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Apr. 24, 2021

【シネコヤが薦める映画と本】〔第34回〕『花束みたいな恋をした』みたいな恋をしたい
〜共感を呼ぶラブストーリー〜

海水浴客で賑わう江ノ島から電車で一駅。閑静な住宅街に囲まれた鵠沼海岸商店街の一角に佇む「映画と本とパンの店・シネコヤ」。こだわりの映画と本を用意して街の人たちを温かく迎える竹中翔子さんが、オススメの1本と1冊をつづる連載コラム。
今回は、多くの共感を呼んだラブストーリー『花束みたいな恋をした』について。

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「あんな恋がしてみたいね」と、映画館から出てくる高校生くらいの女の子たちが話していた。劇場から出て鼻をすする私の脇を通り過ぎた女の子たち。

今年コロナ禍において苦境の中を、花咲かせるように爽やかな話題を呼んだ『花束みたいな恋をした』は、まさにそんな風に思わせてくれる映画だった。

©2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

終電を逃した麦(菅田将暉)と絹(有村架純)は、偶然にもその一晩を共に過ごすことに。作家、音楽、お笑い芸人…好きなカルチャーが同じで、溶け合うように恋に落ちたふたり。ふたりで一つのパフェを食べながらの告白、そして大学を卒業した後もフリーターをしながら同棲を始めるが…。21歳で出会ったふたりの会話で織り成す、5年間の物語。

ウッカリ、過去の自分の恋愛と照らし合わせてみるも、お世辞にも似ているとは言い難い。自分の恋愛経験に若干肩を落としつつも、「映画って本当にいいものですね」如く「恋って本当にいいものですね」と感じさせてくれて、まるで自分もその恋を体験したかのような清々しい気持ちになった。

共感を呼ぶ“ラブストーリー”の約束

本作は近年多い「原作モノ」ではなく、完全オリジナル脚本。この映画のために書き下ろされた脚本である。脚本家 坂元裕二氏は、「同・級・生」「東京ラブストーリー」など90年代のテレビドラマを手がけた名脚本家だ。

多くの人が坂元ワールドに魅了される所以。「ユリイカ 2021年2月号 特集=坂元裕二」にロングインタビューが収められている。“お話の世界に入れるときを待つ”のが仕事と話している。入れたら、後は自然と筆が進み物語が出来上がっていくのだそう。

《脚本家》というものに天性を感じたのは初めてだった。“恋”という十人十色の体験の、誰もが共感できる部分をすくい取って会話に仕立てる…そのすくい取り方がものすごく絶妙な深さなのだ。
おそらくそれは、万人が美味しいと思うファミレスのパフェみたいなもので、ラブストーリーが観たいと思ったときに坂元氏のドラマを観たら、ほとんどの人がその欲求を満たされるであろう、恋をする男女がドラマに収められている。

映画館で観た『花束みたいな恋をした』では、右隣の席の男子高校生も、左側の席のOLも、その時のスクリーン前にいたほとんどの人がすすり泣きをしていたのではないかと思うほど、エンドロールの楽曲とともに鼻をすする音が響いていた。
自分と照らし合わせたか、あるいは、未来の恋に期待を持ってか、共感の涙であることには変わりない。
かくいう私も、鼻をすする合唱に参加したのである。

大人にも甘い…

©2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

映画館から出てきた女の子たちの会話には続きがある。
一緒にいた子が「もう恋してるじゃん〜!」と肘で突っ込んで、恥ずかしそうに笑い合っていた。彼女たちにも“花束みたいな恋”が訪れますように、と静かに唱える。
高校生の頃の恋は、特別だった。そのトキメキも、切なさも、今よりも何十倍ものキラキラしたフィルターがかかって、粉砂糖のようなこの上ない甘さを放っていたように思う。
女の子たちの初々しい姿を見て、映画の後味は、ますますクリームをたっぷりのっけた甘いパフェみたいになった。映画に出てきた告白のシーンを思い出す。
大人になった私にも、甘いパフェはやっぱり美味しいものだ。

©2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

そうそう、その“甘さ”を引き立てるメインのフルーツは、他作品では観たことがないほど珍しい“甘酸っぱい菅田将暉”さん。たっぷり楽しめます。

【おすすめの本】「ユリイカ 2021年2月号 特集=坂元裕二」

2021年|青土社

【おすすめの映画】『花束みたいな恋をした』

■監督:土井裕泰
■脚本:坂元裕二
■シネコヤでの上映期間:近日上映

「映画とパンの店・シネコヤ」

【営業時間】
9:00〜18:00ごろ
※不定休
【アクセス】
神奈川県藤沢市鵠沼海岸3-4-6(鵠沼海岸商店街 旧カンダスタジオ)
小田急江ノ島線「鵠沼海岸」駅から徒歩3分くらいです。
【問い合わせ】
TEL:0466-33-5393(代表)
WEB:http://cinekoya.com/

Writer:竹中翔子(たけなか・しょうこ)

株式会社シネコヤ代表取締役
学生時代に映画館のアルバイトスタッフを経験し、映画の魅力にハマる。地元映画館の閉館を受け「もう映画館はダメだ!」と思い、映画だけではない+αの空間づくりを目指し、「シネコヤ」として本格的に活動をはじめる。鵠沼海岸のレンタルスペースで毎月2回、フードや会場演出をこらした映画イベントを主宰。2017年4月鵠沼海岸商店街の一角についに「シネコヤ」をオープン。貸本屋を主体とした「映画と本とパンの店」というコンセプトで新たなスタイルの空間づくりを行っている。

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