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COLUMN
Mar. 19, 2019

【シネコヤが薦める映画と本】〔第10回〕本気の遊びが大好きだ!〜『カメラを止めるな!』がヒットした理由

海水浴客で賑わう江ノ島から電車で一駅。閑静な住宅街に囲まれた鵠沼海岸商店街の一角に「映画と本とパンの店・シネコヤ」がある。こだわりの映画と本を用意して街の人たちを温かく迎える竹中翔子さんが、オススメの1本と1冊をつづる連載コラム。今回は映画『カメラを止めるな!』から考える「本気の遊び」についてつづります。

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卒業制作が、ゾンビ映画だった。
映画作りを学ぶ大学へ4年間通った。1〜2年は映像の基礎や映画史を学び、3〜4年では16mmフィルムを使った自主制作映画を一年間で一本撮る。約20名のメンバー全員で、企画から撮影、編集、上映までのすべてを行い、一作品を作りあげる。
その卒業制作がB級映画好きのメンバーが考えた、ゾンビが出てくる脚本だった。
ゾンビ映画なんて観たことなくて、全くもって興味がなかったが、特殊メイクをしたり、血糊を大量に使ったり、新宿の街をゲリラ撮影したり…一生懸命一丸となって映画作りに取り組んだ体験はいい思い出だ。『カメラを止めるな!』を観て、そんな記憶が甦った。

(C)ENBUゼミナール

インディーズ映画のおもしろいこと

『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999)『ONCE ダブリンの街角で』(2007)…2000年代に入り、数々の低予算映画が排出された。低予算映画は、デジタル撮影が進むここ十数年でグンと表現の伸び幅が出てきている。そして更に、デジタル上映が進む中で、インディーズ(自主制作映画)の波は大きくなり続けているように感じる。

『いかにして100万円でインディーズ映画を作るか』(ブレット・スターン著)
この本が出版されたのは、2004年。まさにこのインディーズムーブメントの真っ只中に出版された。売れる映画や映画祭受けする作品のコツ、仲間の集め方、監督のあり方なんかが超ザックリと、且つアメリカンジョークを交えて面白可笑しく読めるので、入門の人には本当にオススメだ。まるで高田純次のような適当なおじさんがふざけながら、しかしよく聞くと「なるほどね」ってことを言っているような、そんな内容だ。

インディーズ映画には、スポンサーやうるさいプロデューサーがいない(ことが多い)ため、監督自らの「撮りたい」という想いが強く現れる、高いメッセージ性や挑戦的な作品が多い。その魅力は、監督の撮りたいものを撮る、ということにあるのではないだろうか。だからこそ思いも寄らない共感や大きな反響が生まれたりして面白いのだと思う。

映画は30分後から、はじまる…

昨年話題が話題を呼び、これまでの自主制作映画では類を見ないほどの大大大ヒットとなった『カメラを止めるな!』は、多くの人の心を踊らせた。とにかく面白い。
観た人は「とにかく面白い!」と熱く語る純粋な感想が多く、そんな噂を聞きつけて「ゾンビ映画が楽しいのか?」と半信半疑で話題沸騰の中、満席の劇場で観た。
とある自主映画の撮影隊が山奥の廃墟でゾンビ映画を撮影していた。本物を求める監督は中々OKを出さずテイクは42テイクに達する。そんな中、撮影隊に 本物のゾンビが襲いかかる!大喜びで撮影を続ける監督、次々とゾンビ化していく撮影隊の面々。
“37分ワンシーン・ワンカットで描くノンストップ・ゾンビサバイバル!”……を撮ったヤツらの話。

はじめの30分…卒業制作で作った拙いゾンビ映画を思い出した。「なんだ、これ?こんなつまらないもの見せられて…」と、自分の学生時代を棚に上げて、半分バカにした気持ちになっていた。物語もあっさり終わりエンドロールが流れる…「あれ、もう終わり?」と思ったところで「カット!」の声がかかる。そして、話題になった所以であろうこのゾンビ映画の正体が明かされる回想シーンへ入っていく。
本当の物語のはじまりは、上映30分後からだった…。

映画が終わったあと、「あぁ、上手だなぁ〜!」と唸った。これは、みんな好きなはずだわ、と納得した。

(C)ENBUゼミナール

大人はみんな、本気の遊びが大好きだ

この映画が、こうまでも世間一般に広まった理由は一体何だったのか?
とにかくみんな楽しそうだった。そういうことなんだと思う。
演者も、カメラには映っていない本当のカメラマンも、録音マンも、監督も…この企画に関わったすべての人たちの「楽しい!」という本気の遊びが、観ている人たちにも伝わってきた。

仕事と楽しい遊びの境界線がたちまち消えて無くなる瞬間がある。
とにかく最高に面白いもの作ろうぜ、っていう大人の本気の遊びを見せられている気持ちになった。そういうものを見ていると、なんだかこっちも仲間になった気分で、エンドロールの最後にはウッカリ心の中でハイタッチしてしまっている。

シネコヤをやっていると、「自分の好きなものが全部ある!」と言ってもらえることがある。一番嬉しい褒め言葉だ。日々、色々なハードルや壁にぶち当たるけれど、“映画”というコンテンツでいかにワクワクを生み出せるか、というのが私たちの仕事なのだと思う。
映画に出てくるアイテムをこっそり店内に再現してみたり、本と映画の組み合わせで魅力的なコーナーを作ったり、ディスプレイや照明にこだわってみたり…。

シネコヤを最大限に楽しんでもらうために、映画好きの人が「うふふ」となることを想像しながら作業する。もちろん、私も「うふふ」と思いながら。本気の仕事も、本気の遊びも境界線が無くなって、どちらにしても「楽しい」と思えることが大切だなぁと思う。
学生時代、一生懸命一丸となって映画作りに取り組んだときと同じように、まだまだ我々の「本気の遊び」の挑戦は続く。

(C)ENBUゼミナール

今回読んでほしい本

『いかにして100万円でインディーズ映画を作るか』
­­­­2004年|フィルムアート社|ブレット・スターン(著)

今回観てほしい映画

『カメラを止めるな!』
2017年/日本/96分/
■監督 上田慎一郎
■出演 濱津隆之/真魚/しゅはまはるみ
■上映期間:シネコヤにて4月22日(月)〜5月12日まで上映

「映画とパンの店・シネコヤ」

【営業時間】
営業時間:9:00〜20:00
毎週木曜日定休
【料金】
一般:1,500円(入れ替え制・貸本料)
小・中学生:1,000円(入れ替え制・貸本料)
※平日ユース割:1,000円(22歳以下の方は、平日のE.F.G各タイムを割引料金でご利用いただけます。)
※お得な年間パスポート制度あり
【アクセス】
神奈川県藤沢市鵠沼海岸3-4-6(鵠沼海岸商店街 旧カンダスタジオ)
小田急江ノ島線「鵠沼海岸」駅から徒歩3分くらいです。
【問い合わせ】
TEL:0466-33-5393(代表)
WEB:http://cinekoya.com/

Writer:竹中翔子(たけなか・しょうこ)

株式会社シネコヤ代表取締役
学生時代に映画館のアルバイトスタッフを経験し、映画の魅力にハマる。地元映画館の閉館を受け「もう映画館はダメだ!」と思い、映画だけではない+αの空間づくりを目指し、「シネコヤ」として本格的に活動をはじめる。鵠沼海岸のレンタルスペースで毎月2回、フードや会場演出をこらした映画イベントを主宰。2017年4月鵠沼海岸商店街の一角についに「シネコヤ」をオープン。貸本屋を主体とした「映画と本とパンの店」というコンセプトで新たなスタイルの空間づくりを行っている。

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