こんにちは、VR映画プロデューサーの待場勝利(まちばかつとし)です。
トライベッカ映画祭に続きまして、カンヌ国際映画祭にも行ってきました。世界三大映画祭の一つと言われるだけあって、世界中から映画関係者が集まり大変賑わっていました。私がカンヌまで来た理由は、もちろん魅力的なVR映画作品を求めてです。カンヌ国際映画祭も昨年からVRを積極的に取り上げ始めています。まだ本舞台では無いですが、カンヌ国際映画祭に併設されている「Marche du Film」という国際見本市があり、この中の”NEXT”というコーナーでVRが取り上げられています。インタラクションのあるVR作品を扱った「VIRTUAL REALITY EXPERIENCE」と、360°映像作品を扱った「NEXT VR THEATER」に分けられており、全部で約100作品のVR映画が紹介されていました。カンヌ国際映画祭という世界的にも有名な映画祭だからだと思いますが、世界中のVR映画作品が集まっていました。
カンヌで私が注目したのがインタラクションの作品です。インタラクションの作品とは、今までご紹介した360度の映像を見渡すような作品ではなく、VR映像空間の中を自由に移動ができたり、コントローラーを使って、映像作品の中のキャラクターに触れたりすることのできるようなVR映画を指します。それは映画でなくゲームではないか、と思う人がいるかもしれません。でも、ゲームとは少し違うVR映画ならではの新たなストーリーテリングの方法だと私は思います。
私が注目するインタラクティブ作品の一つが「Henry」です。第68回エミー賞(米国)の”Outstanding Original Interactive Program”を受賞したCGアニメーション作品で、監督はPixarで映画『メリダとおそろしの森』や『トイ・ストーリー3』を手がけたRamiro Lopez Dau氏です。彼はこの作品で初めてエミー賞を受賞しました。またナレーションを「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズの主人公、フロド・バギンズを演じたイライジャ・ウッド氏が担当しています。
またRamiro Lopez Dau監督はこの賞を獲得した際に以下のように語っています。
「この受賞は、私たちのチームのクリエイティブと技術的な功績の証というだけではなく、VRストーリーテリング作品に取り組んでいるコミュニティ全体が認められたということだ。」
VRストーリーテリングについて色々と悩んで、考え抜いた人のコメントだと思います。この賞はVR映画を制作する人たちに大きな自信を与えたのではないでしょうか。
『Henry』概要
今日はHenryの誕生日。でも、友達はどこにいるのでしょう? イライジャ・ウッドがナレーションをつとめ、映画『メリダとおそろしの森』や『トイ・ストーリー3』を手掛けた才能あふれるクリエイターの製作で贈る『Henry』は、独りぼっちだけれど愛らしいハリネズミのHenryの誕生日の願いがすべてを変える物語です。(引用: Oculus Story Studio HP)
[Point 1: Henryの家の中を動き回れる]
今回の作品の大きなポイントの1つはVR映像を見るだけでなく、VR映像空間内を歩き回れることです。ヘッドマウントを被るとHenryの家に遊びに行ったような感覚になります。可愛らしい木の家に、誕生日の飾り付けがされています。目の前の木の机やカラフルな風船で作られた犬がいます。それらに近づいたり、回り込んで見たりすることができます。その体験だけでも驚かされます。
さらに、Henryの家をいろいろと観察していると、テントウムシが自分に向かって飛んできます。最初はビックリするのですが、そのテントウムシが可愛らしくて手の上に乗せたくなって、思わず手を差し出してしまいました。
【Point2: 本当にそこにいるかのようなHenryの存在感】
奥の方から鼻歌を歌いながらバースデイケーキを持ってくるHenryが現れます。Henryがふっとこちらを見てくれるので、目が合うことで何だか嬉しい気持ちになります。Henryは表情豊かで、目の前で色々な表情を見せてくれます。楽しそうだったり、悲しそうだったり、寂しそうだったり、嬉しそうだったり、本当にそこにハリネズミのHenryが存在しているかのように錯覚してしまいます。
またHenryはハリネズミということもあり、彼のハリが近くにくるとチクっとするのではないかと思って、私は体がビクッと動いてしまいました。あまりにHenryが存在しているという感覚が強いので、自分はHenryのそばにいるのに寂しそうな彼のために何もできないもどかしさを感じてしまいます。
【Point3: 映画ファンを裏切らないストーリー】
約12分の短いストーリーですが、Henryのキャラクターがよく分かり、一瞬にして世界に引き込まれます。ハリネズミのHenryは、自分の体のハリが原因で友達がいません。誕生日なのにひとりぼっちです。誰もいないひとりぼっちの誕生日を祝う時に、何かを祈りながらローソクの火を消すシーンは本当に切なくなります。願いが叶って一緒に祝ってくれる友達ができて、楽しいひと時を過ごせると思った瞬間、誕生日はメチャクチャになってしまいます。その後Henryの誕生日はどうなるのか、という内容です。この後はぜひ実際に体験してみてください。なるべく大勢に見てもらいたい可愛らしくて、素敵な話になっています。
『Henry』はOculus Riftで体験できます。
さらに6/8~10まで行われるShort Short Film Festival & AsiaのVR部門「VR SHORTS」でも体験ができます。今回このような形で『Henry』の体験ができるのは初めてではないでしょうか。ぜひ、可愛らしいハリネズミのHenryに会いに来てください。
VRはどんどん進化しています。しかしストーリーテリングの手法、演出方法はまだまだ追いついていないと思います。そんな中でこの「Henry」は素晴らしいVR映画作品です。「Henry」を監督したRamiro Lopez Dau氏はこうも言っています。
「『Henry』はこれからの長い道のりへの第一歩にすぎないが、この受賞(エミー賞)で、ストーリーテラーがこの新しいメディアであるVRに自分たちのアイデアを持ち込みたいと思ってくれたら嬉しいし、VRストーリーテリングの将来を形作る手助けになれば嬉しい」
今後もVRを使った新しい映画が出てくるのを楽しみにしています。
VR CRUISE
⾼品質な映像VR をキュレーションするVR ポータルアプリ。アーティストのライブや エンタメコンテンツ、スポーツ、ニュースなど幅広いジャンルのVR コンテンツを多数掲載。DMM.com、ハコスコ等でVR CRUISE チャンネルを展開中。
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VR THEATER
全国の複合カフェ、ホテル、カラオケ、ゲームセンター等で、気軽にバーチャルリアリティを体験できる店舗常設型サービス。
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Writer:待場勝利(まちば・かつとし)
株式会社eje、VR推進部執⾏役員。⼤学を卒業後、アメリカで映画製作を学ぶ。TV ディレクター、20 世紀フォックスホームエンターテイメントジャパンで⽇本語版プロデューサー、サムスン電⼦ジャパンではGear VR を担当。2016年から株式会社ejeでVRのコンテンツに関わる。数々のVR Project を担当。ejeではVR CRUISEとVRTHEATERの運営に携わる。
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