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COLUMN
Jun. 18, 2019

【シネコヤが薦める映画と本】〔第13回〕青色の記憶
〜『少女邂逅』『放課後ソーダ日和』にみる少女系映画の視点

海水浴客で賑わう江ノ島から電車で一駅。閑静な住宅街に囲まれた鵠沼海岸商店街の一角に「映画と本とパンの店・シネコヤ」がある。こだわりの映画と本を用意して街の人たちを温かく迎える竹中翔子さんが、オススメの1本(今回は2本!)と1冊をつづる連載コラム。今回は映画『放課後ソーダ日和』と『少女邂逅』から「少女という期間の青色の記憶」についてつづります。

*******

「エモいです〜!」と20代のアルバイトの子に言われた。
高校生の時、撮った写真を見せたときのこと。
「エモい」とは、近ごろ巷でかなり使われているらしい言葉で、「感情が高ぶる」「切ない、儚い」「懐かしい、ノスタルジックな感じ」とかに使うらしい。
そうか、これは「エモい」のか、と自分の高校生時代を思い出す。

高校三年生から写真を撮りはじめた。体の中に渦巻く何かを外に出したくて、その手段として「カメラ」を手にとった。
指先からパチリと鳴るシャッターの重い音に、心地よさと安心感を抱いていたことが忘れられない。デジタルに移行してから、その心地よさがなくなってしまい、写真を撮ることからなんとなく疎遠になってしまった。

なんでまた、そんな古い思い出の品を引っ張り出してきたかというと、ある一冊の写真集に出会ってしまったからだ。
「さよならは青色」(2019年|KADOKAWA)
岩倉しおりさんの写真集。
単行本の表紙やCDジャケットに起用される彼女の写真は、まさに高校生の頃にファインダー越しに見た、記憶の中の景色だった。

この世界知ってる。

遠く押し込めた、記憶をたどる。
鮮明な美しい青と、淡いピンクと、和やかな黄色…静かな色の組み合わせが、あの頃の不安定さを思い起こさせた。大人にならなければならなかった押し込めた感情が、わッと泣き出すように吹き出してきた。

それは、青色だった

岩倉しおりさんはフィルムを愛用しているそう。機械にはあまり興味が持てず、そこにあるもの(カメラ)で撮っていたというエピソードにも、機械嫌いな私には好感が持てた。これまた巷で流行っているらしい、使い捨てカメラの「写ルンです」も使用しており、おもしろいな、と思った。こんなにも琴線に触れるほど、彼女が写す景色に共感してしまうのは(おそらく?)同年代のフィルム最後の世代と呼んでもいいであろう、時代の感性によるものではないかと思う。

私が高校生の時は、フィルムからデジタルの移行期間で、まだデジタル一眼がとんでもなく高くて、とても手が届かない代物だった。だから中古で2万円弱のNikomatのチープな安ものカメラでも、高校生の私には十分すぎるほどだった。適当な安いフィルムを買って、夢中で撮っていた。海沿いの高校に通っていたこともあって、学校やその周辺の風景全てが味方だった。

撮りたいものが、たくさんあった。

学生時代に撮った写真。
自分の見ていた世界は、肉眼では表せない、脳裏に焼き付いた記憶そのもの。
写真に写る世界こそが、私にとって真実だった。
それは、まさしく青色だった。

「少女系映画」と呼ぶに相応しい

そんな感覚は、もう古臭いものだと思っていた。自分が高校生だった20年前の「憂鬱」な空気感は、あの頃の時代の感覚なのだと思っていた。それなのに、今の10代〜20代は「エモい」という新しい言葉で、同じような世界観を見つめているようだ。
あの感覚は、時代にかかわらず、ある年代の「少女」という特別な期間に訪れる感覚なのかもしれない。

映画でも、その独特な「少女」の世界観を表現する作品が、最近増えてきている。

『少女邂逅』

2018年公開された『少女邂逅』は、若手映画監督・ミュージシャンの登龍門となっている映画祭MOOSICLAB2017に向けて製作され、異例の大ヒットとなった。かねてより注目を集める枝優花監督による、タイトルのごとく「少女」にテーマを当てた作品だ。若干23歳の新鋭監督が手がけた本作の原案は、14歳の頃の実体験。いじめによって“場面緘黙症”となり、声が出なくなってしまった監督自身の経験を軸に、蚕のように容姿も中身も変容する少女たちの残酷でありながら、まばゆい青春映画だ。

©2017「少女邂逅」フィルムパートナーズ

続いて、『少女邂逅』のアナザーストーリーとしてYouTubeで配信されたWEBドラマ『放課後ソーダ日和』の劇場用再編集版が今年公開された。
世界一美しい飲み物=クリームソーダを求めていくつもの純喫茶をめぐり歩く少女たちの小さな冒険を描く…。初めて出会う友情と、クリームソーダに魅せられた少女3人のキラキラと輝く物語。

©2018 ALPHABOAT・SPOTTED PRODUCTIONS

考えてみると、こういった少女期をテーマにした作品はずいぶんと前から、その類のジャンルとして確立している気がする。80年代の『時をかける少女』(大林宣彦監督)、90年代の『LOVE LETTER』(岩井俊二監督)…その時代ごとに「少女系映画」と呼ぶに相応しい映画があったんだな、と思う。

いつの時代にも「少女」の中にあるキラキラした感覚。

青く霞がかった頃のことを。

そんな時代を少し懐かしく、少し憧れをもって思い出す。もう二度と体験することのできない、嘘みたいに切なくて苦しくて、もどかしい年齢の…
少し大人になった優しい目線で振り返ると、その痛さも愛おしい。

©2018 ALPHABOAT・SPOTTED PRODUCTIONS

今回紹介した本にしても、映画にしても、今まだこの感覚が世間で共感を呼んでいることに、少しホッとしている。

それを忘れなくてもいいんだな、
無くさなくてもいいんだな、と。
「少女」という期間の、青色の記憶を抱きしめて、大人になっていくことが許されているようで。

これからも、時代や言葉は変われども、少女系文化は続くのだろう。

『さよならは青色』

2019年|KADOKAWA|岩倉しおり()

『少女邂逅』

2017年/日本/101
■監督 枝優花
■出演 保紫萌香/モトーラ世理奈
◆上映期間:7/22()8/25()

『放課後ソーダ日和』

2019年/日本/83
■監督 枝優花
■出演 森田想/田中芽衣/蒼波純
◆上映期間:7/22()8/25()

ポニーキャニオンよりBlu-ray/DVD発売中!

「映画とパンの店・シネコヤ」

【営業時間】
営業時間:9:00〜20:00
毎週木曜日定休
【料金】
一般:1,500円(入れ替え制・貸本料)
小・中学生:1,000円(入れ替え制・貸本料)
※平日ユース割:1,000円(22歳以下の方は、平日のE.F.G各タイムを割引料金でご利用いただけます。)
※お得な年間パスポート制度あり
【アクセス】
神奈川県藤沢市鵠沼海岸3-4-6(鵠沼海岸商店街 旧カンダスタジオ)
小田急江ノ島線「鵠沼海岸」駅から徒歩3分くらいです。
【問い合わせ】
TEL:0466-33-5393(代表)
WEB:http://cinekoya.com/

Writer:竹中翔子(たけなか・しょうこ)

株式会社シネコヤ代表取締役
学生時代に映画館のアルバイトスタッフを経験し、映画の魅力にハマる。地元映画館の閉館を受け「もう映画館はダメだ!」と思い、映画だけではない+αの空間づくりを目指し、「シネコヤ」として本格的に活動をはじめる。鵠沼海岸のレンタルスペースで毎月2回、フードや会場演出をこらした映画イベントを主宰。2017年4月鵠沼海岸商店街の一角についに「シネコヤ」をオープン。貸本屋を主体とした「映画と本とパンの店」というコンセプトで新たなスタイルの空間づくりを行っている。

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