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MAGAZINE
INTERVIEW
Jun. 12, 2018

【FRONT RUNNER】映画も「モノ」から「コト」へ
伊藤大地さんの「映画体験」論

海を渡って吹く風がさわやかな、ゴールデンウィークの横浜。夕方6時過ぎ、桜木町駅で電車を降りて、みなとみらいの夜景を眺めながら馬車道を歩く。道行く家族連れやカップルはどの人も幸せそうな笑顔を浮かべている。運河を越えて横浜赤レンガ倉庫に到着するとそこは特設の屋外映画館。大桟橋の夜景を望む広場の一角に設置された大型スクリーンを囲んで、幾重にも人の輪が広がり、集まった人たちは思い思いに映画のある時間を過ごしている。「シーサイド シネマ シアター赤レンガ」。「いい休日」という言葉がぴったりの非日常の映画体験だった。
この企画をプロデュースした団体が「Do it Theater」(ドゥ・イット・シアター)だ。2014年に静岡県浜松市で開催した「ドライブインシアター浜松」を皮切りに、広場や駐車場などを映画館にアレンジする上映活動を続けている。継続的にイベントを開催するためにどういった仕組みを作っているのか。上映活動を通して実現したいこととは何か。代表の伊藤大地さんに話を聞いた。

シーサイド シネマ シアター赤レンガ

はじまりは個人で始めたドライブインシアター

先日、「シーサイド シネマ シアター赤レンガ」に伺いました。Do it Theaterさんはほかにも多くの屋外上映のプロデュースをされていますが、何を目的に活動をされていらっしゃるのでしょうか?

伊藤
「屋外上映のプロデューサー」というわけではなく、オンライン・オフラインを問わず「映画で世の中の楽しみを増やしていくこと」を目的としたチームです。様々な映画体験を通して映画の魅力を広げられるような企画を作ることに軸足を置いています。
運営母体となっているのは株式会社ハッチというプロデューサーズカンパニーで、Do it Theaterはハッチのシアターイベント事業部という位置づけです。

伊藤大地さん

どのような経緯でDo it Theater を立ち上げられたのでしょうか?

伊藤
そもそもの始まりは個人的に手掛けたドライブインシアターなんです。私は東京藝術大学大学院を修了後にサウンドデザインと映像制作の仕事をしていたのですが、20代のころ30歳までにやりたい夢が一つあったんです。それが「ドライブインシアターを体験したい!」というものでした。友達と話していたら、同じことを思っている人が多いと知って、「じゃあ、自分たちでやってみないか」ということで準備を始めたんです。
最初は副業として始めたのですが、途中で会社にばれまして(笑)。それからは社内ベンチャー的な位置づけで本業として行うことになりました。ただし、すべてをハッチがやっているわけではなく、映画好き・体験好きなメンバーが会社の枠を超えてプロジェクトベースで集まって仕事をしています。

ドライブインシアターを体験することが夢だったと。

伊藤
古いけれど新しく感じられる60年代から70年代のアメリカンカルチャーが好きだったこともあって、映画の中に登場するドライブインシアターのシーンを見て強い憧れを持っていました。ドライブインシアターの楽しさは映画館と比べて自由度が高いことです。飲食もOK、おしゃべりもOK、小さな子どもが泣いてもOK。そんなエクストリームな映画体験を味わってみたかったんです。

ドライブインシアター浜松

浜松で開催したのには何か理由があったのでしょうか?

伊藤
浜松がドライブインシアターと相性がいい街だったからですね。スズキやヤマハといった企業がある車の町で、駐車場も多い。平日の夜や夜間の駐車場の空間利用として行政に提案して助成金をもらうことができたんです。
浜松の現地チームと東京チームとで連携をとって、クラウドファンディングも活用して資金を集めて実現にこぎつけました。それが2014年、28歳のころのことです。

その空間を誰かと一緒に楽しむこと

実際に開催してみての手ごたえは?

伊藤
「モノからコトへの転換」とよく言われますが、当時は4D映画なども登場して映画を「体験する」という考えが一般化しつつある時期でした。映画そのものよりも体験がメイン。浜松での開催でしたが東京など遠方から特別な体験をするために来てくれた方が多く、「その空間を誰かと一緒に楽しむ」という需要が大きいことを実感しました。

現在では横浜や品川など活動の幅が広がっていきますね?

伊藤
2014年の段階では年に一度程度で進めていきましょう、という感じでした。それが、浜松での成功を目にとめていただいて、シアターイベントのプロデュースとして初めて依頼の仕事が来たんです。それが、グザヴィエ・ドラン監督の映画『Mommy/マミー』の公開プロモーションとして実現した「ドライブインシアター相模湖」でした。
現在では、ドライブインシアターにとどまらず、品川や横浜で開催したような屋外上映をメインとしたシアターイベントのご依頼もたくさんいただいています。

特に思い入れのあるイベントはありますか?

伊藤
品川シーズンテラスで年に2~3回ペースで開催している「品川オープンシアター」は私たちの拠点になっていますね。品川シーズンテラスさんが主催ですが、基本的にはDo it Theaterにプロデュースとクリエイティブを任せていただいていますので毎回チャレンジングな企画に取り組めています。

例えばどんな企画を実施されてきたのでしょうか?

伊藤
『ジュラシック・ワールド』や『ハムナプトラ』の上映を行いました。会場づくりにいかに作品を反映させるかを考えていて、露店や上映前に行うパフォーマンスは作品とのマッチングを大切にしています。
カップルや家族づれ、さらには犬と映画を観ている方がいて、他ではできない映画体験をちゃんとできていると思います。そんな光景を見てやってよかったと心から思います。品川はカップルが多くて、見ていてちょっと恥ずかしくなることもありますが(笑)
それから、シーズンテラス自体はオフィスビルですが、周辺には住民の方もたくさんいらっしゃいます。住んでいる人と働いている人とが同じ場所を共有できる点もユニークな空間づくりだと思います。

品川オープンシアター

Do it Theaterが目指すもの

改めてDo it Theaterがよのなかに提供している価値とは?

伊藤
映画体験をもっと気軽にできる機会を作ることです。参加される方は場所によって変わりますが、みんなで同じ映画を観て同じ気持ちになる、一体感が高まる瞬間をより身近に体感できるのが、屋外上映の特徴です。隣の人と同じことを思っているんだ、と見ず知らずの人同士が柔らかくつながる場所としての価値があります。
日本では、宣伝費が潤沢でない作品はよい映画でも動員が伸びずに終わってしまうという課題があります。そこを、私たちがプロデュースとクリエイティブのアプローチで解決できないか、という意識で取り組んでいます。つまり、イベントをきっかけに映画に興味をもってくれる人を増やしたいと考えています。だからこそシネフィル層ではない映画に対してライトな関心の層や若年層への訴求に力を入れています。若い人が写真を撮るインスタスポットを作るなど、反射的に「なにそれ?行きたい!」を生み出すような仕掛けづくりですね。

これからのDo it Theaterはどのようなビジョンを描いていらっしゃいますか?

伊藤
屋外シアターが、週末に当たり前にある環境を数年以内に作ります。まだ屋外上映を体験されたことのない方にぜひ来てもらいたいですね。
また、これまで実施してきて課題に感じているのが資金面です。現状では、それなりの規模でイベントを開催しようとすると、資金のある企業しか実現できないということになってしまいます。今後は、想いのある主催者と土地を持っている人、広告的に空間を活用したい人とをつなぐことで、主催者の費用負担を抑えて実施できるモデルを構築できればと思います。

気軽に映画を楽しむ機会は、気軽に企画を実現できる仕組みがあってこそですね。

伊藤
これまでいろいろなご縁をいただいてシアターイベントを企画してきましたが、やるべき仕事を選んでやるのがDo it Theaterのブランディングです。ここで言う「やるべき仕事」とは、ストーリーがあって主催者の熱い想いがのっているプロジェクトです。
例えば富山県朝日町の海岸で実施した「星空のナイトシアター」は、「映画館のない町で地域の人たちとナイトシアターを作りたい」という昭和女子大学の学生たちのオファー受けてコラボした企画です。地域の活性化のためにはその土地に根付くことが重要だと思うので、一過性のお祭りではなく計画を立てて今後も続けるようにしています。会社としても、意義があって黒字であれば収益の大きさは重要視しないというスタンスでいてくれています。
最近では、自主プロジェクトで個性的な映画館をフォトジェニックに紹介する「シネマティック ガール プロジェクト」を始めました。現時点では収益を見込めるものではありませんが、私たち自身の映画への熱い想いがこもったプロジェクトです。今後はこのような自主プロジェクトにも力を入れていきたいです。屋外・室内の隔たりなく、私たちなりのやり方で映画体験の未来を創っていこうと思います。

伊藤 大地(いとう・だいち)

1986年生まれ。東京藝術大学大学院映像研究科卒。株式会社ハッチ シアターイベント事業部Do it Theater代表。プロデューサー。日本国内ドライブインシアター復活の礎となった「ドライブインシアター浜松」(2014)をはじめ、 映画イベントを軸に、ムービーやインタラクティブコンテンツなどジャンルレスにプロデュースを行う。

Do it Theater

「あたらしいシーンは、シアターからはじまる」をコンセプトに活動する、シアタープロデュース&クリエイティブチーム。
80年代に日本各地で開催されていたドライブインシアターを復活させた「ドライブインシアター浜松」や「Suchmosドライブインシアター」をはじめ、品川シーズンテラスを舞台にした「品川オープンシアター」、横浜赤レンガ倉庫を舞台にした「シーサイド シネマ」など様々なシアターイベントをプロデュース。
公式WEBサイト:http://www.ditjapan.com

Writer:大竹 悠介

ブリリア ショートショートシアター オンライン編集長/ショートショート フィルムフェスティバル & アジアwebマネージャー

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