映像クリエイターとショートフィルムの繋がりを様々な角度から深掘りする「クリエイターズファイル」。
今回ご紹介するのは、今月BSSTOで特集する「ジェンダーレス」をテーマにしたラインナップの一つとして配信する『片袖の魚』の東海林毅監督です。
本作は映画祭と連動する、クリエイターのためのプラットフォームLIFE LOG BOX*に作品登録。
作品制作の背景とともに、クリエイターとしてLIFE LOG BOXをどのように活用できるかをインタビューしました。
*LIFE LOG BOXとは
ショートショート フィムフェスティバル & アジア、そして株式会社ビジュアルボイスが2023年にローンチした、永続的に保存可能なデータストレージや、ポートフォリオの機能を備えたクリエイターのためのプラットフォーム。
新しい仕事やマーケットプレイスでの収益獲得を目指し、コンテンツやクリエイターの価値を最大化するサービス。
LIFE LOG BOXのようなサービスの活用経験はありますか?使用してみての感想をお聞かせください。
作品ごとの映画祭出品や配信ディストリビューターとのマッチングなど、それぞれ個別のサービスを行っているサイトはあると思いますが、ストレージやデジタル証明など含めて総合的な役割のサイトというのは新しいと感じました。一方でこういったサービスにおいて作り手目線で最も重要なのは、運営側がどれだけクリエイターと各国のディストリビューターをマッチさせる営業努力をしてくれるのか、ベネフィットを期待できるのかという点だと思います。LIFE LOG BOXの今後の成約実績の拡がりに期待しています。
どのような背景で本作を制作することになったのですか?
映画『片袖の魚』を企画した2020年当時、日本においてトランスジェンダーの役に積極的に当事者の俳優をキャスティングすることは極めてまれでした。一般公募でのトランスジェンダー当事者の俳優オーディションに至ってはまだ日本で行われたことが無い状態でした。アンフェアだと感じ、この映画では一般公募のトランスジェンダー当事者俳優オーディションを行い、主演にイシヅカユウさん、友人の千秋役に広畑りかさんをキャスティングしました。

本作で伝えたいメッセージや思いを教えてください。
多くの映画やドラマでトランスジェンダーを含む性的マイノリティの登場人物はエキセントリックであったり、悲劇的な宿命を背負った人物、社会から周縁化された存在として描かれてきた歴史があります。本作ではそういった視点を排して性的マイノリティもまた一生活者であることを提示しています。その日常の中で突然冷や水を浴びせかけられるように差別や偏見にさらされる、そういった現実を知って欲しいという思いで制作しました。

日本のジェンダーに対する人々の考え方には特徴があると思いますか?
その考え方に近年変化は見られますか?
性別を男女だけとする二元的な考え方やジェンダー役割に人々を縛り付ける家父長制的な因習は日本を含む世界中にあり、日本だけが特別であることを考えるのは難しい気がします。強いて言えば「マジョリティ(である我々)に迷惑をかけなければマイノリティ(であるあなた方)も社会の隅に存在を”許す“」というのが自分が考える”日本風差別”です。 「これは差別ではなく(マジョリティにとって迷惑なものとそうでないものの)区別だ」という人もいますが明確に差別です。

東海林監督がメッセージを発信するのに「映画」、「ショートフィルム」を選んだのはなぜですか?
「映像」「映画」が自分にとって最も慣れ親しんでいる表現手法だからです。ドキュメンタリーではなくフィクションを選んだのはフィクションには個人的な体験を一般化して伝える力があるからです。たとえば自分自身が性的マイノリティとして体験した差別や偏見など辛かったことをケーススタディとして提示することはできますが、それはあくまで自分の経験でしかありません。しかしそういったこともストーリーとして落とし込み、他者が演じ、一般化することで多くの人の共感を得られる可能性があります。この「物語の力」は凄いことだと思います。

制作のプロセスや撮影現場で印象に残っていることはありますか?
なんといっても日本で初めてのトランスジェンダー役のための当事者俳優の一般公募オーディションが印象に残っています。「〝トランスの役は当事者の俳優に〟などと言っても当事者の俳優なんてどこにいるの?」と言われたこともありましたが日本全国から様々な年齢のかたの応募がありました。中には役柄の年齢と合致しないことは重々承知で、でもこんなチャンスが来ることを待ち望んでいたというトランス当事者の演技経験者の方も複数人応募してくださいました。

監督が影響を受けた(または好きな)映画監督や映画作品はありますか?
その中でも「ジェンダー」をテーマに描いた作品はありますか?
好きな監督と作品という質問への答えとしてヴィム・ヴェンダース監督の『パリ・テキサス』(1984)を挙げることが多いのですが、ジェンダーの視点でいえば、言葉だけ知っていた「フェミニズム」と「映画」が自分の中ではじめて結びついたのは高校生の時に見た「フライド・グリーン・トマト」(1991)です。同時期に見たヴァージニア・ウルフ原作の映画『オルランド』(1992)もジェンダー、クィアの視点で影響を受けた作品の一つです。

COPYRIGHT 1992 ADVENTURE PICTURES (ORLANDO) LIMITED
ショートフィルムの魅力はどんな点だと思いますか?
ものによりますが、短い期間で制作できて、いま伝えたいテーマを比較的タイムリーに発信できることも大きな魅力ではないでしょうか。見る側としても短い時間で気軽に楽しめるので、様々な視点や文化を知るには良いと思います。
今後の制作予定や将来の夢をお教えください。
トランスジェンダー当事者の俳優・中川未悠さんを主演に迎え、おなじくトランスジェンダー当事者の漫画作家・とら少さんの作品を原作とした長編映画『となりのとらんす少女ちゃん』を準備中です。2026年公開予定です。楽しみにお待ちください!
Writer:BSSTO編集部
「暮らしにシネマチックなひと時を」
シネマな時間は、あなたがあなたに戻る時間。
「ブリリア ショートショートシアター オンライン」は、毎日を忙しく生きる社会人の皆さんに、映画のあるライフスタイルをお届けします。
毎週水曜日にショートフィルムをオンライン配信。常時10本ほどを無料で鑑賞できます。
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