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COLUMN
Jan. 22, 2019

【シネコヤが薦める映画と本】〔第8回〕音楽がないと生きていけない
〜ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ によせて〜

海水浴客で賑わう江ノ島から電車で一駅。閑静な住宅街に囲まれた鵠沼海岸商店街の一角に「映画と本とパンの店・シネコヤ」がある。こだわりの映画と本を用意して街の人たちを温かく迎える竹中翔子さんが、オススメの1本(今回は2本!)と1冊をつづる連載コラム。今回はキューバミュージックについてつづります。

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村上龍が書いた、キューバミュージックについての本。キューバを旅した時に出会った音楽、坂本龍一とのキューバ音楽についての対談が冒頭にある。キューバでは生活や人生に音楽が密着していて、「それがなくては生きていけないもの」つまり、食べること、寝ることと同じように“糧”そのものだ。
この本が書かれた時代は1990年代。本の中では、「日本ではなんでこんな人が音楽をやっているんだ?と思える人達が歌ったり、演奏している」と辛辣なことも書かれていて、日本の音楽にはキューバ音楽のように、生きるための活力がないと表現されている。

音楽というのは、単純にいい声の持ち主が歌い、上手くて、楽しくて、聞いていて気持ちいいものなんだ、という村上龍の主張は、あまり音楽に詳しくない私でも納得するものがある。飾られた詩で、何かを励ますようなものや、社会に対する熱いメッセージを伝えるものがカッコイイと思っていた頃もあったけど、もっと日常に近い目の前の事柄だったり、「彼女の揺れるお尻に興奮してしまう」って歌ってる歌の方がカッコイイと思えるようになったのは、少し歳を重ねたせいだろうか。

キューバ音楽のムーブメント

それまであまり耳にする機会が少なかったキューバ音楽。しかし、キューバ国外にも確実にファンは存在していて、フツフツとマグマのように噴火の瞬間を待っていたようだ。抑圧されてきた黒人音楽の歴史をくぐり抜けて、約20年前、この『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』公開で世界中に大爆発を起こした。

ある1枚のCDアルバムから生まれた映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』は、2000年に日本でも公開され大ヒットを記録。この音楽ドキュメンタリーに込められた情熱は世界中に広がり、社会現象にもなった。その中心人物たちは、1950年代キューバの厳しい時代を生き抜いた老ミュージシャン。それまでキューバ国外ではあまり知られていなかったミュージシャンを集めたビッグバンド「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」の活動は全世界を駆け抜けた。

©1999 REVERSE ANGLE LIBRARY GMBH

「いい映画を観ているなぁ」という感覚

『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』は、『パリ、テキサス』『ベルリン天使の詩』のヴィム・ヴェンダース監督作品。キューバで生まれた “ソン”という音楽に乗せた映像が気持ちよく、演奏家たちの奏でる音からは“間合い”や“行間”のようなものを感じる。音そのものに触れる心地よさがたまらない。映画の途中でも「いい映画を観ているなぁ」と酔いしれてしまう。とりわけ、その中心人物として登場する歌い手、イブライム・フェレールの歌声が素晴らしい。彼はバンド結成前まで、歌い手としてのキャリアを捨て生活のため靴磨きをしていた。仲間から呼び出されて、突然連れていかれたライブでステージに上る。そこで歌った歌をライ・クーダーが耳にし、この映画の主軸とも言える人物にまでなった。
ラストシーン、歌いきった後のイブライムのなんとも言えない表情がグッとくる。泣くでもなく、喜ぶでもなく、その両方の入り混じった感情のようだった。人は心から感動していると、こういう顔になるんだ、とその表情がこの映画のすべてを物語っていた。

そしてその後…

18年後、そのツアーが最後を迎える。“アディオス(さよなら)”世界ツアー。

『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』は、彼らのそれまでの人生と、映画公開のその後、そして今を追ったドキュメンタリーだ。

©2017 Broad Green Pictures LLC

何人かはこの世を去り、残されたミュージシャンは舞台へ立ち続けた。キューバ音楽の歴史とカルチャー、それぞれのメンバーの音楽的ルーツ、そして音楽への想い…。前作のイブライムと共にステージに立ち、伝説のディーバと呼ばれた歌姫のオマーラは、辛い時代を共に生き抜いた仲間たちの想いを歌声に乗せて、最後にスクリーンで全世界へと届けていく…。「最期の時まで歌っていたい…」音楽が生きるための“糧”であった時代を生きた、彼女の背負うものの大きさは計り知れない。オマーラの美しい歌声が染み入る。単に映画音楽という楽しみだけでなく、その映像と音楽は映画史に残る財産とも言える。

今回読んでほしい本

「新世界のビート―快楽のキューバ音楽ガイド」1993年|新潮社|村上 龍(著)

今回観てほしい映画

『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(1999年/ドイツ・アメリカ・フランス/105分)
■監督 ヴィム・ヴェンダース
■上映期間 〜123日(水)まで上映

『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』(2017年/イギリス/110分)
■監督 ルーシー・ウォーカー
■上映期間 118日(金)〜210日(水)まで上映

「映画とパンの店・シネコヤ」

【営業時間】
営業時間:9:00〜20:00
毎週木曜日定休
【料金】
一般:1,500円(入れ替え制・貸本料)
小・中学生:1,000円(入れ替え制・貸本料)
※平日ユース割:1,000円(22歳以下の方は、平日のE.F.G各タイムを割引料金でご利用いただけます。)
※お得な年間パスポート制度あり
【アクセス】
神奈川県藤沢市鵠沼海岸3-4-6(鵠沼海岸商店街 旧カンダスタジオ)
小田急江ノ島線「鵠沼海岸」駅から徒歩3分くらいです。
【問い合わせ】
TEL:0466-33-5393(代表)
WEB:http://cinekoya.com/

Writer:竹中翔子(たけなか・しょうこ)

株式会社シネコヤ代表取締役
学生時代に映画館のアルバイトスタッフを経験し、映画の魅力にハマる。地元映画館の閉館を受け「もう映画館はダメだ!」と思い、映画だけではない+αの空間づくりを目指し、「シネコヤ」として本格的に活動をはじめる。鵠沼海岸のレンタルスペースで毎月2回、フードや会場演出をこらした映画イベントを主宰。2017年4月鵠沼海岸商店街の一角についに「シネコヤ」をオープン。貸本屋を主体とした「映画と本とパンの店」というコンセプトで新たなスタイルの空間づくりを行っている。

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