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COLUMN
Jun. 01, 2018

【シネコヤが薦める映画と本】〔第1回〕『パターソン』と茨木のり子
〜飾り気のない日常の映画や詩〜

海水浴客で賑わう江ノ島から電車で一駅。閑静な住宅街に囲まれた鵠沼海岸商店街の一角に「映画と本とパンの店・シネコヤ」がある。こだわりの映画と本を組み合わせたセレクション。街の人たちに映画と本のある風景を届ける竹中翔子さんが、オススメの1本と1冊をつづる連載コラム。

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メモのような詩作が、じんわり沁みる映画『パターソン』

よく、ノートにメモをする。湧いてきた行き場の無い言葉を、自分に聴かせるように。そのメモ書きは、ふと読み返すと、ぴたりと自分の心に寄り添う「詩」のようになっている。

最近観た映画の主人公も、毎日ノートに詩を書いていた。「書いていた」というと、まるで作家の創作物のようだけれど、彼のノートとわたしのそれは、とてもよく似ている気がする。「書く」というよりも「メモする」に近いその行為は、少し深いところにある自分の心に近づく手段のようだ。

映画『パターソン』/Photo by MARY CYBULSKI ©2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved.

主人公のパターソンはバスの運転手。毎日同じ時刻に起き、妻のローラにキスをして出かけ、出発前の運転席でノートに詩を書き留める。仕事が終わるとまっすぐ帰宅し、愛犬マーヴィンのお散歩。そして、BARで一杯飲む。そんな一見変わりのない毎日。パターソンの日々を、ユニークな人々との交流と、思いがけない出会いと共に描く、ユーモアと優しさに溢れた7日間の物語。

昨年公開された、ジム・ジャームッシュ監督最新作『パターソン』。劇的な出来事は何も起きない。ただパターソンの詩と共に、彼の毎日を見届けるだけ。ちょっとのユーモアと、心地良い共感が得られる映画だ。ドラマチックな展開など垣間見ることすらなく、大きな情緒の波に襲われることもなく、変な装飾がない物語は、単調な安心感がある。日々の中の微細な違いに詩を感じ、そこに「愛おしいもの」を見つけるパターソンの毎日は、箇条書きのように淡々と過ぎて、まるでメモ書きのよう。映画の最後には、ふとメモを読み返したあの時の瞬間のように、一つ一つのパターソンの詩がじんわりと心に寄り添ってくる。

Photo by MARY CYBULSKI ©2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved.

茨木のり子さんの詩集『自分の感受性くらい』を読んで

それまで「詩」というと、教科書の1ページにおさまる短いものでありながら、自分に取り込むにはあまりに敷居の高いものだった。飾られた言葉たちの集まりを丸暗記させられて退屈だった。

それを覆したのは、ある一遍の詩。
わたしの一番好きな詩、茨木のり子さんの詩集「自分の感受性くらい」(1977年|花神社|茨木 のり子 ())。

この詩に出会ったのは、高校生の時。それこそ、10代の感受性が一番豊かな時期に出会って、嬉しいことや悲しいことを全身で受け止めていたあの頃、この詩の最後の一文に雷を打たれたような感覚になったことを覚えている。この詩の締めくくりは今でもわたしの心を引き締める。

 

「自分の感受性くらい 自分で守れ ばかものよ」

 

わたしが言葉をメモするようになったのは、それからだったと思う。誰に見せるでもなく、日々湧き上がる言葉の数々をどこに出したらいいのかもわからず、ただメモし続けた。大事に引き出しにしまっているものもあれば、意図して捨てたもの、裏紙になって晩ご飯の買い出しのメモに使われたものもある。それくらい、「メモ書き」であった。何もかっこつけない、飾り気の無い、素の自分でいられた「メモ書き」だった。

茨木のり子さんの詩も、飾り気のない自然な言葉だったので、自ずとわたしの中に浸透していった。イライラしたり、クサクサした気持ちの時に読み返すと、凛とした心がまた戻ってくる。単に癒される、励まされる、といったものとは違う、心の深いところに届く言葉たち。

この人の詩が、好きだなぁ、と思う。

飾らないその人の本当の姿

ジム・ジャームッシュの『パターソン』と、茨木のり子さんの詩集。
そういう飾り気のない映画や詩を好んで選ぶ。

そういえば、人を好きになるときもそうだ。子どもみたいに泣いたり、湧き出る素の表情を見たときに、その人の心にちょっと近づいた気持ちになる。飾らないその人の本当の姿を見ると、お互いのコミュニケーションもとてもシンプルでスムーズになることが多い。だからものすごく下手で、稚拙な表現に見えても、そういう裸んぼうの瞬間を可愛いと思う。
詩や映画もそうでなくっちゃいけない。
きっと、そういう何かと寄り添う瞬間が、好きなんだと思う。

と、今夜もノートに「メモ書き」するだろう

今回読んでほしい【詩集】

「わたしが一番きれいだったとき」(2010年|岩崎書店|茨木のり子 (著))
「倚りかからず」(2007年|筑摩書房|茨木のり子(著))
「自分の感受性くらい」(1977年|花神社|茨木 のり子 (著))

『パターソン』(2016年/アメリカ/118分/)

■監督 ジム・ジャームッシュ
■出演 アダム・ドライバー/ゴルシフテ・ファラハニ/バリー・シャバカ・ヘンリー
■原題:Paterson
■スケジュール:6月3日(日)〜6月9日(土)まで上映
©2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved.

「映画と本とパンの店・シネコヤ」

【営業時間】
営業時間:9:00〜19:00(L.O)20:00(CLOSE)
毎週水曜日定休
【料金】
1DAY・1日出入り自由
一般:1,500円(貸本料)
小・中学生:1,000円(貸本料)
※18:00以降は1ドリンクが付きます。
※お得な年間パスポート制度あり
【アクセス】
神奈川県藤沢市鵠沼海岸3-4-6(鵠沼海岸商店街 旧カンダスタジオ)
小田急江ノ島線「鵠沼海岸」駅から徒歩3分くらいです。
【問い合わせ】
TEL:0466-33-5393(代表)
WEB:http://cinekoya.com/

Writer:竹中翔子(たけなか・しょうこ)

株式会社シネコヤ代表取締役
学生時代に映画館のアルバイトスタッフを経験し、映画の魅力にハマる。地元映画館の閉館を受け「もう映画館はダメだ!」と思い、映画だけではない+αの空間づくりを目指し、「シネコヤ」として本格的に活動をはじめる。鵠沼海岸のレンタルスペースで毎月2回、フードや会場演出をこらした映画イベントを主宰。2017年4月鵠沼海岸商店街の一角についに「シネコヤ」をオープン。貸本屋を主体とした「映画と本とパンの店」というコンセプトで新たなスタイルの空間づくりを行っている。

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