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COLUMN
Nov. 19, 2019

【シネコヤが薦める映画と本】〔第18回〕『ブルーノート・レコード ジャズを超えて』
〜映画館だから伝わるこだわりの“音”~

海水浴客で賑わう江ノ島から電車で一駅。閑静な住宅街に囲まれた鵠沼海岸商店街の一角に「映画と本とパンの店・シネコヤ」がある。こだわりの映画と本を用意して街の人たちを温かく迎える竹中翔子さんが、オススメの1本と1冊をつづる連載コラム。今回は映画『ブルーノート・レコード ジャズを超えて』から、映画上映でこだわる“音”作りについてつづります。

ときどき、映画を観ているとわけもなくなんだか涙が溢れてしまうことがある。感動したときや、悲しいシーンで流れる涙とは異なるもの。何かが琴線に触れて、なんてことないシーンで泣いているのである。
『ブルーノート・レコード ジャズを超えて』(2018年 スイス/米/英合作)を観ていたとき、まさにその状態になった。

今年80周年を迎えるジャズ・レーベル「ブルーノート・レコード」。マイルス・デイヴィスからノラ・ジョーンズまで、その歴代のアーティストたちや関係者のインタビューを通してレーベルの軌跡を描くドキュメンタリーだ。

(あらすじ)
第二次世界大戦前夜、ナチス統治下のドイツからアメリカに移住した二人の青年、アルフレッド・ライオンとフランシス・ウルフ。大のジャズ・ファンであった彼らは、1939年にニューヨークで小さなレコード会社「ブルーノート・レコード」を立ち上げた。
レコーディングにあたって、アーティストに完全な自由を渡し、かつ新曲を書くよう励ます─。
理想を求め、妥協することのないライオンとウルフの信念は、ジャズのみならず、アート全般やヒップホップ等の音楽に消えることのない足跡を残してきた。映画はスタジオの風景から始まる。ロバート・グラスパーを中心に若手アーティスト達で結成されたスーパー・グループ、ブルーノート・オールスターズ。現在のブルーノートを代表する彼らのレコーディング・セッションに、2人のレジェンド、ハービー・ハンコックとウェイン・ショーターが現れる─。

(c)MIRA FILM

“音”の影響力

シネコヤでは、作品ごとに音調整をしている。役者の声、挿入曲、背景の環境音…などのバランスを観ながら、ミキサーで調整していく作業だ。
音響・設備のスタッフとの音調整は、なかなかおもしろい作業で、音のバランスでこんなにも印象がかわるものかと驚くこともある。私はと言えば、その映画の大事だと思うシーンを中心に、「もっとやわらかく」「ちょっと音がキラキラしすぎているから、もうちょっとしっとりした感じで」…などと抽象的なオーダーをすることが多い。そんな私の中学生レベルの語彙でのオーダーを、しっかりと機器に反映させて調整するのだから、音響スタッフはすごいなぁ、と毎回感心してしまう。
数々の作品の音調整を体験してきて、あまりパキパキした現代風な音は好きではない、と思うことが多かった。シネコンなどの映画館に行っても、シャープな音質で(作品にもよるが、往々にしてそのパターンが多い)疲れてしまうことも多々ある。
最新型の「臨場感」ある音響も素晴らしいけれども、もっとシネコヤの空間とマッチした「雰囲気がある」音にしたいな、と常々思っている。

今回の映画『ブルーノート・レコード ジャズを超えて』の場合は、音楽ものということもあり、やはり劇中流れるジャズを一番大事なポイントとして、細部までこだわって調整した。
調整した音で試写をしたら、最後の30分、泣きっぱなしだった。

Blue Note All Stars_(c)MIRA FILM

伝わる“音”

何が私を泣かせたのかハッキリは覚えていない。しかし、創設者のふたりがナチスドイツを逃れ、自由の象徴である“ジャズ”にシンパシーを感じ、ジャズを広めようとアーティストたちと奔走したその信念…スピーカーを通して伝わってくる彼らの演奏は圧巻だった。
その迫力と同時に、創設者のパッションを受け継いでいこうとする、現在のアーティストたちの姿勢が、心を震わせたのではないか。

Bud Powell_Photograph by Francis Wolf (c) Mosaik Records

映画には、スクリーンで観てこそ伝わることがある。そしてこだわって作られた“音”こそが、作品の影の立役者となっているのだ。作品に込められた情熱は、そうして私たちの心に届くようにできている。
映画は映画館で観て欲しい、と思うのは、その体験は映画館でしかできない、特別な時間になるからだ。

毎回、「今回の音調整は大丈夫だったかな?」と不安になりながら、初日の上映後のお客さんの顔を眺めるのである。

『ブルーノート80ガイドブック』

Universal Music|2018

『ブルーノート・レコード ジャズを超えて』

『ブルーノート・レコード ジャズを超えて』
2018年/アメリカ/95分
■監督 ソフィー・フーバー
■出演  ハービー・ハンコック/ウェイン・ショーター/ルー・ドナルドソン/ノラ・ジョーンズ
■上映期間:11/ 25(月)〜12/15(日)

「映画とパンの店・シネコヤ」

【営業時間】
営業時間:9:00〜20:00
毎週木曜日定休
【アクセス】
神奈川県藤沢市鵠沼海岸3-4-6(鵠沼海岸商店街 旧カンダスタジオ)
小田急江ノ島線「鵠沼海岸」駅から徒歩3分くらいです。
【問い合わせ】
TEL:0466-33-5393(代表)
WEB:http://cinekoya.com/

Writer:竹中翔子(たけなか・しょうこ)

株式会社シネコヤ代表取締役
学生時代に映画館のアルバイトスタッフを経験し、映画の魅力にハマる。地元映画館の閉館を受け「もう映画館はダメだ!」と思い、映画だけではない+αの空間づくりを目指し、「シネコヤ」として本格的に活動をはじめる。鵠沼海岸のレンタルスペースで毎月2回、フードや会場演出をこらした映画イベントを主宰。2017年4月鵠沼海岸商店街の一角についに「シネコヤ」をオープン。貸本屋を主体とした「映画と本とパンの店」というコンセプトで新たなスタイルの空間づくりを行っている。

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