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INTERVIEW
Nov. 12, 2019

【Special Interview】『寝ても覚めても』の濱口竜介監督が語る
ショートフィルムの魅力とは?

2019年10月19日土曜日、東京・恵比寿の東京都写真美術館にて「トークセミナー 濱口竜介監督が描き出す「生きた」映画の住人」が開催された。BSSTOでは、トークゲストの濱口竜介監督にインタビュー。『寝ても覚めても』(東出昌大主演・2018)でカンヌ国際映画祭に入選した濱口監督にショートフィルムの魅力ついて話を聞いた。

大切なのは「自分の基準を磨く」こと

-はじめに、濱口監督のキャリアについて伺います。まず、出身の大学は東京大学ですよね。大学選びの時点で映画は意識していたのですか?

濱口:
全然していないです。文学部ということは決めていましたが、映画は趣味として好きっていう感じで、進路は何も考えないで入ったというか、進路を考えるために文学部に入ったという感じですね。

-なぜ東大に?

濱口:
まあ恥ずかしいぐらい何も考えてはいなかったというのが正直なところです。ただ、2歳違いの兄の影響が強いと思いますね。高校時代の成績は決して良くなかったですが、兄が入学していたので、負けん気強く、俺が入ってもいいはずだと。ただ勉強が足らず、現役のときは落ちました。そのときはショックでしたけれど、予備校に入ってそれまでの勉強量で受かるわけはなかったな、と認識してからは、それなりに一生懸命勉強して一浪で入ったという流れです。

濱口竜介監督

-東大生の進路というと官僚や学者など、エリートというイメージがありますが、就職活動ではどんなことを考えていたのでしょうか?

濱口:
就職活動をやる段階では映画をやりたいけれど、どうすればいいかわからない、ということで映像関係に就職しようと思っていて、テレビ局などを受けるけれど、それはまあパーソナリティの問題もあったと思うんですが、だいたい落ちてます。受かっていてもバラエティ番組の制作会社とかで、さすがにこれは多分違うよな、とか。そういう状況を見かねた研究室の教授が、卒業生で映画監督になった人を知っているから紹介状書いてあげるということで助監督になったんです。
他の業種のことは考えませんでした。大学3、4年くらいから映像、映画ということにフォーカスしていたので、あまり迷いなどはなかったですね。

-周りがどうであろうと自分は映画でいくぞと。

濱口:
まあそうですね。周りがどうだって関係はないでしょう。ただし、所属していたサークル「映画研究会」の文化には影響を受けたと思います。ある程度浮世離れしている人もいて、世間的な常識をいったん括弧に括ってもいいんだな、と教えてもらった気がします。実際、そういう人たちは今も学生時代の印象のまんま活動している気がしますね。

-仕事を模索しながら助監督だったりテレビの制作だったりをされてきて、2006年に東京藝術大学大学院の映像研究科に入学されます。年齢で言うと?

濱口:
27で入って29で出たという感じですかね。

-タイミングとしてもうすぐ30歳だからとか、社会人として数年経験を積んだから、という意識だったんですか?

濱口:
僕は商業映画やテレビの現場ではあまりうまくいかず、結構社会不適合者みたいなところがあったので、2005年に映像研究科ができるというニュースを聞いた時、希望を持ちました。ある種の避難所のような形で、物事が続けやすいだろうなと思ったので、自分の体制を立て直すための場所としてそれを必要としていた気がします。

-社会不適合者、どういうところで生きづらさみたいなものを抱えていらっしゃるんですか?

濱口:
単純に先輩の命令が聞けないっていう。反発心とかではなくて、単純に理解が及ばないことが多かった。商業映画の現場でやっていくには、問題があるんだろうなと思いつつやっていたので、一旦上下関係ではないところに入りたいっていうのがあったと思います。

-『ハッピーアワー』(2015)ではロカルノ国際映画祭、『寝ても覚めても』(2018)ではカンヌ国際映画祭に入選といろいろなところで評価されていらっしゃいます。様々な人からの信頼を得て、今があると思うのですが、チャンスをつかむために意識して行動していることはあるのでしょうか。

濱口:
チャンスをつかむために何かをするっていうことはないですね。単純に自分の基準を磨くっていうことだと思います。監督の場合は「OK」「NG」っていう基準を示さなければいけないわけですよね。現場で何がOKでなにがNGかっていう基準を、ある種まあ周囲を説得できるように示さなきゃいけないということがあると思うんですけれど、その基準を繊細にしていくというか。それが言うなれば、そのままチャンスを待つことになると思っています。その基準がほかの人の基準に、たまたま出会っていくだけだと思います。

-濱口監督の良い悪いの感性と通じている人がいらっしゃるということなんですか?

濱口:
映画祭のディレクターでも、海外の批評家でも、話していて、年齢も文化も違うけれど同じ映画を観ているんだなって感じることがあったり、同じ映画の同じ部分を見ているんだなって感じることがあるということです。
それは映画に限らないと思います。なんでも、いまの自分が知らないことを学ぼうとすることが、チャンスをつかむために一番大切なことじゃないかと思います。

-若い制作者の中には、海外での活躍を描いている人もいますが、彼らに対するアドバイスはありますか?

濱口:
アドバイスがあるならば…、自戒を込めて言いますけれど、「一生学ばないといけない」ということです。なぜ距離が離れた、全く文化の異なるところで基準を同じくした人がいるのか。これはみんな歴史を学んでいるからなんですよ。映画で言えば、その歴史なんてたかだか120年ぐらいですから、ほかの芸術ジャンルよりはるかに基本的な学びはしやすい。源流の部分を共有しているから、距離を超えて、通じ合うこともできるんです。歴史を学ぶことは、いまの自分の無知とか能力の限界にぶち当たることです。そうしながら、自分の基準っていうものを作っていかなきゃいけない。そうするといつか、同じようにやってきた人と出会うこともあります。
歴史を学ばないっていうことは知の蓄積を軽視することです。そのときの問題は、簡単に自己正当化をしてしまうっていうことです。知らないから、自分の狭いものの見方でものごとをジャッジして、それをよしとしてしまうし、それは悪循環になる。なのに、歴史を学ぶ気になかなかなれないのはそれが怖いことだからです。果てしないのに、未知の基準があることだけは何となくわかるので、自分はまったく間違っていて、そのことを誰かに指摘されるんじゃないかって怖くなる。けど、自分の無知とか能力の限界の側にしか、自分の伸びしろというのはないし、なりたい自分というのは案外そっち側にあるわけですから、自己正当化をやめて、それと向き合わないといけない。これは何より自分に向けて言ってるんですが。

濱口監督が短編を撮り続ける意味とは?

-次にショートフィルム(短編映画)について伺います。監督の目から見て、長編にはない短編ならではの魅力というとどんなものになりますか?

濱口:
作る立場から言うと、本当にある人生の一瞬間を映せばいいっていうある種思い切りの良さが短編制作をしているときにはありますね。短編では現実にあまり起こらないような、稀な事態を描いてもいい、っていう感覚が何となくあります。短編でしかできないような飛躍とか、そういうものがあると思います。長編は逆に、ある種の普遍性まで達する必要を感じます。そうすると、当然ディティールを分厚くしていかないといけないんですけど、ディテールを示すことによって逆に出てくる粗もあります。

-監督は短編も長編も作られていますが、これは長編向けの企画と短編向けの企画に違いはありますか?

濱口:
登場人数が少ないと短編に落ち着くことが多いですよね。すごく少ない人数で長編を作るというのは難しく、2~3人の関係に収まっているものだと短編になりやすい気はします。そして、実はそれで十分ということもあると思います。

-濱口監督の制作の履歴を拝見すると長編と短編を行き来しているように見えますが、交互に作る意識があるのでしょうか?

濱口:
交互にという意識はありませんが、長編を連続して作るのは、とても疲れることのような気がしますね。特別意識してやっているわけではないですが、長編を一個作るとカラッカラになるというか、次に何をやったらいいかわからない、手詰まり状態になってしまう。それを変えるために短編で糸口を探るというか。

-先ほどのイベントの中でもお話されていましたが、短編とは「やってきたことの確認」と「やりたいことへのチャレンジ」だと。

濱口:
まさにそういう風になると思います。結果的にですが、短編映画『天国はまだ遠い』(2016)は、長編映画『ハッピーアワー』(2015)で演技経験のない演じ手を相手に実践した演出や脚本の方法を、職業俳優の人たちとできるのかという確認になっていたと思います。それを経て商業映画の『寝ても覚めても』(2018)に挑戦できたとも思います。短編が確認の場や、次に生まれるものの実験場になっているということだと思います。

『天国はまだ遠い』

-監督自身は、これからも短編を作る予定はありますか?

濱口:
今後も短編を作っていきたいという思いはどんどん強くなっている感じです。

-長編で商業映画を作る様になってからもそれは変わらず?

濱口:
そうですね、ますます重要になってきているという気がしますね。短編映画であれば自主映画のようなレベルというか、小さな規模でできることだったりするので、自分のやりたいことを試す場所ということで、とても有効な制作の方法なんじゃないかなという気がします。

自分が面白いと思うもの、誰かが面白いと思ってくれる

-映画を今まで様々つくられてきましたけれども、どんな人に届けばいいのか鑑賞者の設定はされているのでしょうか?

濱口:
あまりしていないというのが正直なところです。いまの自分が面白いと思うものを作るということだけです。関わる人が多ければ、関わる人たちがみんなができるだけ面白いと思えるものを作るということが大事にもなるんですけど、根本的には「自分の面白いと思うものは、他の誰かも面白いと思ってくれるはずだ」という祈りのような気持で作っています。

-濱口監督が面白いと感じるポイントは?

濱口:
「なんだこれは」というものじゃないでしょうか。「理解できない部分がある」ということは僕はとても大事なことだと思います。一方で理解のとっかかりがないものを、人は観ることができない。「理解できる、にもかかわらず理解できない」ものは本当に面白いものの条件だと思います。

-自分の知らないものや理解できないものって、出会う努力をしないと出会えないものだと思うのですが、濱口監督は意識して出会う努力をしていらっしゃるのでしょうか?

濱口:
理解できないものに出会うのは、実はどこででもできると思います。僕たちに必要なのは、自分たちの目の前にある、理解した気になっているものを改めて感知するためのセンサーを持つことだと思います。どこに行ってもそれがない限りは見過ごして終わることになってしまうので、理解できないものを「理解できなかった」ってちゃんと受け止めるようなレセプターが、いるような気がしますよね。そしてそれをどうやって作ればいいのかというところは…、やっぱり勉強するしかないのかな。

-その勉強って何なんでしょう。

濱口:
勉強って言葉だと堅苦しいですけど、とりあえずは楽しいと思うことをひたすらインプットして積み重ねていくだけで十分だと思います。それがどんなジャンルであれ、インプットを積み重ねていくと目利きになるわけですよ。これは面白い、これは面白くないっていうことの基準が自然とできていく。
そうすると、その基準が時折ほかのジャンルに適応できることもある。だから、基本的には楽しいと思うことをどんどんインプットをしたらいいと思います。それがなにか別のことをやる回路を開いてくれるっていうのがあります。

-映画を一般視聴者の立場になって、「ここを観ておくと映画の見方が磨けるよ」みたいなポイントってありますか?

濱口:
その場にカメラがどういう風にあるのかっていうことを想像してみるのはとても大事です。TV番組とかハリウッド映画とかでは基本的にカメラを意識させないように場面が構成されているので、カメラの存在を意識するのが難しいんですけれど。カメラが一体どういう風に置かれているのかに意識を集中してみる。編集点はカメラの置かれている時間か空間のどちらかが変わっている、現実そのままではないという証拠です。カメラがあるポジションからあるポジションにどう移されているのかを見るだけで違って見えてくると思います。

-それは監督の意図を読み取るみたいな話なんでしょうか?

濱口:
それもあると思います。映像が自分を操作しようとしていると強く感じてしまえば、いままで感動していたようには感動できなくなるでしょう。ただ、カメラポジションの置き方からその人の美学を見つけられたら、また違う形で、震えるように感動することもできると思います。

(取材:大竹悠介)
(撮影:吉田耕一郎)

「トークセミナー濱口竜介監督が描き出す「生きた」映画の住人」書き起こしレポート記事はこちら

濱口 竜介(はまぐち・りゅうすけ)

1978 年、神奈川県生まれ。2008 年、東京藝術大学大学院映像研究科修了制作『PASSION』が国内外の映画祭に出品され高い評価を得る。その後も、震災後の東北を写したドキュメンタリー映画『なみのおと』(2011)や『なみのこえ』『うたうひと』(2013)(共同監督:酒井耕)、神戸を舞台にした5 時間を超える長編ドラマ『ハッピーアワー』(2015)など、地域やジャンルをまたいだ精力的な制作活動を続けている。2018 年、カンヌ国際映画祭コンペティション部門にも出品された最新作『寝ても覚めても』は世界各国、30以上の地域で劇場公開された。2019年からはニューヨーク、パリ、ソウル、トロント等、世界中の主要都市で特集上映も開催されている。

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Writer:BSSTO編集部

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