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MAGAZINE
INTERVIEW
May. 22, 2018

【Special Interview】人生とは食べる旅―。フードディレクター野村友里が語る「食」のライフストーリー

レストラン経営や本の執筆、イベントの開催、はては映画監督まで、「食」について多岐にわたる活動を行っている野村友里さん。自身が2009年に監督したドキュメンタリー映画『eatrip』で、「人生とは食べる旅」と語った野村さんに、「食」の窓から広がったライフストーリーについて聞いた。

海外の友人に向けて温かみのある東京を紹介した書籍『Tokyo eatrip』

フードディレクターの野村友里(のむらゆり)さん

『Tokyo eatrip』(2018年3月出版)は、東京の飲食店を紹介している本ですが、英語訳が載っていますね。

野村海外から友人が遊びに来ると、必ず「ユリのおすすめの店は?」って聞かれるんです。答えているうちに、案内する飲食店のリストがどんどんたまっていって。そんなとき、この本のお話をいただいたんです。

ご自身が個人的になさっていたことが、書籍化につながったと?

野村最初は本にするつもりはありませんでした。私自身、そんなに外食する方ではないですし、詳しい方はもっといらっしゃいますから。ですから共同執筆という形で、「何人かのうちの一人として、私の好きなお店を紹介するなら」と編集者の方にお伝えしたのですが、偏っていてもいいから、個人の目を通して東京の飲食店を紹介する本が欲しいとおっしゃっていただいて。

『Tokyo eatrip』には、懐石料理から、ビストロや定食屋さん、コーヒーショップまで実に様々なお店が載っていて、東京の「食」の多様性が浮かび上がってきます。

野村私が実際に行ったことのあるお店の中から、ずっと残って欲しいと思う老舗とか、心が落ち着くような居心地のいい空間とか、自分なりの基準で海外の方に紹介したいお店がすんなりと出てきました。1年くらいかけて取材したのですが、それでも全然載せられなかったというのが正直なところです。読者の方には、この本をきっかけに、自分が好きなお店をどんどん書き足して欲しいと思っています。

写真からもお店の臨場感が伝わってきます。

野村実はこれ、全部iPhoneで撮影しているんです。私自身、レストランをやっていて取材をお受けする機会があるのですが、撮影用にセッティングした写真って、どこか仰々しいと感じていて…。
『Tokyo eatrip』は、お店の雰囲気や喧騒感までリアルに伝わる本にしたかったので、普段外食する時の感覚でテーブルの上の料理を撮ったり、大きなカメラ機材では入れないような厨房の裏までiPhoneを持ち込んで撮影しました。

2018年3月に出版された東京の食のガイドブック『Tokyo eatrip』(中央)

お店や料理の紹介にとどまらず、作り手のこだわりや食文化なども取材されているので、東京で暮らす私たちが読んでも様々な発見があります。

野村お客様の目線だけでなく、作り手の気持ちを代弁できる本にしたいなぁ、というのがありました。一つの料理がお客様に届けられるまでに込められた、作り手の想いやそれを形にするための工程、食材を生産する方たちとのつながりなどを少しでも伝えられたら、1時間のごはんの入り口がまた違った景色に見えてくるかなぁ、と。

読んでいると、東京という土地に改めて親しみが湧いてきます。

野村東京が、高層ビルが立ち並ぶ大都市のイメージではなくて、温かみのある街として浮かび上がってくると、ここに住む人にとっても観光で訪れる人にとっても、また違う楽しさが見えてくると思います。

たくさんの飲食店を取材されてみて、野村さんご自身の「食」の見方に変化はありましたか?

野村人が食べるものを人が作る、そんな当たり前の事実に改めて気づかされましたね。同時に、おいしいものって、その人の人柄が出るんだなぁと思いました。その人の味っていうのが、本当にあるんだと。だから、取材していて、愛しい気持ちになることが多かったですね。

食べない食イベント「食の鼓動-inner eatrip」で伝えたかった“食との向き合い方”

食をテーマに昨年末に青山のスパイラルガーデンで企画・演出されたライブパフォーマンス「食の鼓動-inner eatrip」ですが、この着想はどこから?

野村都会で暮らしていると、私たち人間が全生命の一部だという感覚を忘れてしまいがちです。その感覚を呼び覚ますために、森の中からいただいた命を、料理して食事にするまでの過程を舞台上で再現したいと思いました。
北海道・根室の森に棲む鹿を狩り、解体し、それを料理に仕上げていくというのが大まかなストーリーの流れで、これを音や匂いなどの感覚に訴えかける表現を使って、1時間20分くらいの舞台演出にまとめました。

“食”のライブパフォーマンス「食の鼓動-inner eatrip」開催の様子

野村木々のざわめきや海の波音といった自然音、鹿の雄叫びや吐息、猟師さんが撃った猟銃の音などを、実際に根室の森で録音して再現し、匂いについても調香師さんが森の匂いや獣の匂い、解体時に出る血の匂いまで細かく設計し、最後は、私も含めたシェフチームで、実際に鹿肉料理を作り、会場中に香りを満たしていきました。

なんだかお腹が空いてきそうですが、「完成した料理を、あえて食べない」イベントにされてますよね。その理由は?

野村その方が、食べたいという欲求をリアルに感じていただけると思ったんです。
さらには食べてきたものの記憶や、食べ物も私たちと同じ生き物であることとか、「食」とつながるさまざまな感覚が、それぞれの人の中でどのように取り込まれ、どのように変化していくかを問いかけてみたいと思いました。

上演後の反響はいかがでしたか?

野村料理する包丁の音で、子供の頃の記憶が呼び覚まされて泣いてしまった、とおっしゃる方がいたりとか、私たちが想像していた以上に、たくさんの人がいろいろなことを感じてくれました。
「食」によって「生きる」「生かされる」ということを、今の時代に共有できたという感覚がありましたね。

「食」のあり方を投げかけた2009年のドキュメンタリー映画『eatrip』で得たもの

映画『eatrip』を作られたきっかけは?

野村当時は「食」の仕事に入って10年目くらいで、自分は何がしたいのか改めて考えていた時期でした。そこで「好きな人の生き方を真似してみたい」という気持ちがあることに気づいて、まずはインタビューしてみようと思ったんです。

映画では、いわゆる「食」の専門家ではない方へもインタビューされていますよね?

野村誰かが上から「こうしなさい」と発信するよりも、自分が尊敬している人たちの暮らしを映し出す方が、食の事を考えるきっかけになるかもしれないと思ったんです。
取り入れられることも取り入れられないことも、知ることで変わっていくでしょうし。

映画を撮り終えた後、料理修行のためにアメリカに行かれたんですよね?

野村映画でいろいろな方々のお話を伺ううちに、このままではダメだと強く思うようになったんです。料理の仕事をしているのに、土の上にも暮らしていないし、3食きちっとした時間にも食べていないし、自分が食べるものも作ってなくて他力本願だったし。こんなことで、何が料理人なんだろうって…。
それで、私はもともと料理が好きでここまでやってきたんだから、もう一度原点に立ち返って、食材に囲まれた環境に行こうと決めました。

行き先は、カリフォルニア州バークレーのオーガニックレストラン〈Chez Panisse〉。なぜこのお店を選んだのですか?

野村Chez Panisse〉のオーナーは、アリス・ウォータースという女性で、自分のレストランを切り盛りしながら、食育やスローフードの提唱など社会的な活動もしている人です。前大統領夫人のミシェル・オバマからの依頼で、ホワイトハウスに家庭菜園をつくったことでも知られています。
木造民家を改築した小さなレストランから、「食」を通じて世界に発信するアリスのところへ行けば、自分に合った「食」との関わり方を見つけるヒントに出会えるかもしれないと思って。

実際に働かれてみて、いかがでしたか?

野村それこそ野菜の皮むきからやる覚悟で行ったのですが、お店に入ったらすぐに溶け込むことができました。今思えば、考え方や価値観が似ている家族みたいな人たちが集まる環境に、私は飛び込んで行ったんです。映画を上映する機会もあったのですが、みんなすごく共感してくれて…。

帰国後は〈Chez Panisse〉のシェフたちと日本でイベントを開催したのですよね?

野村Chez Panisse〉では、「食」や「アート」を通じて、生産者、料理人、消費者をつなぐイベントを開催していました。彼らは、いつかこの活動を国外でもやってみたいと思っていたようで、日本への橋渡しを頼まれたんです。
それで、来日した〈Chez Panisse〉のメンバーと、日本のシェフ仲間を集めて2011年に開催したのが、食べられるアートインスタレーション「Open Harvest」。「食」のムーブメントといったら大げさですけど、小さいお店でも繋がることで大きな力になることを信じてチャレンジしました。すごく大変でしたけど、最後に「こんな素晴らしい体験ありがとう」と胴上げまでしてもらって…。参加したメンバーとは、今だに交流がありますね」

アートインスタレーション「Open Harvest」開催の様子

「Open Harvest」の成功が、日本のシェフ仲間でつくった、「Nomadic Kitchen」の活動に繋がっていったのですか?

野村「Open Harvest」を、不定期でも継続的な活動にしたいと思い、日本人シェフ5人で「Nomadic Kitchen」を始めました。もう7年以上経ちますが、いいものを“点”ではなく“線”として定着させることができて、本当に良かったと思います。この活動は、結果的にメンバーそれぞれの転機にもなったところもあると思います。今ではメンバー全員が自分のレストランを持つようになったことにも繋がっているかもしれません。

食で繋がる場所、〈restaurant eatrip〉の誕生

古民家を改装した〈restaurant eatrip〉は、庭が広がり、原宿にいることを忘れさせる閑静な佇まい。

野村さんのレストラン、〈restaurant eatrip〉は、2012年に原宿でオープンしましたね。

野村もともとお店を持つ気はなかったんですが、冗談半分で、「(レストランをやるなら)土があって、空が見えて、風が通って、植物があるところ」と言っていたら、活動仲間が本当に見つけてきちゃって(笑)。でもその時改めて周りを見渡したら、シェフや映画作りの頃から一緒にやってきた信頼できるメンバーがいたので、じゃあやってみようと。

併設されたお花屋さん〈Little Shop of Flowers〉には、レストランにも飾られる美しい花々が並ぶ。

野村さんにとって〈restaurant eatrip〉はどんな存在ですか?

野村持って帰る場所ができたという感じですね。
私は取材などで国内外の様々な地域に行く機会があるのですが、「ここは!」という場所に出会うとみんなに教えて料理をしに出かけたり、逆に現地で見つけたものをレストランで取り入れたりしているんです。
せっかく農産物の生産者と知り合うことができても、お客様との接点がないと意味がないですし、それを定期的に継続していくためには、こういう場所が必要でした。
もちろん限定的ではありますが、お店があることで自分の目で見て「いい」と思ったものを発信できるという循環ができますから。

映画『eatrip』のラストシーンに見る、未来に繋がる食のメッセージ

野村映画『eatrip』を作ったときに、「多少なりとも未来のために」という思いがあって、どうしても母乳のシーンで終わらせたかったんです。人間にとって母乳は初めての食だから…。
そんなことを映画に出てくれた歌手のUAと話していたら、彼女に赤ちゃんができたんです(笑)。そこで「最後のシーンはあなたしかいない!」と頼んで、赤ちゃんが生まれるまで5ヵ月間待って撮影し、あの映画は完成したんですよ。

最後に、野村さんの未来は、どんな風に?

野村生まれたからには、命を大事に…。生き生きしていればいいかな?

4月某日。
約束の時間にインタビュー先の〈restaurant eatrip〉に伺ったとき、野村さんは電話中。我々の取材後にも急いで次の現場へと向かわれる姿に、お忙しそうだなぁ、と思いつつも、お話ししているときは不思議とゆったりとした時間が流れていた。
それはきっと、「生き生きと」歩む彼女のライフスタイルそのもののように感じた。

野村友里(のむらゆり)

料理人
「eatrip」主宰

長年おもてなし教室を開いていた母の影響で料理の道へ。日本の四季折々を表す料理やしつらえ、客人をもてなす心、をベースに食を通じて様々な角度から人や場所、ものを繋げ、広げる活動を行う。

初の監督作品となる食のドキュメンタリー映画『eatrip』は2009年公開、現在はDVD化され販売中。
著書に『eatlip gift』(マガジンハウス)、casa brutusで4年間の連載をまとめた、日本の季節料理本「春夏秋冬 おいしい手帖」(マガジンハウス)、東京の食のガイドブック「Tokyo eatrip」(講談社)がある。

2017年12月には、初めて舞台「食の鼓動」の企画・監修を行った。
http://www.spiral.co.jp/e_schedule/detail_2428.html

朝日デジタルの&wにて、UAさんと「暮らしの音」を連載中。
http://www.asahi.com/and_w/kurashinooto_list.html

J-WAVE 「Saraya Enjoy Natural Style」でナビゲーターを務めている。
https://www.j-wave.co.jp/original/wondervision/style/

http://www.babajiji.com/

Writer:チバアキフミ

フリーランス/2012年からショートショート フィルムフェスティバル & アジアのwebレポート担当

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