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MAGAZINE
INTERVIEW
Nov. 13, 2018

【FRONT RUNNER】親と子の間を縮める映画体験
~ねぶくろシネマ・唐品知浩さんの映画論~

寝袋にくるまって屋外で映画を楽しむ「ねぶくろシネマ」。ある時は都市の中の公園で、ある時は駅前の商業施設の壁面で、またある時は山のすそ野のキャンプ場で。いろいろな場所が即席の上映会場に変わる上映イベントだ。2015年に調布市の多摩川河川敷で始まった取り組みが、いま全国に広がっている。
聞くところによると、この「ねぶくろシネマ」は調布に住む父親たちが子どもと一緒に映画を楽しむために始めたらしい。今回は創設者で代表の唐品知浩さんに話を聞いた。

元リク・不動産サイト運営者が始めた野外上映会

本日はよろしくお願いします。はじめに、唐品さんのご経歴からお伺いします。調布を拠点に活動をされていますが、ご出身も調布市ですか?

唐品
生まれは東京ですが、親の都合もあって、東京都内を転々としていました。現在の実家は国分寺にあって、結婚のタイミングで実家と都心部の間にある調布市に家を買いました。

唐品知浩さん

子どものころから映画はよく観ていたのでしょうか?

唐品
「東映まんがまつり」とか『南極物語』とか観てはいましたけど、すごく行ったかと言われるとそうでもないですね。大学生の時にはスキー・スノーボードによく行っていて、往復3~4時間かかるのでDVDを借りて、車の中で観るみたいなことを毎週していたので数は観ていたけれど、コアな作品を観ると言うよりはメジャーな作品を観ることが多かったですね。映画業界の人ではないので、皆が知らないものを知っている訳ではないです。

お仕事はどのようなことをされているのでしょうか?

唐品
「別荘リゾートネット」という別荘の不動産仲介サイトがメインの仕事です。元々リクルートで「SUUMO」という不動産メディアの営業担当だったので、それを別荘バージョンにしたようなメディアを今やっています。
それから、平日の夜にテーマを決めてアイディア出しをしながら飲む「面白がる会」という飲み会をやっています。いわば「アイディア出し飲み会」ですね。「ねぶくろシネマ」も「調布を面白がる会」をやっていて、そこから生まれました。そして、休日に「ねぶくろシネマ」などをやっています。

ご自分で会社を経営されていらっしゃるんですか?

唐品
別荘のサイトは2人でやっていて、ねぶくろシネマを手掛ける合同会社パッチワークスは4人なので、1人ではやっていないです。

「SUUMO」を辞めたのはいつ頃ですか?

唐品
2012年ですね。

それから起業されて?

唐品
ちょっと被っていますけど。元々リクルートでやっていたメディアをスピンアウトさせた感じですね。

「子どもがいると映画館に行けない」―身近な課題に着眼点があった。

それでは次に、「ねぶくろシネマ」についてお話を伺いたいのですが、「ねぶくろシネマ」は屋外上映のブランドという認識でよろしいでしょうか?

唐品
そうですね。ただし、野外に100%こだわっているかというとそうでもなくて、どこでも映画館になるけれど、そのうち野外の方が気持ちがいいのでこれまでは野外を選んできたということです。墓場でホラーを観たらリアルだと思うし、野球場で野球の映画を観たら臨場感があると思うし、場に合った映画を観るというブランドだと思っています。

成り立ちの経緯をお聞かせ下さい。

唐品
僕が男の子3人のお父さんなんですが、これだけ男の子がいると映画館になかなか行きづらいんです。途中でトイレとか、泣き出すとかあるので。そういう子どもを抱えているのが背景にありますね。
一方で、調布市も「映画の街」と言いながら、当時は映画館も無くなってしまって、映画の街らしさが無くなっていたと。市役所も映画の街をより広めるためのアイディアに困っていました。同時期に、元々僕が子どもと河川敷で遊ぶことが多くて、その時に京王線の橋脚が気になっていたんです。スクリーンになるかな、とFacebookで呟いたんですね。そうしたらすごく盛り上がって。

なるほど。身近な問題意識から始まったんですね。

唐品
その後に調布で「面白がる会」をやったら、来ていた人が僕がFacebookで呟いたのを思い出してくれて、橋脚に映す映画みたいなのやりたいよねと言ってくれて、具体的に動き出したという感じですね。
その場に市役所の人も居たので、経緯も分かっていたから許可もすぐ取れて。2週間後くらいに試写をしに行きました。古い橋脚も味があってかっこよく見えて。それもいいなぁと思いました。いいと思ったら、みんなに教えたくなるので、なるべく早く開催したかったんです。
ただ、やろうと思った時が10月末、暖かい春を待つべきなんでしょうが、やりたくなっちゃったので、許可が取れる最速の12月に開催を決めました。次にブランドを決めなくてはならなくて、河川敷で焚き火とかやったら怒られるので、そういうのを使わなくても色んな場所で出来るのが良いよね、と。そんな話の中で、寝袋だったら家で眠っているし、夏は使うけど冬は全然使わないよねということで、「ねぶくろシネマ」と名付けてプレスリリースを打ちました。そうしたら一発目でありながら色々なメディアに取り上げてもらって。1回目は100人くらい河川敷に来てくれましたね。

それが何年前のお話ですか?

唐品
それは2015年の12月ですね。

割と最近ですね。

唐品
そうですね、3年経ってないくらいかな。今年の12月で3年目ですね。映画メインで子どもが騒いでもいいように野外にして、ファミリーが気兼ねなく観られるように、というのをコンセプトに決めて走り出したという感じです。

上映場所で言うと、調布だと河川敷でやったりとか、駅前でやったりとか。

唐品
調布でやっているのはその2か所ですね。7分に1本くらい上を電車が通るので、その間は比較的聴こえないみたいな所です。なので、日本語映画でも日本語の字幕を出して、聴こえなくなったら字幕読んでね、と。悪く言えばいい加減、ラフでいいと。ちゃんと観たいんだったら映画館に行った方が良いし、子どもと一緒にごろごろしながら観るなら野外の方がいいかな、とは思っています。

現在では、調布だけでなく全国で開催されていますが、開催頻度はどれくらいでしょう?

唐品
「子どもと映画館に行けない」という課題は全国共通だと思います。ありがたいことにコンセプトを理解してくれた方々から開催したいというお声掛けをいただくようになりました。今年だけで33回くらいまでは決まっているので、今年は年13回くらい開催しました。スポンサーもついてくれるようになって、ビジネス的にも回る様になりました。

お父さんは映画上映人!子どもに背中を見せる仕事。

ファミリー向けのコンセプトで今までやってきて、実際にどんな風景が作れましたか?

唐品
お父さんの膝の上で子どもが乗っていて、一緒に何かを観る事って最近少なくなってきていると思うんです。そこを、寒いとくっつかざるを得ないじゃないですか。「ねぶくろシネマ」に来た家族がより近くなって観る、そういうシーンはよく見ますね。
個人的にも、意味はあります。子どもに対して自分の仕事を説明するのって難しいんですよね。「不動産のウェブを運営していて、それを一枠いくらで売っているんだよ」って。子どもたちは、僕が司会している姿を見て、お父さんは映画の人だと思っているんです。僕の姿をみて子どもたちは喜んでくれる。子どもたちに父親の背中を見せられるというのは良いのかなと思いますね。

地元でお父さんが働いているのはいいですよね。私もベッドタウン育ちですが、父は都内で働いていたので、仕事している姿なんか見たことなかったです。

唐品
そうですよね、何やっているか分かんないし。そういう意味でも、より子どもに近くなっているかもしれないです。

調布駅前の壁画は、映画の街をテーマにしたイラスト。

作品の選定でこだわっている点はありますか?

唐品
基本的に僕はメジャー作品以外は映画を知らないし、「俺がいいと思った映画を観ろ」っていうタイプではないので、「自分達が子どもの時代に観て良かった映画」を今の子どもたちにも観せてあげたい。
小学生前半くらいになると、トーマスとかポケモンとかそういうのに行きがちじゃないですか。そっちじゃない面白い映画もあるよね、と教えてあげたいなって。「『バック・トゥ・ザ・フューチャー』観ようよ」って誘っても、家の中じゃ乗ってきてくれないじゃないですか。そこを、「野外で映画やっているから行こうよ」「映画はどんなの?」「ドラえもんのタイムマシーンみたいなやつ」と言うと来てくれるので、分かりやすい映画の方が良いと思います。だからと言って子どもに寄り過ぎず媚を売る感じではない。その辺を何となく選んで、借りられるものを映画会社さんにお願いしている感じです。

いろんなコンセプトで新ブランドを立ち上げたい

唐品さん自身、お子さんが大きくなっていって、一緒に観るということを卒業することになると思うんですが、その先、ねぶくろシネマをどうしていきたいですか?

唐品
「ねぶくろシネマ」ってファミリーだけなんですけど、今後は色んなブランドがあっていいと思っています。例えば、カップル向けの「大人のねぶくろシネマ」があってもいい。野外だからこそ出来る事というか、のびのびした感じというか、デートに行く理由・誘う理由みたいなのがあってもいいと思います。
都市部でもまだまだ空きスペースってあるじゃないですか。例えばデパートの屋上とか。そういう所を使えば平日の夜でも出来ると思います。映画はバリエーションが豊富だし、企業マッチングもしやすいと思うので、色んなターゲットに対して上映会を作っていけるのではないでしょうか。海外でも権利さえ許せば全然いけるモデルだと思うので、車に機材一式詰め込めば、台湾とか韓国ぐらいまで行けるよねと仲間と話をしていて、どんどん広げられるのかなという気はします。

ファミリーに限らず、色んなコンセプトを別ブランドで作ってという感じですよね。

唐品
やっていきたいですね。

明かせる範囲でいいんですが、今後のラインナップで温めているものはありますか?

唐品
プロジェクトで言うと、六本木のミッドタウンでも始まりますし、競馬場もオリジナルブランドを作ろうと思っています。「ねぶくろシネマ」のブランドとは別に定期開催をしていくモデルにしたいと思っているので。
あとは作品の権利について環境整備を進めていきたいです。今は野外上映に映画を出してくれないコンテンツホルダーもあります。野外上映を行う組織が共同で団体を作って、レギュレーションをちゃんと定めれば出してくれるようになるだろうとか、その辺はちゃんと考えて行かないと、出来る映画が限られてきちゃう。

権利は難しいですよね。最後に、唐品さんにとって映画を観ることの価値って、一言で言うとなんでしょうか?

唐品
新しい体験ですよね。自分にない体験なので、人生経験を含めて新しい体験が出来ると思うので、とてもいいことだと思います。宇宙人に会う体験なんて、無いと思うので。それに近い環境で、より臨場感をもって出来れば良いのかなと思いますね。

取材:大竹 悠介
撮影:杉田 拡彰

唐品 知浩(からしな・ともひろ)

株式会社リゾートノート取締役。1973年生まれ。別荘専門の不動産サイト「別荘リゾート.net」の運営をしながら、「ねぶくろシネマ」を主催する地元 東京都調布市の父親たちで結成したまちおこし会社 合同会社パッチワークスのメンバー 兼 ねぶくろシネマ実行委員長。個人的に「◯◯を面白がる会」というブレスト型飲み会を定期的に開催するなど、活動は多岐に渡る。

ねぶくろシネマ

河川敷の橋脚等に映画を映し、星空を見ながら映画・飲食とともにその雰囲気を楽しむイベント
オフィシャルサイト:http://www.nebukurocinema.com/

Writer:大竹 悠介

「ブリリア ショートショートシアター オンライン」編集長。大学院でジャーナリズムを専攻した後、広告代理店勤務を経て現職。「映画体験の現代的な価値」をテーマに全国の取り組みを継続取材中。ショートショートではWEBマネージャーやクリエイターコミュニティの運営を兼務。

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