ログイン
MAGAZINE
REPORT
Sep. 17, 2019

【Cinematic Topics】映画×カウンターバー?
路地裏の文化会館「C/NE」が作る
「乾杯から始まるコミュニケーション」とは?

東急東横線「学芸大学」駅から徒歩3分ほどの住宅街。路地へと続く角を曲がると、ライトグリーンの外壁が印象的なイベントスペース「C/NE」(シーネ)が現れる。コンセプトは「路地裏の文化会館」。2019年2月に開業して以降、映画や食をテーマにした様々なイベントが開催され、たくさんの人が憩う場になっている。
9月最初の日曜日、定期開催されている名画座企画「welcome cinema」の第9弾として、キューバ音楽のバンドを追ったドキュメンタリー映画『ブエナ・ビスタ・ソシアルクラブ アディオス』が上映された。上映後には、キューバサンドとお酒を手に語らう参加者の姿が。映画を軸にした交流の場の今を取材した。

「C/NE」の外観

住宅街の路地裏にひっそりと佇む映画空間

水道管のバルブを使ったアンティークのドアノブを手前に引く。リリリンと鈴の爽やかな音を立てて中に入る。こちらに気が付いた館長の上田太一さんが「こんにちは」と笑顔で声をかけてくれる。もともとは民家だったという建物らしく、玄関で靴を脱いで板の間に上がる。
向かって右側奥には大きな壁に120インチのスクリーン。スクリーンに向かうようにテーブルや座布団、心地よさそうなソファが並ぶ。向かって左側には手前から奥へと細長いオープンキッチンが伸び、向かい合う形で掘りごたつ式のカウンター席が8席ほど。
上映時間まで時間があったので、上田さんお勧めのクラフトジンを飲みながらフランクに雑談をする。上映は18時からだが、17時過ぎにはお客さんがちらほらと集まり、ジンやビールを片手に上映前のひと時を過ごす。上映前の時間を楽しみにして来る。それもまたこの場所の魅力かもしれない。

上田さんによるクラフトジンの解説も面白い

映画のお供にはビールとキューバサンド

定期的に開催されている名画座企画「welcome cinema」。この日はキューバ音楽の往年の奏者たちが集まって作ったバンド「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」の活動を追ったドキュメンタリー映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ アディオス』(2017)を上映。2000年に米国アカデミー賞にノミネートされた『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』の続編にあたり、前作で監督を務めたヴィム・ヴェンダースが製作総指揮を執った映画だ。
この日は14時と18時の2回上映。取材で訪れた18時の回の参加者は8名。時間になると、上田さんの簡単な作品紹介ののちに本編の上映が始まった。途中のお酒のオーダーもOKとのことだったが、上田さんも座って一緒に映画を楽しむ。映画館というよりも「サロン」という言葉が似あう場所だ。

座席は1~2人掛けのソファと、ローテーブルと座布団。写真には写っていないが後方には掘りごたつ式の席もある。上映中は足を延ばしたり横になったり、映画館にはないリラックスした雰囲気で映画を楽しむことができた。
上映後は、そのまま隣のバーカウンターへ。上映が終わっても誰も帰らずバーで映画談議に花を咲かせる。この日は、「のんべい横丁」(渋谷)で人気を博し、現在はイベントやケータリングで活躍中のキューバサンドイッチ専門店「G’day mate!」の山崎さんがフードを担当。ローストポークをバターを塗ったパンで挟み、アツアツの鉄板でプレスして作るキューバのローカルフード。お酒との相性も抜群。先ほどの劇中のキューバ音楽が頭の中で再生され陽気な気分で味わう。ファーストフードだけど、贅沢な食事だ。

初めて会った人同士でも、映画とお酒が距離を縮める。

集まった人たちみんなで運営していくカルチャースペース

(C/NEの館長、上田太一さんに話を伺いました)

***

Q:まずはC/NEのコンセプトについて教えてください。

上田:
コンセプトは「路地裏の文化会館」です。集まった人たちみんなで運営していくカルチャースペースとして、お客さんからの持ち込み企画も積極的に実施しています。例えば、会社員として働いているビール通の方がクラフトビールの勉強会を実施したり、近くの保育園の懇親会が開かれたり、子どもたちのダンスの発表会があったり。
2019年2月にオープンしてから、文化会館として幅の広い使い方をしていただいています。
意識しているのは「主客が一体となること」。お客さんも受け身ではなくカルチャーを作る側で発信したいという方々が集まっています。集まった方が新しい仲間になって、お客さんとしてくる日もあれば、もてなす側として来る日もあるような、そんな関係を意識しています。

上田太一さん

Q:C/NEの主催企画としてはどんなことを?

上田:
私たちが立てる企画としては2つテーマがあります。一つは「映画」、もう一つは「食」です。映画には「好奇心・興味の窓」としての魅力があると思っていて、月に1~2回ほど週末に名画座企画を実施しています。今日体験していただいたようにラフな感じでお酒と一緒に映画の余韻に浸りながら感想をシェアする場です。
「食」はいろいろな人の関心にかかりやすいので、コミュニケーションが生まれやすい点が魅力ですね。例えば「Our Curry」というイベントでは、これからお店を持ちたいと思っている6組が集まってカレーを提供しました。カレーの文化も面白くて、個人の好きが高じて、誰かに作るようになって、どんどん活動が広がっていくんですよね。
それからお酒にはこだわっています。ナチュラルワイン、クラフトジン、クラフトビールなど、作り手の想いやこだわりが伝わるお酒を揃えています。

Q:C/NEの運営は上田さん個人でされているのでしょうか?

上田:
私含め3人で経営している合同会社ウェルカムトゥドゥとして運営しています。私は企画や編集の担当で、他の2人は建築系の人間です。
3人とも場づくりに興味があって、商業施設や店舗の立ち上げやリニューアルをハードとソフトの両面でサポートする仕事をしてきました。手伝いをするだけでなく自分たちでも場を持ちたいという気持ちがずっとあったのですが、2018年の夏頃にこの物件と出会いまして、「よし、やろう」と始めることになりました。

Q:とても落ち着く空間ですが、内装やなインテリアなど空間としてのこだわりは?

上田:
私たちが借りる前はラム肉とパクチー料理のお店でしたが、少しずつDIYで手を加えて今の形になりました。作りこみすぎないといいますか、文化会館としていろいろな人に使ってほしいので、プレーンでニュートラルな感じになるよう意識しています。

ドアノブは水道管を再利用

Q:これから「文化会館」として取り組んでいきたいことは?

上田:
今は事務所として使用している2階をラウンジ兼図書室に改装して、1階は文化会館の食堂として飲食の機能を強化していこうと考えています。それからメンバーシップ制度も作ってメンバー同士が有機的につながる仕組みを作りたいですね。
C/NE(シーネ)はスペイン語で“映画”という意味があります。映画を映す場所としてだけでなく、ここでアクションを起こすことが、その人にとっての物語のはじまりになるような場所でありたい。そう思っています。

Q:最後の質問ですが、上田さんの一番好きな映画を教えてください。

上田:
ここにもDVDを置いているのですが、『スモーク』(1995)という作品が一番です。N.Yの街角のタバコ屋を定点観測して、小さなエピソードを積み重ねて構成した作品です。会話のテンポ、余白の作り方がとても粋なんですよね。登場人物たちの大人の友情に憧れます。
最初に観たのは中学生の頃でしたが、2回3回と観て、見るたびに捉え方が変わるのが面白いです。映画は1回観るだけではもったいない、という気にさせられますね。私がこの映画と出会ったのは中学生の頃でしたが、映画からいろんな世界や想像力を養うことができました。渋谷や新宿で映画を観るのもいいですが、もっと暮らしに身近な場所にそういう機能を持った場所があればいいな、という想いもC/NEにはあります。

***

集まった人たちと一緒にお酒を飲みながら映画談議に花を咲かせていると、時間はいつの間にか23時に。「おやすみなさい」「またね」そんな体温のこもったやり取りができるのも、上田さんがこの場所を意志を持って運営しているからだろう。
学芸大学に生まれた路地裏の文化会館。映画とコミュニティの、新しくとも本質的な姿を示しているように感じた取材だった。

取材:大竹 悠介(BSSTO編集室)

路地裏の文化会館「C/NE」

■住所:東京都目黒区鷹番2丁目13
■営業:平日は間借りカレーとBAR営業。土日にイベント。10月初旬から平日は「シーネ食堂」としてリニューアル予定。詳しくはオフィシャルサイトにてご確認ください。
■オフィシャルサイト:https://welcomecine.com/
Facebookhttps://www.facebook.com/wearecine/
■instagram:@welcome_cime

上田太一(うえだ・たいち)

1982年生まれ、慶應大学法学部卒業後、番組ディレクターとして紀行番組や食関連の番組を数多く制作。その後、カフェやコミュニティスペースなど場のプロデュースに携わるgood mornings(株)に参画。2017年より知人らと共同でwelcometodoを設立。編集の視点を活かした様々な空間づくりを軸に、各種メディアで企画や執筆なども手掛ける。2019年よりC/NEを始動。

Writer:BSSTO編集室

「暮らしにシネマチックなひと時を」
シネマな時間は、あなたがあなたに戻る時間。
「ブリリア ショートショートシアター オンライン」は、毎日を忙しく生きる社会人の皆さんに、映画のあるライフスタイルをお届けします。
毎週金曜日にショートフィルムをオンライン配信。常時10本ほどを無料で鑑賞できます。
https://sst-online.jp/theater/

Share

この記事をシェアする

Related

0 0
記事一覧へ