「映画上映を自分の場所でやってみたい!でも、なにから始めればいいんだろう?」
上映設備は?作品の権利は?実際に準備を始めようと思うとハードルを感じてしまうもの。そこで、飲食店などを会場に上映会を主催する「旅する映画館 café de cinéma」のちゃっぴーさんに上映会のコンセプトの立て方や、準備のポイントについて連載をいただくことになりました。全5回のコラム、3回目の今回、上映会を開催するにあたっての「機材」と「お金」の話と、三軒茶屋のカフェでの上映会についてお伝えします。
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こんにちは。「旅する映画館 café de cinéma」のちゃっぴーです。前回まで2回のコラムで、小規模上映会を行うにあたって、作品の選び方やお客様との距離感などについてお話しして来ましたが、今回は一言でいえば「お金」。ある意味みなさんが一番知りたいことの一つ、ではないでしょうか?
上映会を実施するには「お金」がかかります。大きく分けて上映作品にかかる「お金」と、設備(映像、音響など)にかかる「お金」です。これは規模に関わらず、必ず考えておく必要があるものではないでしょうか?では、具体的にお話ししていきます。
ちゃっぴーさん
まず映画の上映にかかる「お金」です。
もしみなさんが一般的に劇場公開された作品を上映(※)しようとしたら、その作品を上映するためには「お金」がかかります。間違っても市販のDVDを買って(もしくはレンタルして)上映してはいけませんっ!ちゃんとそれぞれ使用状況(条件)に合わせて、許諾を取り費用(=上映権利料)を支払う必要があります。
「では、金額は幾らか?」というのも気になるところかと思いますが、これに関しては、それぞれ契約上の問題もあるので、あまり詳細にはこの場でお伝えできないのですが、一般的には映画を1回上映するにあたり、規模や入場料金の有無(有料無料など)によりけりですが、3万円〜30万円程度の権利料が発生します。
また、割合的にはごく一部ですが、集客人数に応じて支払うパターンもあります。これは、作品(有名/無名、新作/旧作・・・等々)、権利を有する企業や団体などによって考え方が変わるため、条件もそれぞれに異なります。そもそも、どこがどの作品を有しているのかなど、探すだけでも一苦労、ということも多いと思います。まず上映会を考える上では、「どのくらいの規模」「どういう場所」「入場料の有無」などを決める必要があります。
もし映画を上映する際、作品確保をお考えの場合、café de cinémaでもお手伝いしていますので、お気軽にお問い合わせください。
※ここでいう上映とは、映画館以外の施設での上映(=非劇場)をいい、非劇場上映権という権利で対応しています。
そして、設備(映像/音響など)にかかる「お金」があります。
設備も、捉え方によって変わるため難しいのですが、少なくとも4つの機器が必要です。①映像を再生する機器、②映像を投影する機器、③映像を映す機器、④音を流す機器、です。当たり前ですね。ここではハイクオリティ映像ではなく、小規模会場で気軽に上映できる、ボクの考える最低限のスペックを基準にしてお答えしていきます、
①は単純にDVD・BDプレイヤーであったり、パソコンになります。多くの映画作品は、DVDもしくはBlu-rayでの許諾となりますので、いわゆる民生機で十分対応が可能になります。これはもう、1万円〜いくらでもあるかと思います。
ブルーレイディスク/DVDプレーヤーBDP-S1500 実勢価格:8,000円~1万円ほど
②はプロジェクター。こちらは会場によって、また備え付けか持ち運びかによって多種多様なプロジェクターから最適なものを選ぶ必要があります。特に持ち込み/都度設置の場合は、投影距離とスクリーンサイズ、設置場所、客席との位置関係などにより上映可否が変わってくるので、要注意です。
更にスペック面でも大きく変わってきます。特に真っ暗にならない会場の場合、機種によって映像に大きく差がでます。まず、データ用かホームエンタテインメント用か。また投影の明るさ(lm/ルーメン)、投影距離、そして機器自体のサイズ。データ用かホームエンタ用かは微妙なところですが、実はデータ用プロジェクターの方が使い勝手がいいケースがあります(後述)。
DLP Full HDプロジェクター BenQ TH671ST(3,000lm) 実勢価格:8万円ほど
ルーメンに関しては、上映会場にもよりますが、小規模会場、飲食店であれば2500〜3000lmあると望ましいです。ですが、最近の機種だと1000lmでも十分に投影できます(会場をどこまで暗くできるかにもよります)。
投影距離は、小規模会場で天井吊り下げ等ができない場合は、短焦点が理想です。今ボクが使っている一番焦点距離の短いものは、1.5mで100インチ投影できるものになります。投影距離が離れると、お客様の背後から投影が必要になり、その場合ある程度高さのある台などに設置しないと投影できなくなります。
そして機器のサイズ。固定設置できる場合はあまり考慮せずとも良いですが、都度設置する場合、または持ち運ぶことがある場合は、あまり大きくて重たい機種だと、それだけで労力がかかります。ちなみに、高性能高機能になるほど、傾向としては大きく重くなります。
小型LEDプロジェクター QUMI Q8 (1,000lm) 実勢価格:12万円ほど
その他映像補正の有無(今はほぼどの機種も台形補正は入っています)、入力端子の種類(こちらも現行機種は基本的にHDMIをサポート、むしろアナログ端子対応が必要かどうかで変わります)、コントラスト比やレンズ(液晶かDLPか)などはより品質にこだわる際に参考にされると良いかと思います。
なお、データ用とホームエンタ用の違いですが、映画の映像を滑らかに映したり、映画の発色を再現するにはホームエンタ用が適しています。ただ、明るさ(lm)、短焦点、小型、低価格で考えた場合データ用は非常に良いスペックを持っており、また最近の機種は映像の滑らかさにさほど遜色を感じさせない品質を提供してくれます(機種によっては映像がカクカクしてしまうケースもあります)。
プロジェクターも現在様々な機種が低価格からありすが、最低限のスペックを考えると安くても5万円程度の機種が良いのではないかと思います。これは機能と値段が様々なので一概にいえませんが。
3LCD Full HDプロジェクター Epson EH-TW5650(2,500lm) 実勢価格:12万円ほど
③はスクリーン。モニターを使うというケースもあるかもしれませんが、ここではプロジェクター投影を前提として、スクリーン。これはサイズと機能でやはり様々。また、壁面での上映というのも可能ですので、値段は0円〜となります。
壁面での上映例
④はスピーカー。最近はプロジェクターから音が出る機種も多いですし、音も良くなっていると思いますが、やはり別途スピーカーはあった方が良いです。もちろん音にこだわればアンプやミキサーや諸々音響機器も必要になりますが、まず初期の仕様で考えると、スピーカー単体で、ということになります。
小規模であれば、ポータブルスピーカーでも十分対応可能です。より良い音を目指すなら、2台以上のスピーカーやウーファーなども揃えたくなると思います。
なお、スピーカーには単体で音が出る機種と、アンプなどを経由しないと音がでない機種があります。ここでいう小型のスピーカーは前者で、主に家電量販店などで販売されているポータブルスピーカー(Blutoothスピーカー)になります。
BluetoothスピーカーSRS-X55 実勢価格:2万円ほど
これらの機器が揃っていて、映画の上映許諾が取れれば、今すぐにでも上映会は実施できます。あと、意外と盲点はケーブル類。映像ならHDMIやVGA端子対応、音声ならステレオプラグ、ステレオミニプラグ、RCA(赤白ピン)プラグなどの種類と、それぞれの長さが重要になります。特に持ち込みや都度設置のスタイルの場合は、会場によってレイアウトが変わるので、機材と同等にケーブルは重要になります。
ある上映会での持ち込み機材一式
ただ、難しいのはどこに基準を置くか。映画を流す環境としてどのクオリティを目指すのかで、用意する機材/環境は大きく変わって来ます。
例えば、今回お話しするPortland Cafe and Marketは、お店にあるスピーカー(アンプ内臓型/そこまで出力が高い機器ではありません)とスクリーンに、持ち込み機材として再生機器のノートPCと投影機器のプロジェクター(ポータブルタイプ)、そして上映場所が2Fで狭いため、階下にPCを設置して、10mのHDMIケーブルを使って毎回結線して上映しています。
その他、前々回のコラムで紹介したビストロダルブル恵比寿店は機材はほぼ揃っていますが再生機器としてノートPCは毎回持ち込み、機材設営を行なっています。前回のコラムで紹介したyurucafeも、基本的にはノートPCのみ持ち込み、毎回設営を行なっています。中規模(50〜100人程度)の会場の場合、ほぼ全部持ち込んでそれぞれの会場に合わせてセッティングを行うことも多く、規模に応じて機材スペックを変えて対応しています(更に大規模の場合、専門事業者と組んでより本格的な機材や人員で臨みます)。
とはいえ、ボクの主戦場は小規模上映。映画を観る環境としてのクオリティよりも、その場所ごとでの気軽に映画と触れ合う機会を創出することに重きを置いて活動していますので、フレキシブルかつ機動的なスタイルで上映しています。
Portland Cafe and Marketでの上映風景
その中で、三軒茶屋のPortland Cafe and Marketでは2017年の7月より2ヶ月に1度、2018年1月からは毎月1回開催しています。オーナーは長くアメリカ・オレゴン州の都市ポートランドに住んでいたため、お店の名前はもちろん、ドリンク(珈琲、紅茶、ビール)もポートランド産やオレゴン産にこだわっています。店内には同じくポートランドで仕入れて来た雑貨なども販売していて、こぢんまりとしたかわいらしいカフェです。
1Fはカウンター4席、2Fはテーブルで8席程度の広さのため、機材はコンパクトにして、通常で7−8名、最大で16名でご覧いただいたことがある会場です。普段から映像を流したり大音量で音楽が流れるお店ではないため、映画を観るための設備としてはいささか頼りなくなってしまいますが、その分お店の持つ穏やかな雰囲気を壊すことなく、映画を楽しんでいただけるスペースになっています。
そんなスペースだからこそ、「映画をやるぞ!」という意識で機材を揃えて向き合うのではなく、一緒に開催しているお店側もゆっくりと映画を日常のものとして受け入れ、毎月1回上映があることが当たり前としていく。その中で少しずつ、お店(スペース)にあった映画環境を整えています。
やはり場所(カフェであり、レストランであり、Barであり・・・)の雰囲気、特性を残したまま、「こんなところで映画が観れるの?!」という驚きとともに、気軽な日常の一環として映画を楽しんでいただければと思っています。
オーナーの小原治さんと
Portland Cafe and Marketに来るお客様は、他の小規模会場以上に地域の方が多いです。そして、お店の雰囲気やオーナーに惹きつけられて来ている方が多い、そんな気がしています。現在開催している会場の中で一番小さく、柔軟性が出しにくいスペースなのですが、それすらも心地よいと感じさせるお店の温もりのようなものを、ぜひみなさんにも感じていただければと思います。
オレゴンのクラフトビールを味わえます(写真はLEVEL BEERがハリウッドの某映画とのコラボで発売した銘柄)
そんなMovie at Portland Cafe の次回は2020年1月16日(木)に開催します。興味をお持ちの方はまずは一度足をお運びください。
1月16日(木)20時上映開始
上映作品『EDEN / エデン』
珈琲or紅茶付き¥1,500
定員10名程度
https://www.facebook.com/events/1831166343680352/
毎月1回開催ですが、特定の曜日等ではないため、詳細は旅する映画館 café de cinémaのFacebookページでご確認ください。
『EDEN / エデン』
(C)2014 CG CINEMA - FRANCE 2 CINEMA - BLUE FILM PROD - YUNDAL FILMS
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「上映会のつくりかた」
バックナンバーはこちら
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PORTLAND CAFE and MARKET
Sterling Coffeeなどポートランド発のコーヒー、紅茶、オレゴン産ビールなどが飲める小さなカフェバーです。アンティークアメリカ食器などの雑貨も販売しています。
営業時間:
火~金、祝前日: 14:00~翌0:00 (料理L.O. 23:30)
土、日、祝日: 12:00~翌0:00 (料理L.O. 23:30)
定休日:月曜
アクセス:東京都世田谷区太子堂5-17-17 東急田園都市線三軒茶屋駅 徒歩9分
Facebook:https://www.facebook.com/portlandcafe/
旅する映画館 café de cinema
主にカフェやバー、レストラン、フラワーショップなどが、その時、その場は“映画館”に・・・普段訪れる場所が、ある瞬間“映画館”になる。その場所と集う人、そこに“映画”というエッセンスを加え、日常の延長線上にある映画を目指し全国で上映会活動を行う。
https://cafedecinema.com/
※1 場所はその時々の店舗の予約状況で変わります
※2 定員数が10名なので、どうしても観たい場合は事前連絡で座席確保もしています
旅する映画館café de cinémaでは上映権利許諾のご相談やサポートなども対応しています。規模や実現性に合わせた対応方法などもアドバイスできますのでお気軽にご連絡ください。
問い合わせ:contact@cafedecinema.com