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MAGAZINE
INTERVIEW
Jan. 08, 2019

【FRONT RUNNER】映画の生態系をつくりたい
~無人島シネマキャンプ代表・三宅恭平さんの挑戦~

無人島を舞台に1泊2日の泊りがけで開催される「MUJINTO cinema CAMP」。映画上映のほか、音楽や雑貨づくりのワークショップなど様々な楽しみを、参加者全員で作り上げる「映画フェス」だ。2015年に西伊豆で始まり、4年目を迎えた2018年には長崎や和歌山でも開催されている。
このイベントの主催者で、(株)コンストラクトフィルムワークス代表の三宅恭平さんは、「映画の生態系を作る」というビジョンを掲げて様々な活動を展開している。「映画を神格化しない」と語る三宅さんに、活動の背景にある哲学を聞いた。

「MUJINTO cinema CAMP」とは?みんなが参加する「Fes 2.0」の世界観

まず、三宅さんの会社の事業内容から伺いたいのですが、コンストラクトフィルムワークスを起業されたのが2014年でしたよね?

三宅
個人事業として起業したのが2014年で、法人化したのが2016年12月ですから、ちょうど2年経ったところですね。

三宅恭平さん

どのような内容の事業を行っているのでしょうか?

三宅
3つの軸があります。一つ目は「Whims coffee and bar」(池尻大橋にあるカフェバー)の運営。二つ目が、映像を中心としたクリエイティブの製作。そして三つ目が、「MUJINTO cinema CAMP」をはじめとしたイベントの企画運営です。

「MUJINTO cinema CAMP」は一泊二日で開催する野外上映イベントですね?

三宅
無人島にテントや上映機材を持ち込んで一泊二日で開催しています。お昼には音楽ライブがあって、夜に映画を上映する形が基本です。クラフト系のワークショップやフードやドリンクの出店もあります。

どういった経緯で始まったんでしょうか?

三宅
「映画フェス」のようなものを作ろうと仲間たちと話して始まりました。僕たちは「Fes 2.0」って言っていて、単に参加者として終わるフェスではなく、フェスに向かっていく過程で生まれたコミュニティやネットワークを日々の生活にどう生かしていくか間で考える場所を作りたかったんです。
平たく言うと「文化祭」ですが、学校の文化祭でも終わった後は文化祭が始まる前よりちょっと仲良くなっているじゃないですか。そういうものを日本に作っていけないかと考えて始めました。

作る人たちが主役のイベントということでしょうか?

三宅
最初の年から「提供する側とされる側をなくす」という理念を掲げています。2年目にはスタッフ参加するにも参加チケットを発行していて、今後は「全員スタッフCINEMA CAMP」という形を育てていこうと思っています。このコミュニティの一因になることに価値を作って、そこで得たデータやノウハウをみんなでシェアしましょうよということです。
それに、「あなたは今、提供する側だからこうしなきゃいけないよね」って形で終わってしまうと、生産性がないというか・・・。壁を作らないことで、もっとよくなっていけばよいと思うんです。人対人だから困っていることがあれば助けるし、足りないものがあれば持ち寄る。自分の範囲を守らなくても、もっと楽しくできたらいいなと。

4年目を迎えた2018年は、長崎や和歌山でも開催しましたね。

三宅
2018年は、僕たちはノウハウの提供と運営のお手伝いをして、現地の方々が主催をしました。「決定権を持っているのは現地の主催者」ということは重要です。僕らは圧倒的な一社になりたいとか、何万人集客したいということには目標を置いていないんです。100人規模のイベントを100か所で100人のリーダーがやった方が面白いんじゃないか、その方が優しい世界じゃないかと思っているんです。そのために現地の人たちが継続して実施していけるよう僕たちがノウハウを提供する形を作っています。

MUJINTO cinema CAMP KANSAI

香川のミニシアター支配人を辞しリュック一つで単身上京。29歳で始めた新たな挑戦。

三宅さんのご経歴について伺っていきたいのですが、ご出身はどちらなでしょうか?

三宅
僕の記憶が始まったのは長崎県の五島列島です。親が転勤族だったので、長崎は小学校の低学年くらいまでで、そのあとは岡山県の倉敷市に高校までいて、大学進学で香川県に移りました。どこが地元かって聞かれたら、11年いた香川って答えますね。

映画の原体験はお持ちですか。

三宅
昔から映画は好きで観ていたんですが、大学の始めに『ジョゼと虎と魚たち』(2003)を観たんです。その時なぜそう思ったのかわからないですけれど、「映画館で働きたい」って思って、それが夢になったんです。

『ジョゼと虎と魚たち』って映画館が関係している映画でしたっけ?

三宅
いや、関係はないですね(笑)。あの時の空間とか、感動を作り出す雰囲気とかをプロデュースできる職業がすごいなって思ったんです。それで、香川県のミニシアターを3軒くらい訪ねて行って、「雇ってください」って頼んだのですが、そのうちの1館に1年間くらい欠員が出るまで通って、アルバイトとして入りました。

どういった映画館だったのでしょうか?

三宅
もともとは戦後間もない時から始まった老舗です。現在の社長の先代が作ったバラックからからはじまっていて、最初は大手映画会社の映画をやっていたんですけれど、僕が入るころは独立系の映画館としてロードショー含めいろんな映画をやっていました。
26歳の時に閉館することになり、スタッフは全員解雇という形になったんですが、そのときの社長が「全部なくしてしまうのはいやだな」と思ったのか、「ひとりでやってくれないか」と僕に依頼をしたんです。そんなことを言われて、まあやってみようかなって支配人を引き受けたわけです。

接客も上映も編集もすべて一人でやらなきゃいけないので、なかなかヘビーでした。たぶん僕が映写機を触れる最後の人間だったと思うんですよ。当時はフィルムだったので、夜な夜な編集してテストして。2時間の映画をテストするのって2時間かかるんですよね。夜中に2時間の作品を何本かテストして、次の日上映するみたいな。カウンターでお客さん案内して、映写室に上がってスタートするっていう。

全部おひとりで。

三宅
最初のうちは。だんだんとアルバイトを雇えるようになったので、最終的には13人くらいになりました。5階建てのビルで地下と四階に1スクリーンずつあって、まずは地下の小さめの箱からはじめて、2年間で4階の140席くらいの方も復活することができました。映写機もデジタルに切り替えて、それぞれの仕事のマニュアルを作って、ぼくは次のことをやりに東京に来ました。

辞めたのは新しいことに挑戦するため?

三宅
そうですね。日本一面白い映画館にしようと思ったんですけれど、その映画館を日本一面白い映画館にしたとして、映画産業というか映画の市場はあまり変えられないんだなってことを実感したんですよね。
映画館の立場でできることは配給された映画を上映するっていう仕組みでしかなくて、流れ出しのところを変えることはできないんだなって思って。それなら流通のもっと上流にある仕事をしようと思って、29歳の時に部屋のものを全部捨てて東京に夜行バスで来ました。

それはいつごろの話ですか?

三宅
2013年の10月くらいに来て、2014年の4月くらいに開業しました。その間の半年くらいは下北沢の独立系の配給会社でお手伝いするなど、いろいろやっていました。

映画館に来ない人との接点を作る。「映画の生態系をつくる。」ビジョンとは?

映画産業に対する問題意識、具体的には?

三宅
映画が生産されて皆のところにまで届く、その流れが不健康な形にあると映画館にいる時に思っていました。作りたい人と観たい人が結びついていないなっていうことでしたね。

例えば?

三宅
集客性が見込まれる映画を作って下に流していくっていう「作業」しかないなって思ったんです。「映画をきちんと作りたい」っていう人が映画づくりの中心にいないと。
ただし、集客が見込まれるものに集中するのもしょうがないことだとは思います。小さな作品でも、制作には大きな費用も時間もかかりますから。「一本終わったから、次作ろう」とはならないわけですよ。結果、映画市場から多様性がなくなっていく。だからこそ、既存の映画市場や映画流通じゃない別の仕組みを作れないかと思ったことが、今の活動の発端になっています。

飲食事業もその流れの中にあるのでしょうか?

三宅
そうですね。新しい流通をはじめたいっていうところで、まずは「JAM STAND COFFEE」というコーヒースタンドをつくって、リアルなコミュニケーションを作るところから始めたんです。

それは、映画制作者が来るような場所でしょうか?

三宅
映画に関係のない人たちも来る場所です。関係のないっていうのもあれですけれど、普通に「面白そうな映画があれば観に行くよ」っていう一般の方たちとのコミュニケーションを持たないといけないと思ったんです。映画に関わる人たちってそもそもその時点でかなり偏っているので、そうじゃない人たちと飲食という形で接点を持とうというのが最初でしたね。

JAM STAND COFFEE

コンストラクトフィルムワークスの理念は「映画の生態系をつくる。」ですが、これはどういう意味でしょうか?

三宅
生産して消費されるだけではなく、「活かす」部分を作っていきたいと思っています。その形として、「MUJINTO cinema CAMP」や、飲食店での上映会「NEW CINEMA Dining」を開催しています。

「活かす」というのは、「MUJINTO cinema CAMP」のような「体験」を作ることと考えてよいでしょうか?

三宅
僕は映画館にずっと関わってきましたが、映画館に来る人って映画館に「もう来てる人」なんですよね。映画館に来てない人は映画館に来てないわけで、映画館で「映画っていいよ」って言っているのってバカバカしいなあって思ったんです。「来ている人」「来ていない人」の隔たりをどう埋めるのかが課題なんです。
「来ていない人」にどんなふうにアプローチしていこうかなって思ったときに、僕は24時間を意識した動きをしています。仕事があったり、遊びがあったり、飲みに行ったり、こんな服を着てこんな思想でこんな生き方をしたい、みたいな24時間を提案していく。その中にどういう風に映画を滑り込ませるか、ライフスタイルみたいなものを作っていきたいなって。

NEW CINEMA Dining

その中で、気づかないうちに映画を観ていたり、映画を使って自分の生活が少し楽しくなったりしてくれたらいいですよね。その提案をするために「MUJINTO cinema CAMP」や、飲食店での上映を作っています。
ですから、僕が映画のイベントやるときに心がけているのが、「映画は観なくてもいいように」っていうところです。映画だけのイベントに来るのは、映画館に行ける人たちだと思うので、その空間に行きつくまでの過程で何らかの違う興味を持ってもらった人たちに対して、できることをやっていきたいですね。

なるほど。映画フリークじゃない普通の人たちが映画に接する機会を作ると。

三宅
僕は、映画って神格化されるべきではない、あくまでもエンターテイメントであるべきだと思っています。それを使って何をするかに価値を作っていかないと、結局お金も生み出せないと思います。芸術の部分ももちろんあるとは思うんですけれど、それだけでは終わらないところをルートとして作ってあげたい。

作り手と観る人が繋がるシステムを作る

「NEW CINEMA Meeting」というイベントがあるそうですが、こちらはどのような企画でしょうか?

三宅
試写会をマッチングするサービスです。監督さんに主催者になってもらって、場所代を主催者が飲食店に支払い、飲食店からは売り上げの何パーセントかを主催者にバックする仕組みです。飲食が売れれば売れるほど試写会を安くできるような仕組みなら、もう少し自分が作ったものを観てもらいやすくなるんじゃないかなあと思っていて。

制作者が自分で場所を借りようとすると、金銭的なハードルがありますよね。

三宅
そうですね。それに、自分で作って自分でお客さんを呼ぶという仕組みだけになってしまうと、試写会の意味がなくなっていくような気がします。もうちょっとパブリックな場所でできるようなカルチャーができていくと、作っていく段階から意識が変わるんじゃないかって思うんですよね。
「この映画って誰に観てもらうんだっけ」っていうところをもうちょっと意識していけば、短編とかインディーズみたいな映画に親しみのない人にも楽しんでもらえて、経済活動にもつながるんじゃないかなって。もっと気楽に映画作りもできるだろうし映画の発表もできるだろうし、その中から監督が生まれていく仕組みがつくれたらいいなと思っています。

NEW CINEMA Meeting

それが最初の生態系の話につながっていくんですかね?

三宅
そうですね。最終的にはウェブサービスに落とし込みたいと思っていて、自分で金額を決める形でもいいですね。ある程度構想はあるんですけれど「シネマエコシステム」っていう、映画を観たい人・映画を作りたい人・場所を使ってほしい人をマッチングする仕組みを作ろうとしています。
音楽ってインディーズに満たないような地元産業というか、かなりローカルなライブハウスとかも成立しているんですけれど、映画にはあんまりなくて。そこにもうちょっと段階を作りたいなと思うんです。いきなり映画を作って興業にかけてって1000万円かかってくるようなことってすごくハードルが高いので、そうじゃないものを少しずつ作っていけたらなと。

映画は人間が作るもの。作り手の熱に感動する。

三宅さんの活動には、多くの人に映画を観てもらいたいという想いが根本にあると思うのですが、そのモチベーションはどんなところにあるのでしょうか?

三宅
僕はやっぱり映画で人生が変わったというか、生き生きとした人生になったなと思うんですよね。映画を作るってすごいことだと思うんです。作品一本一本に、作り手の思想があって、それを体験できるコンテンツってすごいことだと思います。

映画を観てゾワゾワしたりする感覚ってありますよね。

三宅
ありますね。楽しいというか、ぞっとすることもたくさんあるし。その感覚って日常では感じえないものだったりもするし。

たとえば「この作品を観たときに全身の毛穴が開いた」みたいなのはありますか?

三宅
昔見た映画を今の歳で観ても感じ方が変わってくると思うんですけれど、『ジョゼと虎と魚たち』は、やっぱり感じるんですよね。温度感というか、ヒリヒリしてるというか。その感覚を作り出せるのってすごいなあって思うんですよ。もちろん話自体にもすごいストーリー展開だってことでゾワッとするんですが、これを「作っているんだ」ってことに鳥肌が立つんですよね。

人間の想いが詰まっていること、これを一本取るのにどれだけの人がどれだけの汗をかいて作ったのか想像すると感動しますよね。手抜きをしてない仕事を観るとハッとするみたいな。

三宅
そうですね。だからこそ、それをもっとうまく使いたいなって思っちゃう。すごいだけで終わらずにそれをうまく落とし込んでいって、人にもっと届いたらいいかなって。

完全に主観でいいんですが、三宅さんにとって良い映画とは?

三宅
難しいですけれど、僕はやっぱり「観る人のことを考えた映画」だと思うんですよね。もちろん芸術性とか心の内を表現する手法の一つとして映画を撮ってもいいと思うんですが、僕が思う良い映画は、スクリーンの向こう側にきちんと人間が存在している映画だって思いますね。

最後に、今後の活動の予定やビジョンはありますか?

三宅
近い将来的にやりたいと思っているのが、子どもたちに向けた取り組みです。今いる世界だけが世界じゃない、子どもたちの可能性が広がるきっかけになるような動きを作っていけたらいいなと思います。シネマキャンプという形にとらわれることなく、もっとフレキシブルにいろんなことができたらいいですね。

今一番欲しいものってなんですか?

三宅
パートナーですかね。一緒にやってくれる人たち。僕らは僕らだけで完結するような仕組みではなく、いろんな人が参加する仕組みにしていきたい。具体的に2019年~2020年にやっていきたいこともあるので、一緒に考えていきたいですね。そういう意味でも、「全員スタッフCINEMA CAMP」をやりたいですね。

取材:大竹悠介
撮影:杉田博彰

三宅 恭平(みやけ・きょうへい)

香川県にてミニシアターの再建に従事し、2013年上京。
2014年に上映企画宣伝配給会社としてConstruct film worksを個人事業としてスタート。
野外シネマフェス『MUJINTO cinema CAMP』、イベント『NEW CINEMA DINING』などをスタート。
2016年12月1日株式会社Construct film worksを設立。代表取締役に就任。
2017年11月に池尻大橋にてWhims coffee and barをオープン。
『映画の生態系をつくる』をテーマに活動中。

Writer:大竹 悠介

「ブリリア ショートショートシアター オンライン」編集長。大学院でジャーナリズムを専攻した後、広告代理店勤務を経て現職。「映画体験の現代的な価値」をテーマに全国の取り組みを継続取材中。ショートショートではWEBマネージャーやクリエイターコミュニティの運営を兼務。

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