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May. 08, 2023

【Creator's File】『なぎさ』古川原壮志監督インタビュー

映像クリエイターとショートフィルムの繋がりを様々な角度から深掘りする「クリエイターズファイル」。
今回ご紹介するのは、Short Shorts Film Festival & Asia 2020ジャパン部門で優秀賞を受賞した『緑の雪/Birdland』の古川原壮志監督です。SSFF & ASIA 2017では短編映画『なぎさ』がノミネート。そして、待望の長編デビュー作『なぎさ』が2023年5月12日(金)より劇場公開されます。【短編映画2作品はBSSTOオンラインシアターで5月10日(水)より特別配信を開始
アメリカで映画を学び、ミュージックビデオやCM監督として活躍するかたわら、国内外の映画祭でも注目を集める古川原監督にお話を伺いました。

古川原壮志監督

『なぎさ』

■脚本・監督・編集
古川原壮志

■キャスト
青木 柚・山﨑 七海
北 香那 日向 丈 髙橋雄祐 三上紗弥 中島綾花 永井秀樹
宇野祥平 蜷川みほ 三浦誠己

【あらすじ】
思い出と夢を通して喪失と向き合う・・・。
頼れる親のいない環境で育った文直(ふみなお)とその妹、なぎさ。広い世界を求めるように、成長した文直はなぎさを残し、ひとり故郷を後にする。三年後。偶然訪れた心霊スポットのトンネルで、文直はなぎさの幽霊に出会う。そこはなぎさが事故死した現場だった。トンネルの暗闇の中、文直はなぎさを探し彷徨い始める。暗闇は罪と深い喪失の時間へ、文直を誘う。

87分/2023年5月12日公開

<監督インタビュー>

ショートフィルムを初めて作ったのは何歳の時ですか?
また、映画制作に興味をもったきっかけを聞かせてください。

ショートフィルムを初めて作ったのは、高校一年のときだったと思います。
初めはただ映画を見るのが好きでした。家族で映画を見る機会が多かったのがあるかと思います。映画をいくつも見ていく中で、次第に自分で作りたくなっていったと思います。

高校時代は放送部から機材を借りて映像を作り、文化祭で上映しておりました。映像を作り、そして上映したときの感覚がその道を進んでいく大きなきっかけになったと思います。

アメリカの大学の映画学部で演出を学びましたが、向こうでは映画だけでなくミュージックビデオやCMやWEBなど、さまざまな映像というものに触れました。全てのはじまりは『映画』でしたが、それよりも映像全般に強く惹かれていきました。それこそ実験映画からWEB動画まで。そして同時に『映画』を作ることの難しさも認識していきました。在学中に、ザックシュナイダー監督が学校に来られ、生徒皆を近くの映画館に招待して自身の作品『300』を上映していただいたり、または自分でなんとか資金を集めてこれで失敗したら家族と路頭に迷うとハラハラしながら初長編を監督された方、様々なフィルムメイカーの人生を教えていただきました。自分の『映画』を作る覚悟は強くなりましたが、同時に今すぐには自分にはできないと自覚したのも覚えております。

アメリカの制作スタイルと日本の制作スタイルで異なる点はありますか?

アメリカでは学生だったこともあり、明確にお答えできるかわかりませんが、一番は裾野の広さを感じました。ロサンゼルスにいたのが大きな理由ですが、機材屋も日本よりも多くまた学生への支援も豊富です。役者の数が多く、組合に入っている役者の方も学生の授業での発表レベルでさえたくさん応募があります。そして何より感じたのは、どの部署に関しても組合が存在し、働く方の権利をしっかりと守っているのが印象的です。これは役者から照明部や撮影部、演出部、全てにおいて組合が存在し、年金を含めたそれぞれの権利を守っています。

影響を受けてきた映画やミュージックビデオ、CMはありますか?

ヴィム・ヴェンダース監督の『パリ、テキサス』、ミッシェル・ゴンドリー監督の『Dead Leaves and the Dirty Ground』(ミュージックビデオ)、イ・チャンドン監督の『ポエトリー アグネスの詩』が真っ先に頭に浮かびます。

ミュージックビデオ・CMとショートフィルムでは、制作方法や演出方法に違いはありますか?

ミュージックビデオ、CMともにまずは発注元のクライアントがいることが他との大きな差かと思います。予算規模や自由度などプロジェクトによりまた異なってくるかと思いますが、誰のために作る映像なのか、それが制作前にはっきりとしております。
ショートフィルムも広告のショートフィルムなのか、自主映画的なショートフィルムなのかでも大きな差があります。発注を受ける場合、大きな予算が出てくるその出どころの意見が大きいのは変わりはないと思います。
その上でも、テレビCMの場合は絵コンテを描きますがある意味契約書的な意味合いも含まれます。こういったものを作るというのを合意の上で制作を進めて参ります。ミュージックビデオはもう少し自由度があり、それでも完成後試写を行いますし、クライアントの意向をちゃんと汲み取らなければなりません。演出に関しては監督それぞれやり方があると思うので、それはその都度かと思います。ぼく個人としてはCMであれショートフィルムであれ、制作の仕方に差はあれど同じ映像として好きです。そして都度臨機応変に対応を変えていくことも学びがあり、それぞれの制作に活かせると感じております。

短編『なぎさ』も長編『なぎさ』も、登場人物たちが語りすぎない緊張感があるように感じます。
演出面で意識された点はありますか?

短編映画『なぎさ』(SSFF & ASIA 2017ジャパン部門ノミネート作品)より

私の中で『リアル』というのが命題としていつもあります。『リアル』とは人によって定義は変わりますが、まるでそこに生きているかのように存在するキャラクターを意識しております。固定された予定通りの繰り返しではない、そこで人間として反応し感じている存在です。そこを意識した結果が、語りすぎない緊張感のある登場人物たちとして捉えていただけたのではと思います。

演出に関してはその都度、臨機応変に対応しているつもりです。出来ることなら、台本を超えたその先のストーリーをカメラに捉えたいです。そのためにはキャストとキャラクターについて深く話すなどキャストの方それぞれに合う方法があるかと思いますが、ゴールである『リアル』をいつも追求しております。

BSSTOで5月10日(水)より配信する短編映画『なぎさ』と『緑の雪』について
それぞれ制作背景、表現したかったこと、制作時のエピソードなど聞かせてください。

短編映画『緑の雪』(SSFF & ASIA 2020ジャパン部門優秀賞作品)より

短編映画2作品とも、長編映画『なぎさ』の脚本のために制作しました。話は異なれど、共通するテーマは同じです。『大切な人を失い残されたものの姿』となっています。
短編『なぎさ』では亡くなった初恋のクラスメイトへの想いを。短編『緑の雪』では先立たれた妻への想いを。身近な人の死は後悔の念を残されたものに与えます。「こうしておけばよかった、ああすればよかった」、そんな自責の念は自身に直接的な原因はなかったとしても、確かに存在します。そして時には残されたものを深い苦しみの底へと追いやります。このテーマをどう表現するのか?それを模索する上でこれら2つの短編映画を制作いたしました。安易に表現できない特別な思いであるからこそ、その感情をどう映像に落とし込むかを試みた短編2作品になります。

制作自体は普段お世話になっているスタッフに全面的に協力していただきました。大変ご協力をいただきましたが、完全な自主制作です。普段仕事を共にするスタッフに作品作りとして皆参加していただき、楽しんだとも言っていただき感謝の念が今も絶えません。広告の仕事をしていて普段感じる難しい部分とは違う問題に向き合う中で、様々な発見があり大いに刺激のある経験となりました。

▶︎短編映画『なぎさ』視聴はこちら
▶︎『緑の雪』視聴はこちら

5月12日(金)に劇場公開される『なぎさ』について、制作背景、短編『なぎさ』との繋がり、
発信したかったこと、制作時のエピソードなど聞かせてください。

『なぎさ』より

アイデア自体は学生時代から書き連ねて温めていたものになります。そして10年ほど前からプロット、脚本と修正を重ねて参りました。その過程で映画祭のラボへの参加、短編映画の制作と、このテーマに向き合うためにできることを行なってまいりました。短編映画『なぎさ』のタイトルが今回劇場公開される長編映画『なぎさ』と同じタイトルになるのもそういった理由によるものです。この長編映画『なぎさ』の長い制作過程の上の一つの転機とも捉えております。

長編映画『なぎさ』はジャンルが変化していく構成をとっております。はじめはホラーかとも思えるスタート、そして社会派、そしてスピリチュアルや人間の業ともいえる人間ドラマへ。変化に富んだ先の読めない展開を作っています。善と悪が簡単に答えがでないように、映画のジャンルというものも一括りには簡単にはできないのではないかという考えのもとに構成しております。

本作を通して、確固たるメッセージというものはありません。これだという私個人の定義するたった一つの答えではなく、視聴する観客の皆様それぞれが「大切な人を失い残されたものの姿」を通してそれぞれの想いを抱いていただけるならそれが私が今作を制作した一番の想いと言えます。

撮影期間は2週間ほどのかなり短いものになります。これは低予算であるがゆえの障害ではありました。また、コロナの初期だったこともあり、いつストップがかかるかと緊張の連続の日々でした。よく撮影を無事終えることができたものだと今となってスタッフとよく話にあがります。

『なぎさ』より

撮影時一番の苦労は、これは個人的になりますが、コロナへの対応ももちろんですが、何よりもヒロインのなぎさ役の山﨑七海さんへの対応でした。当時まだ12歳の小学生だった七海さんにはストーリーの内容をどこまで理解できるのか、私は疑問に思っておりました。また直接的ではないにしろ性描写が多い作品なので、その点に関してはスタッフともども細心の注意を払いながら撮影を行いました。どうすればこの複雑な家庭環境で育った「なぎさ」という少女の成長を12歳の七海さんに理解してもらえるのか。演出する際の言葉選びからアングルの切り方まで、夢に出てくるほど悩んだのを覚えています。まだ小学生の七海さんを傷つけるようなことを決してしないためにも、小学生の少女にどのように演出すべきなのか。それが私個人には一番の問題でありました。

撮影時一番うれしかったことは、風鈴を作る主人公・文直となぎさのシーンを撮影したときです。恥ずかしながらも自分自身の求める方向性、大切にしている部分がこのシーンを撮影しているときにモニターから感じることができました。そこまで昇華できたと思えたことで目頭が熱くなりました。私が描きたかったキャラクター、そしてシーンはこれだと感じることができた瞬間でした。

ショートフィルムの魅力はどんなところにあると思いますか?
また、BSSTOで視聴できたら良いな、と思う作品はありますか?

ショートフィルムは詩のように感じます。起承転結やストーリーといったものが重視されがちですが、それを超えたもっと親しみの深い言葉になるまえの感情のように、徒然なるままに映像を紡ぐことができるのがショートフィルムの良き点だと思います。
個人的にBSSTOで今一番見たいのは、イ・チャンドン監督の短編映画『HEARTBEAT』です。ぜひお願いいたします!!

監督の今後の予定や夢を教えてください。

作り続けることです。映画はもちろんですが、この先も映画に限らず、CM、ミュージックビデオ、短編映画、長編映画と映像制作を続けられればと思います。
そしてその中でも特に、今回の長編映画『なぎさ』のように、自分のオリジナル脚本で監督をしたいと思っております。

『なぎさ』予告編

古川原 壮志(こがはら たけし)

カリフォルニア州Art Center College of Design, 映画学部卒。映画、 MV、CMのディレクターとして活動。CM作品はカンヌライオンズ、One Show, Adfestなどで受賞。また短編映画において釡山国際映画祭、ショートショートフィルムフェスティバル&アジアでのジャパン部門最優秀賞・東京都知事賞を受賞、米アカデミー賞短編部門候補選出など。2017年、 2018年と長編映画脚本『なぎさ』がサンダンスインスティテュート・NHK脚本賞日本代表に続けて選出後、同企画にて2019年フィルメックスタレンツトーキョーに選出。そして初長編映画『なぎさ』が東京国際映画祭、トリノ映画祭特別表彰受賞、またスペイン最大の国際映画祭、サン・セバスティアン国際映画祭にて上映。

https://takeshilalala.com/

Writer:BSSTO編集部

「暮らしにシネマチックなひと時を」
シネマな時間は、あなたがあなたに戻る時間。
「ブリリア ショートショートシアター オンライン」は、毎日を忙しく生きる社会人の皆さんに、映画のあるライフスタイルをお届けします。
毎週水曜日にショートフィルムをオンライン配信。常時10本ほどを無料で鑑賞できます。
https://sst-online.jp/theater/

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