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MAGAZINE
INTERVIEW
Sep. 15, 2020

【Special Interview】ベルリン発・世界とつながる
「コロナ短編映画祭」とは?

7月16日(木)、国際短編映画祭SSFF & ASIA のオンラインイベント第4弾として、「コロナ禍の海外映画祭事情を紐解く特別インタビュー」がYoutubeにて2本続けて配信されました。

2本立てインタビューの1本目は、コロナ禍にベルリンで誕生した「コロナ短編映画祭」の創設者、ディレクター デヤン・ブチン(Dejan Buchin)氏。映画祭立ち上げの経緯や、世界70カ国・1200点以上も集まった作品について語っていただきました。

ゲスト / Guest:DEJAN BUĆIN
(コロナ短編映画祭ディレクター / Corona Short Film Festival)

公開インタビューアーカイブ

映画祭企画の出発点は「人々に創造性を発揮してもらいたい」

東野皆さん、こんにちは。“ショートショート フィルムフェスティバル & アジア”のフェスティバルディレクターをしています、東野正剛です。Withコロナ・Afterコロナの映画産業をテーマにしたオンライントークセッションは本日で4回目となります。ゲストにコロナ短編映画際のディレクターである、デヤン・プチン氏をお迎えしています。

プチンこんにちは。デヤン・プチンです。セルビア生まれですが、ドイツで育ち、今はベルリンに住んでいます。本業は役者で、今年の3月からは、コロナ短編映画際のディレクターも務めています。

東野3年前にSSFF & ASIA 2017にも参加してくれました。

プチンシャルロット・ロルフェス監督の短編映画『サミラ』に出演して、SSFF & ASIAに招待されました。監督が来日できなかったため、彼女の代理で僕が東京に行き、“Shibuya Diversity Award”を『サミラ』製作チームの代表として受け取りました。アジアのフィルムメイカーには普段あまり会えないので、SSFF & ASIAに参加できたことは本当に良かったです。みなさんに温かく迎えていただき、とても光栄でした。

東野そう言っていただけて嬉しいです。ちなみに東京では現在、非常事態宣言が解除され、外出する人も増えました。日常が戻りつつありますが、生活様式は以前と変化しました。ベルリンを含めドイツの様子はどうですか?

プチン似たような状況です。幸いにもベルリンでは感染があまり拡大しませんでした。ただ興味深いことに、3月に感染が騒がれ始めると、人々がこの新たな状況に素早く順応したのです。もちろん、それは家の外での行動を制限されたからですね。今は日常生活が戻りつつあり、外出する人も増えました。カフェなども再開し、外のテラス席で太陽を楽しむ人もいます。しかし規制が完全に解除されたわけではなく、今でもマスクを着ける必要があります。特に飛行機に乗る時や、買い物に行く時は必須で、まだ気は抜けません。

東野本題のコロナ短編映画祭についてお伺いします。本業は俳優をされていますが、なぜ映画祭を主催するに至ったのでしょう?

プチン主催のきっかけとなったのは、ヨーロッパでの感染拡大です。ロックダウン後、作品の制作が中止や延期になり、仕事がなく暇になってしまいました。当初は家で窓掃除や動画鑑賞をして時間を過ごすつもりでしたが、どうせなら創造的なことをしようと自主監督作品を制作することにしました。スマートフォンのカメラや簡単な撮影機材はありますし、僕という役者もいるので。
しかし何度か挑戦してみても失敗ばかりでした。そこで、仕事仲間や友人と一緒に、この状況で何ができるか考えて、コンペを企画することにしました。人々に創造性を発揮してもらい、この前代未聞の状況下で何かを作ってもらおうと。それで映画祭のアイディアを思いつきました。今の状況がいつまで続くか不明ですが、まずはやってみようと決意したのです。スポンサーを探し始めたのは、計画が進み活動が本格化してからでした。映画祭でお金を稼ぎたいわけではなく、ただ単純にコミュニティーを作りたいと思っていたからです。ただ、優れた作品には賞を授与したかったので、その資金を出して欲しいとスポンサーにお願いしました。僕自身は役者なので、映画祭を運営した経験がありませんでした。なので動きながら学ぼうと、多くの映画祭関係者やドイツの映画祭ディレクターに連絡し、限られた時間とリソースの中で、やるべきことを学ぼうとしました。僕にあるのはパソコン1台と、在宅で働く数名のスタッフの支援だけでしたが、それでも数週間以内にはウェブサイトを公開しました。

東野最初にアイディアを思いついてから、作品の募集を開始するまでの期間は?

プチンアイディアを思いついたのが3月の17日か18日で、作品の募集を開始したのが4月6日だったので、2週間半ほどです。

東野映画祭スタッフは何名ほどですか?

プチン全部で5人です。僕の友人や仕事仲間で、全員が映画関係者です。俳優やディレクター、脚本家、映画祭の審査員もいます。ほとんどが僕の友人で、電話をして「一緒にやらないか?」と声をかけました。皆映画業界では有名人なので、宣伝活動に貢献してくれました。元々僕としては、皆が創造性を発揮できるような小さな場を設けたかったのですが、作品の募集を始めると興味を持ってくれる方が増えて、規模は徐々に拡大しました。

東野ちなみにコロナという言葉が映画祭の名前に入っていますが、立ち上げ当初から考えていた名前でしょうか?例えば「自主隔離映画祭」や「COVID-19映画祭」もありですよね。「コロナ短編映画祭」に決めた理由は何でしょうか?

プチン名前を決める際はスタッフと意見を出し合いました。僕らとしては、この映画祭を現在の状況と密接に関連させたかったのです。「ステイホーム映画祭」だと、他のイベントと名前が被りますが、「コロナ」なら語感がキャッチーですし、医療用語のCOVID-19とは雰囲気も違うので、この名前が今の状況にぴったりだと考えました。今回の映画祭におけるテーマは、世界に甚大な被害をもたらした伝染病です。でもその病名がどこか面白く聞こえるわけです。

東野素晴らしいと思います。ストレートな名前で、誰もが理解できますね。2週間半で準備を整えて作品を募集されましたが、募集の期間はどのくらいだったのでしょうか?

プチン3週間です。このかなり短い期間で区切ったのは、人々の「最初のひらめき」を大事にしたかったからです。数ヶ月かけて制作するのではなく、素早く作って欲しかったですし、今の状況が変わらないうちに開催する必要もありました。また、映画祭の運営が初めてで応募者数の予想がつかなかったのも、短期間に区切った理由です。とにかく全てが未知数でしたが、2ヶ月で形になって良かったです。

東野最終的な応募総数は驚くべき数になりましたが、どう思いましたか。

プチン僕らも驚きました。募集を始めて3日目で、「作品が60本しかこない、どうしよう」と悩んでいました。しかし徐々に人々が映画祭の存在に気が付き、作品の制作を始めてくれました。そして締め切り前の2日間で応募が殺到し、締め切り当日には5分ごとに作品が届いていました。最終的には、世界70カ国から1260作品が集まりました。小さな規模で始めたにもかかわらず、世界各地から大きな反響を得られて、とても驚きました。僕らの映画祭は、他の映画祭と異なり応募料を取りません。代わりに、その分のお金を「国境なき医師団」へ寄付するように呼びかけました。世界には満足な医療を受けられない人々がいて、国境なき医師団はそういった人々に支援を行なっています。そのような団体を応援すべく、応募料の代わりに寄付を呼びかけました。これが映画祭にできる支援だと思ったからです。

5分という短さに込められた「希望のメッセージ」

東野すごいですね。日本からの応募もありましたか?

プチン少数ですが日本からも届きました。その中に僕が大好きな作品がひとつあって、日本とドイツが共同制作したものでした。最終選考には残れませんでしたが、今でも頭に残っています。あるカップルがコロナ禍でも何とか連絡を取り合おうと模索する物語でした。興味深いことに、応募作品は全体的にテーマが似通っていました。テーマについてはコロナに限定せず、自由に決めていいとしていましたが、それでもマスクを登場させるなど、今の状況と関連づける作品が大半でした。

東野つまり、そうした傾向が応募作品に見られたと?

プチン多くの作品から、観る者に訴えかけるメッセージが感じられました。言うなれば、「希望のメッセージ」です。興味深いことに、ホラーやスリラーも多く、特にインドからの作品はこのジャンルが多かったです。しかしコメディータッチの作品も多くあり、ドイツからの作品には大量のトイレットペーパーがよく登場していました。買い溜めがドイツで話題になっていて、作品で揶揄したわけです。

東野応募作品にはどのようなルールを設けていましたか?

プチン作品の長さは5分までというルールでした。通常は30分程度までが短編とされるので、短編映画としては珍しい長さだと思います。5分という目新しさで人々の興味を引いて、より多様な映画をたくさん集めようと思いました。また、尺が長い応募作品が大量にあると全ては観られないという事情もあって、5分に設定しました。それからもうひとつ、なるべく自宅で制作するようにお願いしました。ロックダウン中の生活圏内も可としました。テレビ番組や映画を作る際は、スタッフが大勢いますが、今の状況では大人数で集まることはできません。だから「家族と共同制作するか、1人で作る」という変わった条件も加えてみました。中には応募者が自分自身を撮影した作品も複数ありました。短編映画でも幅広い表現が可能なのだと気付かされました。

東野もしご存知でしたら教えていただきたいのですが、作品の撮影機材にも何かトレンドはありましたか?例えばスマートフォンで撮影された作品が多かったとか。

プチン面白い質問ですね。機材について考えたことはありませんでしたが、おそらく応募作品の多くはスマートフォンで撮影されています。もちろん中にはドローンなどを使っていて、プロの映像制作者が撮ったとわかる作品もありました。いろいろな作品がありましたが、大半はスマートフォンや小型カメラで撮影されていました。

コロナ映画祭は最初で最後?映画のプラットフォームを作りたい。

東野世界初のコロナ禍での映画祭ですが、今回で最後であって欲しいと先ほど言いました。つまり今回一度きりで終了なのでしょうか?この映画祭を世界で流行させたり、他のプラットフォームで今回惜しくも落選してしまった応募作品を配信したりはしないのでしょうか?

プチン実は僕らスタッフも、この企画をどうやって継続させようか悩みました。僕らは全員別の本業があるので。この映画祭の未来や今後の状況はどうなるか、感染拡大が止まるのかわからないし、冬になったら再び感染者が増えるかもしれません。だからもし冬にそういった状況が訪れたら、映画祭の「第2波」をやろうと話していました。ですが定例の映画祭にすべきかどうかは、僕らもまだ考え中です。もちろん感染の第2波が来ないことを願っていますが、何らかの形で全応募作品に敬意を示したいと思っています。映像制作者に、僕らのプラットフォームを作品の配信に使わないか、打診する予定です。動画投稿サイトは既にありますが、映画専用のプラットフォームを新しく作りたいです。

東野僕はあなたの映画祭に感銘を受けました、短期間で準備を全て整えたわけですから。でも何よりすごいと思ったのは、当初からInterfilm (International Short Film Festival Berlin)と協力していた点です。

プチンInterfilmは素晴らしい映画祭で、私もベルリンで行ったことがあります。

東野彼らは映画祭を主催しつつ、短編映画の配給もしています。立ち上げ当初から彼らとコラボしていましたね。

プチン実は、Interfilmの方から話を持ちかけてきてくれました。SNSで募集開始の告知をした日に、君たちの映画祭のアイディアが気に入ったから、ぜひ受賞作品の国際セールスを担当したいと連絡が来たのです。このような小さな企画に彼らが興味を持ち、協力してくれるなんて光栄でした。驚きつつもとても感動しました。

東野結果として映像制作者にもお金が入るわけですから、ありがたい申し出でしたね。

プチン5分以内の作品、というのが良かったそうです。なぜならこの長さであれば、映画館で本編上映前に特別映像として流せるので、売りやすいと思ったようです。

東野最後にひとつ質問です。今回の映画祭は全てオンライン開催で、受賞スピーチもスポンサーの広告も全てオンラインで流れ、なんでもオンライン上で実現可能なのだと思いました。そこで、映画制作の未来はどうなると思いますか?作品を公開する方法は、今後いかに変化していくでしょうか。映画だけではなく、今後の俳優、演劇の未来についても、どのように変化していくと思いますか?

プチン全てをオンライン化するのは望ましくないと思います。僕は、劇場や映画館は不思議な力を持っていて、「共同体験」を生むことができると思っています。映画のチケットを買って座席につけば、暗闇の中で大勢の観客と一緒に映画を体験することになる。これは巨大なテレビでも生み出せない体験です。劇場も同じで、長く存続できているのは、劇場が特別な体験を与えてくれるからです。舞台上の役者を生で見て、彼らが話すセリフを直接聞いて、ツバや汗が飛び散るのも見えます。こうした体験は特別なものですし、今後もなくならないよう願っています。

東野同感です。いつか我々の映画祭ともコラボしましょう。コロナ短編映画際ディレクターのデヤン・プチン氏でした。ありがとうございました。

2020年7月収録

(構成:安田佳織)

コロナ短編映画祭(CORONA SHORT FILM FESTIVAL)

最初にして(願わくば最後となる) 国際的なパンデミックショートフィルム映画祭。新型コロナウィルス流行に対するアクションとして、2020年4~5月に5分以内のショートフィルムのコンペティションを実施した。壊滅的な状況を逆手にとって、映画制作者たちに創造的な制作機会を提供している。
公式WEBサイト:https://www.coronashortfilmfestival.com/

SSFF & ASIA オンラインイベントシリーズ

米国アカデミー賞公認・アジア最大級の国際短編映画祭、ショートショート フィルムフェスティバル & アジア(略称:SSFF & ASIA)は、1999年に初めてショートフィルムの映画祭を原宿でスタートした6月4日の「ショートフィルムの日」を皮切りに、映画祭が延期となった秋までの間、未曾有のパンデミックにより大きく変化しようとしている映像制作や映画祭、映画配給・興行といった映画業界の各立場からゲストを迎えて、現状と未来像を語るトークセッションシリーズを、SSFF & ASIA のYouTubeチャンネルにてオンライン配信しています。

Writer:BSSTO編集部

「暮らしにシネマチックなひと時を」
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毎週金曜日にショートフィルムをオンライン配信。常時10本ほどを無料で鑑賞できます。
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