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COLUMN
Feb. 19, 2019

【シネコヤが薦める映画と本】〔第9回〕『人生フルーツ』という生き方

海水浴客で賑わう江ノ島から電車で一駅。閑静な住宅街に囲まれた鵠沼海岸商店街の一角に「映画と本とパンの店・シネコヤ」がある。こだわりの映画と本を用意して街の人たちを温かく迎える竹中翔子さんが、オススメの1本と1冊(今回は3冊)をつづる連載コラム。今回は映画『人生フルーツ』から考える豊かな生活についてつづります。

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美しい質感の装丁に、心奪われた。可愛らしいタイトルに、きれいな写真。
「この本、きっと好きだな」とすぐにわかった。一目惚れとは、こうゆうことだ。

私は本を好きになるとき、ちょっと変わっていると思う。目をつぶって、その本に触る。好きな本は手触りがいいもの。内容がどんなによくても、物語が素晴らしくても、「いい話だった!」とは思うけど、お気に入りの一冊にはランクインしないのが不思議だ。気に入るものは、大抵マットな質感の紙でできた、手触りのいいものだ。そんな変なこだわりのある、私の本選びの中で出会ったこの3冊の本は、一目惚れだったと思う。

本を開くと、魅力的な老夫婦の生活が切り取られていた。つばた英子さんと、つばた修一さん。お庭で野菜や果樹を育て、そんなに広くないけど使い勝手のいい台所で保存食をつくり、仕切りのないワンルームの木の家で暮らすふたりの生活。なんて素敵なのでしょう!

映画『人生フルーツ』のこと

©東海テレビ放送

このふたりの生活が映画になった。自身が設計を任された名古屋近郊の高蔵寺ニュータウンに50年間暮らす、建築家 津端修一さん90歳とその妻・英子さん87歳。1960年代、“風の通る暮らし”を追求し雑木林を残し、自然との共生を目指したニュータウンを計画。けれど、経済優先の時代はそれを許さず、完成したのは理想とはほど遠い無機質な大規模団地だった。

修一さんは、それまでの仕事から距離を置き、自ら手がけたニュータウンに土地を買い、家を建て、雑木林を育てはじめた―。
庭で育てた野菜や果物で、得意の料理を手がけ、食べるものはできるだけ自分たちで育てる。ふたりのこれまでと、今を追ったドキュメンタリーだ。敗戦から高度成長期を経て、本当の豊かさとは一体何なのか。

©東海テレビ放送

樹木希林さんのナレーション「コツコツ、コツコツ」が心地よく響く。庭に茂るたくさんの草花、庭を彩るさまざまな果実、それを摘んで日々の食卓に…。ふたりの暮らしは、まるでおとぎ話のように美しく、それでいてとても身近なことでもある。辛い戦争体験や、日本経済との確執、順風満帆ではなかった夫婦の人生を振り返りながら、今、未来に残したい“土”を育てていく…。
この映画を見ると、私たちの生活は、日々の積み重ねでできているんだなぁ、と実感。ふたりの力強い生き方に、そして掛け合いがとても優しくて、自分たちの明日からの暮らしを考えたくなる。

自分の暮らしを考える「本当の豊かさ」とは?

口に入るものを考える。自分の暮らしを考える。生き方を考える。その、手本になるような美しい生き方だなぁ、と思う。この映画が爆発的な大ヒットとなり、熱狂的なファンを持つことは、実在するふたりの主人公を知れば納得する。どうもこの夫婦の生き方には、私たちが置いてきてしまった「本当の豊かさ」があるようだ。
それは庭でコツコツ野菜を育てるということだけでなく、
仕事に、家庭に、子育てに…
行動や、言葉や、感情を…
“積み重ねる”ことの大切さを忘れてはいないだろうか。日々の積み重ねを、大切に、豊かに暮らせているのかな、と思う。

©東海テレビ放送

どんな生き方を、暮らし方を、したいのか?
そんなことを問われているような気がする。

未来につながっていること

そして、物語には続きがある…「きのう、きょう、あした。」三冊の最後の本。
この本には、修一さんが亡くなったあとの、英子さんの一人暮らしの様子が描かれている。なんでも修一さんを一番に、修一さんに合わせて生活をしてきた英子さん。居なくなって、何をしたらいいのかわからなくなってしまったそう。庭の雑木林も手入れができず、食べるものも適当になってしまった。そんな英子さんを支えたのは“積み重ねてきた生活”だった。「お父さん(修一さん)が言っていたことを思い出して…」と、英子さんは動き出し、また“土”作りをはじめた。“土”が良ければ、未来の子どもたちは暮らしていける、と。

コツコツと毎日積み重ねることが、未来につながっていること。当たり前のことを、ちゃんと意識して、積み重ねていく生き方を選択していきたいな、と思う。

(文・竹中翔子)

日常の豊かさ味わうショートフィルムなら

『またね / Bis Gleich』
道を挟んだふたりの日課は、穏やかな日常を眺めること。この幸せが続くものと思っていたが・・・。
【あらすじ】
老いた二人の男女が、通りを挟んで向かい側に住んでいる。二人は時折窓ごしに目が合うが、一度も会って話をしたことはない。そんな二人の関係に、ある日変化が訪れる。
無料視聴はこちらから

今回読んでほしい本

「あしたも、こはるびより。: 83歳と86歳の菜園生活。はる。なつ。あき。ふゆ。」
2011年|主婦と生活社|つばた 英子、つばたしゅういち(著)

「ひでこさんのたからもの。」
2015年|主婦と生活社|つばた 英子、つばたしゅういち(著)

「きのう、きょう、あした。」
2017年|主婦と生活社|つばた 英子、つばたしゅういち(著)

今回観てほしい映画

『人生フルーツ』
2016年/日本/91分/
■監督 伏原健之
■出演 津端修一、津端英子 ■ナレーション:樹木希林
■ 上映期間 3月11日(月)〜3月31日まで上映

「映画とパンの店・シネコヤ」

【営業時間】
営業時間:9:00〜20:00
毎週木曜日定休
【料金】
一般:1,500円(入れ替え制・貸本料)
小・中学生:1,000円(入れ替え制・貸本料)
※平日ユース割:1,000円(22歳以下の方は、平日のE.F.G各タイムを割引料金でご利用いただけます。)
※お得な年間パスポート制度あり
【アクセス】
神奈川県藤沢市鵠沼海岸3-4-6(鵠沼海岸商店街 旧カンダスタジオ)
小田急江ノ島線「鵠沼海岸」駅から徒歩3分くらいです。
【問い合わせ】
TEL:0466-33-5393(代表)
WEB:http://cinekoya.com/

Writer:竹中翔子(たけなか・しょうこ)

株式会社シネコヤ代表取締役
学生時代に映画館のアルバイトスタッフを経験し、映画の魅力にハマる。地元映画館の閉館を受け「もう映画館はダメだ!」と思い、映画だけではない+αの空間づくりを目指し、「シネコヤ」として本格的に活動をはじめる。鵠沼海岸のレンタルスペースで毎月2回、フードや会場演出をこらした映画イベントを主宰。2017年4月鵠沼海岸商店街の一角についに「シネコヤ」をオープン。貸本屋を主体とした「映画と本とパンの店」というコンセプトで新たなスタイルの空間づくりを行っている。

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