スタートから2年目を迎えたBrillia SHORTSHORTS THEATER ONLINE。多種多様なショートフィルムを紹介しています。選定にあたったスタッフがショートフィルムの魅力を座談会形式で語ります。
第2回のメンバーは右から青目健(プロジェクトマネージャー)、田中冬弓(PRアシスタント)、小坂けいと(アシスタント)です。
今回の作品は、ショートショートのイベント等で上映され人気の高い『ボガビラのバス』と、カンヌ受賞作品で『ブレードランナー 2049』の監督が制作した『華麗なる晩餐』。
※この記事にはネタバレを含みます。
『ボガビラのバス』 (英題:The Boggabilla Bus) Mitch Kennedy監督/2016年/オーストラリア/約11分
【あらすじ】
8歳のオスカーは親友のアシュリーに、自分の気持ちをうまく伝えることができない。ある日やってきたアシュリーとの別れ。最後のチャンスを逃してしまったオスカーは、スクールバスをジャックしてアシュリーの元に走り出す!
小坂
いかがでしたでしょうか。
田中
さわやかな感じ(笑)。
青目
ノスタルジーな感じがすごくある。
小坂
ノスタルジー?
青目
自分が小学生のころというより、『STAND BY ME』とか少年の時の田舎町の感じっていう雰囲気があるよね。ただ、何であの二人が親友なのかわからないのと、たくさんの個性的な子どもたちの説明があったのに生かし切れていないところが、ちょっと物足りなさを感じたかな。
小坂
バッサリ編集したんでしょうね。
田中
監督は自動車のコマーシャルなど、CMを撮ることが多い人みたい。最後のバスの引きの画とか空撮とか、本当にきれいにまとまっているよね。
小坂
スクールバスって乗ったことがないので、実際どうなのかイメージがわかないのですが。
田中
同じようなスクールバスが舞台の作品でミシェル・ゴンドリーの『ウィ・アンド・アイ』って知ってる?ニューヨークの子どもたちってこういう感じなんだ、こういう会話なんだ、と子どもたちの視点がよく描かれていて面白かった。
小坂
観ました!でも、てっきりスパイク・リーだと思ってた。人種もバラバラだし。
青目
『リトル・ミス・サンシャイン』もスクールバスだよね。家族だけど。
小坂
おふたりは学生時代、スクールバス乗っていました?
青目
保育園のとき以来乗ったことないなぁ。
田中
遠足バスくらい。日本だと幼稚園バスが多いよね。幼稚園の世代だから、子ども同士の世界というより親が介入してくる話をよく聞いたりするよ。「この子とは隣に座らせないで」とか席順を気にしたり。
小坂
それを考えると、このストーリーがどれだけ朗らかか。
田中
子どもが運転しちゃってね。
青目
主人公の友達の悪ガキがいい味出してたよね。「ハイジャックだ!」って。
小坂
大人が作ってる感が否めないですけどね(笑)。そういう風に言わせちゃうところとか、大人がこうであってほしいみたいな。
田中
そうだよね、私も実はリアリティが足りないと思った。きれいに作りすぎていて、個人的な好みとしては、もうちょっとダルデンヌ兄弟的な感じがほしかったな。
青目
ふゆみさんが演出するとどんなリアルが出てくるんですか?
田中
ストーリー自体にそんなに展開はなくても二人の友情は描けると思う。昨日まで隣にいた子がいなくなった寂しさが、ガヤガヤうるさい日常のスクールバスの中で空虚感として表れてくるみたいなのを出すかなあ。
青目
前向きな解釈をすると、アシュリーとオスカーは毎日バスの中でパンを交換しているよね?でも最後にオスカーがパンを渡すときはアシュリーからは無かった。ただその代わりに今までアシュリーがみんなにお話を聞かせる役割だったところを、彼が引き継ぐ形になったと言えるのかもしれない。彼女から受け取ったものがあるというか。
田中
彼女を追いたいっていう思いに駆り立てられて、バスを運転しちゃったことで、今や勇敢な男の子としてみんなに認められた存在になる。
青目
成長物語だよね。
『華麗なる晩餐』(英題: NEXT FLOOR) Denis Villeneuve監督/2008年/カナダ(ケベック)/約11分 上映歴:カンヌ国際映画祭 2008
【あらすじ】
豪華絢爛の晩餐会。美食を求める11人のゲストと召使たち。グロテスクな晩餐で、発せられる唯一の言葉は「Next Floor」。
青目
晩餐会で着飾った参加者たちが料理をむさぼり食べて、その重さで床が抜けて下の階に落ちていく、という筋書きの作品ですね。これは名作だと思うなあ。
田中
本当?
青目
メッセージ性が強いですよね。自分は、地球に生きる人間の行いを描いていると解釈しました。いろんな動物たちが料理として運ばれてきて、最後にはサイとか出てくるけど絶滅危惧種なんだよね?いろんな命を食い散らかして人間は生きているというか。そして最後のシーン。晩餐会を取り仕切る執事の視線がこっちを向いて「君もそうじゃないの?」って投げかけて終わる。
田中
たけしさんの解説を聞いて、ひとりで観たときには理解できなかったことが少し理解できた気がする。なんのためにグロテスクな描写を見せてるのかなと、ひとりで観た時にはわからなかったんだけど。
青目
普段見て見ぬふりをする問題を、目を逸らしたくなるグロテスクな料理に投影しているのかもしれないですね。例えば環境問題とかは、大事だとわかっていても、生活の中であまり意識できていないというか、忘れてしまっていることも多いんじゃないかって。前に日本人の暮らしを全世界の人々がするためには、地球2.9個分必要だと聞いたこともあるし。
田中
人間の欲を描いていたシーンとしては、『千と千尋の神隠し』で、お父さんとお母さんが食べ過ぎて豚になっちゃうシーンを思い出した。
小坂
ああ、確かに。そういう描写ってあるんですね、メタファーというか。
田中
設定が昔の貴族みたいな感じじゃない?登場人物が現代の服装や髪形で現代人っぽかったら、今生きている自身に重ね合わせてもうちょっとリアルだったのかなあと思った。そういえば最後落ちてくところは蛍光灯が映っていたよね(最初はシャンデリアだったけど)。時代を超えてやってきたという意味なのかな。
青目
現代でもああした格好している人がいなくはないから、現代なのかもしれないし、近未来なのかもしれない。時代は設定してないのかもしれませんね。
大竹(カメラマンとして参加)
ひとりだけ食べることを拒んでいる若い女性がいて、抵抗していたけれど最後は他の人と同じように食べてしまう。そのとき女性の頬を伝っている涙の痕がすごく印象的です。このゲームを降りたいんだけど降りられない、その苦しみというか悲しみを表現していて。
小坂
でもニコニコしながら食べてる。
青目
分かってはいるんだけど、誘惑に負けてしまうということを描いているのかもしれない。
小坂
最初からガツガツ食べている人は小太りな白人のおじさんで、細身のお姉さんが食べろって強制されるようになって、キャラクターを客観視すると人種とか社会階層の比喩も見えてくるような気がしますね。あと『Next Floor』(『華麗なる晩餐』の原題)というタイトルですが、「NEXT!」って言いながら落ちてるじゃないですか。「次に行く」=「落ちる」っていうのも意味がありそうですよね。
小坂
第1回の座談会では「ショートフィルムの余白」みたいな話をしたんですよ(第1回の記事はこちら)。今回はテーマもストーリーもかっちり決まっていて、完成された「作品」という感じがありました。長編くらいの重さがありますよね。重すぎはしないけれど、しっかり観たっていう気分になる。これが長編だったら何が増えると思います?
青目
『ボガビラのバス』は子どもたちみんなに見せ場が与えられるんじゃない?
田中
主人公のオスカーとアシュリーが分かれる背景に、アシュリーのお父さんの死があるんだけど、そのあたりが回想シーンとしてあるかも。
小坂
『Next Floor』は2時間落ち続けられても困りますよね。短編だからできる表現だと思います。
田中
長編にするなら、晩餐会の参加者それぞれのバックグラウンドや、どうしてそこに集まってきたのかがあると思う。
青目
招待状が届くとか。それはそれで、ちょっと観てみたいですね。
2回目のショートショート座談会、いかがでしたか?今回はより作品そのものにフォーカスした時間になりました。人の解釈を聞いてすっきり理解することが出来たり、関連したテーマの長編映画も出てきて、感想をシェアすることの魅力をすこし感じていただけたかなと思います。次回もお楽しみに。