ログイン
MAGAZINE
INTERVIEW
Feb. 21, 2018

【FRONT RUNNER】古書店街に新しい風を…。若き女性が挑むブックディスプレイの世界

洋書をもっと身近に楽しんでもらいたいという想いから、古い洋書をインテリアディスプレイとして提案している「KITAZAWA DISPLAY BOOKS」がいま話題だ。

創業115年以上の歴史を持つ神田・神保町の古書店「北沢書店」から、なぜこのサービスが生まれたのか?
代表でコーディネーターの北澤里佳さんに、そのきっかけや洋書を使ったシネマティックなディスプレイ方法について伺った。

紙の本の素晴らしさを伝えたい

北澤さんはもともとアパレルのショップで洋服を扱っていらっしゃったのですよね。
古書をディスプレイとして扱う今のお仕事を始められたのには、どういうきっかけがあったのですか?

KITAZAWA DISPLAY BOOKS 代表でコーディネーターの北澤里佳さん

北澤:某セレクトショップで約10年間働いていました。販売員を経て店舗デザインの仕事をしていたのですが、洋服の陳列だけじゃない、季節やコンセプトに応じて小道具などを使って店舗の空間を総合的に見せられる店舗デザインというお仕事にとてもやりがいを感じていたんです。そこにはもともと映画を観るときにシーンに合わせた背景や舞台セットに注目して観ることが好きだった事が背景にあります。

確かに背景にある世界観はとても大事ですよね。

北澤:ただ、30代を迎えてどうお仕事をスキルアップしていこうかと考えたときに、書店を経営する両親から電子書籍化の影響で紙の本を手に取る人が減ってきているという事実を聞きました。

当たり前のようにあると思っていた本屋さんがこのままだと無くなってしまうかもしれない…。
どうすれば紙の本に触れる素晴らしさを伝えられるだろう…。

そう思った時、母が装丁のキレイな本をお客様や友人に紹介している姿を見て、店舗デザインの経験を活かして洋書をお部屋の装飾としてディスプレイする提案ができないかと思って始めたのが、KITAZAWA DISPLAY BOOKSになります。

洋書を装飾とする案は、もともとお母様が始められたのですね。
それでは「KITAZAWA DISPLAY BOOKS」を立ち上げられるにあたり、社長であるお父様からはアドバイスやご意見はありましたか?

母体の北沢書店は、創業115年以上という神田・神保町の老舗古書店

北澤:実は父からは“好きなようにやりなさい”と言われているんです(笑)。
でも両親の経営する北沢書店は父で3代目と長い歴史があるので、お客様の中には“本は読みものとしてあるべきだ!”という厳しいご意見を持たれている方もいらっしゃいます。
私自身初めはこのサービスを行うことに葛藤があったことも事実ですが、読み物としての役目を終えた古書に、多くの人の人生に触れるという新しい命を吹き込むことにも繋がるので、今は自信を持って活動しています。

老舗古書店だからできるインテリアディスプレイの提案

具体的にはどのようなサービスを行っているのですか?

古い洋書を膨大にストックする北沢書店。装丁を眺めているだけでも世界感に引き込まれる

北澤:モデルルーム、ショップの内装、展示会、舞台のセット等々、いろんなケースのご依頼を受けて、空間のイメージやお客様の想いをお聞きして提案しています。置く本一つで空間の世界観は大きく左右されてしまうので、古書店だからこそできる装丁だけではわからない本の内容も含めた提案ができることが強みですね。
もちろん、お店に来ていただければ実際にお客様の目で本を自由に組み合わせることもできますから、宝物を探す気分で気軽に寄っていただきたいです。

今までの事例で北澤さんが印象に残っているケースはなんですか?

北澤:とある企業様のCM用に2,000冊の本を用意したことですね。
大変でしたが、本たちが文字の形に並べられていき、一つのアートとして形作られた時は、納品した私も思わず“そうきたか!”と驚きました!
完成したCMがTVで流れたときは嬉しかったですね。

本から読み解くシネマティックなインテリア

映画からインテリアのインスピレーションを感じる事もありますか?

フランスを舞台にした映画をイメージしてセレクトされた古書

北澤:映画は部屋に置いてある本から登場人物の思考や性格が読み取れたりしますので、よく参考にしています。
例えば、種類が豊富で棚数が多いキャラクターは<知的好奇心の強い冒険家タイプ>。逆に収集するテーマが絞られ、無機質に置かれている場合は<本物志向でどことなく孤独な過去を感じさせるタイプ>などでしょうか。
本のディスプレイは主人公や物語をサポートする、まさに名脇役的な存在なので、常にストーリーの背景を大事にして、見終わった後も目をつぶると脳裏にその空間が広がるような…そんな記憶に残る装飾を心がけています。

なるほど。具体的に印象に残っている作品はありますか?

北澤:そういう意味では、学生の頃から観ているウェス・アンダーソン作品は、ヴェルベッドの家具にペルシャ絨毯、そこに古い洋書を並べていたりと、随所にこだわりが詰まったインテリアが登場し、見事に映画の世界観を表現していると思います。
とくに劇中出てくるスーツケースが≪ルイ・ヴィトン≫特注品の『ダージリン急行』は大好きな映画の一つです。

海賊船や幽霊船を舞台にした映画をイメージしてセレクトされた古書

それでは最後に「KITAZAWA DISPLAY BOOKS」を今後こうしていきたい!という計画や展望があれば教えてください。

北澤:本を読むスタイルは時代の進化に合わせてさらに変化していくかと思います。
ですが、<紙の本>という存在は人となりを表すものとして欠かせないものであり、これからも私たちにとって重要なアイテムであり続けると信じています。そういった本を使って、これからも見てくださる方の想像を掻き立てるような、そしてより魅力が増す空間を作っていきたいです。

北澤里佳 / KITAZAWA DISPLAY BOOKS代表

服飾業界にて約10年間、VMDやアドバイザーとして幅広く活躍。退社後は独立し、現在は北沢書店3代目当主の元でディスプレイ洋書専門「KITAZAWA DISPLAY BOOKS」を展開。
コーディネーターとして数々のインテリアデザインのプランニングに携わり、また古書店の魅力を伝える活動にも力を入れている。
Instagram: @kitazawa_books

Writer:青目 健

ショートショート実行委員会 プロジェクト・マネージャー
撮影:大竹 悠介/構成:青目 健

Share

この記事をシェアする

Related

0 0
記事一覧へ