11月7日(月)から11月12日(土)の6日間にわたって、東京品川駅近くの複合施設・品川インターシティで「品川国際映画祭」が3年ぶりに屋外開催されました。11月9日(水)には、モデル・女優の宮城夏鈴さんが初監督に挑んだ『肝愛さ~チムガナサ~』のトーク付き上映が行われ、宮城さんも登壇。イベント後に行ったインタビューの内容と併せてレポートします。
品川国際映画祭は、米国アカデミー賞公認のアジア最大級の国際短編映画祭である「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」と移動式野外映画館プロジェクト「CINEMA CARAVAN(シネマキャラバン)」のコラボレーションによる短編映画祭。2018年より開催されています。コロナ禍で屋外上映が中止になった2年を挟んで、今回は3年ぶりの屋外開催。厳選された27作品が上映されました。
品川国際映画祭会場
会場となった品川インターシティのセントラルガーデンはクリスマスイルミネーションが灯され幻想的な空間が広がっていました。アウトドアシアターの周辺には、クラフトビールの「BREWDOG」やジビエドックスタンド「feat. den_foods」などのキッチンカーも出店。ビールや食事に舌鼓を打ちながら歓談したり、映画やトークを楽しむ人々の姿が多く見られました。
宮城監督の監督デビュー作となる『肝愛さ』は監督の出身地でもある沖縄を舞台にした作品。日々の喧騒から離れ、オバー(吉田妙子)の住む島でのんびりと暮らすことになったハナ(宮城)が経験する沖縄の旧盆の3日間を色鮮やかに描き出しています。
宮城監督の監督デビュー作となる『肝愛さ』
上映後に拍手で迎えられた宮城監督。MCを務めるDJ JOHN、そして会場の観客とビールで乾杯し、リラックスしたムードの中でトークイベントは始まりました。本作で「監督・脚本」「主演」でクレジットされている宮城監督ですが、実際には「衣装や美術、音楽も自分でやっている」とのこと。旧知のスタッフに加えて、家族や親戚も総動員して、本作を作り上げたといいます。
MCを務めるDJ JOHN(左)と宮城監督(右)
本作の制作のきっかけとして、宮城監督は今年が沖縄の本土復帰50周年であることに触れ、「自分にもできることは何かないか? いま、戦争を経験したおばあちゃんたちがどんどんいなくなっている現状がある。それは、同時に方言や文化など、観光しているだけではわからない沖縄の習慣が失われていくということでもある。これまで継承されてきたものが残らなくなる危機を感じて、孫世代である私が沖縄をどう表現できるか? と考えて、行き着いたのがショートフィルムでした」と語りました。
昨年、宮城監督は新型コロナウイルスに罹患し「10日間ほど何もできず、できるのが書くことだけだったので、この機会にやってみようと、3日くらいで書き上げました」と語り、さらに撮影もわずか3日間で行われたことを明かし、会場は驚きに包まれていました。
DJ JOHNは本作の描写について「初監督と思えない」と絶賛し「もっと作ってほしい」と今後も監督業を続けていくことをリクエスト。宮城監督は今後の活動について「実は今日、ありえないくらい嬉しいお話をいただきまして。まだ詳しくは言えないんですが、駅で口を開けて喜んだくらいのことが挑戦できるかもしれないので…頑張ります!」と語り、会場は温かい拍手に包まれました。
改めて、本作の制作に至った経緯についてお聞きします。もともと、「監督をやってみたい!」と強く思っていたわけではないそうですね?
宮城
そうなんです。東京で沖縄を題材にした演劇などを観に行くと「哀しい」とか「苦しい」という感情だったり、戦争の傷を大きく扱うような作品がすごく多くて「私の知っている沖縄はこれじゃない」という思いが強くあったんですね。
家族と接してほんわかしたり、海に行って楽しい気持ちになったり、もっと明るいほうの沖縄のほうが私には近くて、帰省するタイミングで「私にも何かできないか?」と考えたんですね。孫世代の私が沖縄を表現するならどうするか? と考え、写真展を企画しました。
画家の名嘉睦稔さんの線描画集「おきなわのお嬢さん~麗しきみやらび~」にインスピレーションを受けて、沖縄の伝統的な髪結いで着物を着て、自然の中に身を置いて写真を撮るというプロジェクトで、そのタイトルをどうしようか? となった時に「チムガナサ」にしたんです。私が亡くなったおばあちゃんに以前「『愛してる』って方言で何て言うの?」と聞いた時に帰ってきた答えが「チムガナサ」だったんです。
そのプロジェクトが終わって、次に何をしようか? と思ったとき、もっと自分らしいやり方でやってみよう! と思い切って映画を作ることにしました。それまで「映画を撮りたい」なんて言ったこともなかったですし、これまえ演者として撮っていただく側だったんですが、ひとりずつこれまで関わってきたカメラマンさん、音響さんなどにお声をかけて、お願いしました。
ストーリーに関しては、どのように組み立てていったのでしょうか?
宮城
自分の中で、いくつかテーマがありました。「自然に還ると人は本当の自分を取り戻す」ということ、「沖縄の風習を映像に取り入れる」ということ、「理想の沖縄を描く」ということ、「世代が進む中で方言が薄れていく現実を描く」というこの4つを柱にして、物語をつくっていきました。
死んだ夫の写真を見ながら、オバーがダンスを踊るシーンが幻想的で印象的でした。
宮城
私は歌手としても活動しているんですが、あのシーンは自分のMVに使いたいなとずっと思って温めていたシーンなんです。亡くなったオジーが旧盆に家に帰ってくるたびに、誰もいない居間でオバーと踊っていたらカッコいいなという妄想を小さい時からしてたんです(笑)。
全ての撮影を3日間で行なったそうですが、監督として現場に立っていかがでしたか?
宮城
自分の頭の中に撮りたい映像はあるんですけど、これを形にしたとき、どうなるのか? もしかしたら変なものになるかもしれない(苦笑)。ある意味で、自分を信じ切れるかどうか? という闘いでした。
大のプロを動かさないといけないわけですから、最後まで「信じる! 信じる! 信じる!」というのが一番大変な部分でした。
オバー役の吉田妙子さんの存在感に圧倒的で素晴らしかったです。
宮城
実は私、最近、吉田さんの付き人のようなことをさせていただいているんです。妙子さんの現場に足を運んで見学させてもらったり、実際に「うちなーぐち(沖縄方言)」を教えてもらったり、孫のようにいろいろと吸い取ろうとしています(笑)。そういう感じが作品の中にも出ていると思います。
妙子さんの実話も含まれていて、妙子さんがだんなさんと出会ったきっかけが、実際にだんなさんが役者をやられていて、ある公演で主役の俳優が自転車事故を起こして、代役で入ることになったという。そのエピソードも付き人としてお話している中で聞いて「じゃあ、入れよう!」って(笑)。
冒頭でオバーが生卵を飲むシーンがありますけど、あれも妙子さん自身が子どもの頃に母親からやりなさいと言われて、いまでもやっている習慣なんです。
もともと、映画監督になりたいと思っていたわけではなかったとはいえ、こうして1作を作ってみて、意識が変化した部分はありましたか?
宮城
いやぁ、最高ですね。クリエイターって超カッコいい! って(笑)。この作品のおかげで初めて「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」にも参加させていただいて、国内外のいろんな作品を観て、様々なインスピレーションが形になった作品に刺激されましたし、私自身も磨けばもっとどうにかなるんじゃないか? その可能性があるなら磨いてみようと勉強することにしました。
それもあって、今年のはじめからロサンゼルスと日本を往復しながら、現地の演技学校にも通っているんです。あ、LAでの面白い話をしてもいいですか(笑)?
LAでごはんを食べている時に、ヴィンセント・ギャロを見かけたんです。それで勇気を出して「はじめまして。私、日本でショートフィルムをつくったばかりで、今度、フェスティバルに参加するんです」と話しかけたんですよ。そうしたらギャロが「明日、“アリー”という友人の映画を上映するから一緒に行こう」って言ってくれたんです。「プライベート映画館だから、ミーハーな気持ちで来ないでね」って言われて…。
「アリーの作品? わかんないけど行ってみよう」と思って行ってみたら、なんとアル・パチーノの80ミリフィルムを10人くらいの仲間内で、映画館を貸し切りにして観るという会で、しかもアル・パチーノ本人もいたんですよ! なぜかその中に私が…(笑)。
40年以上前の、アル・パチーノの若い頃の作品で、いまはもうデータもないけど、ヴィンセントが80ミリフィルムを大事にとっていて、アル・パチーノに「俺はあの映画が好きだ」という話をしたら「俺は覚えてない。昔、自分が出た作品を見返すなんて、とてもじゃないけどできなかったよ。」と言われたらしく(笑)、それでヴィンセントの主催で、アル・パチーノに過去の作品を見せるという目的の会だったらしいです。
ショートフィルムをきっかけに、とんでもないところに行けました(笑)。
今後、監督として作品を作っていく上で、やはり「沖縄」というテーマはずっと描き続けていくのでしょうか?
宮城
そうしたいと思っています。全てのものに愛をもって接する「チムガナサ」をベースに沖縄をもっと伝えていきたい、表現したいと思っています。
ショートフィルムの魅力はどんなところに感じましたか?
宮城
私自身の“監督”としての経験という意味で、予算や時間などに関して無理せずに挑戦できるというのが魅力だなと思います。
海外の作品をたくさん観て感じたのは、長編作品を作る前の、ある意味“テスト”というか、実験的な面白さがあるんだなということですね。旬のショートフィルムを見ることで、感性が刺激される部分もすごくあるだろうし、最前線のクリエイターがどんなことに興味を持って、作品を作ろうとしているのかを感じることもできて魅力的だなと思います。
これまでも女優、モデル、歌手など多彩な活動をしてこられましたが、ショートフィルムの監督、そしてLAへの留学など、さらに活躍の幅を広げていますね。
宮城
でも“流れ”に身を任せてこうなっているという部分がすごく大きいと思います(笑)。自分から「これやりたい!やりたい!」って進めるというより、流れの中で自分ができることをやっているという感覚です。
これから挑戦してみたいことなどがあれば教えてください。
宮城
沖縄のことをもっと伝えていきたいという思いはありますし、女性監督としていろいろ面白いこともやりたいですね。女性で監督・主演というのも、アメリカにはレナ・ダナムとかミランダ・ジュライとか、私が大好きな“ヘンテコ”な人たちがたくさんいますけど、日本ではそこまでいないと思うので、まずは勉強して自分でやってみたいですね。ヤバい作品をいっぱいつくりたいです(笑)。
次回作について、お話しできる範囲で教えてください。
宮城
先ほどもイベントで少しお話ししましたが、今日、すごく面白いお話をいただきまして、もしやらせてもらえるなら、私にとってすごく大きな挑戦になると思いますので、大切につくりたいと思います!
宮城夏鈴
1992年沖縄県生まれ。2017年ベトナム国営放送×琉球朝日放送合作ドラマ『遠く離れた同じ空の下で』ヒロインを演じ、東京ドラマアワード2017年ローカルドラマ賞を受賞。沖縄タイムス芸術選奨2018年演劇部門奨励賞を受賞した。
2020年に自ら代表を務める『プロジェクトチムガナサ』を発足。自身初の写真展『チムガナサ 宮城夏鈴写真展』を国立劇場沖縄で開催。2021年には自主制作短編映画『肝愛さ』を制作した。
Writer:BSSTO編集部
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