ログイン
MAGAZINE
Sep. 02, 2026

【月間特集】9月は宇宙月間に迷い込む「My Strange World」を特集

宇宙飛行士の毛利衛さんが日本人として初めてスペースシャトル(エンデバー)で宇宙へ飛び立った9月12日が「宇宙の日」とされたことからスタートした宇宙月間の9月。ブリリア ショートショートシアター オンライン(以下、BSSTO)では、幻想世界や幽霊、空想や身体の違和感を描き、内なる異次元への物語が広がるショートフィルム5作品を、「My Strange World」と題し、特集配信いたします。

◾️配信ラインナップ:
・没頭する模型の世界が現実へと変化していく『夢は大きく』(イギリス)
・戦火の中で父の死を受け入れるため想像の宇宙へと旅立つ少年を捉えた『僕とママと宇宙飛行士』(ウクライナ)
・伝統ドレスを汚してしまったことで、自身の身体と居場所への違和感を募らせる少女『ぽっちゃりシティの憂鬱』(フィリピン)
・母性の美化に抗い孤独とプレッシャーのなかで新たな命と向き合う女性『背中を押して』(イギリス)
・長期の独房収監という極限状態で空想世界に安息を見出す囚人たちを追った、SSFF & ASIA 2025ノンフィクション部門優秀賞受賞の『塀の中で』(アイルランド)

誰もが持っているかもしれない、心の中の「ストレンジな世界」を、詩的に、感情豊かに描くショートフィルム5選。現実と異次元の宇宙への境界線を揺さぶる、異彩を放つ作品群をお楽しみください。

夢は大きく / Dream Big
監督:Pip Swallow
製作国:イギリス
ジャンル:コメディ
製作年:2022
上映時間:約12分
配信期間:2026/9/2~2026/12/2

【あらすじ】
昇進のチャンスを逃したミランダは、悔しさを滲ませながらも模型の世界に没頭していく。それが現実世界に大きな影響を及ぼしてしまう。

【監督コメント】
『Dream Big』は、ミニチュアサイズで描かれた長編映画のような作品です。アクション、ロマンス、復讐劇、コメディといった壮大なジャンルを織り交ぜた物語が、短編映画の中に凝縮されています。本作は2020年にBFIネットワークの短編映画開発プログラムに選出され、2021年には同機関から制作資金の一部助成を受けました。

魔法によって冴えない男の人生が変わる『ブルース・オールマイティ』や『ビッグ』といったハリウッド映画とは異なり、本作は女性主人公のエンパワーメントと、非常にイギリスらしい趣味を軸に据えている点でユニークです。主人公のミランダは真面目で組織のルールに従い、仕事に献身的に励んでいます。しかし、コネで採用された特権階級の無能なティムという形で立ちはだかる「古い権力システム」を克服できないと悟ったとき、彼女の糸が切れます。失望という感情のどん底と、新たに解き放たれた怒りが、自分の中に眠る並外れた力を発見するきっかけとなるのです。

プロダクションデザインに関して言えば、メイ・デイヴィスが手掛けたノスタルジックなカラーパレットは、かつてのバトリンズ(英レジャー施設)の広告絵葉書、パステルカラーのイギリスの茅葺き屋根のコテージ、鉄道模型の土台に使われる緑のフェルトの鮮やかなエバーグリーン、そして象徴的な赤い電話ボックスから着想を得ています。一方、オフィスの世界は対照的なグレーのモノトーンで描かれ、ミランダの内面と、彼女が馴染もうとしている世界とのギャップを際立たせています。ローラ・パークスの衣装デザインは、絵の具箱のような鮮やかな色使いとヴィンテージ風の仕立てで、作品に親しみやすさと温かみを与えています。同様に、ヴィヴィアン・メロのヘアメイクも時代を超えたロマンチックな雰囲気を醸し出しています。タニア・フライムースの撮影はミランダのプライベートな瞬間に寄り添い、彼女の幸福の場所である鉄道模型に浸る喜びや、仕事帰りのどん底の心理状態を捉えています。タニアは遠近感を巧みに操り、小さいものを大きく、大きなものを小さく錯覚させる演出を施しています。

ミランダ役にローダ・オフォリ=アタ(BAFTA エレベート 2019選出)を迎え、「自分自身の居場所を自ら作り出すこと」を描いた本作は、多様性とインクルージョンを備えたスタッフ陣により、映画業界のユートピアに向けた一歩をも反映しています。

僕とママと宇宙飛行士 / Me, Mom and the Cosmonaut
監督:Victoria Zadorska
製作国:ウクライナ
ジャンル:ドラマ
製作年:2025
上映時間:約15分
配信期間:2026/9/9~2026/12/9

【あらすじ】
戦争の中、少年は父の死という現実と向き合おうとしていた。心の中では宇宙飛行士である父親が寄り添うようにして共に葬儀の準備を進めていく。やがて、想像の中の父親は宇宙へと飛び立ち、最後の別れを告げるのだった。

【監督コメント】
この映画の核にあるのは、深い喪失のなかで子供の想像力が「心の命綱」となる姿を描いた、胸を打つ物語です。戦争によって父親を奪われた幼い少年は、色彩豊かな空想の世界に救いを求めます。死という現実に直面しながらも、想像力と子供ならではの共感力が、いかにして痛みを乗り越え、愛する人との失われた絆を再び手繰り寄せる助けとなるのかを描き出すことが私たちの狙いです。

本作品は、日々数千もの家族の生活を破壊し、とりわけ子供たちの心に深いトラウマを負わせているウクライナ戦争の悲劇へ、世界中の関心を向けるための試みでもあります。私たちは、喪失、家族の絆、そして人間の精神が持つしなやかな強さ(レジリエンス)という普遍的なテーマを追求しています。単に感情に訴えかける物語を伝えるだけでなく、共感、支援、そして記憶し続けることの大切さについて、対話を促すきっかけとなることを目指しています。

一人の子供の視点と映画の力を通して、ウクライナの家族が直面している現実を世界中の観客へ届け、私たちの歴史におけるこの困難な時代についての、意味あるクリエイティブな遺産を残したいと願っています。

ぽっちゃりシティの憂鬱 / BABY FAT
監督:Margarita Mina
製作国:フィリピン
ジャンル:ドラマ
製作年:2025
上映時間:約11分
配信期間:2026/9/16~2026/12/16

【あらすじ】
ぽっちゃり体型のフィリピン系アメリカ人の少女は、伝統的な家宝のドレスにケチャップをこぼしてしまう。母に連れられて向かったコインランドリーでなんとかしようとするが、その過程で彼女は自分の身体や居場所への違和感をいっそう募らせていく。

【監督コメント】
フィリピン系アメリカ人の11歳の少女の視点から描かれる、文化と空間の狭間にいる感覚。世界の広さや怖さに気づき始める年齢、少しずつ大人へと近づく思春期の始まり。大人たちの言葉が一生心に刻まれる瞬間もあり、それはやがて大人になった自分にも影響を及ぼします。

背中を押して / PUSH
監督:Elly Condron
製作国:イギリス
ジャンル:ドラマ
製作年:2024
上映時間:約10分
配信期間:2026/9/23~2026/12/23

【あらすじ】
妊娠9か月のマグスにとって、妊娠は決して「美しい奇跡」ではない。孤独を抱えた彼女は助言を求めるが、訪問者は慰める代わりに、間もなく始まる新しい人生を受け入れるよう彼女の背中を押していく。妊娠と母性の理想像にユーモラスな視点で切り込む短編。

【監督コメント】
振り返ってみると、この映画を書き上げた衝動の裏にあったのは、世界に対するホルモン由来の怒りのようなものでした。妊娠した瞬間から、私の存在そのものが望んでもいない変化を遂げ始めてしまったのです。肉体的な変化のことではありません。「自身の人生経験や考えを持った一人の人間、エリー」から、「社会の所有物としての『ありふれた母親』」への変化という、もうひとつの変容のことです。後者の立場になると、幸せな「プレママ」の役割を演じなければならず、もっともな疑問や恐怖を口にしようものなら、どこか欠陥のある人間のように扱われました。時に、とても孤独に感じられる場所でした。

でも、私は一人ではありませんでした。他の「ありふれた母親」や、公正を期すなら「ありふれた父親」たちと話をしてみると、決して容認できない「恐怖と抑圧の連鎖」が存在していることに気づいたのです。このテーマについて調べてみると、親としての葛藤(アンビバレンス)や母親特有の存在危機に関する資料は、当時も今も山ほどあります。でも、私なりの意見もそこに投じてみたかったのです。それに「息子ディランの誕生まであと数週間」というタイムリミットがあったのも、いい刺激になりました。

ちなみに、子育ては「最高に素晴らしい地獄」です。そして、そう感じたからといって、私に欠陥があるわけではないのです。

塀の中で / Inside, The Valley Sings
監督:Nathan Fagan
製作国:アイルランド
ジャンル:ノンフィクション
製作年:2024
上映時間:約14分
配信期間:2026/9/30~2026/12/30

【あらすじ】
長期にわたる独房収監。この終わりのない恐怖にとらわれた3人の囚人たちは、自らの想像力が生み出す無限の空想世界に安息と逃げ場を見出す。

【SSFF & ASIA 2025 ノンフィクション部門優秀賞受賞・審査員 上野樹里さん・福間美由紀さんのコメント】
この作品は、人の一生に大きな影響を及ぼす非常に重いテーマを提起しています。2 年にわたる肉声の録音は、取り返しのつかない時の喪失を物語る。アニメーション無くして誕生することは出来なかった希少性の高い内容と重い余韻。アニメーションという手法が肉声を和らげ、観るものの心を支え、想像の余地が与えられつつも、最後にはしっかりと残された問題提起から、誰も目を逸らすことは出来ないでしょう。世に伝える必要性を強く感じさせられました。(上野樹里)

独房という絶対的な孤独の極限状況で、人が最後にすがるのは「空想」である ──『塀の中で』は、フィクションという営みが人間にとってどれほど本質的 で不可欠なものかを静かに、そして力強く訴えかけてきます。当事者の肉声と いうリアルを交えながら、あえて虚構性の高いアニメーションというアプロー チを選んだ点に、作り手の強い意志と、表現への信頼、そして覚悟を感じまし た。アメリカを舞台としつつ、日本の袴田事件を想起させる冤罪による⻑期拘 束の問題を浮かび上がらせ、無実の人間から決して取り戻すことのできない人 生の時間を奪うという“社会の罪”を突きつける、非常にアクチュアルな作品と して選びました。
(福間美由紀)

Writer:BSSTO編集部

「暮らしにシネマチックなひと時を」
シネマな時間は、あなたがあなたに戻る時間。
「ブリリア ショートショートシアター オンライン」は、毎日を忙しく生きる社会人の皆さんに、映画のあるライフスタイルをお届けします。
毎週水曜日にショートフィルムをオンライン配信。常時12本ほどを無料で鑑賞できます。
https://sst-online.jp/theater/

Share

この記事をシェアする

Related

0 0
記事一覧へ