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MAGAZINE
INTERVIEW
Nov. 23, 2018

【FRONT RUNNER】映画をもっと気軽に、もっと楽しく。
国内最大級の映画レビューサービス「Filmarks」鈴木貴幸さんの映画論

いい映画を観た、あるいは強い後味が残る映画を観たとしよう。そのあと、あなたは何をするだろうか?自分のノートに忘れないうちに書き留めたり、Facebookに感想を投稿したり、あるいは友達に話して勧めている方もいるだろう。そんな友達のレコメンドを受けて、映画館に足を運ぶ人もいるかもしれない。
今回のインタビューは、映画の「レビューサービス」に関するお話。国内最大級の映画・ドラマレビューサービス「Filmarks(フィルマークス)」を展開する株式会社つみき鈴木貴幸社長にサービスを立ち上げた経緯や、今後実現したいことを聞いた。Filmarksが成長した背景には、一人の映画ファンとしての問題意識が根元にあった。

映画難民の自分が最初のユーザー。Filmarks立ち上げの背景とは?

まず、Filmarks立ち上げの経緯について教えてください。

鈴木
Filmarksを始める前になりますが、2008年にWEB広告制作会社として株式会社つみきをスタートしました。代理店さんなどから依頼を受けてウェブサイトなどを作ってきたのですが、経営が軌道に乗ってきたところで、受注仕事だけでなく自社事業を育てていかなければならないと思うようになりました。そこで選んだのが、映画のレビューサービスだったという訳です。ですから、個人のキャリアで言うと映画業界の人間ではなく、広告業界のデザイン・IT専門の人間で、Filmarksのユーザーさんと同じようにひとりの映画好きとして出発しました。

鈴木貴幸さん

自社サービスを立ち上げるに当たり、映画のレビューサービスにしたのはどういった理由があったのでしょうか?

鈴木
当時は仕事が忙しく映画館に行くことが難しかったので、近所のTSUTAYAでレンタルして家で観るのが習慣でした。棚には沢山DVDが並んでいるのに、自分の観たい映画が見つからなくてウロウロすることがあって・・・スマホは持っているのにどんなキーワードで検索すれば観たい映画が見つかるんだろう、と疑問に思っていたんですね。

観たい映画が具体的に決まっていない状況で、ということですね。

鈴木
そんな時に、社員とランチを食べながら週末観た映画の話をしていて、自分が観たい映画を選ぶ時って興行収入ランキングよりも、「友達に勧められて」選んでいることに気が付いたんですよね。それから、その頃はInstagramが流行り始めていて、写真を軸にしたコミュニケーションがあるのなら、映画を軸にしたコミュニケーションも成り立つと思いました。それがレビューサービスをはじめたきっかけです。
最初の僕の課題は「TSUTAYAで借りる映画を迷わないためにはどうしたらいいか」で、実は最初につけたタグラインは「もうTSUTAYAで迷わない」だったんです。リリースして1週間ほどで使ってくれる人が出てきたのでTSUTAYAに怒られる前に「もうレンタルショップで迷わない」に変えたんですけど(笑)

ローンチは2012年。もっと歴史の長いサービスだと思っていたのですが、結構最近ですね。

鈴木
日本でiPhoneが発売されたのが2008年だったと思うんですけど、僕たちの会社にアプリ制作の依頼が来始めたのが2010年で、2012年は何かに特化したアプリが出始めた頃でしたね。

Filmarksのほかに類似のメディアが無かった頃ですね。

鈴木
そうですね。昔から「映画.com」さんや「Yahoo!映画」さんの媒体はありましたが、それらはPCベースでまだアプリは出されていませんでしたね。

現在はTSUTAYAを運営されているCCCグループと提携されていますが、それはどういった内容なのでしょう?

鈴木
CCC主催のベンチャープログラムにエントリーして、TSUTAYA賞を頂いたのが最初のきっかけで、社長からお声掛け頂き今に至ります。具体的には店舗にFilmarksのレビューやスコアを使ったコーナーを設置いただき、うちのアプリで在庫の検索が出来たり、レンタル状況の確認が出来たりする取り組みをしています。

Filmarksを見ると、その作品がどこで観られるのか一目で分かるのがいいですよね。

鈴木
レンタル・動画配信で、どこで観られるのかという情報が充実しているのも、最初の問題意識から作ったものです。上映中の映画についてはまだ他のサービスの方が便利だったりするんですけどね。

映画を気軽に見やすい環境をどう作っていくのか。レビューサイトの先にあるもの。

ユーザーからの反響で印象的なものはありますか?

鈴木
個人的に嬉しいのは、「Filmarksを友達に勧めた」という声ですね。面白いアプリが沢山あるなかで、強い理由が無いと勧めないと思うので。

先ほど、「映画を軸にしたコミュニケーション」とおっしゃられましたが、具体的には?

鈴木
何が良い映画かって人によって様々で、その人にとって面白い映画との出会いというのは、「あの人が勧める映画なら観てみよう」という動機によって生まれるものだと思います。映画に対する熱をどうサービスに閉じ込めるのかは、丁寧に設計した部分です。

今後の発展形は?

鈴木
映像の楽しみ方も変わっていますし、「映画を崇高な物ではなく、気軽に見やすい環境をどうお手伝いするのか」っていうのを続けていきたいです。
その形としてイベントをやったり、劇場を運営したり、配信したりっていうこともあるでしょう。映画って、過去の積み重ねがあって今に繋がっていると思うので、なるべくいま上映されている映画だけでなく、次の世代に昔の良い映画を観てもらう機会を作りたいとも思います。

映画って崇高なものなんでしょうか?

鈴木
時代的に「重い」ですよね。今の時代の感覚からすると、移動時間を含め劇場で3時間ほど拘束されるのは相対的に重くなっています。観客はそれに見合う対価を求めるようになって、相当面白くないと評価されないですよね。

映画の視聴体験の変化について、どんなお考えをお持ちですか?

鈴木
良いことだと思います。気軽にならないと観られなくなるけれど、まだまだ課題はありますね。例えば映画の作り手や演者が報われていないこと。映画製作の分野は下積みが長く、資金面で苦労されている方が多いイメージです。視聴体験が気軽になるなら作るのも気軽になるべきですし、クラウドファンディングが追い風だと思いますが、もっと自由に資金が集められるようになって、関わる人が報酬を得られるように変わっていくと良いなと思っています。

Filmarksでも試写会やリアルなイベントされていますが、その狙いは?

鈴木
イベントでは皆さん映画のことを話したがっているんですよね。例えば、今後はゾンビ映画好きを集めるなどテーマ性を持ったイベントをやることで、映画が好きな人同士の出会いのきっかけになればいいなと思います。
試写会の方は半分ビジネスで、クライアントさんから喜んでいただいているんですけど、僕が思ったところまではまだ実現できていなくて。試写会のあと2次会をやって映画の話をしましょうといったことをやりたいですね。

ショートフィルムは敷居が高い?ショートフィルムの発展形とは?

今回はBrillia SHORTSHORTS THEATERとFilmarksとのコラボレーションに際していくつかショートフィルムをご覧いただきましたが、ご感想は?

鈴木
今回はBrillia SHORTSHORTS THEATER ONLINEで配信されている3作品を視聴しました。時間が短いという共通項を除き様々ですよね。個人的には面白かったのですがYouTubeにアップされているような動画と比べてショートフィルムは芸術性が高いだけに、気軽に観るには敷居がまだ高い気がしました。

今後のショートフィルムはどのように進化したら面白いと思いますか?

鈴木
VRで観られるようになったらいいでしょうね。例えば『エミリー』を観たんですけど、男性の視点だったり、女性の視点だったり、カフェの店員の視点だったり、短い物語を色んな視点から見ることで何度も楽しめるようなVR映画にリメイクしたら面白いのではないでしょうか。ある人の視点からだと見えなかったストーリーが見えるっていうのは長編だと大変なんですけど、短編だったら課金してでも体験したいと思えるんじゃないかと思いました。

『エミリー』(原題:Emily)
見知らぬ男女がお互いの孤独を埋めようとする。フェリシティ・ジョーンズ主演の大人のドラマ。

鈴木さんの主観で、「いい映画の条件」ってなんだと思いますか?

鈴木
難しい質問ですね。弊社の企業理念は「こころをうごかす。」なんですが、観終わった後にこころが動くことですかね。観終わった後に余韻が続くというか、例えば、北野武の映画を観るとガラが悪くなったり、ヨーロッパの古い町並みが舞台だと足取りが変わったりするじゃないですか。

確かに、観た後に明るい気持ちになったり、ぼーっとしたりしてしまう映画ってありますよね。

鈴木
ジャンルの枠にはまりきらないですよね。1本に色んな要素があるので、受け手がどう感じるのであれ観た人の心に響く作品が増えるといいなと思います。しかも、いつ観るかでも全然違いますよね。子どもの頃はあこがれて観ていたものが、大人になって改めて観ると、なんでこれをかっこいいと思っていたんだろって思ったり()

年齢によって趣味も変わってくるということですね。

鈴木
今は子どもがいるので、お父さんと子どもが手を繋いで歩いているだけで泣けてくるんです。学生時代に観たら、その感情はありえなかったでしょうね。皆そうだと思うけれど年齢や環境も変わるし、歳をとると涙もろくなりますよね。

最後の質問となりますが、映画を観て鈴木さんが影響を受けていることや日常生活に取り入れていることはありますか?

鈴木
映画をディテールで取り入れていることはあんまりなくって。でも、生き方、考え方の影響を受けてはいると思います。

Filmarksを仕事にされていることからも、「好きなことを仕事にする」というのが鈴木さんの生き方かと思うのですが?

鈴木
熱が無いと相手に伝わらないと思いますし、好きなことを仕事にしていればアイデアが枯渇することはありません。だから、情熱を向けるに値するものを仕事したほうがいいと思います。
それから、ユーザーをごまかすことは不可能で、浅いことをしても通じないと思うんですよね。自分自身もユーザーの一人として、本当に価値のある取り組みを皆さんと一緒に作っていこうと思っています。

取材:大竹悠介
撮影:吉田耕一郎

鈴木貴幸(すずき・たかゆき)

1976年生まれ。大阪産業大学環境デザイン学科卒業後、WEBディレクターを経て、2008年5月に株式会社つみきを設立。WEB広告の制作事業を手掛ける傍ら、自らの経験を通じて2012年8月に映画レビューサービス「Filmarks(フィルマークス)」をリリース。2018年6月に映画レビュー数5,000万件を突破、国内最大級を誇る。

Writer:BSSTO編集室

「暮らしにシネマチックなひと時を」
シネマな時間は、あなたがあなたに戻る時間。
「ブリリア ショートショートシアター オンライン」は、毎日を忙しく生きる社会人の皆さんに、映画のあるライフスタイルをお届けします。

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