2018年2月14日にローンチしたBrillia SHORTSHORTS THEATER ONLINE。
オリジナルのインタビュー記事として、さまざまな映画上映体験をプロデュースしているフロントランナーたちにインタビューを行ってきました。その数12人。
今回は今年行ったインタビューを振り返りつつ、2019年の映画体験がどう進化していくのか考えます。
非劇場型の映画上映活動が日本で広まる、その先駆者が有坂塁さんと渡辺順也さんが立ち上げた上映ユニット「キノ・イグルー」です。
まだローンチする前に行った有坂さんへのインタビューが、私たちBSSTO編集部が作ってきたその後のインタビューの方向性を決定づけたと言っても過言ではありません。
屋外上映って「インスタ映えする流行り物」のように認識をしていたのですが、有坂さんの考えていることはもっと深いところ。「映画を間に置いたコミュニケーション」という点にありました。
ただのイベントではない、映画だから生み出せる価値とはなにか。私たちは、映画上映を通してどんな価値が提供できるのか、会う人ごとに聞くようにしています。
ちなみに、プロのサッカー選手を目指していた有坂さんが夢破れて帰郷し、その後、キノ・イグルーを立ち上げるまでのお話も面白いです。
それと、記事にはしませんでしたが、「キノ・イグルー」の名付け親はフィンランドの映画監督アキ・カウリスマキだそうです。
キノ・イグルーがプロデュースした「ピクニックシネマ」の開催風景
映画上映を「地域」の視点で語ってくださったのが、神奈川県逗子市の海岸近くで映画を切り口とした複合カルチャー空間「CINEMA AMIGO」(シネマアミーゴ)を運営する長島源さん。「世代や分野を超えて多様な人たちが肩書きを外して繋がりあう場所」を目指して作ったとのことで、地域に住む様々な人が集まる「私設公民館」となっています。映画がいつもかかっている場所だと、敷居の高さを感じることなく、誰でも気軽に訪れる場所になるのかもしれません。
また、長島さんの面白いのは、「映画」だけではないところ。音楽あり演劇あり写真あり、そしてアウトドアやスポーツありの「逗子カルチャー」を担っている存在です。長島さんとその仲間で2010年から毎年G.Wに「逗子海岸映画祭」も主催。仲間たちが日本全国・世界各国を旅して得た色々な経験や人脈を逗子に持ち帰るイベントです。
ローカルがローカルに閉じずに、グローバルに繋がっている点。逗子ならではの地元感と開放感とを感じます。
ちなみに、とても男前の長島さん。モデルの仕事もされているそうです。
>>インタビュー記事
逗子海岸映画祭
ディティールにこだわったフォトジェニックな野外映画祭。その一つが「夜空と交差する森の映画祭」です。屋外上映イベントが増えた昨今で、同映画祭のユニークな点は「カップルがデートで訪れる」イベントだという点。
「ちょっと肌寒い時期なので、寄り添って観てもらえたらなぁって。夜は寒いので1枚のブランケットに二人でくるまって観ている人も結構いますよ」
と代表のサトウダイスケさんは語ります。
誰と一緒にどんな体験価値を作るのか。幸せな姿をイメージできるのが映画体験を作る際のポイントなのかもしれません。
夜空と交差する森の映画祭
「森の映画祭」がカップル向けなら、唐品知浩さんの「ねぶくろシネマ」は親子向けの上映イベント。
地元・調布市の父親たちが、多摩川の河川敷の橋脚をスクリーンに見立てて上映したのが始まりだそうです。わんぱくな子どもが3人いる唐品さんにとって「映画館に行きづらい」というのが、身近な問題意識だったそう。
「泣いたり走り回ったりしても気にならない、ラフな環境で映画を観たい」そんな自分や周りのファミリーの需要を背景にできたイベントです。
調布駅前の上映風景
最後に紹介するのが、恵比寿の老舗ビストロや三軒茶屋のカフェなどで定期開催している映画上映会「café de cinéma」の「ちゃっぴー」さん。
「café de cinéma」がユニークなのは、その開催頻度。多い時には週4日ペースで、日替わりで場所を変えて上映しています。
1回の上映会に集まるのは5人から10人ほど。ちゃっぴーさんがセレクトした、ちょっとマニアックでインディペンデントな作品を鑑賞した後は、お酒やコーヒーを飲みながら参加者同士で感想を語らいます。
非劇場型の上映会の多くが、年に1回の大規模なイベントなのに対して、「café de cinéma」は日常の中にある、映画習慣と言えるでしょう。
コース料理と一緒に映画を味わう「ビストロシネマ」
今回紹介しきれませんでしたが、BSSTOでは様々なフロントランナーにインタビューをしてきました。
例えば、神奈川県江ノ島の近く「映画と本とパンの店・シネコヤ」をオープンした竹中翔子さんや、ドライブインシアターなどのイベントをプロデュースするDo it Theaterの伊藤大地さんなど。
非劇場型で上映活動をしている人に共通しているのは、映画を楽しむ幅を拡張していこうとされていること。映画人口が縮小しているとか、映画館の廃業が進んでいるとか、危機が語られがちな映画業界ですが、フロントランナーたちはそれぞれの立場、それぞれの問題意識で、新しい価値を生み出しています。
そんな人たちに接していると、とても清々しく、勇気付けられる思いがするものです。好きなことに正面から取り組む。自分の信じることのために生きる。映画体験以前に、そんな生き方に惹かれるのかもしれません。
Instagramのブームを背景に、「映画体験」が注目を集めた2018年だったとも言えるでしょう。2019年は「インスタ映え」の熱狂が去ったあとに、文化として「映画体験」が残るのかが注目されるところです。
「次はコレが来る!」的な断定はできないのですが、シェアする価値観が当たり前になり、人と人とのコミュニケーションの質が重要視される時代ですから、コミュニケーション活性化のために映画を活用するという取り組みは、今後も発展していくのではないかと思います。そんな流れをBSSTOは取材し、紹介するとともに、ショートフィルムのコンテンツホルダーとしてショートフィルム活用の場所をいろんな形で作っていければと思います。
2019年も、Brillia SHORTSHORTS THEATER ONLINEをどうぞよろしくお願いします。