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MAGAZINE
INTERVIEW
Feb. 22, 2019

【Special Interview】クリエイティブディレクター南貴之が語るライフスタイルの考え方

一つのカテゴリーにとらわれず、「暮らし」に沿ったアイテムやサービスを提供するライフスタイルショップ。
昨年その最新系ともいえる<ヒビヤ セントラル マーケット>のを手掛けたのが、様々なショップやブランドディレクションを行っているクリエイティブディレクターの南貴之さんだ。
南さんのクリエイティビティの背景にあるライフスタイルの考え方や、映画観について聞いた。

生み出す気は無かったライフスタイルショップ

南さんは、<1LDK>、<グラフペーパー>、<ヒビヤ セントラル マーケット>と、様々な新しい形のショップを手掛けられてきている中で、共通してぶれない部分はなんですか?


コンセプトに対し、とにかく妥協せず形にしていくことですね。
その上で、何事も自分の中にあるもの、みんなの中にあるもの、ファッションでいえばベーシックやスタンダードと呼ばれるようなものを、いかに視点を変えて見せられるのかを意識しています。

というと?


<1LDK>は中目黒、<ヒビヤ セントラル マーケット>は日比谷という街からコンセプトが生まれたものなんです。<1LDK>を手掛けた時は、中目黒という街がショッピングエリアという面と、そこに住む人たちの居住エリアという2面性を持った街だから、そこに違和感なく存在する場所をと考えた時に、「家」をコンセプトに「衣食住」を取り扱うのが当然だろうと。

街を意識する事がライフスタイルショップを作るきっかけだったんですね。


というより、僕自身はライフスタイルショップを作るつもりはなかったんですけどね(笑)。
「衣食住」を総合的にやろうと思っていただけで。
僕はよくファッション関係の人間と思われているふしがありますが、ファッションももちろん好きだけど、「衣食住」それぞれが好きなんです。そしてそれは人間誰しもそうだと思っていますので、人に訴えかけるもの、人が居心地いいと思ったり、そこに行きたくなるように、事を起こすためのツールとしてショップを作っています。

それがいつの間にかライフスタイルショップと定義されてしまったと?


ライフスタイルショップという言葉もなかった頃、「これもなにか定義付けられるんじゃないか?」という笑い話はしてたんです。そしたらいつのまにか同じようなお店が増えて実際に定義付けられるようになっていって…。東京というか、日本の消費の速さを感じますね。

頭の中のカオスを具現化した<ヒビヤ セントラル マーケット>

定義のつけ方に意義もあるかと思いますが、<ヒビヤ セントラル マーケット>はライフスタイルショップの最新ともいえると思います。どういう経緯でオープンを?


数年前に三井不動産さんから日比谷に建設する商業施設(東京ミッドタウン日比谷)の中にショップを出さないかとオファーがあったのが始まりですね。
実は日比谷に僕は行ったことも無かったのですが…(笑)。

それは爆弾発言ですね(笑)。一度もですか?


一度もです。だからまず僕のような人間がそこに行く理由をどう作ろうかと考えました。
出店の時って普通は施設の集客力を当てにすると思うんですけど、僕らは施設側からのオファーだから、僕らが集客できるものを作らねばならないと。

具体的にはどのように?


僕はマーケティングとか見ないので全くの主観で動くのですが、常に人が回遊している場所として「マーケット」を作る事にしたんです。
必ずしも買い物しなきゃいけない場所ではなく、一日中何もしなくても居られる場所を作ろうと。

確かに<ヒビヤ セントラル マーケット>は、訪れると一つのお店というより、どこか異世界の街や市場に迷い込んだような気がします。


昭和っぽいものもあればコンテンポラリーみたいなもの、ヨーロッパやアメリカやアフリカやメキシコみたいなものもあったり、居酒屋やキオスクがあったりごちゃ混ぜだったでしょう?
あれほぼ全部僕の脳みその中のカオスをそのまま見せてるんですよ。だから敢えて辻褄が合わない作りこみがされているんです。

どおりで『ALWAYS 三丁目の夕日』のような昭和的な面もありながら、「ここはどこ?」という感覚が芽生えるわけですね。


常々、なんとなく道の使い方って海外の方が上手だなと思っていたんです。それこそ物が路上に雑然と置いてあったり、飲食店だって外に飛び出したテーブルで食べている人や、店内で食べている人もいて、外と中の繋がりが曖昧になっていたりとか。
今回その曖昧な境界線を、リアルに路面店として行うと日本の道路交通法といった規制でできないことを、施設内の割り当てられたスペース内でやってみたんです。
その上で僕は昭和生まれなので、昭和的な要素を入れようと。
だからお洒落なイタリアンがあるよりは「居酒屋」を、アメリカのバーバーショップみたいなのがあればきっとオシャレなんでしょうけど、敢えて僕が好きな日本の「床屋」をといった具合に。

あのカオス感は、行ってぜひ体感してほしいですね。

心地よいものがライフスタイルを作る

自身の理想とするライフスタイル像ってあるんですか?


確立されたものはないですね。
暮らす中で趣味趣向も変わるし、住所が変われば通うところだって変わりますから。
ただ僕もそうですけど、生活圏内って半径2~3kmくらいじゃないですか?
僕はそうした近所にこそ面白いものがあると思っていて。この取材場所だって僕の日常の半径何kmの中にある「喫茶店」をモデルに作ったんですよ。

alpha.co.ltd内にある「喫茶 談話室」は、南氏の日常への思いが宿ったスペース

完全にレトロな喫茶店ですね。カフェでなく。


細部は僕のイメージで、ここと全く同じ喫茶店があるわけではないんですけれど、オフィスって非日常ですから、僕にとっての日常である喫茶店が社内にあると落ち着きますよ、やっぱり。

お店で販売するモノ選びの基準はありますか?


全うに作られているかどうかで選んでいます。
僕の会社はPRの仕事も行っているのですが、感動が無いものは紹介できないんですよ。
その上で、背景にいる生地を作る方、原料を作る方、製品工場の方々といった関わっている人たちが、しっかりご飯が食べれて良い製品を作って、それが世の中に流通する世界にしたいと思っているんです。

alpha.co.ltdのショウルーム

日ごろ使うものに対してはどうでしょう?


用途という意味で言えば、それがある事で気持ちが良くなるかどうかですね。それがアート作品だったり、お茶の急須だったり、実際に使う使わないもあると思いますが、自分自身に対してその物の用途があるかどうかというのが大事なんじゃないかなと思っています。

南氏がペンスタンドに使用しているEcho Park Potteryのマグ。

いろんな物を見てきている南さんからモノ選びのコツとかアドバイスはありますか?


ずっと生産されている物は、選ばれ続ける絶対的な理由があるはずなんです。長く考えられ、作られ、使われ続けているものなので、ベーシックな商品は、一定の信頼が置けるといえますね。
ただ、モノ選びはあくまでも選ぶその人次第。
他人がどうとか、流行っているからとではなく、自分の生活の中にこれがあると気持ちがいい、この鍋だったら料理がしたくなるとか、理由は何でも良いと思いますよ。

映画は短編に限る!?

映画はどんな作品を観るんですか?


あまり多くは観ないですが、観るとすれば推理物とか、そんなに考えなくてよい作品ですね。特に仕事のことを考えそうになる作品は避けるようにしています(笑)。

好きな作品はあります?


エミール・クリストリッツァ監督の『アンダーグラウンド』は衝撃的だったな。なんというかその時代背景も含めて、映像とか流れも含めて人間臭くて好きだったというか。
戦争がまだ終わってないと嘘をついて、横暴なやつを地下に閉じ込めておくという馬鹿っぽいストーリーも、背景に戦争や人間の残酷さが描かれていて良かったなと。

結構考えさせられる映画じゃないですか?(笑)


厳密には考えさせられる内容ならその方がいいし、考えさせられない内容なら観る必要もないという感じですかね。カルチャーがわからないから、アメコミヒーローが活躍するブロックバスター映画は全く観ません。僕、興味ないことは本当に興味ないんですよ(笑)。

でも『アンダーグラウンド』は心に残ったってことですね。ガツンと来たというか。


そう、ガツンと来た。というかあの作品は僕にとってもっとも理解できない状況の世界が描かれていたからかな。僕は国も時代背景も知らなかったし、戦争だって経験してないから。
だって、地下が国みたいになっちゃうんですよ!それがもう凄いのなんの!本当にカオスで…。衣装や美術のクオリティも高かったです。

<ヒビヤ セントラル マーケット>は南さんの頭の中を形にしたカオスですけど、あの映画はクストリッツァ流のカオスという事ですかね。
ブリリア ショートショートシアター オンラインの配信ショートフィルムも観ていただいたんですよね?


『ゴーストのおいしいレシピ』を観ましたが、あれ15分ですよね?僕は2時間同じ場所にいるのが苦手なので、個人的にはあれくらいの時間がベスト。あの短時間で話の筋も中身もわかりやすかったから、「ショートフィルム凄く良いじゃん!」って思いましたよ。

南さんが紹介した『ゴーストのおいしいレシピ』の視聴はコチラ

ショートフィルムは長編映画の様にテレビで紹介されたりしているわけじゃないから、まだまだ知らない人も多いと思うのですけど、南さんに気に入っていただいて良かったです。


僕は(長編より)こっちの方がいいですね。シンプルで伝わりやすいし、何より起承転結が分かりやすいと思いました。特に長編の洋画を観てると、しばしば「この登場人物誰だっけ?」ということもあるし…。いい気分転換になりますしね。

自分の感性を貫き、柔軟な発想力で日常に新しい視点を届けている南氏。
他に左右されないそのクリエイティブ指針が、南氏のライフスタイルを表現しているように感じた。

南貴之

1976
愛知県名古屋市出身、千葉にて幼少期を過ごす

1996
H.P.FRANCEに入社
cannabis、FACTORY、sleeping forestなどのショップを手がける

2008
H.P.FRANCE退職
現在の基盤となるalphaを立ち上げる
I.D.Land Companyと契約し、1LDKのディレクターに就任、数々のショップを立ち上げる

2012
株式会社alphaを設立

2013
アタッシュドプレス「alpha PR」を立ち上げる
FreshServiceを立ち上げる
BEST PACKING STORE《中目黒》、nookSTORE《代官山》、M.I.U.《中目黒》の店舗デザイン、仕入れやビジュアルデザインを手がける

2014
1LDKのディレクターを退任
キュレーターとしてBANANA REPABLIC POP-UPキャンペーンを手がける
PLST武蔵杉グランツリーの店舗デザイン、ライフスタイルの仕入れを手がける

2015
ギャラリーとしての機能を持つキュレーション型のセレクトショップGraphpaperをオープン
THE RERACSメンズのブランディング、オフィスのデザインを手がける
Need Supply Co.のジャパンディレクターに就任、東京と熊本の店舗デザインから仕入れまでを手がける

2016
名古屋にFreshService初となる実店舗をオープン

2017
VISIONS AND PARADOXのオフィスデザインを手がける
THE RERACS初となる直営店の空間デザインを手がける

2018
神宮前にFreshService 2店舗となるFreshService headquatersをオープンさせる
東京ミッドタウンにHIBIYA CENTRAL MARKETをオープンさせる

Writer:青目 健

ショートショート実行委員会 プロジェクト・マネージャー

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