ログイン
MAGAZINE
INTERVIEW
Oct. 30, 2018

【FRONT RUNNER】糸島の子どもたちへ心に残る映画体験を!
福岡県糸島市で活動する「いとシネマ」の挑戦

「映画館でしか味わえない迫力と感動を、映画館がない糸島で生み出したい! 」をコンセプトに、屋外上映イベントを企画運営している「いとシネマ」。
地元人による地元のためのイベントを行う彼らに、人の心に残る新しい文化の作り方を聞いた。

ローカルな繋がりから始まった「いとシネマ」

いとシネマについて教えてください。

福島
いとシネマには、サブタイトルで「星降る伊都の映画館」とあるんですけど、小さい頃に映画館で感じたワクワクやドキドキってあとあと人生に影響を与えると思うんです。ただ、糸島には映画館が無いので、子どもたちに自然豊かで星がキレイな糸島ならではの映画体験を作って観せてあげたいと思い、映画の屋外上映という形をとっています。

始められた経緯は何だったのですか?

福島
糸島には子育てを機に移住したんですけど、こちらで出会った人たちを呼んで筑前前原駅前で飲みながら将来について話していたら、口々に映画館のオーナーになりたいとか、映画イベントをやってみたいとか、偶然にも映画で一致する夢を持っている事に気づいたんです。で、酔った勢いで「みんなでやっちゃおうか!?」という話になりまして。
最初は「糸島の食もブランド化してきているし、糸島映画祭って名乗ったらキャッチ―だよね」から始まって、今の「いとシネマ」という名前になりました。

いとシネマ代表の福島良治さん(左)と、メンバーの野北智之さん

どういうメンバーで運営を?

福島
駅前で飲み合ったメンバーが中心なんですが、(隣にいる)現在ゲストハウスをされている野北さんは文章力や発信力があるので情報発信を、CG会社の社長がスクリーンで流す映像系を、デザイン会社の社長がグラフィック系を、地元商店街の靴屋の3代目(現議員さん)が地元の方々とのつなぎ役をと、分担してやっています。
他にもヨガと英語の講師、介護タクシーをしている人、歯科技工士で天体観測のボランティアをしている方、福岡映画部の石渡さんもメンバーです。
それぞれ本業を別にもちながら、いとシネマの活動は好きで、ボランティアでやってくれています。

近い人たちで築き上げているのが、ローカルな感じでいいですね。

いろんな人たちに支えられて実現した第1回開催

第1回目のいとシネマは、開催にあたってクラウドファンディングを利用したんですよね?

福島
はい。屋外上映イベントとして、上映作品に『マイマイ新子と千年の魔法』を選び、運営資金をクラウドファンディングで募る事にしたら、たくさんの友人や地域の人たちがシェアしてくれたり、支援もしてくれました。
その上で、上映前にトークイベントとか出来ないかと思って、恐れ多くも片渕須直監督に連絡したんです。
Facebookでいきなりメッセージを送ったんですけど、「予定が入っているから登壇できないけれど、出来る限り協力します」と丁寧にお返事をくれて。
片渕監督ご自身にも支援して頂きましたし、SNSで企画のシェアをしてくれたことで、監督や作品のファンの方々にもかなり支援をしてもらいました。
片渕監督ご自身が作品制作や海外展開の時にクラウドファンディングを活用されているので、ファンの方々もクラウドファンディングに馴染みがあったというのもあると思うんですが、「星空の下の『マイマイ新子~』は最高だと思います」と熱いコメントまで頂いて、さらに口コミで広がっていきました。

地域のみんなでシェアして、ファンの人達も巻き込んで、色んな広がりの中で実現に至ったということなんですね。
第1回目の開催はいろいろ苦労されたと聞きましたが?

福島
イベントが本職では無いなか手探り状態でやっているので。上映の版権費用や、イベントの認可申請の取り方も知らなかったですからね(笑)。
今では笑い話なんですけど、福岡では5月3日と4日に「博多どんたく」というお祭りが催されていて、「どんたくの日は雨が降る」っていう「福岡あるある」が実はあるんですよ。屋外イベントだから天気は重要なはずなんですけど、僕ら全く意識せずに5月3日に決めちゃって。
ただ、数日前の天気予報でも当日の朝のラジオでも予報はずっと晴れだったので、これはラッキーだと思って安心していました。
そしたら昼過ぎからだんだん雲行きが怪しくなってきて、とうとう大雨が降って、会場が水浸しになったもんだから、早めに準備していた機材やスクリーン、来ていただいたTV取材も一度全部片付けてもらって。
でも諦められなかったので、夕方小雨になってから急ピッチで準備をし直していたら、小雨が止んで夕焼けに変わったんですよ。夕焼けと共にお客さんが集まってきた時は、まるで『ニュー・シネマ・パラダイス』のワンシーンのようでしたね。
結局上映会は時間通りにスタートできなかったし、準備していた配電盤から予想通りの電気が取れなくてスクリーンがしぼんじゃったり、慌てて配電を見直していたら抜いちゃいけないプロジェクターのコンセントを僕が抜いちゃって進行が一時ストップしちゃったりと、トラブル続きの1回目でしたけど、終了後に拍手が巻き起こった事には感動してウルっときちゃいました。
会場では7、8店舗飲食ブースも出店していたんですけど、ごみも全く落ちていない事にまた感動して。本当に色んな方々に支えられて出来ている映画イベントだなと感じています。

満員となった「第1回いとシネマ」の会場

ご縁が繋ぐ「いとシネマ」のイベント

上映作品やイベント企画はどのように選んでいるのですか?

福島
第1回目の『マイマイ新子~』に関しては、屋外で上映できるかどうか版権の問題もありますが、ただ素晴らしい作品というだけではなく大人も子どもも楽しめるというのが最初の選定基準でした。そしてこの話の舞台は山口県なんですけど糸島とダブるところが多くて。
舞台になった山口県防府市は、山あり海あり自然あり、綺麗な麦畑もあり、1000年単位の歴史もあって、遺跡や歴史を感じさせる直角に曲がった用水路があったりするんですよ。
僕は糸島に移住して麦畑が印象的だったんですけど、この作品を観て「糸島が舞台です」と言われてもいいくらいの共通点に鳥肌が立って。
いとシネマは糸島を肌で感じながら観る映画イベントだから、この作品を是非上映したいと思いましたね。
あとは、自分達が映画を考えていた数か月前に『この世界の片隅に』が大ヒットしていたので、タイミング的にもばっちりだったというのも理由の一つです。

第2回目のいとシネマは、ショートショート フィルムフェスティバル & アジア in 福岡 2017(ショートショート福岡)とご一緒されましたね?

福島
糸島市役所から初めてお話があった時は、まだ第1回目の開催前だったので、受けたい気持ちは凄くありつつも、果たして僕らに出来るのかという思いもあり葛藤しました。
ただ、メンバーで話し合った結果、糸島ならではの映画体験を作れるいい機会だし、不安もあるけど素敵な話だからベストを尽くしてやろうと決めました。

ショートショート フィルムフェスティバル & アジア in 福岡 2017 糸島会場の様子

「俺たちがやらなきゃ誰がやる!」みたいな意気込みを感じますね。
上映は空き店舗を使ったと聞きました。

野北
開催地は糸島の中心街ですが、今はシャッターが降りてしまっているお店も多くて。市役所の方の要望もあり、商店街の活性化に僕も普段動いている事もあったのですが、ショートフィルムなら小さい会場でも出来るし、空き店舗使ってミニシアターを幾つか作って巡ってもらったら楽しいんじゃないかなと思って。やると会場数が多くて結構大変でしたが。

福島
空き物件を貸すきっかけにも繋がったと思います。普段は煩わしくて貸していなかった持ち主の方も、短期間貸したことでまた貸してもいいかもと思ってもらったみたいで。
ショートフィルムで商店街活性化とか、全国的にも良い事例になったと思います。

ショートショート福岡の会場だった店舗を紹介する野北さんと福島さん。

第3回目はどうでしたか?

福島
第3回で上映した『糸』は、『はなちゃんのみそ汁』『ペコロスの母に会いに行く』の村岡克彦プロデューサーが第1回目のいとシネマに来ていただいたことがきっかけで上映しました。
もともと糸島にご縁があったという村岡さんと、糸島で映画を撮りましょうという話になり、オール糸島ロケでおこなわれた撮影のお手伝いをさせていただいたんですが、2018年3月末の公開に先立って試写イベントをいとシネマで開催させて頂いたんです。
その時の会場は小学校のグラウンドだったんですけど、『となりのトトロ』を歌っている井上あずみさんが主題歌を担当されているので来て歌っていただいたり、出演女優さんや監督さんの舞台挨拶も行いました。
こうして振り返ると、第1回目をやったら、いろんなご縁で2回目3回目が決まったという感じですね。

第3回いとシネマでは、『糸』の主演女優 田中美里さんも舞台挨拶に参加した。

糸島ならではの映画体験を子どもたちへ届けたい

いとシネマを実施するうえで、大切にしている事はなんですか?

福島
糸島ってオシャレなカフェがある沿岸部は割と注目を集めているんですけど、いつも僕らがイベントをやっている志摩中央公園や市の中心部などはそこまで注目を浴びていない所なので、そこに映画を介して色んな方々が楽しんで幸せになってくれる、盛り上がってくれる事例を作って、他の地域に発展していくといいなと思っています。

それが喜びであり、目的なんですね。

野北
いとシネマの思いや活動報告は僕がWEBにあげているんですけど、僕は糸島で生まれて、大学から15年間東京に出て、Uターンする前の1年間を利用して世界を旅して周ったんですけど、色んな国や地域で感じたことを通じて、この糸島に還元していければいいなと思っています。

今後糸島だからこそ力を入れたいところとかありますか?

福島
子どもたちに覚えてもらえるように継続をしていきたいですね。
「暖かくなってくると屋外で映画が観られるんだよ」とか、昔観たっていう思い出とか、それがきっかけで何か生まれたり、「糸島には映画館は無いけど、いとシネマはあるけん」とか。

野北
いとシネマの体験をきっかけに自分も何かが生み出せると感じてもらって、クリエイティブな職に就く人が増えたらいいなと思います。
ある意味、田舎の良さは、「無ければ自分で作ればいい」という発想が湧くところにあると思うんです。
都会にいると、あらゆるコストが高くて家に余分なスペースがなかったり、人が密集して住んでいてすぐ近隣トラブルになったりするので、例えば家具が欲しいとなった時、「自分で作る」という選択肢は思い浮かばず、「どこに買いに行くか」しか考えません。でも、そのような問題があまりない糸島だと、「自分で作れるんじゃないかな?」という発想が自然と沸くんです。これってコンセプト的には大きいんじゃないかなと思っています。

福島
糸島市内に映画館があったら、屋外上映をやろうみたいな企画は生まれなかったかもしれませんね。映画館がなかったからこそ、糸島ならではの魅力ある映画館をつくろうっていう発想になったんですよね。


福島さん達にとって足りなかったものが映画だったと。「糸島にこれがあったらいいな」という考えで、これからも糸島にクリエイティブな花が咲いていくとよいですね。

心に残った映画の名台詞

オンラインシアターで配信しているショートフィルムを見て頂いて、どうでしたか?

福島
ショートフィルムって短い間で楽しめていいですよね。1時間で何本も観れちゃってお得な感じがします。特に『軌道上の恋』は、20分の中でハラハラドキドキしながら世界観に浸かってどうなっちゃうんだろうと見ました。ガチなSFというよりかは、色があるSFというか、こういう世界って将来あるのかなぁとちょっとリアルでもあり、なさそうでもあり、アナログとSFが重なったような感じでしたね。

福島さんが紹介した『軌道上の恋』の視聴はコチラ

好きな映画や影響を受けた映画はありますか?

福島
小さい頃に親と一緒に観た『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3』で「未来は切り開くものだ」とドク(クリストファー・ロイド)が言うんですよね。で、父親が映画館から出た時に「良治、未来は切り開くものなんだよ」ってリピートしたんです(笑)。きっと良いこと言っていると思ったんでしょうけど、あの作品って過去とか未来に行って歴史が変わっちゃう話だからこそ、この台詞はとても印象に残っていますね。

自分から発信することの大切さ

最後に、全国に映画祭や上映会など、こういった活動をやりたい人って多いと思うんですけど、そういう方に対して、メッセージなどありますか?

福島
僕らの場合は、単純にやりたい気持ちを発信した事とそれを助けてくれる人に恵まれていたというのが凄く大きかったと思います。
素人でも出来るだろうかというところから始まったので、最初から2000人も来てくれるなんて思っていなかったし、「500人も来ればいいよね」ぐらいに思っていましたけど、発信することによってそこへの反応から情報が集まったり繋がりも増えますし、今の時代資金を集めたり、仲間を募るのはやりやすい時代だと思います。なので、まずは発信することから始めるのがいいのかなと。
なんなら九州近郊であればスクリーンを持って行けるし、協力できることもあると思うので、いとシネマにぜひ声を掛けてください(笑)。

福島良治(ふくしまりょうじ)

いとしまコンシェル合同会社 代表社員
糸島映画祭実行員会 代表
神奈川県横浜市出身。1978年生まれ、3児の父。2015年3月に福岡県糸島市へIターン。移住に先立ち10年半勤めていた楽天株式会社を退職、フリーランスに。企業に対しネット通販を中心としたWEBマーケティングのサポートを行っている。
糸島市や壱岐市でテレワークの推進に携わるなど、自治体と連携した地域の働き方改革や経済発展に向けた活動にも関わっている。
趣味:旅行・食・不動産情報閲覧、言語:英語、イタリア語、スペイン語

野北智之(のぎたともゆき)

福岡県糸島市出身。1981年生まれ。
明治大学大学院建築学修士課程を修了後、某国際的ラグジュアリーブランドにてアフターセールスの仕事に従事。
十数年の東京生活を経て、妻とともに一年間の世界一周の旅へ。
帰国後、地元・糸島に戻り、ゲストハウス「前原宿(まえばるしゅく)ことのは」を運営中。
糸島に関したディープな情報をブログに随時掲載。
糸島のことならなんでも相談可能な「糸島コンシェルジュ」。
糸島グルメの祭典「糸島グルメグランプリ実行委員」。
映画館のない糸島で野外映画上映を行う「糸島映画祭実行委員」。
特技:サルサダンス、言語:英語、スペイン語、少しだけ韓国語。

Writer:青目 健

ショートショート実行委員会 プロジェクト・マネージャー
構成・撮影:青目 健

Share

この記事をシェアする

Related

0 0
記事一覧へ