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MAGAZINE
INTERVIEW
Feb. 21, 2018

【FRONT RUNNER】自分の好きな映画の話を当たり前にできるようにしたい
〜全国を旅する映画館キノ・イグルー有坂塁のライフワーク〜【前編】

全国で移動映画館を開催するプロジェクト「キノ・イグルー」。東京・上野の国立博物館で映画『時をかける少女』(細田守監督)を上映した「博物館でシネマ!」や、恵比寿ガーデンプレイスの広場で連夜映画上映をした「ピクニックシネマ」など、屋外上映を企画する団体としてご存知の方も多いだろう。フォトジェニックな映画体験を作るフロントランナーともいえる。
イケイケの企画集団か?と思いきや、代表の有坂塁さんは朴訥とした穏やかな人柄の人物だ。6000人集客のイベントを企画しながら、代々木上原のギャラリーで1対1の個人面談「あなたのために映画をえらびます。」を開催してもいる。映画の観ることの価値とは?流行に左右されない哲学を聞いた。

言葉ではつかみきれない感覚を大事にしたい。キノ・イグルーの活動とは?

まず、キノ・イグルーさんの活動内容について聞かせてください。私が初めてキノ・イグルーを知ったのは2014年に東京国立博物館(以下:東博)で『時をかける少女』を上映された時なんですが、屋外で上映を行うプロジェクトと考えてよいのでしょうか?

有坂
いいえ。屋外上映だけでなく、小規模なカフェやイベント会場など様々な場所で上映活動をしています。1日で6000人集客する東博のような場所もあれば、若いアーティストの個展のオープニングなんていう場所もあります。
僕らのイベントはプランニングをして営業をかけて企画を立ち上げるのではなく、100%声をかけていただいたところから始めるんですね。世界中に思いを持って自分の空間を作っている人がいるので、「その場所で映画が観れてよかった」という体験に軸を置いています。

「博物館でシネマ!」の開催風景

「声をかけてもらう」というところにこだわりが?

有坂
ありますね。場所を持っている人が出発点になって、自分事として1回考えてもらったところによりそうほうが、一体感というか同じモチベーションで作っていけるんです。イベントの場合は熱量がそのまま会場の空気に出るので、場所の良さを120%生かすために主催者さんの波長と言いますか、「意思」を大切にしています。

有坂塁さん

「場所の良さ」とは?

有坂
ご飯がおいしいから行くお店とか、オーナーさんと話したいからとか、理由があって足を運ぶ人もいると思うんですけど、もっと大きく「ここ、いいな」と思う何かがあると思うんですよ。オーナーさんの想いやセンスが椅子やテーブルや提供されるものすべてに反映されているんですよね。その、言葉ではつかみきれないような感覚を大事にしたいです。
なので、カフェで上映してますとか東博で6000人に向けてやってますとか、言葉にするのは簡単でも、体験としてはもっと深い体験を作っていると思います。説明しづらい部分ではありますが。

小規模なスペースで開催された親子向け上映会の模様

上映の話が来ると、すべて受けているのですか?

有坂
受ける方向で、まずお会いするところから始めます。その人にしかできない何かがあるので、それをざっくばらんにお話ししながら見つけていくという形でやっています。それは相手がだれであれ変わりません。
規模の大きなイベントもやるのでキノ・イグルーは大きな会社がやっているという風にみられるんですが、実は僕と友人の渡辺順也だけでやっている個人事業なんですよね。ぼくはそこに夢があると思っています。映画の可能性を広げるために1個1個作っている。個人でやるからこそ自分の決断で形にできるので、血が通いやすいんです。

「ピクニックシネマ」の開催風景

1対1でしか伝えられないことが絶対にある

キノ・イグルーさんの活動の中で、「あなたのために映画をえらびます。」という活動がありますが、どういった内容でしょうか?

有坂
1対1の対面で行う企画です。ひとり1時間いろんなお話を伺います。好きな映画や音楽やアートの話はもちろんのこと、旅したことのある国とか、好きな色とか、苦手な人はどんな人ですかとか、その人の人となりがわかる質問を即興でして、「この映画がいいかもな」と思った映画のタイトルをパソコンにメモしていくんです。最後の10分で、「今から映画のタイトルを読み上げるので、観たか観てないかで答えてください」ってメモした映画を20本くらい伝えるんですね。観てない映画の中から最終的に5本に絞って、それをカードに書いて封筒に入れてお渡しする、ということをやっています。

なぜそれを始めようと?

有坂
僕はキノ・イグルーを始める前はレンタルビデオ店で働いていて、実際にお客さんとそういうコミュニケーションがあったんですよ。最初は、女子高生が「泣ける映画を教えてください」っていきなり僕のところで来て。「僕は元体育会だから『アルマゲドン』とか『クール・ランニング』で泣けるけど、この子は泣かないだろうな。じゃあこの子が泣く映画はなんだろう」と、ヒアリングをして、その時は岩井俊二だったかな、おススメしたら借りてくれたんですね。本当に泣けたかなって心配していたら、「紹介してもらった映画は本当に泣けたので、また別のも教えてください」って感想を伝えに来てくれたんです
在職中は「ジャン・ギャバン知ってる?」ってこちらを試してくる小学生とか、アメリカン・ニューシネマに目覚めたヤクザとか、いろんな人に会いましたね。僕はただの映画好きのバイトなんですが、「映画を通して誰かとこういう形でつながれるんだ」っていう体験がレンタルビデオ屋さんであったんですよ。

1対1を続ける理由はなんでしょうか?

有坂
「本当にあなたと向き合っていますよ」ということが理屈じゃなく伝われば、選ばれた5本はそれだけで特別な5本になると思うんですよ。
仮に1回観てしっくりこなくても、あれだけ濃密な1時間だったんだからといって映画の観方も変えていける可能性がある。それは、10人とか100人とかには伝えられないことだと思うので、1対1の良さですね。

(撮影:杉田 拡彰/構成:大竹 悠介)

有坂塁(ありさか・るい)

移動映画館「キノ・イグルー」代表。フィンランド映画界の鬼才アキ・カウリスマキから直々に名付けられた「キノ・イグルー(kino iglu)」、日本語訳で「かまくら映画館」の意。2003年に中学校の同級生である渡辺順也とともに設立。映画館やカフェ、本屋、雑貨屋、学校など様々な空間で、世界各国の映画を上映。映画のイメージにあわせた、コース料理やデザート、ライブ、写真展、イラスト展なども開催し、作品から広がる世界を表現している。

▼Instagram
https://www.instagram.com/kinoiglu/

キノ・イグルー

2003年に中学校時代の同級生、有坂塁と渡辺順也によって設立された移動映画館。東京を拠点に全国各地のカフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など様々な空間で、世界各国の映画を上映している。
多彩なアーティストとのコラボレーションを始め、夏の野外上映会、クリスマスパーティー、SHOPのAnniversary Party、こどもえいがかい、全国ツアー。さらには映画祭のディレクションや、ライブラリー向けのDVDセレクトまで、既存の枠にとらわれることなく、自由な発想で映画の楽しさを伝えている。

Writer:大竹 悠介

『Brillia SHORTSHORTS THEATER ONLINE』編集長 / ショートショート フィルムフェスティバル & アジア webマネージャー

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