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Dec. 20, 2023

【Creator's File】『君の靴で歩けば~Side A』本田大介監督インタビュー

映像クリエイターとショートフィルムの繋がりを様々な角度から深掘りする「クリエイターズファイル」。
今回ご紹介するのは、ブリリア ショートショートシアター オンライン(以下、BSSTO)の年末年始恒例、アンコール&特別配信(2023年12月27日〜2024年1月10日の期間限定)から特別招待作品としてお届けする伊藤健太郎主演『君の靴で歩けば~Side A』の本田大介監督です。
脚本作りの段階から伊藤健太郎さんと一緒に準備されるなど、俳優と監督のコミュニケーションから作品に反映されるまでの過程や制作秘話もお話しいただきました。

本田大介監督

君の靴で歩けば~Side A

■監督
本田大介

■脚本
菊池百恵

■キャスト
伊藤健太郎
安東勇弥
本田博太郎

【あらすじ】
蒼(25)が公園のベンチに座わっていると、“スッ”とグータッチで挨拶してくる謎の男(76)。
蒼は無言で席を譲りそそくさと離れようとした時、『これからやりたいこと』が書かれたメモを拾う。
「それは俺のだ」とメモを奪い取る老人。そして「『ジョー』と書かれたバスケットボールを見なかったか?」」と声を掛けるが、関わりたくない蒼はその場から立去るのだった。
アパートに戻ると大家の息子・太一(8)がバスケットボールで遊んでいた。
そのボールには『Joe』の文字が。蒼がバスケットボールを返しにいくと、そこに「財布でも拾ってくれた人には礼をするもの。お礼に、俺がやり遂げるところを見せてやろう」と現れたジョーの目論見に巻き込まれてしまう。
一つひとつかろうじて達成し、ジョーのリストにチェックが入っていく中、「お前にはやりたいことはないのか? 一緒にリストを叶えてやる」と言われるが、何も思い浮かんでこない蒼。
ジョーとの交流の中で自分の中に前向きな心が芽生え始める蒼。
「リストを叶える時間」は蒼にとってもかけがえのない居場所になっていくが・・・。

<監督インタビュー>

ーー今回、伊藤健太郎さん主演の本作について、どのような形でオファーがあったのですか?

私は小泉徳宏監督が主催する『モノガタリラボ』というライターズルームに参加しています。チームの中では「家族とその周りの人々を主体とした小さな社会を描いた物語」を企画することが多く、そのような作品の脚本や演出を主に手がけています。本作のオファーは、伊藤健太郎さんの事務所からモノガタリラボへ依頼を受けたことがきっかけです。同チームの脚本家・菊地百恵さんの企画を見たプロデューサーから「本田の作風に合うのではないか」と声をかけていただきました。

ーー「やりたいこと」をスタートする、など制作の段階で既にコンセプトは決まっていたのでしょうか?

『君の靴で歩けば~Side A』撮影風景

まずは“世代の離れたブロマンス”からスタートして、ヤングケアラーの青年が認知症を患っている高齢者の「やりたいこと」を手伝う、というコンセプトは決まっていました。そこから伊藤さんと菊地さんの三人で、色んなアイデアを出し合いながら、何をやったら面白くなるか?と話しました。手元のメモを見返すと蒼(伊藤さんの役名)とジョー(本田博太郎さんの役名)が取り組む挑戦の候補として、ゴルフ、ビリヤード、釣り、カラオケ、日本の飲み方など……いっぱい出し合っていましたね。

ーー伊藤健太郎さんのイメージによって演出を考えましたか?

『君の靴で歩けば~Side A』より

そうですね。今回は伊藤さんと一緒に脚本作りや子役オーディションなど準備をしてきました。キャラクターイメージのきっかけになったのは、演技していない時に見せる伊藤さんの人懐っこい接し方と柔らかな表情でした。漠然とですが、キャラクターのパーソナルな部分で世代の離れた交流には大切な素質では?と感じていました。
今回、プロット段階の打合せで伊藤さんが「祖父との思い出があまりない」ということを仰っていたので、高齢者との関係性をどのようにして築いていくか、距離感をどう見せていくか、など細かく脚本に取り入れて作っていきました。例えば、物語の端緒となるジョーのメモ帳を拾う場面で、私は普通だったら拾わないんじゃないかと感じたので、伊藤さんに「拾えますか?」と聞いたら少し考えてから「うーん、蒼だったら拾えるかも」と。
ただ脚本に書かれているト書きだからではなく、何気ない疑問も相談しながら「俳優と脚本を作る」という貴重な対話をしながら、本作の重要なテーマ「ヤングケアラーと認知症」の描き方を模索しました。そのような本打合せを数回重ねながら撮影に入りました。現場での伊藤さんはヤングケアラーの直接的な描写がない中でも自然体で役柄を掴んでいってくれたと思います。私は現場では演出というより、俳優の演技をただ見つめていただけかもしれません(笑)。

ーーあのおじさんは誰だったのだろう、最後にシュートは入るのか、などショートフィルムならではの「余白」を感じられる作品でしたが、 その点含め、本作でのこだわりポイントはありますか?

『君の靴で歩けば~Side A』より

私はショートフィルムには“一つの驚き”があることが大事だと思っています。それは映像表現かもしれないし、俳優の演技、脚本、音楽、美術、衣装、ヘアメイクなど見せ方、手法は色々あります。
本作の“一つの驚き”は「靴を交換する」ことです。脚本の段階から一番に重点を置いた描写だったので、作品のトーン含め、全てはこのシーンのミザンセーヌが大事でした。こだわったポイントは、靴を交換する時の俳優の絶妙なタイミングと台詞の掛け合いをできるだけシンプルに見せることです。
映画を観たお客さんの心が動き、奪われてしまうような「驚き」になってもらえたらと、心がけました。 質問にもありました、おじさんの正体やラストのシュートの行方も省略することで「靴の交換」が際立つと感じたからです。

ーーこれまでも、ショートフィルムを監督されてきましたが、長編映画と短編映画の違い、 意識している点はありますか?

まだ長編映画を演出したことがないので、はっきりと違いを体感しているわけでないですが、前述の質問にもありました「余白」を表現できることが映像の醍醐味だと思っています。長編映画でも説明描写、説明台詞に頼らずに「省略」という手法で表現できるミザンセーヌを構成した映像表現を意識しています。

ーープロフィールにて、イヤードラマを作られていたことを拝見しました。 何がきっかけで「イヤードラマ」を制作されたのですか?

前述したライターズルームの一環で書いていたプロットがイヤードラマの企画に採用されたのがきっかけです。元々、落語が好きで、特に立川志の輔師匠の創作落語をよく聴いています。落語は一人で何役も演じ分けながら、繊細な人物描写によって聞き手の心を動かします。オリジナルの物語を創作することや人間の感情の描き方は大変勉強になっています。話を元に戻すと、映像と音声にかかわらず、物語を作ることに興味があるので、イヤードラマも「聞き手の心を動かす」ことができるように、やっぱり「一つの驚き」を描くことに意識して作りました。

ーー映像があるのと「聴く」だけ、とでは、構成や演出も全く異なってくると思います。 同じ「監督」をする上で、どんな点が最も異なり、 一方で両方を経験されてきた監督にとって、双方に好影響を与える要素もありますか?

大きな違いは俳優が演技をしている時に表情が見えないことでした。音声ドラマでは特に、例えば悲しい台詞だから悲しく言うのでなく、言い方を変えることで、より複雑な感情を想起させることもできるし、登場人物のオリジナリティも発揮できる、という発見をしました。(多くの監督や俳優にとっては自明のことですが)。最近は映像ドラマを演出する時にも台詞のエロキューションを意識するようになりました。ステレオタイプになりがちな演出を避ける一助になっています。

ーー映画制作をスタートしたのはいつ頃ですか?興味を持ったきっかけは何でしたか?

大学を卒業してからフリーランスの助監督になりました。映画のことは一から現場で学びましたね。撮影現場以外にもプリプロダクションやポストプロダクションと映画ができるまでの工程を経験し、2010年代ころから自分でも映画を撮りたい、演出をしたい、と思うようになりました。その頃に若手映画作家の育成プロジェクトに応募して研修課題の短編映画に自らお願いした俳優に出演してもらい演出したのが、キャリアのスタートでした。いざ脚本や演出をやってみると自分の不甲斐なさを痛感しました。結果はもちろん落選。
映画に興味を持ったきっかけは、大学二年ごろから授業に興味が持てず、周りは就職活動やゼミ活動に取り組み、私は大学内で孤立していました。その頃、テレビの再放送で山田洋次監督作品『男はつらいよ』を観ました。気づいたら一人で泣きながら笑っていました。幼少期の頃に同シリーズを母親が泣きながら笑っている姿を見て不思議に思っていた記憶が蘇りました。子供の頃は理解できなかった面白さに気づき、自分の感性が変化していることを実感しました。上京して一人暮らしということもあり、親の気持ちも分かったような気になったんでしょうか(笑)。それから家族のことや将来のことを考えるようになりました。同時に昔の映画を観続けているうちに映画の仕事をしたいと。今思うと、私の人生は色んな映画に救われています。

ーー影響を受けてきた監督やスター、作品はありますか?

今まで多くの監督や俳優の作品に影響を受けてきたので、一番難しい質問です(笑)。私が監督として撮影現場に入る前や芝居の動線などを考える際に必ず見直しているのが、楊德昌(エドワード・ヤン)監督の作品です。今回はブリリアショートショートシアターオンライン企画ということなので、同監督の短編だと『指望』という作品があります。その映画で私が心を奪われたシーンは、主人公の少女が妄想する描写をモノローグで表現して、映像では予想に反した現実を描いた演出です。私はシンプルな構成と省略することで生まれる登場人物の心情を表現することを目標にしていますので、楊監督には畏敬の念を抱いている映画監督の一人です。

ーー本田監督の次に作ってみたい作品、将来かなえたい夢はありますか?

はい。欠点ばかりある家族の物語を10代の多感な娘の視点から描いた映画を撮りたいです。

本田大介(ほんだ だいすけ)

2003年に明治大学を卒業。その後は映画やドラマの助監督として多くの作品に携わり
、経験を積む。2019年からドラマの監督をする。2022年にはイヤードラマ(音声
だけで楽しめるドラマ)でオリジナル脚本を手掛ける。現在は演出家と脚本執筆を中心に
活動している。本作品(『君の靴で歩けば』)が初めて監督した映画である。

Writer:BSSTO編集部

「暮らしにシネマチックなひと時を」
シネマな時間は、あなたがあなたに戻る時間。
「ブリリア ショートショートシアター オンライン」は、毎日を忙しく生きる社会人の皆さんに、映画のあるライフスタイルをお届けします。
毎週水曜日にショートフィルムをオンライン配信。常時10本ほどを無料で鑑賞できます。
https://sst-online.jp/theater/

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