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MAGAZINE
REPORT
Aug. 17, 2018

「ショートフィルムを2回観る会 in 日本橋映画祭」
~映画を観て語る面白さとは?~

あなたは、映画を「一人で観る派」? それとも「誰かと観る派」? どちらの方でも、映画を観るとその感想を誰かに話したくなる気持ち、あるのではないでしょうか?今回は「誰かと観て語り合う」楽しみを、新しく作っているイベントをレポートします。
参加したのは日本橋映画祭主催、ブリリア ショートショート シアター オンライン(BSSTO)共催で84日(土)に開催された「ショートフィルムを2回観る会in日本橋映画祭」。タイトルの通り、「ショートフィルムを観る→グループで感想をシェアする→もう一度観る→もう一度シェアする」対話型のイベントです。一体どんなイベントになるのか参加する前はわからなかったのですが、知的好奇心が刺激される面白さがあってあっという間の3時間でした。

映画の対話型鑑賞とは・・・?

会場になったのは、東京メトロ東西線・銀座線「日本橋」駅に直結するオフィスビルの27階。サイボウズ株式会社のイベントスペース「サイボウズ Bar(バル)」。キッチンやバーカウンターも併設されたオシャレな空間で、大型のプロジェクターと音響もあり、映画をみるのにぴったりな場所でした。集まった参加者は23名。年齢層は僕と同じ3040代が中心のいわゆる現役層で、男女比はほぼ同数でした。
このイベントは、みんなでショートフィルムを観て、自由に対話するというもの。スポーツやゲームのように勝ち負けがあるわけでもないし、仕事のようなタスクもありません。
運営者のひとりでワークショップデザイナーの長南雅也さんによると、今回の試みは、1980年代にMoMA(ニューヨーク近代美術館)の教育部部長フィリップ・ヤノウィン氏が提唱した「VTSVisual Thinking Strategy)」という鑑賞教育がもとになっているとのこと。「映画を2回観る会」として、ミュージアムエデュケーターの会田大也さんがワークショップで扱っていて、それを参考としているそうです。
ざっくりいうと、専門家が上から目線で、「正解」や「答え」を一方的に教え込むのではなく、参加者それぞれが感じたことを自由に発言し相手の話を聞きながら、それぞれの考えや感覚を深め、分かち合うのが目的のようです。
こうして言葉にするとなんだか難しい気もするけれど、よくよく考えてみれば、つまりは「雑談」ってことなのかもしれません。そういえば、AIにはない人間の能力にひとつに「雑談」があるって、何かの記事で読んだような…。

長南雅也さん

初対面の人同士でもすぐに打ち解ける、“映画で”アイスブレイク

初対面の人間同士がフランクに話し合おうとする時、邪魔になるのが緊張感。まずは、全体を3グループに分けてアイスブレイクとして自己紹介をしました。
僕の座ったテーブルでは、日本橋映画祭を主催する森信一郎さんがファシリテーターとして、「名前」、「参加したきっかけ」、「好きなヒーロー」という項目を挙げて、メンバー8人(女性5人、男性3人)の発言を促してくれました。
ワークショップ関連の仕事をしている方や、話題作『カメラを止めるな』を観てきたばかりという映画好きの方、友達に誘われて来たという保育士の女性など、背景も参加理由もさまざま。皆さんが挙げたヒーローが、アシタカ(『もののけ姫』)、セーラームーン、北斗の拳、スナフキンと、すべてアニメだったのも日本らしくて面白かったです。

森信一郎さん

少し肩の力がぬけてきたところで、ウォーミングアップとして1回目のワークショップをスタート。『Ghost Hour』というクレイアニメーションを、会場の前方にある大型スクリーンで鑑賞し、気づいたことを語り合います。台詞のないアニメーション作品の特性ゆえでしょうか、メンバーの発言に想像以上の広がりがあって面白かったです。
特にラストシーンには、さまざまな解釈があって盛り上がりました。ハッピーエンドと受け取る方もいれば、真逆の恐ろしい終わり方と思われた方もいて、捉え方の違いに改めて気付かされました。

『Ghost Hour』/Nils Skapān監督/エストニア・ラトビア/2014年/約7分

話しているうち、「そもそも、ショートフィルムってどうやって楽しめばいいのだろう?」という声が挙がりました。今回の参加者のほとんどはショートフィルムを観るのが初めてという方々。起承転結のあるテレビドラマや映画に慣れている人は、短い時間で想像の余地を残して描かれるショートフィルムに少し戸惑いがあるのかもしれません。
この疑問には、「ブリリア ショトショトシアタ オンライン」編集長・大竹悠介さんが回答。少ない予算で自主制作できるので「若手クリエイターの登竜門」になる、クレイアニメなど「長編ではつくれない手の込んだ表現」ができる、スポンサーなど関係者が多い商業映画とは違って「個人の感性に素直な表現」ができる、といったポイントを挙げました。つまり、少ない制約の中で、自由につくられた作品ってことかもしれません。だとしたら、観る方もその自由を、楽しめばいいのかも。

BSSTO編集長の大竹悠介

1本の映画を観てワークショップ形式でシェア

場が温まってきたところで、「ショートフィルムを2回観る」という今回のテーマに沿ったワークショップが始まりました。考えてみれば、ひとつの映画を2回連続でじっくり観るなんて経験なかなかありません。せっかくの機会だから、じっくり映画を観察してみようと思います。
鑑賞作品は、『Superman, Spiderman or Batman』。郊外の街に住む小さな男の子が父親と一緒にバスに乗り、とある場所に出かけていくというストーリーです。

『Superman, Spiderman or Batman』/Tudor Giurgiu監督/ルーマニア/2011年/約15分

観終わった参加者は、まず持ち時間の1分間で、手元に置かれた青い付箋にショートフィルムを観て気づいたことを書き出します。その後、付箋をテーブルに貼り、そこに書いた内容を口頭でチームのメンバーに伝えます。付箋に文字を書くことで、発表者の頭の中も整理されるし、聞き手も目と耳で受け取ることができるから、それぞれの意見を短時間でスムーズに共有することができます。テーブルを見れば、全体の傾向を俯瞰できるし、付箋の位置を動かして、似た意見ごとにカテゴライズすることもできます。

発言の内容は、「子どもが可愛かった」という素朴な印象から、「タイトルの意味はなんだろう?」といったテーマに関わる疑問まで実にさまざま。ある人の発言に、「私も同じことを考えていた」と付箋を出す人もいれば、まるで想定していなかった斬新な視点に、みんなで唸ってしまったりします。
グループメンバーの声に耳を傾けているうちに、新たな疑問や確認ポイントが次々と浮かんできて、もう一度映画が観たくなってきます。「そうか、だから“ショートフィルムを2回観る会”なのね」と納得。長編を2度観るのは大変だけど、わずか15分の作品なら、何度だって無理なく観ることができます。

2度観るって、ちょっといいレストランで食事をしているような感覚

2回目の視聴を終えると、今度は赤い付箋に感想を書いて発表します。1回目と比べてみんなの発言内容に、深まりと広がりが感じられました。
たとえば、住んでいる家の感じから家族の財政状況を想像する人や、子どもの演技を「わざとらしく感じた」といった演出に関する指摘など、物語の中心だけでなく、その枠組みにまで視点が向けられている気がします。
顔を合わせて話すうちに、なんとなく発言者のキャラクターが見えてくるのも面白かったです。このワークショップ、婚活イベントなんかでやってみたら、案外、高い確率で相性ぴったりのパートナーが見つかるかもしれませんね。

各チームでの対話が終わると、その内容をファシリテーターがまとめて、参加者全体で共有します。映画の色や音の使い方についてなど、自分たちのチームの対話では出てこなかったコメントも結構あって、そのたびにハッとさせられました。
「ショートフィルムを2回観て、いろいろな人と対話をする」という体験は、ちょっといいレストランで、ゆっくり食事をする感覚に似ています。最初のみずみずしい食感から、食材を噛み砕いた瞬間にはじける香り、噛んでいるうちに滲み出る奥深い味わいまで、そこに含まれた豊かさすべてを、みんなで確かめ合いながら、贅沢に堪能している感じがします。

懇親会で語り合うのもまた楽しい!

18時半にスタートしたワークショップも、気づけばもう21時過ぎ。盛り上がって時間がたつのがあっという間です。小休憩をはさんで最後の作品『Offside』を鑑賞しました。

『Offside』/Guy Nattiv & Erez Tadmor/イスラエル/2006年/約6分

ラジオのサッカー中継に夢中になりながら巡回する兵士が、敵と遭遇してにらみ合いの展開になる本作。日本人の私たちにはあまり身近ではない分、「どこの国の兵士なのか」「サッカー中継に込められたメッセージは何か」など、たくさんの疑問が上がりました。専門家に戦争の背景などを解説してもらえば、きっとこのショートフィルムをもっと深く味わえるのだろうな、と思います。作品を深く理解するために、もっと政治や歴史のことを知りたいと思う自分がいました。
上映終了後は、サイボウズBarに用意された、ドリンクやおつまみで懇親会。違うチームの人たちと飲みながら、ショートフィルムの感想を語り合うのがまた楽しかったです。
日本人は同調型で人の意見に左右されやすいと言われるけれど、この場ではそんな風に感じることは一度もなく、誰もが自分の意見をはっきりと話す印象がありました。肩書きや立場もなく、「ショートフィルムを観て話す」というだけのしがらみのない関係だから、オープンに本音を話すことができるのかもしれません。この感じ、学生時代に友達と他愛もないおしゃべりをしているときの開放感に、ちょっと似ていました。

今回上映された『Superman, Spiderman or Batman』は97日まで、『Offside』は112日まで、BSSTOで配信されています。ぜひ、皆さんもショートフィルムを2度観て語り合ってみてはいかがでしょうか?

取材・撮影:清野環(せいの たまき)

Writer:清野環(せいの たまき)

フリーランスのライター/コピーライター。ショートフィルムファンとしてショートショート フィルムフェスティバル & アジアには毎年足しげく通っている。

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