のタイトルや雰囲気を落とし込んだオリジナルのお菓子を含め数種類を毎回準備し、お待ちしていました。映画ごとに違うお菓子が食べられるのも、この時の楽しみの一つだったと思います。

ここで紹介したコラボイベントは50名以下の規模で開催しています。ベリーダンスとジャズは50名、BISTRO CINEMAとカフェ ド 糸ネマは30名、お菓子コラボは15名定員で開始しています。ただ、コラボの場合ですと、関わる人の数はもちろん、食事だったりお菓子だったり、会場だったりと、開催におけるリスクも高まります。小規模で開催する上でキャパシティが変えられないため単価をあげる方法としてコラボレーションを考えている方もいらっしゃると思いますが、実はリスク向上にもつながってしまう点をご注意ください!
とはいえ、関わる人が多くなるということはそれだけ集客導線が増えることでもあります。また自分(たち)以外のコミュニティとの連携、映画以外の興味から関心を持ってもらえるというメリットが非常に大きいのも事実です。
そのためには、コラボ相手にも“一緒に作っている”意識をちゃんと持ってもらうこと、だと思います。中途半端に相手が頼まれたからやっている、程度だと、なかなかお客様には伝わらない。一緒に作っているんだという意識の共有、目的意識をすり合わせることは大事だと思います。そして、結局は「続ける」ことが大事なポイントなのではないでしょうか?

次回の開催は?

次回のコラボ上映ですが、まず3月15日(日)にBISTRO CINEMA VOL.17開催予定。上映作品は『マイ・ビック・ファット・グリーク・ウェディング』(まだ最終決定前/許諾前)です)。

そして、カフェ ド 糸ネマ VOL.12『マンマ・ミーア』(こちらも最終決定前/許諾前)が5月9日(土)開催予定!

詳細は追って告知します!


「上映会のつくりかた」
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旅する映画館 café de cinema

主にカフェやバー、レストラン、フラワーショップなどが、その時、その場は“映画館”に・・・普段訪れる場所が、ある瞬間“映画館”になる。その場所と集う人、そこに“映画”というエッセンスを加え、日常の延長線上にある映画を目指し全国で上映会活動を行う。
https://cafedecinema.com/
※1 場所はその時々の店舗の予約状況で変わります
※2 定員数が10名なので、どうしても観たい場合は事前連絡で座席確保もしています

旅する映画館café de cinémaでは上映権利許諾のご相談やサポートなども対応しています。規模や実現性に合わせた対応方法などもアドバイスできますのでお気軽にご連絡ください。
問い合わせ:contact@cafedecinema.com

Writer:ちゃっぴー(祖山 裕史)

旅する映画館 café de cinéma主宰
映画業界に憧れ、文化施設のコンサルタントからデジタルビジネスを経て、幾つかの企業で映画を中心としたVODサービスの立ち上げや企業の立ち上げに参画。現在はsimplpelplus合同会社を設立、主に映画のデジタル関連のライセンスやビジネスに携わる。café de cinémaはライフワークとして、もっと映画を楽しみ語らうサロン的な雰囲気と場所を目指し、映画だけではなく上映場所や“何か”を合わせた、気軽な上映会を日々開催している。

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