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COLUMN
Aug. 03, 2018

【シネコヤが薦める映画と本】〔第3回〕妄想女子の素敵なファンタジー

海水浴客で賑わう江ノ島から電車で一駅。閑静な住宅街に囲まれた鵠沼海岸商店街の一角に「映画と本とパンの店・シネコヤ」がある。こだわりの映画と本を用意して街の人たちを温かく迎える竹中翔子さんが、オススメの1本と1冊をつづる連載コラム。

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わたしは妄想することが好きだ。暇さえあれば、とにかく妄想。「あんなことがしたいな、こんなことがしたいな」「あんな素敵な人にこんな事言われちゃったらどうしよう」「ここがあんな風になったら素敵だな」とか、湧き出る泉の如く、妄想が止まらない。
それを見て、こんなことを言われた。「それは、翔子のファンタジーだね」と。
なるほど、妄想とは、ファンタジーなのか。

“好き”という気持ち

そんな妄想好きなわたしの乙女心をくすぐる絵本に出会った。絵本作家 ヒグチユウコさんの「すきになったら」(2016年|ブロンズ新社)。彼女の描く世界は、可愛くって、繊細で、ちょっぴり毒々しい。細い線を重ねた独特のタッチの世界観が魅力的。絵も、添えられる文章も、“女の子”だったあの頃の記憶に触れるような、不思議な感覚になる。「あぁ、わたしの頭ん中、覗かれてる。」と、彼女の絵本を読んで思う。
ワニに恋してしまった少女のお話。人を好きになること、それはとても特別なこと。この絵本のワニを思う少女の気持ちは、“好き”という気持ちを、一番シンプルに描いている。
人に好意を抱きはじめるとき、好きな理由を探してみたり、一緒に居られるかどうかを見極めたり、この人は大丈夫な人か、わたしを愛してくれる人だろうか、とか、あれこれ詮索してしまう。そうなっているときは厄介で、好きという気持ちに辿り着くまでに、だいぶ遠回りをしていることに気がつく。そんな遠回りする乙女の気持ちをわかっているかのように、この絵本は「本当はこうだよ」と真っ直ぐに教えてくれる。

「好きになったら」(2016年|ブロンズ新社|ヒグチユウコ(著))

一直線な気持ち
昨年公開された『勝手にふるえてろ』(2017年/日本)も、好きな人に一直線の女の子の物語。

24歳のOLヨシカは中学の同級生“イチ”へ10年間片思い中。過去のイチとの思い出を召喚したり、趣味である絶滅した動物について夜通し調べたり、博物館からアンモナイトを払い下げてもらったりと、1人忙しい毎日。そんなヨシカの前へ会社の同期で熱烈に愛してくれる“リアル恋愛”の彼氏“二”が突如現れた!!「人生初告られた!」とテンションがあがるも、いまいち二との関係に乗り切れないヨシカ。まったくタイプではない二への態度は冷たい。ある出来事をきっかけに「一目でいいから、今のイチに会って前のめりに死んでいこうと思ったんです」と思いたち、同級生の名を騙り同窓会を計画。ついに再開の日が訪れるのだが…。

真っ直ぐな気持ちでぶつかる、ヨシカの妄想っぷりが、驚異的だ。もう、あまりにくだらなくて、気持ちよくって、思わず応援したくなる。「そうそう、わたしの頭の中も、こんなにくだらないの!」と、妄想女子にとっては勇気をもらう映画だ。しかし、ヨシカの妄想が現実とリンクしてくる様子を見ていると、妄想とは“想像力”だな、と感心すらしてしまう。“想像力”は、時にまわりを動かしていく。妄想とは、なんとも素敵なことである。

©2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会

妄想とは、素敵なファンタジー

ヨシカのように「恋」ではないが、同じように“妄想”→“想像力”を経て、シネコヤも形にしてきた。「こんなお店があったら素敵だな」「ここをこんな風にしたら楽しいな」と、シネコヤこそ妄想で出来たと言っても過言ではない。誰かから言われた「翔子のファンタジー」とやらは、現実となって現れた。ファンタジーというと現実とは程遠いように思えるが、それは背中合わせのようなもので、もはや妄想も現実もそんなに大差ないことに気がつく。ファンタジーに留まらず、現実に引き起こす最大のエネルギーこそ妄想なのではないか。
「夢」を持っている人には、妄想をオススメする。
時には恋に、時には夢に、その“妄想”はわたしの原動力になっている。
もっと素敵なファンタジーをしようじゃないか。

今回読んで欲しい【本】

「好きになったら」(2016年|ブロンズ新社|ヒグチユウコ(著))

『勝手にふるえてろ』(2017年/日本/117分/)

■ 監督 大九明子
■ 出演 松岡茉優/渡辺大知/石橋杏奈
■ スケジュール:8月3日(金)〜8月8日(水)まで上映
©2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会

「映画とパンの店・シネコヤ」

【営業時間】
営業時間:9:00〜19:00(L.O)20:00(CLOSE)
毎週木曜日定休
【料金】
1DAY・1日出入り自由
一般:1,500円(貸本料)
小・中学生:1,000円(貸本料)
※18:00以降は1ドリンクが付きます。
※お得な年間パスポート制度あり
【アクセス】
神奈川県藤沢市鵠沼海岸3-4-6(鵠沼海岸商店街 旧カンダスタジオ)
小田急江ノ島線「鵠沼海岸」駅から徒歩3分くらいです。
【問い合わせ】
TEL:0466-33-5393(代表)
WEB:http://cinekoya.com/

Writer:竹中翔子(たけなか・しょうこ)

株式会社シネコヤ代表取締役
学生時代に映画館のアルバイトスタッフを経験し、映画の魅力にハマる。地元映画館の閉館を受け「もう映画館はダメだ!」と思い、映画だけではない+αの空間づくりを目指し、「シネコヤ」として本格的に活動をはじめる。鵠沼海岸のレンタルスペースで毎月2回、フードや会場演出をこらした映画イベントを主宰。2017年4月鵠沼海岸商店街の一角についに「シネコヤ」をオープン。貸本屋を主体とした「映画と本とパンの店」というコンセプトで新たなスタイルの空間づくりを行っている。

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