Brillia Short Shorts Theater Online6周年を記念したイベントが、2月22日(木)にLIFORK Harajukuで開催されました。
今年は、国際短編映画祭ショートショート フィルムフェスティバル & アジアが展開している短編小説のプロジェクト「BOOK SHORTS」が10周年を迎えるにあたり、コラボレーション。
映画祭とBSSTOの代表でもある別所哲也がMCをつとめ、ゲストに作家の大前粟生さん(BOOK SHORTSのプロジェクトで第2回大賞を受賞)と、Aマッソの加納愛子さん(ご自身でエッセイや小説を執筆)を迎え、短編小説とショートフィルムのつながりやそれぞれの世界観について、また、AIが出現してきた現在やこれからの未来のことを語る一夜となりました。
どんな素敵な会だったのか、こちらのコラムでは当日のレポートをお届けします。
別所哲也と大前粟生さん
原宿の夜景が美しく輝く会場に来場者がそろうと、別所の進行で、大前さん、加納さんの創作や発想の原点などについてのトークがスタートしました。
小説を書き始めたきっかけについて、大前さんは「もともと小説が好きだったかというと、そんな感じではなく、漫画はたくさん読んでましたが、小説を読むようになったのは大学からです。書き始めたのもたまたまで、就職活動のストレスで頭がいっぱいになって『会社員は絶対無理!』と思った時、とりあえず何か作ろうと考えたんですけど、小説なら紙とペンさえあれば一人でタダでできると思って書き始めてみました」と明かします。
Aマッソの加納愛子さん
一方の加納さんは、以前からエッセイなどは執筆していたが「『次は小説にチャレンジしませんか?』というお話をいただいたので」と説明。別所の「それで書けるものなんですか?」と驚くと、加納さんは「見よう見まねです(笑)。又吉(直樹)さんや劇団ひとりさんといった先輩たちが、芸人が文学界に関わるという道筋は作っていただいたので」と語りました。
加納さんは芸人としてコントや漫才のネタを考えることは日常的にやってきていたが「漫才は“自分”を書いてるし、コントでも2人しか動かしてないので、『小説は(動かす人が)多いなぁ』と思いました(苦笑)。でも、どうしても笑いに落とし込めない感情や気づいたことを小説に落とし込めるようになったのは嬉しいです」とネタ作りと小説執筆の違いについて語りました。
大前さんは、小説の発想については「基本的にボーっとしてて、でもずっと頭のどこかで小説のことは考えていて、散歩中とかにフッと浮かぶことがあります。『こういう場面があったら面白いな』といったシチュエーションが浮かびます」と明かします。
加納さんは「大前さんは書くのがメッチャ早い!気がついたら新刊がまた出てる」とその執筆スピードが群を抜いて早いと指摘するが、大前さんは「何かを書いてないと不安なんです。何も作ってない状態でどうしたらいいかがわからないかも」と語りました。
別所は、自身が物語に触れる上で「父と子の物語にキュンとしちゃう。息子って、父親とうまくコミュニケーションを取れなくて葛藤する部分があると思うし、そういう映画に惹かれるし、あることが誰かに影響したり、感染していく話がすごく好き」と明かし、大前さん、加納さんが執筆において大切にしているテーマや好きなシチュエーションについて質問が続きます。
加納さんが「私は、女性同士の会話や人と人のミニマムな会話やコミュニケーションに関心があって、自分のオリジナリティが出せるのはそこなのかなと思っています」と説明すると、大前さんは「いまの世の中がメチャクチャだなということを昔から思っていて、ちょっとでも若い人が楽になれるものを書きたいと思っています」と自身の創作の“核”について語りました。
別所は、ヴィム・ヴェンダース監督が東京でトイレの清掃員として働きながら暮らす主人公を描いた役所広司主演の『PERFECT DAYS』にも触れつつ「映画でも、例えばカンヌ国際映画祭は、世の中で置き去りにされている人たちに光を当てている作品が評価されやすいと言われています」と話しました。
大前粟生さん著「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」は2023年に長編映画化された
加納さんは、大前さんと別所さんの言葉に深くうなずきつつ「大前さんの小説は“こういう感情になる人を救う”という作品が多いと思います。(映画化された)『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』もそうですよね。ぬいぐるみにだけ本音をしゃべれる人たちを描いていますけど、そういう人の魂を救うのは大前さんしかできない」と大前さんの小説がもたらす“救い”を称賛しました。
また、そんな大前さんが読者として読む本をどのように選んでいるのかを尋ねると、大前さんは「ジャケ買いが多いです。(表紙が気になった本を)手に取って、書き出しを読んでみます。多くの本で冒頭の書き出しにエッセンスが詰まっていることが多いと思うので、そこで自分が読むべきものか判断することが多いです」と話してくれました。
加納さんも学生時代はよく“ジャケ買い“をしていたとのことで「その場でのフィーリングが楽しかったりもする」と偶発的な出会いを楽しみながら、本を選ぶと明かしました。
さらに、これまで影響を受けた作家について、大前さんはフランス人の作家で、女優・映画監督にミュージシャンなど多彩な活動をしているミランダ・ジュライの名を挙げ「奇妙キテレツな話というか、BOOK SHORTSのように民話やおとぎ話をアレンジした話が多いんですけど、そういう作品に影響を受けました」と語ります。
ミランダ・ジュライは加納さんも「大好きです」と明かし、彼女の本の邦訳を担当している翻訳家でエッセイストの岸本佐知子についても言及。「エッセイに関しては、岸本さんとさくらももこさんに色濃く影響を受けています」と話しました。
さらに、別所からは創作の過程で「登場人物たちがあたまの中で動いて演技をしているか?」という質問も。
加納さんが「私の場合は頭の中で大しゃべりですよ。しゃべらないでどう書くの?」と語る一方、大前さんは「しゃべってないです。いいですね、勝手にしゃべってくれるって(笑)。メチャクチャいいな、それ。(自身は)この場面を書いたから、次はこうなって、こうなるだろうという感じで、場面が人をつくっていくような感じです」と回答しました。
大前粟生さんの短編小説「ユキの異常な体質/ または僕はどれほどお金がほしいか」をショートフィルム化した同タイトル作品
大前さんは既にBOOK SHORTSで『ユキの異常な体質 / または僕はどれほどお金がほしいか』が短編映画化され、さらに小説『ぬいぐるみとしゃべるひとはやさしい』も映画化されていますが、自身の小説が実写化されることについて「ありがたい限りですし幸運なことですね。特に監督さん、俳優さんは、僕以上に登場人物のことを考えてくれていると思うので、映画になって初めて『こういう人だったんだな』とわかる部分もあります」とポジティブに受け止めます。「スタッフさんたちが造形してくれる方が、自分ひとりで考えるよりも、たくさんの人が登場人物のことを考えてくれているので、親心というか、キャラクターに対して『よかったね』と思いますね」と心情を語りました。
加納さんも昨年、NHKのドラマの脚本を担当した経験をふり返り「明らかにボケゼリフで、ここは面白く言ってほしいと思ってた部分で、こちらが思っていたのと全然違う言い方で言われた時に、『この言い方が面白いと思ってるんだ!』とかわいく感じました」と解釈の違いを楽しんだと話します。
別所はBOOK SHORTSの企画趣旨を踏まえ「原作の良さと二次創作の良さ、どちらもあり、作品化することの意味を両方楽しめればいいなと思います」と頷きます。
その後、話題は「AIによる創作」というディープなテーマにも及んびました。大前さんは生成AIによる創作について「自分の仕事が奪われるんじゃないかと不安になる部分もあるけど、結局、面白いものが生まれるならそれに越したことはないと思っています。今、AIは人間の仕事をなぞるだけですが、人間には思いつかないようなAI独自の発想が出てきて、それが作品に組み込まれたら、これまでになかった良いものが出てくるんじゃないかと楽観視しています」と肯定的な視点を説明しました。
一方、加納さんは「人間の欲求って限られると思うので、AIが書いたものを『読みたい』というところまでいくのか? やっぱり“人”を読みたいと思っているので、私は読まなくていいかなと思っちゃう」と自身の見解を述べます。
別所もクリエーションの未来を案じつつ「学習機能を使ってAIが作るものはすべて過去の人間の財産を使ってるので、『全部人間じゃん』と思うし、未来の生活様式や現在進行形のことをAIは後で学習するので、“いま”のことや未来は人間にしか作れないと思う。過去を組み立てるAIをそこまで恐れなくてもいいと思う。『AIは良いアレンジャー』くらいのスタンスでいれば、気持ちも楽になる」と人間のクリエイティビティへの信頼について意見を述べました。
『ユキの異常な体質/または僕はどれほどお金がほしいか』はBSSTOで配信中(5月22日まで)
休憩後には、大前さん原作によるショートフィルム『ユキの異常な体質/または僕はどれほどお金がほしいか』と先述のミランダ・ジュライの短編小説「The Swim Team / Le Grand Bain」にインスパイアされて制作された『Home Swim Home』の2本の上映が行われました。
2016年の第2回BOOK SHORTSアワードに輝いた『ユキの異常な体質/または僕はどれほどお金がほしいか』について、大前さん自身は「8年前に書いたもので、いまの自分と作風も違ってるので『なんでこういう話にしたんだろう?』と(笑)。でも、俳優さんの演技やセットの細かい部分など、原作で設定してないものをスタッフさんたちがこういうふうに解釈したんだというのが原作者として面白い」と感想を口にしました。
加納さんは本作について「大前ワールド全開!」と絶賛。「2つのものの掛け合わせの距離にこそ、大前さんのアイデンティティが出ると思っていて、雪女のファンタジー、リアリティのなさにお金の話を入れていく、あの距離感がさすが大前さんです」と語り、この言葉に大前さんは「執筆当時の自分に聞かせてあげたい。あれを書いた時の自分が、いまの加納さんの言葉を聞いたら、メチャクチャ喜ぶと思います」と感激していました。
トークセッションの最後に、小説家を志している人たちに向けて、大前さんは「その時々のトレンドはあると思うけど、あんまりそれを気にしなくていいと思っています。まずは自分だけが満足するものでいいので、自分のクリエイティビティに正直なものをつくっていくと、後悔の少ない創作生活が送れるんじゃないかと思います」とアドバイスを送りました。
加納さんは、“業界”の行く末について「あらゆる業界がそうですが、業界が先細ってしまうと、ストロングなものしか生き残れなくなります。もちろん流行りをつくる人も必要だけど、好きなもの、表現したいものを『こっちで勝手にやります』ではなく、その業界の中でマスに一矢報いるような作品をつくっていきたいと思っています。みなさん、見る側としても手前の批評に惑わされず、自分で選んで、面白いものを決めていくことが、結果的に業界の豊かさにつながると思います」と呼びかけました。
別所は「映画祭も今年で26年目に入りますが、摩訶不思議な奇想奇天烈な作品を届けていきたいと思っています。僕は、人間はモノガタル生き物だと思っているので、物語をどんどん集めて、運ぶ一員でいたいと思っています」と改めて決意を口にしました。
さらに、この日の前日に35歳の誕生日を迎えた加納さんのためにサプライズで花束をプレゼント!加納さんは「四十は不惑と言いますが、あと5年、惑えるので、人から見たら『迷走してる』なんて言われますが、上等だ!と(笑)。“らしさ”なんてものに縛られず、やろうと思っています」と抱負を語り、会場は温かい拍手に包まれました。
イベントの最後には、BOOK SHORTSで展開している短編小説と長野県阿智村の温泉のもとがセットになったお土産と、BSSTOで連載中のコラム『映画とお菓子の方程式』より、インスタグラマーのダイスケおじさんによる、『ユキの異常な体質または僕はどれほどお金がほしいか』インスパイアのスノウボールクッキーが来場者にプレゼントされました。
BSSTO登録ユーザーの方の中から抽選で3名の方に、ゲストお二人のサインが入った
大前さん著書「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」、加納愛子さん著書「チワワ・シンドローム」、「行儀は悪いが天気は良い」をプレゼント!
<応募締め切り:2024年3月22日(金)>
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※おひとり様1回のみご応募ください。
※作品はご希望に添えない場合がございます。
※抽選結果は発送をもってかえさせていただきます。
Writer:BSSTO編集部
「暮らしにシネマチックなひと時を」
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