海水浴客で賑わう江ノ島から電車で一駅。閑静な住宅街に囲まれた鵠沼海岸商店街の一角に「映画と本とパンの店・シネコヤ」がある。こだわりの映画と本を用意して街の人たちを温かく迎える竹中翔子さんが、オススメの1本と1冊をつづる連載コラム。今回は映画『さよなら、退屈なレオニー』からファッションに映る主人公の気持ちについてつづります。
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気だるい女の子とハイセンスなファッション…そんなのもう最高の組み合わせだ。
肩に落ちるゆるくウェーブする髪の毛と、まわりを鬱陶しそうに見つめる視線、何かを言いたげな緩く開いた唇…そういう気だるい女の子が映画がでてくると、なんだかワクワクしてしまう。そして、少しだらしなく着こなされた洋服たちが、更にその期待感を増幅させるのだ。
©CORPORATION ACPAV INC. 2018
カナダ・ケベックの海辺の街で暮らす17歳の少女、レオニー。高校卒業を一ヶ月後に控えながら、どこかイライラした毎日を送っていた。退屈な街を飛び出したくて仕方ないけれど、自分が何をしたいかわからない。口うるさい母親も気に入らないが、それ以上に母親の再婚相手のことが大嫌い。レオニーが唯一、頼りにしているのは離れて暮らす実の父親だけだった。 そんなある日、レオニーは街のダイナーで年上のミュージシャン、スティーヴと出会う。どこか街になじまない雰囲気を纏うスティーブに興味を持ったレオニーは、なんとなく彼にギターを習うことに…。夏が過ぎていくなか、あいかわらず、口論が絶えない家庭、どこか浮いている学校生活、黙々とこなす野球場のアルバイト、それから、暇つぶしで始めたギター…毎日はつまらないことだらけだが、レオニーのなかで少しずつ何かが変わり始めていた。
©CORPORATION ACPAV INC. 2018
主人公レオニーの衣装は、シーンが変わるごとに変化していく。そのときのレオニーの気持ちを表すように、コロコロと変わっていくのだ。
オーバーサイズの黄色いトレーナーに赤いスタジャン。
ジーンズ生地のオーバーオール。
レトロ柄のシャツに、ミニスカート。
少し汚れた白いキャンパス生地のスリッポン。
ちょっと毒っぽくてスタイリッシュな柄物と、ハイセンスな色使いで、組み合わせがカッコいい。とにかくファッションが見どころで、それだけでもこの映画を「是非見て!」と言いたくなる。
©CORPORATION ACPAV INC. 2018
ファッションに注目したい映画はたくさんある。ファッション映画の代表的な作品といえば、1960年代のフランス映画なんかは説明するまでもなく『ロシュフォールの恋人たち』『シェルブールの雨傘』を挙げたい。ピンク、イエロー、ブルー…カラフルでまるでファッションショーを見ているかのよう。特に、その時代の60年代カルチャーの一部として、フランス映画のファッションが取り上げられる機会も多い。
私世代で言うと、『アメリ』(2001年)や『ゴーストワールド』(2001年)は真似したくなるほど憧れるものだった。中学生のカチッと決められた制服から、自由に着崩せる高校生活がやって来ると、制服のスカートにTシャツを着たり、カラータイツを履いたり、10代だからこそできるファッションを楽しんでいたことを懐かしく思い出す。
どの映画もそれぞれの世界観で魅力的なファッションを見せてくれて、私たちの生活に彩りと刺激を与えてくれた。
そんなこれまでの代表的な「ファッション映画」に引けを取らない『さよなら、退屈なレオニー』は、現代における最高ランクの「ファッション映画」と呼ぶにふさわしい。
©CORPORATION ACPAV INC. 2018
今回特に印象的なのは「女の子らしさ」をセクシーな衣装ではなく、男物っぽいアイテムを交えて表現していることだ。
一見、男物っぽいオーバーサイズのスウェットとキャップを身に着けたレオニーの横顔が、まだ父親へのあこがれを持つ少女の可愛らしさを表現している気がする。
大人になれない少女感と、覆われるような閉塞感、
そして、そこから抜け出すとき…
そんなレオニーの心境と服装がマッチしていて、なおさらキュンと来た。
©CORPORATION ACPAV INC. 2018
同じカナダのケベックを舞台にした絵本(コミック・ブック)『少女ゴーグル』を見つけて、少し毒々しいイラストに惹かれてしまって合わせて読みたくなった。
カナダ出身のミュージシャンでもあるジュヌヴィエーヴ・カストレイによる自伝的コミック・ブック。幼い頃に両親が離婚し、母とその恋人とともに鬱屈とした少女期を過ごすゴーグルが、支配的な母の抑圧を逃れ、世界と折り合いをつけつつ18歳になるまでを描く。
ゴーグルは、薬物やら中絶やら、それはそれは過酷な少女期を送ってきたのだけれど、まわりに対する「自己否定感」はなんだか少しレオニーと似ている気がした。
自分ではどうすることもできない、手の届かない事柄に対するイライラと悲しみ…
誰か「いい大人」に出会えないと、そのとき大きく道がそれてしまう。
何も出来ない自分に「自己否定感」を膨らませていくことは、大人になる過程で経験せざる得ないことのような気がする。レオニーもゴーグルも、そうした過程を経て、自分という生き方を肯定していけるようになるんじゃないかと思う。
©CORPORATION ACPAV INC. 2018
『少女ゴーグル』
2016年|PRESSPOP INC|ジュヌヴィエーヴ・カストレイ(著)
『さよなら、退屈なレオニー』
2018年/カナダ/96分/
■監督 セバスチャン・ピロット
■出演 カレル・トレンブレイ/ピエール=リュック・ブリラント/フランソワ・パピノー
■シネコヤ上映期間:9/16(月)〜9/29(日)
「映画とパンの店・シネコヤ」
【営業時間】
営業時間:9:00〜20:00
毎週木曜日定休
【料金】
一般:1,500円(入れ替え制・貸本料)
小・中学生:1,000円(入れ替え制・貸本料)
※平日ユース割:1,000円(22歳以下の方は、平日のE.F.G各タイムを割引料金でご利用いただけます。)
※お得な年間パスポート制度あり
【アクセス】
神奈川県藤沢市鵠沼海岸3-4-6(鵠沼海岸商店街 旧カンダスタジオ)
小田急江ノ島線「鵠沼海岸」駅から徒歩3分くらいです。
【問い合わせ】
TEL:0466-33-5393(代表)
WEB:http://cinekoya.com/