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MAGAZINE
INTERVIEW
Apr. 30, 2019

【FRONT RUNNER】郵便局をリノベーションして誕生
「THE STORY HOTEL」マネージャーに聞く、映画×演劇の新しい体験

20193月、横浜駅東口に誕生したエンターテイメントビル「アソビル」。4階建ての元郵便局の建物を改装し、様々なアクティビティがつまった注目のスポットだ。その中に「THE STORY HOTEL」という体験型シアターがあるのをご存じだろうか?アンティークなホテルをイメージしたスペースで、最大9本のショートフィルムを一度に観ることができる。さらに、プロの舞台俳優が案内役を務め、映画上映と演劇を組み合わせたユニークな試みだ。

今回は、「THE STORY HOTEL」をプロデュースするアカツキエンターテイメントの鈴木萌子さんに、企画の成り立ちや狙いについて話を伺った。

鈴木萌子さん

ふたりで行くともっと楽しい!「THE STORY HOTEL」の設計理念とは?

まず「THE STORY HOTEL」のコンセプトはどういったものになるのでしょうか?

鈴木
「ショートフィルムを体験できる特別展示」という風に私たちは呼んでいます。映画を観る形態って、大きい画面に対してたくさんの客席が並ぶモデルが何十年も続いていてあまり変化がないと思っているのですが、「もっと別の形があってもいいんじゃないかな」という疑問が、背景にありました。
それから、「映画の世界に入る」こと。演劇でも「イマーシブシアター」が欧米中心に普及してきたのですが、自分たちがその世界に入り込む特別感みたいなものをいろいろな方々に知っていただきたいなと。このふたつの掛け算で今回の企画が成り立っています。

「イマーシブシアター」とは、どういったものなんですか?

鈴木
演劇というと、普通は舞台の上に載っている役者さんを客席から観るというモデルだと思うのですが、イマーシブは舞台の中にお客さんが入り込んでその役者の演技を観る、客席と舞台が分かれていないタイプのスタイルですね。ここ5年~10年ほどの間に出てきた新しいスタイルで、今回の「THE STORY HOTEL」でも同じ空間の中で役者さんがお客様をお迎えします。

入り口を入るとそこはホテルのエントランス。フロントマンに扮した俳優が来場者を迎え、物語が始まる。

映画を観るソファーが二人掛けであるなど、ふたりで楽しむことを想定しているように思うのですが、その狙いは?

鈴木
そうですね。ひとりでいらしていただくお客様も多くて、楽しんでいただいているのですが、おふたりで体験していただくとより楽しんでいただけると思います。特に、最後の手紙をご自身で作るステージでは、カップルの方だとお互いに交換されていて微笑ましいです。
映画や演劇を「普段は観ないよ」っていう人たちに、「これだったら試してみようかな」っていう新しい鑑賞の入り口になってもらいたいという想いがありますので、デートで行くたくさんのエンターテインメントの中から選んでいただけると、もともとの目的にはマッチしますね。

二人掛けソファーの客室(ブース)ごとに異なる映画を観ることができる。

ブースごとに設置されているカードには劇中の名台詞がタイプされている。カードを集めて、最後に今日の一言を選ぶ。

特にカップルを意識されているのでしょうか?

鈴木
そこに限定している訳ではないのですが、一緒に個室に入るだけでドキドキするような付き合いたてのふたりが、仲良くなってくれたらいいなと。 

一気に距離が近くなりますよね。

鈴木
そうなんですよね。映画を観に行って、そのあとご飯を食べながら感想を話し合うのは少なくない方がご経験されていると思うのですが、たくさんの作品を観て「どれが好きだった」と話し合ったり、手紙を送りあうことで深い共同体験につなげてもらったりすると、もっと仲良くなれるんじゃないかなって思っています。仲良くなりたい女の子を連れて来たらすごくうまくいくんじゃないかと企画の段階から考えていました(笑)

〜分かち合ってこそ、本物の幸せ〜

場内には案内役として3人の役者さんがいらっしゃいますが、どんな方々なんでしょう?

鈴木
30人ほどの役者さんに演じていただいているのですが、小劇場系のスター俳優さんだったり、2.5次元系の俳優さんだったり、普段俳優として活躍されている方を中心にキャスティングしています。舞台ではないところで演技をすることや、世界観の中にお客さんも自分もいて、その世界の住人になるところを役者の皆さんも評価してくださっています。みなさん想いで集まってくださっているので、ありがたいですね。
役者さんによってはアドリブも入れて、お客様とのインタラクティブ性も楽しんでいただけるようになっています。それは役者さんの対応力みたいなところでいろいろな引き出しがあるのかなと思います。

電話ボックス型の鑑賞ブース。ベルボーイがご案内。

元郵便局のビル1棟を丸々リノベーション!「アソビル」とは?

次に開業の経緯について伺います。「THE STORY HOTEL」は横浜駅直通の複合型体験エンターテインメントビル“アソビル”の一部ですが、アソビルができた経緯を伺えますか?

鈴木
アソビルは「遊べる駅近ビル」をコンセプトに立ち上げました。アソビルを企画運営しているのはアカツキライブエンターテイメントという会社なんですが、その親会社であるアカツキはモバイルゲームなどデジタルのエンターテインメントを提供している会社なんです。リアルかデジタルかを問わず、ワクワクドキドキを広めていくことを多面的にいろいろなところでやっているんですね。
その中で「より体験にフォーカスして新しい価値をお客様に提供できないか」というチャレンジで作った施設がアソビルです。最初は「おお、こんな大きいビル本当にやるのかい!」みたいなところもあったんですけれど(笑)

1Fエントランスの壁画

ここは郵便局の建物だったんですよね?

鈴木
かつては横浜中央郵便局別館の建物でした。「THE STORY HOTEL」でも手紙が出てきますが、郵便局としての背景を意識して作っています。アソビルは、日常の中で様々なエンターテイメントに触れることで、知的好奇心を刺激し、皆さんの人生を豊かにしたいと思っています。全フロア違うエンターテインメントを提供しようということで、地下はテクノロジーやアートを活用した上質な大人の遊び場であるアミューズメントパーク。1階は飲食店街で、ローカルに根付いて人気のある店舗さんにテナントさんで入っていただいています。中央にはステージがあり、食事やライブを楽しんでいただけます。
2階が「THE STORY HOTEL」も入っている「ALE-BOX(エールボックス)」。いろいろな体験のできる遊びがシーズナルに変わっていく、エンタメ体験のセレクトショップです。3階がものづくりを体験できるフロアになっていて、4階が屋内キッズテーマパーク、屋上がマルチスポーツコートになっています。

映画から「気づき」を持ち帰る場所

「THE STORY HOTEL」は鈴木さんの発案なのでしょうか?

鈴木
ショートフィルムを配給している株式会社ビジュアルボイスに大学時代の友人が務めていて、久しぶりにご飯を食べに行ったのが2018年の夏でした。その時に彼女からサンプルのDVDもらって観てみたんです。1本10分くらいの動画なので、YouTubeとかそういうものをイメージしていたのですが、いざ観てみると質の違いというか、物の違いに圧倒されて、これはきっといろんな人にとっても驚きなんじゃないかなと思ったんです。
ショートフィルムって触ったことがない人もいっぱいいるし、ショートフィルムなら新しいエンターテイメントの形を提供できるなあと思って、「THE STORY HOTEL」の企画を立ち上げました。

ショートフィルムのサンプルを観たときに「圧倒された」というのは具体的にはどういうことなんでしょうか?

鈴木
短い中にもしっかり起伏があって、ちゃんとオチがあって観終わった後の満足度がきっちり構成されていることですね。映像の質も高いですし、短いぶん鋭い切り口でテーマを表現しているものもあります。私は映画のプロデューサーもしているのですが、商業映画で2時間の尺で作るのは無理なテーマが、ショートフィルムだとちゃんとエンターテイメントとして成立している面白さがありますね。ショートフィルムだからこそできる体験が、普段映画に携わっている身としても驚きでした。

準備は夏からはじめられたのですか?

鈴木
実務的な準備に着手したのは冬を迎えてからだったのですが、その前に「映画を観るってことはどういうことなんだろう」と考える時間がありました。そのなかで構築した部分はあると思います。

「映画を観る」とはどういうことなんでしょう?

鈴木
映画を観るのって受動的なケースが多いと思うのですが、その中で一つでも気付きがあると特別なものになると思っていて、その気付きを得られるような場所を作るべきなのではないかと。重要なのは時間の長さではなく、気づきをどれだけ作れるのかだと思っています。

気づきを持ち帰ってもらえる場所。

鈴木
皆さんに映画の中の台詞の一節が書かれたカードを持って帰っていただくのですが、あれはまさにそういうことです。ああいった映画の中のセリフって実は深く考えられているので、映画から言葉を抽出する、その抽出を感じていただけるだけでも気付きにつながるんじゃないかなと思っています。

一緒に行った人から「初めて会った日のことをおぼえている?」っていうのをもらってドキッとしました(笑)。

鈴木
そうなんですよね(笑)。映画の中のことって映画の中で完結してるものも確かにあるんですけれど、ちょっと自分の生活の中に持ち帰れるものがあると本当に豊かな人生に映画が寄与できる、貢献できるなあと思っていて。そういうパワーのある映画ってたくさんあると思うんですけれど、それが効きやすくなるよう編集するような感じですよね。

選んだ映画の言葉を、その場でタイプして手紙にしてくれる。

ショートフィルムとのファーストコンタクトを意識したセレクション

作品選定の際に心掛けていることはありますか?

鈴木
毎月テーマと作品を入れ替えるのですが、選定のポイントの一つは季節性ですね。長編映画って必ずしもお客さんの季節に合わせて公開されているわけではありません。その点、ショートフィルムはたくさんの作品から選べるから、季節性を重視したセレクトができます。
それから、「映画通ではなく普通の人が観る」ことを意識しています。お客様にとってはショートフィルムとのファーストコンタクトになると思っているので、まずは「ショートフィルムってこんなに面白いんだ」と、私が最初に感じたものを皆さんにも感じていただければと。ですから、普遍性や一般性を重視して選んでいます。エッジが尖りすぎているものよりは、「こんな世界があるんだ」と知るイントロダクションとしての位置づけかもしれません。

ストーリーのわかりやすさや、観た後に気持ちがポジティブになることと解釈してよろしいですか?

鈴木
すべてがハッピーエンドという訳ではないですが、オープニング作品に関してはそういったものが中心のラインナップになったと思います。ビジュアルボイスさんに候補の作品を選んでいただいて、その中からセレクションしているのですが、最後は私たちの好きな順に選んでみました。

次回の作品は?

鈴木
GWが4月末からスタートするので、少し前倒しにするかもしれませんが、基本的には毎月1日に変更する予定です。詳細は公式ツイッターで今後発信していきますので、ぜひチェックをしてみてください。

生き生きとしたキャラクターが魅力!『ボガビラのバス』に注目!

―BSSTOではオンラインでショートフィルムの配信をしているのですが、5月3日(金)から8月2日(金)まで配信する『ボガビラのバス』は、「THE STORY HOTEL」のオープニング上映作品でもあります。こちらの作品のご感想をいただけますか?

『ボガビラのバス』(2016年/オーストラリア)
8歳のオスカーは親友のアシュリーに、自分の気持ちをうまく伝えることができない。ある日やってきたアシュリーとの別れ。最後のチャンスを逃してしまったオスカーは、スクールバスをジャックしてアシュリーの元に走り出す!

鈴木
キュレーションした中でも実は一番好きな作品です。キャラクターがすごく生き生きしていて、キャラクターごとの人間性が短い時間の中でしっかり紹介し尽くされていて、すごいと思いました。脚本家の腕を感じる作品ですね。

登場するキャラクターの中で誰が一番好きですか?

鈴木
花火の兄弟はかわいいですね。あとおじさんですね、バスの運転手の。仕事にいい加減なんだかいい人なんだかみたいなバランスがすごくリアルで。スクールバスの運転手さんってきっとああいう人なんだろうなっていう人柄みたいなものが、説明的でなく紹介されていて素晴らしいなって思いました。

『ボガビラのバス』で好きなシーンはどこですか?

鈴木
走り出す瞬間じゃないでしょうか。おとなしい子が想いを手紙で伝えるとかじゃなく、すごく大胆な行動に出るシーンです。音楽も変わってグッとギアがチェンジする瞬間だと思うんですが、あそこはワクワクしますよね。「THE STORY HOTEL」を作る企画会議の時や、役者さんに説明をする時にも『ボガビラのバス』を観てもらいました。

最後に「THE STORY HOTEL」の今後の展望について伺えますか?

鈴木
まずは今の形でいろんな方に知っていただきたいというのはあるんですけれど、構想としてはもう少し一本一本をじっくり楽しんでいただくとか、よりイマーシブな展開があったりだとか、チャレンジできる切り口はいろいろあると思っています。みなさんにお渡ししている手紙の中身も月ごとに変えていこうと思っているので、コレクションしていただける方がいたら嬉しいですね。

現在の形が完成形ではなくて。

鈴木
そうですね。ちょっとずついろいろ変えていく場、実験場にしていきたいと思っているので、それも含めて楽しんでいただけたら幸いです。

(取材:大竹 悠介)

鈴木 萌子(すずき・もえこ)

外資系コンサルにて、日系企業の世界展開をサポートする戦略コンサルティング事業に従事。その後、愛するエンターテインメント領域で「世界への橋渡し」を実現すべく、日本のIPとハリウッドを中心としたグローバル市場をつなぐユニークな役割で数々のプロジェクトに携わる。2017年にモバイルゲームを軸足に、世界にエンターテインメント体験を提供するアカツキと出会い、グローバル映像事業会社Akatsuki Entertainmentの立ち上げなど、新たなエンタメ領域を開拓する新規事業を手がける。

THE STORY HOTEL

住所:〒220-0011 神奈川県横浜市西区高島2-14-9 アソビル 2F
アクセス:横浜駅みなみ東口通路直通、横浜駅東口より徒歩2分
営業時間:11:00〜20:00(19:00最終入場)
料金:シングルチケット:2,000円、ペアチケット:3,600円
WEBサイト:https://ale-box.com/thestoryhotel/
Twitter:https://twitter.com/THESTORYHOTEL

Writer:大竹 悠介(おおたけ・ゆうすけ)

「ブリリア ショートショートシアター オンライン」編集長。大学院でジャーナリズムを専攻した後、広告代理店勤務を経て現職。「映画体験の現代的な価値」をテーマに全国の取り組みを継続取材中。ショートショートではWEBマネージャーやクリエイターコミュニティの運営を兼務。
Twitter:@otake_works

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