スタートから2年目を迎えたBrillia SHORTSHORTS THEATER ONLINE。多種多様なショートフィルムを紹介しています。選定にあたったスタッフがショートフィルムの魅力を座談会形式で語ります。
第3回のメンバーは左から東野正剛(SSFF & ASIA フェスティバルディレクター)、小坂けいと(BSSTOアシスタント)、大竹悠介(BSSTO編集長)です。
今回は5月29日よりスタートするSSFF & ASIA 2019に合わせて、近年の授賞作品を4作品集めました。2018年グランプリ『カトンプールでの最後の日』、2017年グランプリ『シュガー&スパイス』、2016年グランプリ・第89回アカデミー賞短編実写映画賞『合唱』Branded Shorts of the Year 2017 インターナショナルカテゴリー『Notes』です。
※この記事にはネタバレを含みます
『カトンプールでの最後の日』(英題:Benjamin's Last Day At Katong Swimming Complex)
Yee Wei Chai監督/シンガポール/ドラマ/2017年/15:19
【あらすじ】
幼少期に通っていたカトン地区のプールが解体されることを聞きつけたベンジャミンは、過去に感じた魔法のような時間を取り戻そうとプールへ向かう。
小坂
どうでしたか?
東野
LGBTを主題とした作品というのはショートショートでも十数年前からあったのですが、最近は多様性が求められるような社会になっていて、LGBTの要素が含まれた作品がグランプリを獲るというのは、時代にマッチしていると思います。
LGBTの作品は昔だと欧米が多かったんですよ。それがシンガポールという、東南アジアから出てきたというのは新鮮でした。実際、シンガポールではシーンの一部をカットして上映されたそうです。
小坂
へ―、そうなんですね!
大竹
僕らが観るのはフルバージョン?
東野
そうです。男の子がコーチの首をなめるところが大きく映るんですよね。それがシンガポールでは良くなかったみたいで、カットされてしまったと聞きました。
小坂
欧米では多くて、東南アジアではまだ上映できず、東京では上映できるっていうところで、日本はどういう立ち位置なんでしょうね。
東野
日本はLGBTのコンテンツに対して東南アジアに比べてはオープンな方だと思いますね。東南アジアにはイスラムの方々も多くいらっしゃいますし、宗教的な原因で性的な表現についてかなり制限があるみたいですよね。
特にマレーシアやインドネシア。シンガポールもマレー系の方が住んでいますからね。もちろん社会の中にはあると思うんですよ、そういうムーブメントも。それがエンタテインメントのコンテンツになってくるとちょっと制限があるみたいですね。日本でのイメージはどうです?
大竹
表現の自由は憲法で保障されてることなので、LGBTのことに関して規制みたいなものはないかなと思います。ですが、あまりよくないと思っている人たちはいるだろうなとは思います。
東野
日本は昔からタレントさんの中でもLGBTのどれと明確に言い表せないような方たちもいらっしゃいました。今では女性らしいお姿の美輪明宏さんですが、若い頃は男性の姿で映画に出ていました。たとえば『日本人のへそ』っていう映画で。ピーターさんは『薔薇の葬列』っていう映画でデビューして、それもゲイボーイの役で出られていましたね。60-70年代から前衛的な作品でゲイボーイとかLGBTを主題に取り入れた作品っていうのは日本でもあったんですよね。ただ、レズビアンの主題のお話はあまり聞かないですよね。海外には結構いらっしゃるんですが。
小坂
エレンの部屋のエレン・デジェネレスとか。アメリカのトークショーの司会でいますね。
大竹
『カトンプールでの最後の日』の監督はどういう方なんですか?
東野
個人的にお話はしていないんですけれど、パッションがある感じの方でね。この作品に関して評価が高かったのは、一人の少年の思い出のお話、英語でいうComing of Ageつまり幼年期から思春期にかけての自分の発見みたいな話は多いんですけれども、その中でシンガポールだったっていうのは大きかったですね。
『シュガー & スパイス』(英題:Sugar & Spice)
Mi mi Lwin監督/ミャンマー/ドキュメンタリー/2016年/16:04
【あらすじ】
ミャンマー中部の乾燥地帯で、監督が自ら両親の生活風景を記録した作品。パームシュガーを使った地元のお菓子を作り、生活の足しにする彼らの暮らし方には、愛すべきものがある。
小坂
この作品はドキュメンタリーですが、応募作品としてドキュメンタリーの割合はどれくらいなんですか?
東野
昔に比べれば増えましたが、全体の中の数としては少ないですよね。ひとつの部門で100本応募があったとするとドキュメンタリーは3~5本くらいです。
小坂
その中で『シュガー&スパイス』がグランプリを獲ったことについてどう思いますか?
東野
過去にドキュメンタリーが獲ったか正確には覚えてないですけれど、あまりなかったですよね。この作品の意義は、ミャンマーの若い女性の監督、たぶん20代前半で卒業制作っぽかったんですけれども、自分の親を主題にドキュメントを獲ったということですごく自然でした。
ドキュメンタリーを観ていても、やらせじゃないかっていう部分はやはりあるんですよ。でもこの作品は親が対象なので、親もリラックスしていてカメラを意識してないっていうことがすごくわかるんですよね。内容的にも親の世代が農家で貧しい暮らしじゃないですか。それと彼女が町に出て映像の勉強をして技術をつけて生きていくっていうところの世代のギャップが面白いなあと思いました。
大竹
けいとさんは、監督と同世代としてどうですか?
小坂
お母さんはものの数え方もわからないみたいな感じで、そういう世界もあるんだと思いつつ、監督自身も外に出るまではそのギャップに気づいていなかったんだろうなと思いましたね。いま自分が生きている世界は与えらた世界でしかなくて、私の知らない世界もあるんじゃないかなと思いました。悠介さんはどうでしたか?
大竹
現実的な明日の生活どうするんだっていう話をする母親と、新聞読みながら天下国家のことを論じている父親との対比が面白かったです。男は夢見がちっていうところは、日本でもあることで。性別を固定化するのはステレオタイプな考え方かもしれませんけれど、生活を一生懸命考えるのも重要なことだよね、みたいなことを僕は感じましたね。
東野
その二人に育てられた娘がカメラのレンズを通してそれを撮っているわけだから、監督はどういう気持ちで撮っているのか訊きたくなりますよね。
『合唱』(英題:Sing)Kristof Deak監督/ハンガリー/ドラマ/2015年/25分
【あらすじ】
おとなしい10歳の少女ジョフィーは転校したばかり。最初は少し慣れなかったが、すぐに校内で有名な合唱団に入ることを決め、人気者のクラスメイト、リザと仲良くなる。ほどなく、彼女たちは一致団結して合唱団の指揮者である先生に立ち向かうことになる。彼女は見た目と違い、本当は意地悪な人物だった。
小坂
子どもが活躍する映画って多いと思うんですけれど、それはショートフィルムでも同じですか?
東野
子どもを主題にした映画っていうのは長編にしろ短編にしろ多くあって、僕が思うに子どもって純粋な生き物で、社会の問題とかいろんなものを訴える中で比喩的に使われていますよね。子どもを入れることによって純粋に問題を見せていくみたいな手法もあったり、逆にその純粋さを打ち出して大人になった自分は何なんだみたいなところを描くものもあったり。その代表的な作品がフランソワ・トリュフォー監督の・・・
小坂
『大人は判ってくれない』。
東野
あれはもう本当に永遠の名作と言われていますけれども、子どもを淡々と撮っていてドキュメンタリーに近い映画でしたよね。短編映画でも子どもとか、老人とか、社会的弱者の人を描く作品っていっぱいあるんですよ。ただ、うまく物語を伝えないとちょっとね。
大竹
利用しているみたいな。
東野
そうそう。だけど『合唱(Sing)』の場合は子どもたちの純粋さと自分たちの主張みたいなところがちゃんと出ていて、最後はちょっとリベンジみたいなところもあって面白かった。
小坂
最後は大どんでん返し。
東野
すっきりと。その辺もうまくできているなあと思います。監督の演出力ですね。
小坂
ただ子どもたちだけであんなに意思を統一できるかなっていうところはありますけれど。(笑)
東野
ツッコミどころはたしかにありますね(笑)
『NOTES』Chris Booth監督 & Joel Pylypiw監督/カナダ/2017年/3:49
【あらすじ】
さまざまなライフステージを乗り越えるには困難がつきもの。メモがつなぐ、あるふたりの人生。
小坂
ショートショートではBranded SHORTSという枠組みを作っていま。CMとショートフィルムの境というか、そこに境があるのかというところも含めて気になります。私としてはショートフィルムと言われてみればそう見えますし、テレビCMとして流れてきたらCMと認識しますし、同じものを観ていてもその違いは捉え方の問題なのかなと思っているんですけれど。
東野
基本的にショートショートが打ち出しているBranded SHORTSの定義というのはあると思うんですけれど、観たあとに商品を宣伝させられたなと感じればCMに近いんじゃないですかね。作ったのはこの会社ですっていうのは分かったうえで物語として楽しめれば、それは成功したBranded SHORSではないですかね。
小坂
まさに『NOTES』はそうかなと思うんですけれど。
東野
そうですね、みなさんどうでした?
大竹
あんまりCMくささは感じなかったですね。でも感動するかと言われたらどうですかね。「ははぁ、うまいなぁ」と関心はしましたが。
東野
僕は最初観たときは感動しました。目頭が熱くなる感じにはなったんですけれども、これだけはツッコませていただきたい。まず、ノートだけの会話をしている夫婦はだめだろうと。
小坂
まあ、そうですよね。(笑)
東野
紙の上だけのコミュニケーションだったらそれは別れそうになるなんて当然ですよ。まあストーリーとしては感動しましたけどね。
大竹
メディアリテラシーではないですけれど、どういう要素が人を感動させるかみたいなところは分析してみると面白いんじゃないかなって気はしていて。題材とか音楽とかシーンの切り方とか。
小坂
これって定点で、人も手しか出てこないし、物もノートとかペンしかない中で年月の経過だったり感情の機微を感じられるっていうのは映像作品としてすごく優れているんじゃないかなと思いますね。
東野
そう、映像作品としては本当に優れていますよね。
小坂
いま受賞作品を観てきたうえで全体的に聞きたいんですけれど、長くショートショートに携わってこられた中で応募作品の傾向だったり移り変わりはあるんですか?
東野
正直グランプリになると想像がつかないですね。世の中的にテロの事件が起こるとそれを題材にしたものが増えたり、トレンドはあるんですよ。国によってこのテーマが多いっていうのもありますし。だから今年もどんな作品がグランプリになるのか想像がつかないですし、楽しみですね。